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異なる世界の空の下で  作者: 亡霊
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探索者協会《ギルド》2

 第9話投稿しました。

ニャッハの街 アメリア実家 ゼスト鍛冶屋


 自然と目が覚め、軽くストレッチをして身体をほぐす。 まだ外は薄暗いようでリリィを起こさないようそっとベッドを抜ける。 

 その際小声でリリィに「おはようございます」と声を掛けた。 昨日は、ちゃんと別々のベッドで就寝したはずなのに、 寝ぼけて入ってきたのか目が覚めたらリリィは横にいた。

 リリィに声を掛けると「うーん、あと少し」という返事が返ってくる。 昨日は、アメリアの実家の鍛冶屋にお世話になっていた。 探索者協会ギルドから出て泊まる場所を探して回ってのだが、どこも宿屋がいっぱいだと断られていた。

 宿屋と勘違いして入った建物が鍛冶屋で、さらにはアメリア氏の住んでいる場所だった。 ちょうど帰宅したところを鉢合わせし、お暇しようと思うと「部屋が空いているからと泊まっていくといい」と言うアメリアの祖父の言葉に甘えさせてもらったのだ。

 宿屋に払う分は、と言ったのだがそれには及ばないと言って断られてしまった。 その代わり知っている事を話せ、という条件だった。

 何かの勘が告げたのか、肩に掛けて後ろに回していた89式小銃から目を離さなかったのだ。 戦闘防弾チョッキや、鉄帽、持っている物も色々と気になったのか目利きでもしているのかというくらい見ていたのだが、アメリア氏が部屋に案内すると言ってくれて助かった。

 アメリア氏の祖父のゼスト氏も仕事があると言う事で昼過ぎにしか手が空かないから、それまでは自分達の用を済ませておくことにしての早起きだったのだが、リリィは朝弱いらしい。

 迷宮でも起きるのが遅かったと思う。 屋台や露店を一通り堪能したあと、リリィと2人で食材を探す予定だったが、手持ち無沙汰になってしまった。

 いろんな食材があるのだろうが、どこで買おうかと決めかねていると、思い出したことがあった。

 ここまで乗せてくれたアンドロ・ブラオ氏だ。 確か、商会をいつでも尋ねてくれと言ってくれたのだが、本当にいいのだろうか。

 部屋から出て、少し街中をぶらついて見ようかと考える。 部屋を出ると工房の方から鉄を叩いているだろう音が聞こえていた。

 

 「おはようございます。 眠れましたか?」

 「おはようございます、御陰様で、よく眠れました」


 部屋を出てすぐ、アメリア氏とばったり会う。 昨日掛けていた眼鏡は掛けておらず、髪の毛も下ろしている。 最初誰だと思ったのだが、よく顔を見たらアメリア氏と気付く。

 この世界にもシャワーかお風呂があるのだろうか、昨日着ていた緑の探索者協会ギルドの制服ではなく、普段着を着ている。

 白いワンピースを着ているのだが、色々と透けていてまずい。 特に、胸元も透けて見えるので咄嗟に目を逸らす。 アメリア氏はそれに気が付いていないらしい。

 そういう事に無頓着なのか、それともワザとなのか女性というものは分からない。


 「今日は私も公務がお休みなんです、ナオトさんとリリィさんがよろしければ街を案内しますよ?」

 「良いんですか? 実は色々と買いたくて街に来たんですが、田舎者で何がどこにあるのか分からないんです」

 「ニャッハの街は初めてなのですか? それならなおさらですよ。 私にお任せくださいっ!」


 どん、と胸を叩いて任せろとアピールするアメリア氏、そこで自分の格好に気が付いたらしい顔を真っ赤にして「し、失礼します」と言って自室の方へと走っていってしまった。

 買出しについてはなんとかなりそうだ。 早速リリィを起こすことにしよう。

 眠いと言って寝ぼけているリリィは服も肌蹴てこちらもまた目も当てられない状態だった。

 迷宮で見た扇情的な服より、今のほうがグッとくるものがあるのだが、困ったものだ。


 「リリィ、服が肌蹴ていますよ、ちゃんと着てください」


 モソモソと動きながら服を整えていくリリィを見届け、自分も迷彩服の上衣の袖を綺麗に折込んで肘まで上げる。 折り方もあり咄嗟に長袖に戻せる折方なのだ。

 今の格好は上から迷彩服上下に半長靴である。 戦闘防弾チョッキと89式小銃は今は必要ないかと考える。 腰に弾帯を付け無いよりかはマシ程度かもしれないが銃剣を付けておく。


