第8話 リフェルの父親
今回は少し短めです。
「数が減ってきたな。あと少しだ」
「はい!早く終わらせましょう」
戦い始めからかなりの数の魔物が減ってきたからか気持ちに余裕が出来てきた。
ステータスは暫く見れてないが結構上がってるんじゃないか?
フェゼマジーアーマーに魔力を少しずつだが流しているがもう少し多く流して良いかもな。
「ゆ、勇者様!後ろ!」
「え?」
急いで後ろを見て見ると大きめのゴブリンがなんか飛びかかりながら、紫っぽいオーラを纏った大きな包丁?を俺に振りかざしていた。
しかももう少しで当たるであろう位置にきている!
さっきまでこんなの居たか!?
やばいやばいやばい!あ、なんだか世界がゆっくり見えるぞ。
そして今までの人生が頭の中に流れてくる。
そうか、これが走馬灯か。短かったな俺の人生。
17歳で死んじゃうなんてな。死ぬ前にあの新発売のゲームをクリアしたかったな。
春アニメも楽しみにしてたのに。
って今気づいたが走馬灯がゲームとかアニメのが多いな!
異世界で勇者に選ばれてもなってもオタクはオタクって事か(選ばれただけで勇者に成るつもりはやはりないが)。
その次に多いのは中学時代の痛い記憶。
や、やめてくれー。黒歴を思い出させないでくれー!
しかしまだ異世界に来て4日目だっけ。早いな。
ごめんなクラル。折角長い間探してた持ち主に選んだ奴がこんな早く退場するなんて。
次はもっと早く主人を見つけるんだぞ。
実際には3秒もたってないでであろう時間が過ぎ、俺は目を閉じる。
リフェル、クラル、俺の屍を越えて行け……
「アクセルスピード!」
近くで声が聞こえた。多分リフェルだろう。
だがもう俺の頭に包丁が直撃目の前に迫っているんだろうな。
次の瞬間、ふわっとした感覚に襲われる。
あ、死んじゃったのかな。そうか、これが死ぬってことなのか?
「勇者様!大丈夫ですか!」
リフェルが俺に声を掛ける。ん、死んでも声は聞こえるのか?
仕方なく俺は目を開けてみる。
「ゆ、勇者。良かった、本当に良かった。」
「俺、生きてるのか?だとしたらなんで?」
あの一撃は本能でやばいと思った。食らって生きているとは考えにくい。
「私も良く分からないのですが、勇者様を救いたいと願ったんです。そしたら『アクセルスピード』ってスキルが使える様になったんです。それを使って私が助けたからです」
そう言えばクラルが勇者の武器は持ち主や仲間の想いや覚悟で、その人物や武器に新しい力を与えるんだっけか。
それでスキルが手に入った訳か。
「そうか、ありがとな。でも今は魔物をどうにかする方が先だ」
「そうですね。もう油断せずに行きましょう」
さて、このホブゴブリンは如何するか。他の奴とは格が違いそうだ。一気に畳み掛ける!
