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異なる世界の空の下で  作者: 亡霊
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探索者協会《ギルド》

第8話です。

ナオトとリリィは無事街に入れたのですが、買出しをしようとしたところ呼び出されてしまいます。

彼らには何が待っているのでしょうか。

ニャッハの街 探索者協会ギルド


 アメリアに案内され、元来た道を戻る。 ニャッハの街の探索者協会ギルドは自分とリリィの入ってきた門のすぐ傍であった。

 探索者協会ギルドを正面に見た感想は、中世やファンタジーから取り入れた物語ではよく使われているような欧州の建築物に良く似ている。

 かなり大きな建物のようだ。 どれだけ広いかはここからでは分からない。

 扉は閉められておらず、開け放たれていた。 人の出入りも多いようで活気のある場所だと思う。

 その扉を潜って中に入ると、まず目に入ったのは中央にある木を象った像がある。 そこに探索者だろうか、何人か立ち話をしたり椅子に腰掛けたりしている。

 みな、持っている武器も各々が違うようだ。 剣を持つ物もいれば、弓や杖、槍などを持つ物もいれば、何も持たずにいるもの、巨大なハンマーを持つ物もいる。

 ある一団は、防具を統一している者もいるようで、何かのグループのようにしているのだろう。 フルプレートで重武装な者もいれば、急所を守る様に胸当てや篭手など軽装備で身軽に動けそうな者いた。

 自分の陸上自衛隊の鉄帽に、戦闘防弾チョッキに迷彩服の上下の様な格好の物もリリィのようなゴスロリな格好もいない。

 物珍しそうにリリィと2人見ていたせいか、アメリア氏にクスリと笑われてしまった。 


「今はもう昼も過ぎていますからまだ人は少ないほうです。 朝や夜はもっと混雑していますよ」


 そう言いながらも探索者協会ギルドの案内もしてくれた。 協会に入ってすぐの広間の中央にある像は『世界樹の像』と呼ばれる。

 生命の象徴であり、この世界の神が住んでいるとされている神の国に繋がっているとされているという。

 探索者であれば、世界中を踏破し神の国へと辿り着くのを目的としているものもいると言う。

 探索者協会ギルドもまた、それを支援する組織で、国境を越えて設立され、どの国にも属さない中立を保つ組織という。

 

 「世界樹、ですか。 本当に神の国に行けるのですか? その、登りきれば?」

 「そう言う伝承が残っていますが、誰も成し遂げてはいません。 また、世界樹に辿り着けた探索者もいないのです」


 世界樹の像を通り過ぎると、協会の受付がある。 5箇所に分かれた受付があるようで、今はその内の3箇所に職員がおり探索者もそこで何かしている。

 

 「あちらは、協会の受付窓口です。 依頼クエストを受けたり依頼クエスト完了の報告をしたりする場所ですね」


 他にも、手に入れた魔物の素材を協会へ納品することで発生した買取金額もそこで受け取れる。

 魔物の素材については、こちらではなく協会の裏手にある窓口で回収しているそうだ。 量があったり素材が大きいとこちらでは預かれないとの事である。

 そして、探索者証ギルドカードの登録、発行の手続き、再発行も受付する場所であり、探索者にとっては協会との大事な窓口であった。

 探索者証ギルドカードは、持っている者の身分を探索者協会ギルドが保障している者と言う証でもある。 その為、これを持っていればどこの国でも身分を証明することに使える。

 市民証と言う物もあるらしいのだが、これは地方や国毎でのその人物を保障する証と言う事で、国境を越えてはそれだけでは使えないようだ。 

 探索者証ギルドカードもまたただ発行して持っていれば使えるというわけではないようだ。

 依頼クエストと呼ばれる協会から発行されたり、地方自治体、国からの依頼クエストを受けなければならいけないと言う決まりがあった。

 また、依頼クエストにも、常時発行されているもの、緊急を要するもの、強制されるものもある。

 特に、強制されるものなどはそうせざるを得ない事態となっており、生命の保証も無いこともある。 また犯罪を犯すなどする事で探索者証ギルドカードの剥奪もある。

 

