ギルド 魔闘演武
「なあなあ、知ってるか?一週間後、ギルド1位の《エターナル》と2位の《フェニックス》のギルド順位入れ替え戦があるんだぜ」
「「「知ってる」」」
放課後の帰り道、フィアが言った。
他の三人は声を揃えて言い、朝からソワソワしていた理由はそれかと思った。
フェイはともかく《エターナル》に所属している二人は一ヶ月前から知っていた。
「そうか…ならさ見に行こうぜ。丁度、優先席のチケット四枚持っているんだ」
「すまない。僕はその日、用事があるんだ」
ルークは申し訳なさそうに謝る。
「…そうか…間が悪かったな。フェイとハクアは?行けるよな?」
「ええ、大丈夫ですよ。《エターナル》の幹部が出てくるんですから予定は完全に空けています」
フェイはフィアの懇願するような顔に苦笑しながら頷いた。
「ハクアは?」
「………私も行ける……けど………」
チラッとルークを見る。
「………実は…席、もう決まってるから…」
「え?マジで?どこどこ?」
「…えっと……V……特等席だったかな…」
「マジで!?」
ギルド順位入れ替え戦、通称魔闘演武は有名ギルドの戦いが見れることから毎回、観覧席のチケットが直ぐに売り切れる程人気なのだ。
その中でも特等席の倍率と金額は最高で殆ど貴族たちが買い占めている状態だ。
「良く手に入りましたね」
「………知り合いの知り合いが………ギルド関係者なの………」
「ウソだ。オレもギルド関係者からもらったのに………」
そこでルークはいいことを思いついたようにニヤッと笑った。
「………そうだ、僕も丁度、その知り合いの知り合いから特等席のチケットをもらったんだが…フェイ、要らないか?」
「おや、そうだったんですか?なら、遠慮なく…ルークの分も見ときますよ」
ルークのやりたいことを察したフェイもニヤッと笑いながらチケットをもらう。
「ちょっ!オレだけ優先席!?」
「そうなりますね」
「チケット持ってるしな」
「ウソだー!!一人で見るとかつまんねー!」
「………………冗談……」
叫ぶフィアにハクアがポツリと言った。
「あ、そうなの?」
「大丈夫だ。知り合いの知り合いからもう一枚もらっている」
ルークはカバンからもう一枚チケットを出してフィアに渡す。
「知り合いの知り合いって……何回言えばいいんだよ…」
「そのチケット、どうします?」
「あ、どうしよう…」
「よかったらくれませんか?」
フィアは深く考えずに優先席のチケットをフェイに渡した。
「これを売り飛ばせば面白いことになりそうですね」
「待て、フェイ!やっぱ返して!」
フェイが黒い笑顔を浮かべたのでフィアは即チケットを取り返そうとする。
「冗談ですよ…知り合いにチケットを欲しがっている人がいるのでその人たちに渡しますよ」
「………お前も知り合いかよ!!」
◆
────────────
「今度の魔闘演武、ルークとネーヴェに任せるから」
────────────
魔闘演武があると知らせるとともに告げられた言葉。
それがルークが魔闘演武を見ることが出来ない理由。
「………緊張してる…?」
「ええ、そうかもしれませんね。魔闘演武でデビュー戦、しかも2位の《フェニックス》が相手ですから」
本来なら幹部以外の者が魔闘演武に出場するが今回はルークのデビュー戦で幹部の一人であるネーヴェとともに出ることになったのだ。
「………大丈夫………ルークを鍛えたのは私たち……勝てる…」
「師匠たち…いや、《冥界の女神》と《聖炎の覇者》が言うなら…大丈夫ですね」
「……そう…勝てる…私たちのような人はいないから…」
「いたら貴方が率先して行くで…しょうねッ」
二人はそんな会話をしながらも打ち合いをしていた。
ルークは如何にも全力でハクアはデュランのみでルークの攻撃をいなしていた。
「………そうかも………」
「まあ、その時は私も加勢してあげますよ」