 「リリィ、ポシェットに自分の鉄帽、戦闘防弾チョッキ、89式小銃と水筒、弾納と携帯シャベルは中に入れていてもらえますか?」

 「ふむ、心得た。 万が一もあるかもしれんかの? すぐに取り出せるから心配無用じゃよ、ご主人」

 「そう……、ありがとう。 頼みます」


 そうして準備が終わるころに扉がノックされる。 「どうぞ」と声を掛けると、眼鏡姿に戻ったアメリア氏が顔を覗かせた。


 「ナオトさん、リリィさん。 朝ごはんの用意も出来ましたから、一緒にどうですか?」


 客間に案内され、驚いた。 テーブルの上にはサラダやパン、スープに何かの肉だろうか薄切りにして焼いた物が用意されていた。

 祖父のゼスト氏がいないよだが、アメリア氏曰く「仕事の時は朝は食べずに工房に篭っている」そうだ。

 サラダに掛かっているタレもさっぱりと美味しく、パンも迷宮で食べた物より柔らかくて美味しかった。

 リリィも、「旨い」と言って堪能している。 


 「お味はどうですか?」

 「美味しいです。 アメリアさんが作ったのですか?」


 「はい」と言って、照れるアメリア氏である。 昨日の探索者協会ギルドではもうキリっとした表情であったが、やはり女性というのは化けるのだろうか。


 「失礼ですが、アメリアさんはお幾つなのでしょうか?」

 「はいっ! 成人したばかりで、数えで16になります」


 年齢も下だった事にも驚いたが、 日本では20歳だったが国によっても違うのだからそこまで驚くことではないのかもしれないが成人するのも16歳ということにも驚いた。

 アメリア氏に聞くと、男女ともに16歳で一人前と判断しているらしい。 仕事に従事したり探索者として身を立てたり、王都にある学園に入学し勉学に励む事も出来るという。

 このニャッハの街は王都にあることが話の中で知ることが出来た。 ただ、どんな国なのかまでは分からない。

 他にも、アメリア氏には教えてもらう必要があるなと考える。 今日は時間が合ってよかった。

 ただ、終始リリィの様子がおかしい。 どうも、アメリア氏と話していると、ジッと見てくるのだ。


 「リリィ、どうかしましたか?」

 「別になんでもないんじゃ」


 リリィは残ったスープを一気に飲んで、「ご馳走様じゃ」と言って部屋に戻ってしまった。

 残された自分とアメリア氏も残ったご飯を食べると、席を立ちあがる。


 「それじゃあ、ナオトさん、すぐに行きましょうか?」

 「そうしましょう、リリィを呼んできます」


 部屋に戻ると拗ねた様な顔をしたリリィが待っていた。 何事かと分からないでもない。 多分、嫉妬したのだろう。

 飼い犬が、誰とも知らない他人に懐いてしまったような感覚なのではなかろうか。

 一応、契約上では主は自分になっているが、リリィとはそういう関係では居たくなかった。 この世界で理不尽な暴力の前に現れた数少ない知り合いになったのだから。

 ただ、この場の雰囲気はあまり好きではなかった。 リリィの頭に手を置き優しく撫でる。


 「さっきは、すみませんでした。 リリィのことを放っていましたね。 アメリアさんは何も悪くはないんです」

 「分かっておる、すまぬ。 ご主人」

 「いいえ、さぁ、顔を上げて。 初めての街ですから、アメリアさんが案内してくれるそうです。 買出しを済ませたら迷宮に帰りましょう」


 迷宮に帰ろう、その言葉に反応してリリィが顔を上げる。 なんだか、泣きそうな顔をしていた。

 その表情に戸惑ってしまい、手の動きを止める。