 「探索者に登録しても、色々あります。 登録しても身分は保証しますがそれ以外の事は一切関知しません」


 依頼を受けている最中に負傷する、死んでしまうとなっても探索者自身の責任と判断される。 自己責任だという事だ。

 もちろん、協会も依頼クエストを受ける条件など定めており、素人ルーキー熟練ベテランがするような依頼クエストをさせる事も無いそうだ。

 その見分け方もある。 探索者証ギルドカードに記載されており、さらには色分けもされている。

 下から順に、銅、銀、金、白銀と4つの大きく分けられている。 銅の階級を見ても、4級から1級までの階級に分けられていた。

 依頼クエストをこなしていくことで、協会が判断しその階級を上げていくという形を取っている。 ただし、銅1級まで上がるのは依頼クエストをこなせば良いのだが、それ以上になると協会で面談がありそれを通らなければその上には上がれないと言う。

 実力だけではない、ということらしい。


 「長々と説明してすみません。 本来は、探索者へ登録の際に説明していくことなのですが……。 ナオトさんやリリィさんは登録されてはいかがでしょうか?」

 「街に入る為には持っていた方が良いのでしょうか?」

 「持っていれば、魔物を倒した際に手に入る素材なども協会を通して買い取っていますし、空の魔石を支給しています。 それで魔素を回収し魔力として溜めていただければそれも買取の対象になっていますよ」


 「是非いかがでしょう」とアメリア氏は薦めてくれるのだが、リリィはと言うとあまり乗り気では無さそうに見える。

 目で、「ご主人の好きにしたらいい」と訴えかけていた。


 「まぁ、それは追々と言う事で良いですか? 今は何か用があるんですよね?」

 「そうなのですが、それが終わってから受付も出来ますよ?」

 「それよりも、他の件で伺いたい事もあるんです」


 「なんでしょう」と首を傾げるアメリア氏に、自分で持っていた分の魔石を取り出して見せる。

 アメリア氏もまた、驚いた顔をしていた。 


 「これはいったい、どこで……」

 「迷宮です。 まだあるのですが魔石だけではなく探索者証ギルドカードも持ってきています。リリィ」

 

 リリィにお願いし、残りの魔石と探索者証ギルドカードを出してもらい、アメリアに手渡す。

 数が多いので、アメリアはこぼしそうになるがなんとかこらえたようだ。

 6つの探索者証と魔石を見るアメリア氏だったが、ある人物の探索者証ギルドカードを見たところで動きが止まっていた。


 「アイリーンっ! いったい、彼女に何があったんですか?」

 「わかりません。 その迷宮はゴブリンが生息していたことと、奥の広間にはミノタウロスがいて残る5人はそこで死亡していましたから」

 「ミノタウロス!? 単体でも銀1級以上のパーティでないと危険な魔物がなぜ」


 ミノタウロスは、ここよりももっと南にある国の魔物であると言う。 ニャッハの街の近い迷宮には、ゴブリンなど比較的対処しやすい魔物が多い事から探索者の中でも新人ルーキーの経験を積むにはうってつけの場所だと言われている。

 そうアメリア氏は言う。 森に囲まれてはいるが奥へいかなければ銅1級でも対処が難しい群れる森狼フォレストウルフなどもいないのだそうだ。

 しかし、馬車に揺られてそんなに時間も経たずにニャッハの街へ到着した事から考えると近場で森狼フォレストウルフの群れに商隊が襲われていた事の辻褄が合わないのではないだろうか。


 「最近、迷宮や魔物がおかしいという報告は上がっているのです。 先日も東からきた商隊も森狼フォレストウルフの群れに襲われたと言いますし、定期便も到着が遅れています」

 「何かがおかしい、ですか。 こういった事は前例は無かったのでしょうか?」

 「今は、何も分かっていない状況です。 調査隊が探索者協会職員ギルドオフィサーからも出ていますし依頼クエストも発行されています。 今は待つしかありませんね」


 そう言うとアメリア氏は探索者証ギルドカードと魔石を預かると、来客があった時に使う待合室へと通された。

 リリィと2人、ソファに腰掛けて待つ。 小銃から弾倉を抜き、薬室に残っていないか点検する。 街中でも何が起こるか分からない不安から安全装置を掛けたまま負い紐で肩に掛けていた。