走ってホブゴブリンに近づく。ホブゴブリンは包丁を振りかざしてくるが予想通りだ。
「バッグスラッシュ!」
スキルでホブゴブリンの背後に回りこみ斬りつける。
流石にこれだけじゃ倒れないか。
「まだまだ!Sドレインスラッシュ、エナジースラッシュ!」
後ろに回りこんだままスキルの連続使用をする。
お、結構なSPが回復したっぽい。
ステータスは確認してないが感覚で大体どの位かは把握出来るようになっている。
ホブゴブリンは流石に耐え切れず倒れた様だ。それに合わせて魔物達も戦意を無くしたのか撤退していく。
「す、凄い。ホブゴブリンがかなりアッサリ殺られてしまってます。ってそのバッグスラッシュってスキルをさっき使えば大丈夫だったのでは?」
そ、そう言えばそうだな。パニックになってすっかり忘れてた。
次からは気を付けよう。
「ま、まあリフェルがスキルを習得出来たんだからいいんじゃないか」
「あの状況を見せられたこっちの身にもなって下さい。あそこでスキルが出なかったらどうなっていた事か。ホブゴブリンのあの攻撃は、鎧とかを無視して素のステータスで受けなきゃいけない危険な物だったんですから」
そんな危険なやつだったのか。確かにやばいと思ったていたし、本当に助かって良かった。
「シュウジ!大丈夫だった?」
クラルが剣から飛び出て来た。そう言えば離れていても剣に直ぐに戻れるとか言っていたな。
「少しだけヒヤッてしたのはあったけど殆ど無傷だよ」
あれを受けてたら死んでたかも知れないけどな。
実際食らった攻撃はかなり少ないし、フェゼマジーアーマーのお陰でその少しの攻撃も怪我をする程ではなかった。
「そう、良かった。あ、赤ちゃんは避難した先にお母さんらしき人がいたからその人に預けてきたよ」
「ご苦労様。さて、現状確認と自分の今の状況を見てみるか」
▽
現状確認と言っても周りに魔物がいないかの確認と、魔物の死体を一ヶ所に集めただけだけどな。
ついでにホブゴブリンが持っていた包丁の様な物を武器解析出来るか試してみた。
結果は解析可能だった。出来るとは思ってたけど何でも有りな様な気がしてきた。
だってこれ剣では無いだろう。ギリギリ大剣の部類なのか?刀や忍刀の様なのも武器解析出来たし基準が良く分からない。
もしかしたら木刀とかも解析可能かも知れないな。
さて、只今のステータスだか、俺もリフェルもかなりレベルが上がっている。
俺がLV26、リフェルがLV22になっている。
しかしレベルアップが早いな。3日間でレベルを4から12に上げれたのもビックリしたが、結構な数を倒しとはいえ此処まで上がるとは思わなかった。補正が掛かってるのが大きいんだろうな。
スキルは二つ新しいのが習得出来て、『アラウンドヘイト』と『鎧一刀」が追加された。
『アラウンドヘイト』はエビルウルフから入手していて、出してないが名前から言って恐らく、相手の注意を此方に向ける物なのだろう。
『鎧一刀』はホブゴブリンの包丁から出て来た。これはさっきホブゴブリンが俺に使ってきたものと似た様なものが出せるんだろうな。
「勇者様!村の入り口方に行きましょう。お父さんや集落の男の人がまだ戦ってるかも知れません」
やっぱり先に戦ってる人はいたのか。
「そこから魔物が発生したのか?」
「恐らくですが」
「行ってみよ。被害は抑えたいしね」
「リフェル、案内してくれ」
もう魔物の大量発生は収まってるだろうが油断できないしな。
先に魔物と戦っていた人達と合流する為移動を始めた。
▽
集落の入り口の近くまで結構な距離があったが、やっと着いた。
「うわーなんか凄いことになってるんだけど」
「ああ、地面が溶けていて、その周りもガラス状になってるだが……」
そこでは戦闘は終わっていた。
しかし集落の外の方の一部が地面ごと溶けて、さらにその周りもガラス状になってる所がチラホラある。
そこから離れた場所に、魔物の死体と一緒に数名の男が倒れていた。
そしてその中にはエルフも混じっていた。
「お、お父さん!」
やはりリフェルのお父さんだったらしくリフェルが倒れたエルフの元に駆け寄る。
その身体は凄くボロボロで、さらに全身火傷の様な状態になっていた。
「ど、どうしてこんな事に」
「君のお父さん、ガバルさんは俺たちを救う為に身を呈して魔物達を倒してくれたんだ……」
近くにいた男は泣きながらそう言った。
集落の男達は魔物が大量発生した事を知って、集落を守る為に武器を持ちその発生した魔物と戦った。
しかし、リフェルの父でありエルフのガバル以外は魔物達に苦戦していた。