近くで見ていた和服を着た女性──ネーヴェはニコニコ笑顔で言った。
ネーヴェは時々、ルークの足元を凍らせようとしてくる。
「その時はッよろしくッお願いしますねッと」
ルークは足元に注意しながらハクアを攻めるが一撃も当てることは出来なかった。
「………まだまだ甘い………もっと…頑張れ…」
その後、一時間やったがルークはハクアに一撃を当てることは出来なかった。
「おーメッチャいんなー」
「《エターナル》の幹部が初出場ですからね…」
「………………」
魔闘演武が開催されるコロシアムは満杯で外にも人が溢れていた。
ハクアたちはその様子を見ながら列の脇をすり抜けて行く。
「ハクアさんの特等席がなければあの中に並ぶところですね」
「おう、優先席でも並ばなきゃいけないからな…ハクアに感謝だな」
案内図に従ってハクアたちは観覧席に移動する。
「アレ、これ…個室?」
「そうですよ。チケット見てなかったんですか?」
「………人多いところ…あまり好きじゃないから…」
扉の前で立ち止まるフィアを無視して二人は中に入った。
壁はガラス張りで闘技場の様子がよく見えた。
部屋全体、シックな感じに仕上げられガラス張りの壁の前には豪華なソファとティーセットが乗ったテーブルがあった。
「これ…本当に特等席…?VIP席って言っても良いくらいなんだけど…」
「………特等席………この部屋は当たりの部屋ね………」
「特等席と言っても部屋によってはVIP席並みの豪華な部屋があるらしいですよ」
「それ間違えなくここだ…」
三人は最初は躊躇したものも部屋に足を踏み入れる。
お茶を飲み、お菓子を摘まみながら待っていると扉が開いた。
「あー部屋、間違ってますよ?」
「いや、あってるぞ。ガキ」
「誰がガキだ」
フィアの言葉を一蹴し、入ってきた男はドカッとソファに腰掛ける。
「ところであなたは誰ですか?」
目にかかるぐらいのオレンジに近い茶色の前髪を掻き上げながらフゥーとため息を付く。
「なんだ聞いてなかったのか…俺はここを手配した者だよ」
「はあ……」
「つまるところ…知り合いの知り合いだよ。ハクアとルークの」
「なんで黙ってたんだよ」
「………別の部屋で見るんじゃなかったの………」
ハクアはフィアの質問を無視してレオに質問した。
「こっちの方が面白いだろ。…あ、お前のじゃじゃ馬姫は今頃、4番目に大好きなおねぇちゃんのお膝でお寝んねしているよ」
「…そう……あとで………」
シバく、と声に出さないで呟いた。
「おい、オレの話無視するんじゃ」
「お、始まるみたいだぞ」
フィアの言葉を遮って闘技場を見るように促す。
丁度、入場するところだった。
挑戦者である《フェニックス》のメンバーの面々は何処か緊張した様子で闘技場に入ってきた。
対する《エターナル》のメンバーである雪をモチーフにした着物を着て、薄水色のヴェールで顔を隠した女性は口に笑みを浮かべて観客に向けて手を振っていた。もう一人は水色のマントを着たおそらく少年であろう者は何もせずにただ相手の《フェニックス》を見ているだけだった。
「『氷の姫君』ですか……あちらは…?」
「あの『聖炎の覇者』の弟子である『蒼炎の契約者』だよ」
フェイの呟きにレオは答える。
「よく知ってるな。オレ、初めて見たよ」
「まあな、これでも一応、《エターナル》の一員だしな」
「………」
「おい、今お前、『こんな奴が……』て思っただろ?」
「だって《エターナル》て精鋭が揃うギルドだろ?もっと強面の奴らが集まっているかと…」
「《エターナル》に所属している人に謝れ」
「………始まるよ………」
言い争いを始める二人を止める。
観覧席は静まり返り、闘技場は静かな闘志に満たされる。
『さあ!魔闘演武、《エターナル》vs.《フェニックス》の始まりだーッ!!』
実況の叫び声で闘いが始まった。