ヨモツヘグイ
俺は禁を犯した。
異世界の食べ物を食べたのだ。
異世界とは、俺がいなかった世界のこと。
そして、今いる世界のこと。
「ねぇねぇ、君はどうしてここに来たのかな?」
クスクスと何かが笑いつつ俺に話しかける。
「どうする?どうする?」
別の何かが話しかける。
「ほら、これ食べてごらん。食べるも食べないも、君次第だよ」
「これ……?」
何かの木の実だ。
どんぐりにも似ているけど、香りはクルミを濃くした感じだ。
一口食べると、生クリームみたいな味がする。
「あーあ、たーべた。食べた」
「ヨモツヘグイだ。黄泉の国へとようこそ」
彼らは、目の前で哂っていた。
「よもつへぐい…?」
俺は知らない単語で言葉が詰まっている。
「黄泉戸喫したんだね。ようこそ死の国へ」
そうか、俺は死んだのか。
知らない間に死んだのか。
「もう戻れない。もう戻れない」
彼らが叫んだ。
目の前が暗転していく。
ぐるぐると、超高速のメリーゴーランドに乗っている気分だ。
「戻れない、戻れない。あなたはもう、あちらへは戻れない」
死んだ、そういう実感は、いまだわいてこない。
でも、きっとそうなんだろうと、うっすらと思うようになった。