 「いいのか、ご主人。 このニャッハの街ならなんでもあるのじゃ。 ここに居たいと思わんのか?」

 「え?」


 ほかの事も悩んでいたようだ。 そんな事は最初から決まっていた。 むしろ、それ以外に考えていなかったというべきかもしれない。

 言葉にしないと伝わらないというのはこの事かもしれない。


 「色々とあって確かにまだ戸惑っています。 でも、リリィと一緒にアビーの待つ家に帰りますよ。 今の自分にはあそこが家だと思っていますから」

 「うーっ、ご主人がご主人でよかったのじゃ」


 目じりに光っていた涙が、ポロポロと布団の上に染みを作っていく。 それを見てまた優しく涙が止まるよう頭を撫で続ける。

 しばらくそうしていると、リリィが目元を拭って立ち上がる。


 「さぁ、そうと決まればじゃ、はよぅ買出しを済ませて帰ろう、ご主人」


 ニコッと笑うリリィに手を引かれ部屋を出るのだった。



ニャッハの街 繁華街


 リリィと2人、アメリア氏に案内されてニャッハの街の朝開かれる市に来ていた。

 人も多く大変賑わっており、逸れない様リリィの手を握る。 向こうも優しく握り返してくれると歩いていく。

 何がほしいかも実は特に決まっていない事をリリィに伝えると、「それならなんでも揃う市に行きましょう!」と連れてきてくれたのだ。


 「リリィは何かほしい物はあるのかい?」

 「わっちは、旨い物ならなんでもいいのじゃ、ご主人はどうかの?」

 「うーん、帰りを考えると日持ちするものじゃないとダメですか?」

 「このポシェットなら、なんでも入って魔法のお陰で腐らんぞ」


 なんという魔法のポシェット万能なことだ。 それならばと色々物色して回る。


 「アメリアさんも、何かほしい物があれば是非。 あまり手持ちはないと思うのですが泊まらせていただいた上、朝ごはんもご馳走になりましたから」

 「えぇっ!? そんな悪いです。 そもそも、見返りを求めたわけじゃないんですよ?」

 「いえ、これは感謝の気持ちですから。 見返りとかどうとかではなく、受けとってくれてら嬉しいのです」

 「わかりました、それじゃあお言葉に甘えてもいいですか?」


 あれこれと見回ってみると、相場はだいたい同じようだ。 野菜も色々見たが、日本に居たこととなんら変わってないように見える。

 トマトやキャベツに似た野菜、ニンジン、ジャガイモ、もう見たままである。 名前が違うだけではある。

 しかし、すぐには覚えられそうにもなく心の中では日本にいた頃の名前で覚えてしまいそうだ。

 他には、鳥の卵、その卵を生む鳥の肉などを手に入れていく。 魚もあるかと探したのだが、「もっと朝早くないと手に入らないです」との事だった。

 自分で釣る分にはいいらしい。 ニャッハの街を出て西に行くとトマル港という港町がありそこから水揚げされているそうだ。

 鮮度を保つため、魔法も掛けられているようだがやはり時間が勝負らしく陽が昇る前にはセリに出されているという事だ。

 それが、ニャッハの街に着くのが早朝だという。 


 「だから、あまり家庭では魚って食べられないんですよ。 よほど早く起きなきゃ手に入りませんから」

 「そうなんですか、ちょっと残念です」

 「食べたい時は、後は魚を取り扱っているお店で食べるしかないですね。 時間が経つと腐っちゃいますし」

 「魔法で、各家庭で鮮度を保つ方法があれば、魚も腐らないんじゃないですか?」

 「よほどの魔力を持っている人じゃないと……。 保存する魔法が無いわけじゃないんですが、魔力消費が大きいんです」

 

