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元気を出して貰おうと先程はお出ししなかったお茶菓子を、そっと騎士さまにお渡ししました。
騎士さまも「ありがとうございます」と言って受け取って下さいましたが、やはり自分で仰った内容にダメージを受けているみたいです。
「今でも、他の部隊の隊員たちに当時の事を言われる時もありますが、『簡単な気持ちで先輩方に付いて行くならば、死ぬ気で付いていけ』と、私達にとって良い教訓となっています。
当時私と一緒に騎士団第3師団第5部隊に居た新人組は、今でも急な遠征が行われた場合に対応が出来ると自負していますよ。なので騎士となった今では、ある意味では良かったと思います。
・・・ある意味では、ですが。」
騎士さまは遠い眼をして「何でもない普通の事であるようにお話を続けましたが、騎士さまのこのお話は私の中で「少し深いお話」になっている気がします。後でこの時に何があったのか教えてくれないかなぁ・・・。
「帝都に帰ってきてからは両親に怒られ、兄弟に怒られ・・・。その上、騎士団への正式な出向準備に追われ・・・。そんな時だったのです。私宛に皇城からの召集令状が届いたのは。
家族も皇城からの召集令状に首を傾げ、その日のうちに城へと向かいました。そして、その時に私が精霊様の契約者に選ばれた事が伝えられたのです。」
・・・
・・・・
「騎士さまは、波乱の2年半を過ごされたのですね・・・。」
「・・・その時で波乱が終わったと思いたいのですが、どうなのでしょう。」
お互い向かい合って座っていので、お互いの表情が良く分かります。私の簡単な返事にも丁寧に答えてくれる騎士さまは、少し困ったように笑っていますが・・・。
「私と契約結婚しろ」と言われている騎士さまに、一言良いですかね?
こ の 状 況 が す で に 波 乱 の 渦 の 中 で す よ
今回のお話を聞いて何となく分かりましたよ。騎士さまは「巻き込まれ不憫」系の素質をお持ちなのでしょうか?騎士さまは、これからも何かに巻き込まれて行くのでしょうねぇ・・・。
それにしても・・・。
「騎士さまに契約結婚をさせてまで騎士さまの栄光を阻むお方がどなたなのか、見当がつきそうですか?
私としては、騎士団関係での騎士さまのライバルポジションにいらっしゃる方だと思うのですが、どうなのでしょう?」
私は、背筋を伸ばして騎士さまを見ながら尋ねました。
「契約結婚については、何となく理解しました。ですが、『らいばるぽじしょん?』が良く分からないのですが・・・?」
・・・ちょ・・!そんな綺麗なお顔で「小首を傾げるポーズ」だなんて!私が前世で読んでいた少女漫画以外で初めて見ましたよ!きらきらしい騎士さまが「本当は『王子様』なんだよ」って言っても、私は信じちゃいますよ!
・・・今日は本当に、カメラの必要性を強く感じますね。
「『ライバルポジション』ですね。えぇっと、自分の『好敵手』みたいな感じです。どなたか、そのような方はいらっしゃいませんか?」
少しハァハァしながらお答えしたので、騎士さまが少し後ろに引きました。・・・ひどい。
「?好敵手ですか、私にはそういった方はいませんよ。安心して下さい。」
「?それならばなぜ、契約結婚のお話が出てきたのでしょう?」
私は納得がいかない!と言わんばかりに言葉を返したのですが・・・。
「・・・皇帝陛下に9人目の御子様がお生まれになりました。その事はご存知ですか?」
騎士さまは、斜め上すぎる変化球なみの切り返しで私に尋ねてきました。
現在、私のいる帝国領は皇帝陛下と皇后さまの皇帝一家が帝国領を治めています。
先代皇帝陛下の統治時代に北の共和国と戦争がありました。
その時に、今、皇帝をしている陛下の御弟妹が2名犠牲になりました。(陛下は4人兄妹の長男だそうです)それで先代皇帝は皇帝の血筋を残すために、息子の妃選びをする際に集まった候補者のご令嬢さま達をそのまま側室へと残したそうです。(だとしても、後宮での生活費用は実家持ちなので御子様の出来なかったご令嬢さまは降嫁されたり、後宮生活が続けられないご令嬢は実家に帰りそのまま違う方とご結婚されたようです。お金のある貴族のご令嬢は今でも後宮に居座っているようですよ)
皇帝陛下と皇后さま、その他に、側室さまがなんと「まだ」12人もいらっしゃいます。・・・候補者は一体何人いたのよ!
