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第9話 リフェルの家

「あ、勇者様!それにリフェルちゃんも!この度は本当に有難うございました!」


俺達がリフェル達の家に向かう途中で、亜人らしき女性がこっちに話しかけて来た。

誰だろうこの人?


「シュウジ、この人はね、あの亜人の赤ちゃんのお母さんだよ」


あー、あの子の母親か。

どうやら俺とリフェルが魔物と戦ってクラルと赤ん坊を逃した時には、避難場所にいた母親とクラルが合流し、大体の情報の交換をしてから剣経由でこっちに戻って来たらしい。

それにしても何気にクラルって身体能力が高くないか?

クラルは一応は精霊なんだし突っ込んだら負けな部分なのだろう。


「本当、無事で良かったな、リフェル」

「は、はい」


うわー、カバルの威圧感にリフェルが引いている。

やっぱ怒ってたか。


「で、赤ちゃんはどうしたの?」

「あ、あのー宜しければ少しポーションを下さいませんか?さっきからあの子からミシミシっと音が出てるのですが……」


この人の家がこの付近らしく、一旦家に寝かして居たらしく直ぐに赤ん坊を連れてきた。


「うわー、シュウジ、なんか骨が折れてるみたいな音が赤ちゃんからするんだけど」

「そ、そうだな」


ミシミシって音の中にボキボキって音も時折出ている。

どう考えても人から出る音では無いな。


「さっき家で寝かせたぐらいからこんな感じなんです。ポーションはあの人が持って行ったので家には無くて」

「私が回復魔法を掛けてみますか?」

「お願いします」


お、ガバルが回復魔法を詠唱して、赤ん坊に掛けている。

すると暫くしてその音は聞こえなくなった。


「有難うございますガバルさん」

「いえいえ、このぐらいどうって事は無いですよ」

「ねえねえシュウジ。なんか次会うときには、またなんか驚く事が起きてそうって精霊の勘が言ってるんだけど……」

「それを言うな。俺だって薄々感じてたんだから」


勇者の力について知らないことの方が多い。なんかその力のせいで、またこの赤ん坊には驚かされるのだろうなと思うのであった。



さて、あの赤ん坊の母親と別れ、今度こそリフェルの家の前まで来た。思ったよりも家って感じだな。それでもファンタジー要素がかなり残ってはいるが。

しかしあんなに魔物が押し寄せてたのに特には集落の中は荒らされてなかった。

ガバル達の頑張りが感じられたな。


「もうお母さんは戻って来てるのかな?」

「戻って来てるぞ。さっき念話で戻ったと聞いたからな」


念話か。この世界にはそんなのもあるのか。薄々あると思っていたが、実際に有ると分かると使ってみたくなる。

後でやり方を教えて貰うか。道具が必要でも買えるだけの金はあるしな。


「ささ、シュウジ殿、上がって下さい」

ガバルが家の扉を開けている。いや、それだと精神的に入りにくいんだが。

リフェルは少し顔を赤くして、それでも期待しているような目で此方を見ている。何を考えているんだ?

あ、クラルの奴まで早く入ろうよと急かしてくる。

く、覚悟を決めるしかないか。

俺はだから勇者何て嫌なんだと思いながらリフェルの家に入って行った。



玄関らしき所に入るとエルフの女性が家の奥から出て来た。髪の色や瞳の色はリフェルと同じ明るい青色で(言い忘れていたがガバルは髪と瞳の色はオレンジだ)、なんと言うか、綺麗とか、美しいって言葉がしっくりくる女性だ。リフェルはどっちかと言うと可愛らしいの部類だしな。


「あら、いらっしゃい。貴方が剣の勇者様のシュウジさん?」


おお、様付けじゃない!良かった、こうゆう人にまで様付けされたらどうしようかと思った。


「ああ、そうだ。で、こっちのが精霊のクラルだ」

「クラルさんってガバルから念話で聞いたのと実際に見たのでは少し印象が変わる方ですね」


どう違うのだろう、と思ったが、聞いたらいけない気がすると本能が訴えている。まるで、パンドラの箱の様な災厄が詰まった内容だと。


「そうかなシュウジ?」

「さあな」

「あの、どうせですから部屋で話しませんか?ここじゃお茶も出せませんし」

「そうさせて貰う」


と言う事で現代で言うリビングらしき部屋に移動した。

なんと言うか、凄いとしか言えないような部屋だ。木で出来たテーブルや椅子などは有るのに生活感が全くない。それに、見た事のない家具が多数ある。ファンタシーな世界は何処まで行ってもファンタシーって訳だな。