 魔法のこともあまり分からないことだらけだ。 リリィも全てを知っているわけではないと言っていたし、ちゃんと調べていかないといけない。

 「アメリアさんは、魔法や魔力、魔素に詳しいんですか?」と尋ねると、専門ではないが多少は知っているという。

 

 「そもそも、魔法というのは便利に思えますが、この世界にある魔素を魔力へと変換し、それを使って力を具現化もしくは概念化して使用しています」


 どんな魔法でもすぐに使えるわけではなく、魔法省という機関がありそこで日夜研究されている。 その魔法省が編み出した魔法が世間へと流布されそれを覚えるのは個人の力である。

 情報はほとんどの人が見れるよう開示はされているが、探索者協会ギルドや魔法省管轄の図書館があるらしく、そこで見れるようになっている。

 また、魔法は使える者から別の者へ伝える事も自由であり、一般家庭では良く使われるのは状態保存の魔法や汚れを綺麗にする魔法だったり日常生活には欠かせないものばかりである。

 ただし、魔力は無尽蔵ではない。 人其々の持つ量があり、その量も皆違う。 そのため、全て魔法に頼ることは出来ない。

 魔力を使い切ってしまえば、眩暈、吐き気に頭痛、最悪意識を失うなどの弊害もある。 魔力の回復については、使うのを控えゆっくりと休むのだそうだ。

 魔力回復薬もあるのだが、やはり無理に回復させるため副作用もあるそうだ。 魔力酔いするらしい。

 魔力酔いと言う名の通り、酒に酔うようなものに近いらしいのだが多用すると魔力が暴走する事もあり危険も付きまとう。 また、魔力回復薬自体が高価なため探索者の中でも高位の者、金持ちや国が管理している。

 生産するのが難しく、その為高価になる。 一般家庭にはあまり普及していないのも、そのせいのようだ。

 それならばと魔力を増やせばいいとなるが、訓練して魔力の容量も増やせるが、目に見える物ではないそうだ。 人其々に魔力の上がり方や方法が違う事はリリィからも聞いていた通りだ。

 自分の感覚に頼るしかない。


 「魔法は万能かもしれません。 みな等しく使える力ですが個々の力量も違いますから」


 買出しも一通り無事に終え、メインストリートの交差地点にある噴水のベンチに3人で腰掛、疲れを取りながらアメリア氏に魔法について習う。

 自分が何度か魔法を使おうとしたこと、しかし魔法として発動しなかった事を相談してみる。


 「どんな、魔法もですか?」

 「はい、とは言ってもリリィが使える魔法は、という限りですけれど」


 顎に手をあて、アメリア氏は「うーん」と考え込んでいた。 リリィはと言うと途中見つけたクレープの様な物を購入し頬張っている。

 とても美味しそうに食べているのだが、ホッペにクリームが付いている。 その事を指摘して拭ってやると「こ、子供扱いするでないっ!」と顔を赤くしていた。

 それも、またクレープもどきを食べ始めたら怒りなんでどこかへ飛んでしまったらしい。


 「私の使える魔法の1つですが試してみませんか?」

 「いいんですか?」

 「問題ありません、今から探索者協会ギルドへ行く必要がありますよね?」

 「ゼストさんにも、昼過ぎには話したいと言われてますが」

 「うーん、今日はあまり練習は出来ませんが、いつでも使えますよ。 探索者になればですが」


 探索者協会ギルドの訓練場である為、訓練場は探索者であれば誰でも使えるようになっている。

 自分は探索者ではないのだが、探索者協会職員ギルドオフィサーであるアメリア氏が一緒であれば使うことが出来るらしい。

 昨日預けた探索者証ギルドカードと魔石の件で、探索者協会ギルドに行く事になっているのだった。

 その探索者協会ギルドには、訓練場もあるらしくそこでは魔法の訓練もすることが出来るようだ。 そこを使わせてもらう事になれそうだ。

 

 アメリアに時間をもらって、いざ魔法の訓練へ。

 読んでくださってありがとうございます。

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