皇帝陛下は皇后さまとの間には、皇子様が3人と皇女様が1人。側室の皆さんとの間には4人いらっしゃるのです。それが、先日9番目の御子様がお生まれになったって言うからビックリですよ!
世間様では、ロイヤルベビーに浮かれていると言うのに(ミュー商店でも記念セールを来週から行おうか考え中です!)まさか私に契約結婚のお話が出てくるなんて!
「そのご様子でしたら、ご存知ですね。
・・・今回出産されたのは側室の方です。その方は体が丈夫では無く母体優先で『今回の出産は見送ろう』との話が上がりました。それでも、その方は出産を選んだのです。皇帝陛下と皇后さまは無事に御子様が生まれて、側室の方にとても感謝したそうです。
そうした中で、陛下は宰相閣下に『この子には私達家族が居て、帝国民が居る。それなのに、精霊様には契約者である者が1人しかいない。それは悲しい事だ』と仰ったそうです。
宰相閣下も始めは意味が分からなかったそうですが、皇帝陛下のお話を聞いて『それならば、契約者殿の家族と一緒に過ごせるようにして差し上げましょう』と答えたそうです。」
??
あれ?
「宰相閣下は、私達、契約者『の』家族と過ごせるように手配しようとしました。ですが、陛下は契約者『との』家族と過ごせるよう手配を進めようとしました。
フィーネリオン嬢。陛下からの令状に書いてあった内容を思い出して下さい。」
「・・・・えぇっと、
『ミュー商店店主ラルフの娘フィーネリオンに帝国騎士アスライールと共に精霊の成長の手助けをする事を命ずる』と書いてありますよ?」
いそいそと、先程『裏紙に』と言われたお手紙(じゃなかったの!?)を広げて読み上げました。
「宰相閣下はそちら内容を読んですぐさま陛下が『御印を捺さぬよう』に3枚の令状を回収し、フィーネリオン嬢にお渡しした令状の2枚目と父君用の令状を書き上げたのです。
・・・皇帝陛下は、皇帝陛下自身のお名前を署名し、御印を捺され、その上で『皇帝陛下の封蝋』で綴じた勅令書を一般市民に渡そうとしていましたから。
その勅令書は大きな力を持って一般市民の生活を脅かします。今回は間に宰相閣下が入った事により、本来ならば効力が発揮される勅令の効力を削いだのです。そうして陛下への『一応』の対応で、保護者または家長である父君用の令状を発令されたのです。
そしてこちらは重要な事なのですが、宰相閣下が私達に『契約結婚』を進める事は、決してありません。なぜならば、精霊様の契約者であるリンカーラ殿は宰相閣下の姪になります。身内の、ましてや弟君の娘であるリンカーラ殿に契約結婚はさせませんよ。
『精霊様の成長の手助け』と書かれていますが、私達契約者ならば精霊さまに『契約者』として選ばれているので致し方無いと思います。ですが、その伴侶として選ばれた方はそうは行きません。精霊様が成長なされるまで、どれ程の年月が掛かるのか分かりません。もしかしたら、選ばれたその方達には、想い合う恋人や既に婚約を交わしている相手がいるかもしれません。そんな方達を『陛下の思い付きで引き裂くなど以てのほか!』と宰相閣下は、自ら悪役となったのです。」
・・・・なんて事でしょう!宰相さまが素敵過ぎます!ときめいてしまいそうです!
「『そうすれば皇帝陛下の威厳は保たれる』そう仰った宰相閣下の判断に、その場にいた精霊様の契約者である私達は宰相閣下の下した命に従いました。」
こうていーーーーーー!!!
何やっているのですか!
宰相さまの頭髪が薄くお成りになったらどうするのですかーーーー!
「恐れ多くも、陛下によってフィーネリオン嬢が私の伴侶に選ばれた選定理由は分からないのですが、私と帝都に行かなくても宰相閣下からはお咎めは出ません。ですので、私がフィーネリオン嬢をお連れしなくても、宰相閣下よりフィーネリオン嬢及びこちらのミュー商店の名誉回復の保障がされます。ですから、本当にこのお話は断って頂いて大丈夫なのです。」
もう、色々と突っ込み所がありましたが、どうしようもないので放置します!
ですが、これだけは言いたい。
「騎士さま!私、このお話をお受けさせて頂きます!」
・・・騎士さま、瞳が落ちてしまいそうですよ。
最大の被害者は、宰相閣下。