で、俺とクラルが椅子に座った後に、テーブルを囲むようにリフェルとガバルが座った所で俺とクラルにお茶の様な物を出してからリフェルの母親が座った。

お茶を一口飲んでみると柑橘系の甘酸っぱさに、砂糖の甘みが入ったフルーティな紅茶の様な味がした。


「さて、改めてこの度はうちの子だけでなくこの集落が大変お世話になりました」

「いや、俺達は其処まで魔物と戦ってないぞ。精々リフェルの周りにいた奴と、そいつらが呼んだ仲間ぐらいだぞ」

「それでも貴方がいなければ避難していた人々も無事では無かった可能性が高かったのです」

「リフェルはよく無茶をする子で、今回は命に関わる事だったので無事で本当に良かったわ。でも、ガバルさんの言ったことを破って魔物と戦ったのね……」


な、なんだ?この人からガバルよりも強い威圧感を感じるぞ!?リフェルが怯える様な目で俺を見てくる。


「まあ、今回はリフェルがいなかったら俺もかなり危険だった。そこは評価してやってくれ」

「勇者様がそう言うのなら……」


リフェルの母親から威圧感が抜けていってリフェルがホッとしている。確かにあれは相当怖い。クラルなんて熱心にお茶を飲んで意識をそらしてるぞ。


「所でシュウジ殿はこれからどうするのですか?」

「これから?特には考えてないな。ただ、戦力を集めようと思っている」


世界を救うにも、救わないにしろ戦力があったほうがいいだろうしな。


「そうですか。リフェル、ちゃんと言葉にして言わなきゃシュウジさんに伝わら無いわよ」

「え?!」

「仕方ないわね。 シュウジさんと一緒に行きたいんでしょう。気付いてない訳ないじゃない。それに貴女、シュウジさんの事……」

「た、確かについて行きたいとは思ったけどエルフの私が人間のシュウジ様にそんな感情持っている訳ないよ!?」

「あら?私まだ何も言って無いけど?」

「えっ、あ」

「ふ、リフェルも年頃って訳か。こりゃシュウジ殿も勇者様とは言え、人間の身体では大変でしょうな」


ん、リフェルのお母さん達の会話が途中から少しだけ聞き取りにくくなったな。

それにしても今の会話からして、リフェルは一緒に行きたいんだろうか。

それより人間の身体じゃ大変ってどうゆうことなんだ?


「はぁ、一緒に行きたいんだったら普通に言ってくれれば良いのにな」

「そうだよ!リフェルちゃんならちゃんと戦いに付いて来れるだろうしね」

「え、なんで会話が伝わっているんですか?!私達の種族の言葉で会話していたのに!?」


リフェル達の種族の言葉?そう言えばスキルでエルフ語を習得していたんだっけ?


「異世界言語習得ってスキルで偶々習得してたんだ」

「そ、そうなんですか。エルフの特有の言語は文法自体は比較的書くのは簡単ですけど、言葉にしたり聞き取ったりするのは少し難しい上に、この言語を他の種族の方が覚えることは余りないのに」


確かに便利だよな。全然違う言葉を勉強したのにいつの間にか習得出来てたんだよな。


「で、話を戻すとリフェルはどうしたいんだ?」

「え、えっとそれは……」

「リフェル、こんな時こそちゃんと決断しないと。私もガバルさんも、ついて行くって言っても止めたりはしないわ」

「ま、無理矢理行かせる気も無いけどな。お前の気持ち次第だ」


ガバルもリフェルの母親もそんな事を笑いながら言っている。

クラルは何も言わないがリフェルをじっと見ている。

リフェルも少し顔を赤く染めてモジモジしている。少なくてもそんなに恥ずかしい内容では無いと思うんだかな。


「わ、私はシュ、シュウジ様が良いって言ってくれるならそ、その一緒に行きたいでしゅ」


あ、最後噛んだ。そしてリフェルは更に顔を赤くして俯いてしまった。勇者と行動を共にするって事はそんな緊張するものなのか?


「な、なんだろう。さっきからちょいちょいリフェルちゃんから感じるこの感じ。ま、まさか薄々分かっていたけど早くもライバル出現!?いくら勇者だからってライバル出現早くない!?」


クラル、お前は何を言ってるんだ?ライバルってなんのだろう?戦闘に関してだろうか?