ガバルは魔法も駆使して魔物達を倒して行くが、数の暴力によって男達は倒されていき、段々と追い詰められていく。
そして少しづつ魔物が集落に入って行ってしまった(その集落に入った魔物はリフェルや俺で駆除した訳だが)。
長期戦は持たないと判断したガバルは最後の手段で大技とを使ってしまったのだ。
今回の物は超高温を起こす物で、一定範囲にのみ効果を与えて周りへの被害が起きない物だったらしく今の現状になったらしい(範囲内は大変な事になってるんだが……)。
しかし、周りに被害を出さない様に範囲設定する事は一人でやるには凄い難易度が高く危険らしく、その反動でガバルは全身火傷の様な惨事になってしまったとの事だ。
何故全身火傷なのかは、体内の魔力が無理な使用で暴走したせいだとクラルが説明をしてくれた。
「お父さん、なんでそんな事を」
「男には意地ってモンがあるんだ」
突然ガバルが口を開いて喋った。
「お、お父さん!?な、なんで?」
「そんな簡単には死なんわ!ちと意識を失っただけだ。あ、でもかなり痛いな。水属性の魔法で冷やして欲しいのと、体力や魔力な回復のポーションとかをくれ」
俺も雰囲気的に死んでしまったかと思った。
男たちもビックリしている。つーかちゃんと生死はハッキリさせておいてくれ。
生きてるのは良かったけどな。
「回復ポーションは俺が持ってる。これでいいか?」
ディメンションバッグから、割合回復の物を出してガバルに渡す。
「ああ、大丈夫だ。出来れば全身に振り掛けてくれ。身体が動きそうもない」
「分かった。こうか?」
ガバルの身体にHPとMPのポーションの瓶を開けて、何本か振り掛けていく。
すると、段々と皮膚が治っていく。
「このぐらいで大丈夫だ。後は自分で回復だけの魔力もポーションで回復したしな」
そう言ってガバルは魔法の詠唱を始めた。
そして、暫くすると殆ど回復していた。
うん、流石ファンタジー寄りの世界だな。もう何でも有りと思えてきた。
「いやーみんなに心配掛けてすまんな。所でリフェル、その人は?ここらでは見かけない顔だが」
「この人は最近良く聞く剣の勇者様で、オオヅカ シュウジ様です。シュウジの部分が名前らしいですよ」
「ほー剣の勇者様ですか。先ほどポーションを頂き有難うございます。しかし何故剣の勇者様がこの集落に?」
「それはですね……」
そこで俺は此処までの一部始終を説明する。途中でリフェルやクラルにも話すのを手伝ってもらった。
クラルが剣から出てきた時は周りの人も驚いていたが、此処では省略する。
敢えて言うなら、クラルに対して驚きだけではなく、興奮した様な反応をした男が数名いたとだけ言っておこう。
「リフェル、安全にみんなを避難させろとは言ったが、何で魔物と本気でやり合ってるんだ?しかも勇者様が居なかったら、その亜人の赤ん坊と一緒にやられてしまう所だったらしいしな」
「そ、それは……」
「はぁ、もう少し冷静に物事を考える子だと思っていたんだがな。済んだことは仕方ないし、私もかなり危険な事になってしまったから強くは言えんが、もう少し冷静さを保つ様に」
「わ、分かりました」
「後勇者様、娘を助けて下さり何とお礼をすれば良いのか」
「近くに偶然見つけただけだからそんなしなくていい。それで、その勇者様って呼び方ははどうにかならないのか?」
「ははは、勇者様は勇者様である故、勇者様と呼んでいるだけですよ」
「出来れば名前で呼んで欲しいんだが」
「分かりました、オオヅカ様」
「それ苗字だし……しかも様付けだし」
そんなこんなで俺の呼び方について暫く話した結果、シュウジ様に落ち着いてしまった。
しかし様付けだけは
「勇者様を様付け以外で呼ぶなど恐れ多いです!」
と、直してくれなかったのであった(ガバルだけは殿でどうにか妥協してくれたから助かった)。
「それでシュウジ殿、立ち話もあれですからお礼も兼ねて、家に来て下さいませんか?」
「どうする、クラル?」
「別に急ぎの用は今の所ないし、行っていいんじゃない」
ガバルとリフェルの家か。確かに行ってみても良いかもな。
「じゃあお邪魔させて貰うか」
「え、シュウジ様が家にくるの?!」
「ん、どうしたリフェル?」
なんか俺が家に行くと行った瞬間にリフェルが慌てだした。
どうしたんだろうか?
「ほーリフェルもそんな歳か。12歳だし普通と言えば普通か?それにしても人間を選ぶとは……」
「お、お父さん!そんなんじゃないから!」
へーリフェルって12歳だったんだな。
そんなこんなで俺たちはリフェルの家に向かうのであった。