冥界の女神は学校に行く Ⅱ
ガラガラバンッ!
「喜べヤロー共、転入生が来たぞー」
先生は勢い良く扉を開けてそう言った。
さっきとは別の意味でクラスがざわめく。
「静かにしろーあ、別にいっか。さっさと入っちゃってー」
…………無責任……
そう思いながら教室に入る。
途端、静かになる。
ちょっと不安になりながらも前を見るとルークがいた。
「…ハクア・コーメント……よろしく……」
短い自己紹介が終わってもクラスはシンっと静まり返っていた。
「自己紹介、終わったなー。よーし、質問Timeだ。バンバンやりやがれガキ共」
先生の言葉を皮切りに騒ぐかと思ったが意外にもさっきと同じく静かなままだ。
「おい、聞けよー。もーめんどくさいから全員、1人一個質問。窓側の1番前から。そしてホームルーム全部使い切れ」
今の暴言……教師としてどうなんだろう…?
渋々ながらも前の生徒から質問してくる。
質問内容はお馴染みのやつ。
「ランクは?得意な魔法は?」
何番目かの質問。
聞いた時ハクアは一瞬、体を強張らせた。
ハクアは魔法が使えない。何年か前まで自分は魔力を持ってないんだと勘違いするほど魔力が少ない。
そのことをあまり言いたく無いがここは魔法の学校……いずれバレてしまうことは隠していても仕方が無い。
「………得意な魔法は……一応、雷…………ランクは…………………F………」
魔法は基本的に火、水、風、土、雷、木、氷、光、闇と九つに分かれている。人によっては基本的な属性を組み合わせて新しい属性を作ることもある。(ごく稀に元から新しい属性を持って生まれる人もいる)
そしてランクとは大まかに言えば魔力量やそれを合わせた強さのことを指している。学校では純粋な魔力量でランクを決められている。ランクは基本、A〜F。それ以上はS、SS、SSS、Rとなっている。
ハクアはギルドのランクで言うと最高ランクのRランクだが、それはただ純粋な戦闘力であり、魔力量は一切入ってないため学校では最低ランクのFとなってしまうのだ。
ハクアがランクを言った瞬間、クラスの態度が急に変化した。
聞きたいけど少し言いずらい。な態度から無関心、むしろ見下すような態度に。
「…………能無しがこの学園に何の用だよ」
「能無しが移るわ……帰って…」
「…………………………」
アッサリと掌を返したクラスメイトたちを見てハクアは少しガッカリした。
レオにネーヴェ、ルークたちのように魔力が少ない者を差別しない人もいると思っていたからだ。
と言ってもハクアの顔はパーカーのフードに隠れていてあまり分からないが。
「なんだよお前ら。急に雰囲気悪くなりやがって…興醒めじゃねーかよ…ハクア、おまえはえーとルークの隣の席が空いているな…そこな」
でも、こんなことは今に始まったことじゃ無い……何時ものこと……
半ば諦めて言われた通り席に着く。
「………ルーク…気にしなくていいから…」
ルークにだけ聞こえる声で言う。
ルークは歯を食いしばっていた。今にもクラスメイトを殴り飛ばそうとしていた。
「だが……アイツ等は…アイツ等は……」
「ルーク」
ルークを呼ぶハクアの声は有無を言わせないものを持っていた。
「……………ダメ」
「…………分かりました…」
ルークは渋々、力んでいた拳の力を緩めた。
それから気まずい感じでホームルームは終わり、そのまま授業に突入した。
授業は思っていたとおり、簡単だった。
昼休みは朝言っていた通り、ルークが校舎内を案内してくれた。
そして話が広がったのか。案内される時、ハクアを嘲る視線が絶えなかった。
「…………ちょっと…話し合いをしてきます」
「…………話し合いに拳は…要らない…」
それに切れかけたルークをハクアが止めるというパターンを何回か繰り返して食堂で昼ごはんを食べた。
放課後になり、ハクアは支度して素早く帰ろうとした。
「ハクアさん、どこに行こうと思っているんですか?」
ルークに腕を掴まれて帰ることができなかった。
「…………ギルドに…」
「放課後に来てもいいと言われてましたが…今日はその前にやることがあるはずですよ」
「…………あとで…」
「いいから行きますよ。今日は寮の荷物整理、家具の決定注文、寮母の顔合わせ…やることが沢山あるんですから」
「…………あとで…」
「ダメです。そんなに行きたいなら終わらせてから行ってください」
結局、ルークに引きずられて先に寮に行くことになった。
「ここが寮です」
学園から出て数分、高級ホテルみたいなところで止まってルークは言った。
「………ここが…?」
ハクアは上を見上げながら言った。
この建物はハクアにも見覚えがあった。中心部から少し外れたところに位置するギルドの自室から見えていた建物だった。
「さあ、入りましょう。寮母さんが待っています」
中に入ると外見を裏切らない立派なロビーがあった。
「おかえり、ルーク………その一緒にいる子は誰だい?」
「彼女はハクアさん。転入生ですよ」
「あら、転入生の子かい。アタシはここで寮母をやっているものだよ。気軽にマリーさんとでも呼んでくれると嬉しいね」
「……ハクア・コーメントです…よろしくお願いします……マリーさん…」
「こちらこそよろしくね。アンタの部屋は5階の5024室だね…丁度…」
マリーさんはチラッと怪しげな目で二人を見る。
「丁度、ルークの隣の部屋だね……間違っても…」
「しませんよ……逆に殺られますから…」
ルークはマリーさんの言葉を遮るように言った。
「……?…」
ハクアは何を言っているんだろうとルークとマリーさんを交互に見た。
「まあ、それならいいけど」
クスッと笑いながら部屋の鍵を渡す。
「案内とかルールとかはルークに聞きな。他に分からないことがあればアタシに聞きな」
「……分かりました…」
マリーさんと別れて部屋に向かう。
行く途中、ルークから寮の説明を受ける。
「…………広い…」
「セントラルはモンディアーレ最大の学校なので他のところと比べると豪華ですよ」
早速、部屋に入ってみてあまりの広さにハクアは驚いた。寮だからもっとこじんまりした部屋だと思っていたら自室と変わらないほどの広さだった。
「まあ、家具が無いから余計にそう思うかもしれませんが…」
ルークの言う通り、部屋には家具一つなかった。
「まずは家具を決めてしまいますか」
ルークはそう言うとカバンからカタログを出した。
「普通は学校に通う何週間前ぐらいに決めて注文するんですが…今回は急だったので……とりあえず最低限の家具はすぐに取り寄せできるものにしましょう」
「……じゃあ、この…ベットと本棚と…机と…」
ハクアはパラパラとカタログをめくり、てきとうに選んでいく。
「待ってください。これだとギルドの自室と同じです。色を変えるなどもうちょっと考え直してください」
「………早く終わらせたい………」
「ならちゃんと考えてください」
そのあと、ルークにあれこれ言われながらも家具を選び、注文した。
「…………行けなかった……」
「仕方ないですよ。明日、行きましょうよ。師匠」
注文し終え、ルークに連れられて買い出しに行ったらいつの間にか夜になって門限が近づいていた。
そのあとしばらく、ハクアの機嫌が治らなかったのは言うまでもない。