「あらあら、リフェルも頑張らなきゃ取られちゃうわよ。頑張りなさいね。」

「勇者ってやはり精霊に此処まで好かれ無いと成れないのでしょうな。いやいや一つ勉強になりました」

「ねぇお母さん、この気持ちってやっぱり、その…」

「リフェル、自分の気持ちを正しく知り認める事が大事よ。それで、その質問の答えは自分が一番分かってるんじゃない?」

「そう、だよね……うん!やっぱりそうなんだよね!」


このエルフの家族は何を言ってるんだ。それにガバルはキャラが変わってないか?リフェルも親に対する口調が変わってる気がするんだが。

この話題は危険な気がするな。早く切り上げよう。


「えっと、もう一度話を戻すが、俺は別に良いって思っている。これから色々教えて貰いたい事も有るしな」

「わ、私もだけど…。リフェルちゃん、私は譲る気は無いから!」

「はい!私もです!」


な、なんだろう。リフェルが急に元気になったな。何を認めたかは知らないが、クラルは何を譲らないって言ってるんだ?さっきから分からない事が多すぎる。


「ま、まぁ取り敢えずリフェルが一緒に来るって事で良いとしてリフェルも準備があると思う。三日後に集落から出るって事でいいか?」

「別に明日出発でも大丈夫ですよ。今回の騒動では其処までの被害はありませんでしたし、私の準備も夜の内に終わると思うので」

「そうか。分かった。明日出発するか。クラルもそれでいいか?」

「大丈夫だよ。それより今日はどうするの?此処に宿とか探した方がよくない」

「そうだな」


殆ど被害が無いと言っても亡くなった人も少しはいるし、宿があるかどうかも分からない。泊まれる場所を探すのは早い内が良さそうだ。


「それなら良かったら此処に泊まって行きませんか?」

「良いのか?」

「はい、余り使ってない部屋もありますし、シュウジさんなら大歓迎です。まだシュウジさんに聞きたい事もありますしね」

「折角だし此処は有難く泊めて貰おうよ」

「そう、だな。そうさせて貰う」


俺は他人の家に泊まった事は殆どない。強いて言うなら小学2年生ぐらいの時に瑠奈の家に泊めて貰ったぐらいだ。

なんか新鮮な気分だな。


「俺もガバルに聞きたい事も有るしな」

「シュウジ、一応さん付けの方がいいんじゃない?どう見ても年上だし」


あ、頭の中で普通にそう言ってたのがそのまま出てきてしまった。


「いえいえ、そのままでいいですよ。シュウジ殿にさん付けで呼ばれるのは少し恥ずかしいですし」

「そ、そうか。じゃあガバルって呼ばせて貰う」

「で、聞きたい事とは?」

「魔法の使い方とかを知りたい」

「別に構いませんが、魔法に付いてはシュウジ殿自身のの適正のある属性を知る必要がありますよ」

「適正のある属性ってどうやって分かるんだ?」

「魔法屋に行けば分かりますよ。生憎この集落にはありませんが此処から進んだ先の町に行ってみるといいでしょう」

「王都にもありそうだったし、そっちででやってくれば良かったな」

「そうか。魔法とかの話はそこで聞いた方が良いのか?」

「そうですね。属性を知ったら使い方はリフェルに聞くがいいかもしれません。リフェルも魔法に付いてはかなりの腕で、伸び代がありますから。まあ、まだまだ鍛錬は必要ですけどね」

「そうなのか」

「因みにさっき使っていた念話は、妻の魔法で、属性の兼ね合いで、魔法そのものは、使える物が少ないんですよ」

「属性ってやはり希少な物もあるのか」

「はい、ありますよ。でもその話は魔法屋で聞いた方がよろしいかと思います」

「分かった、そうさせてもらう」


しかし、リフェルって魔法の腕は良い方なのか。一緒に来てくれる話になってよかったのかもな。

そんなこんなで俺とクラルは語学をリフェルらは旅の準備をして夜が来たのだった。



「美味しかったね、あのスープ」

「そうだな。俺の世界にも似た料理があったから俺は懐かしく感じたな」


今日はリフェルの母親が俺の世界で言うとシチューに近いものとパンを夜食に貰った。どうやら、ファンタジーに出てくるエルフは肉が食べれないとかいうのがあったが、この世界のエルフは普通に肉を食べるようだ。

クラルも食べる必要は無いのにチャッカリ貰って食べていた。

後、リフェルの母親が何回かリフェルに耳元で何かを囁いて、その度にリフェルがまた顔を赤くしてたのが印象的な夕食だった。


「シュウジさんたちはこの部屋を使って下さい」


食後、リフェルの母親にオレ達の寝室として一つの部屋に案内された。位置的にはリフェルの部屋兼寝室の隣で、普段は物置き部屋として使っているそうだ。布団の様なものも出して貰っている(ガバル達が普段使っているベットを使わせようとしてたがそれを止めさせた結果だ)。


そうそう、話は逸れるがこの世界には風呂の文化は有るのだが、一般家庭には余り風呂はない。基本的にあるのは、少し高めの宿や、観光地となっている場所ぐらいだそうだ。その代わり清潔感を出す為に魔法を使ったり、その代用品となる物を使っている。俺もその代用品を持っているが、今日は魔法を使って貰っている。この代用品は消耗品だから節約できて良かった。


「明日には出発だし、そろそろ寝るか」

「そうだね。今日1日で色々あってクタクタだよ」


コンコン、と部屋の扉を叩く音がした。


「入っていいぞ」

「あ、あのシュウジ様」

「なんだ?」

「あ、あの今日は一緒にね、寝てもいいですか?」


なんだろう。雰囲気からして面倒そうな事が起きる気がする。そんな台詞が恥ずかしがってるリフェルの口から出てきたのだった。


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