 鉄帽も脱いで腰にあるカラビナで下げておくか悩んだが、テーブルの上に置いた。 

 リリィは、仕込み刀の傘は傍に置いてあり、抜こうと思えばすぐに対処できるようにしているようだ。

 すぐには来ないらしい。 喉も渇いてきたが、さすがに今飲むのはまずい。 待つのには慣れてはいるのだが、リリィはどうだろう。

 雑談するのは問題ないだろうと考える。


 「アメリアさん、迷宮で亡くなった人に知り合いがいたんですね」

 「そのようじゃな。 大事な者を亡くすつらさは2度も味わいたくないの」


 自分には、物心付いた時にはもう家族と呼べる人はいなかった。 この世界に来た時に殉職した同期や先任も同じ仕事をする仲間だと思うが、それが悲しいという感情は沸いてこなかった。

 それが変なことなのか、どうかは自分でも分かっていない。 他人が聞いたら、「変だ」と言われるかもしれないがそうなのだから仕方ない。

 それからは、街について食べた物の事や、見た物を話したりしていると、扉がノックされる。


 「失礼するよ」と言って、部屋に1人の獣人とその後ろにアメリア氏が付き添って入ってきた。

 獣人の身長はかなり高いようだ。 自分より頭1つほど高い。 スラリとした印象を受ける。

 猫のような顔立ちとでも言おうか、豹やチーターなどを思い出す。 猫耳だけがあるわけではなかった。

 顔つきや、毛もちゃんとその動物のような生え方をしている。

 腰には、2本の細身の剣を下げておりアメリア氏と同じ探索者協会職員ギルドオフィサーの制服を着ているが、胸元には徽章の様なものが幾つか付けられているのが見える。

 胸の膨らみから、女性であることは分かった。 徽章に目が行ってしまっただけである。 そのついでに胸も見て取れただけだ。 あと、推測ではあるが間違いなく、アメリア氏の上官に当たる人物ではなかろうか。

 この場の雰囲気に呑まれて、立ち上がって気を付けの姿勢をとってしまう。 気圧されたとでも言うのだろう。 リリィもキョトンとした顔をして自分を見上げている。

 

 「私の名前は、アデリーナ1等武官だ。 まぁ、アメリアの上司になる。 フフッ、すまない。 君はナオトさんと言ったね。 アメリア3等武官から聞いているよ、うちの水晶を壊してくれたらしいね」

 

 仕草まで軍のそれだった。 休めと言うかのように左手で自分に向けて手を振る。 それに習って休めの姿勢をする。

 「従軍経験者かな?」と言う問われてしまうが、「軍隊経験はありません」とだけ答えておく。 しかし、早速、水晶の事を持ち出されてしまった。


 「あれは自分が原因だったのでしょうか?」

 「まぁ、半分はというところかな。 あれも長く使っていてね、消耗していたところにキミの魔力を測定して壊れてしまったようだ」


 リリィもアメリア氏も特に横から何かを言うわけではなく、傍に控えてくれていた。 リリィも、立ち上がって自分と同じような姿勢を取っている。

 アデリーナ氏曰く、リリィの言っていた膨大な魔力の一部を水晶が吸い取り、消耗していたところ許容量を超えて吸収したため、割れてしまった。

 ただし、普通であれば例え消耗していたとしても割れる様な事にはならない。 ヒビが入ってしまったり熱が発生し測定者が割れるよりも先に手を放すという。

 そうなる前に、測定も終わるのだから普通では無いそうだ。


 「ナオトさんは、割れる前に何か異常は無かったかな?」

 「アデリーナ1等武官のおっしゃっていたヒビや熱は感じませんでした。 こう、身体から何かが抜けるような」


 そこまで言ってアデリーナ氏の顔色が変わったのが分かる。 アメリア氏も同じく驚いたような顔をしてた。

 怪訝に思い、リリィを見るが、彼女には良くわかっていないのか何も言わない。


 「抜けていくのが分かる、と言ったが……。 それは身体から魔力がと言う事かな?」

 「魔力かどうかはわかりませんが、そんな気がしただけです」


 咄嗟に、誤魔化す事にする。 どうも、そう感じた事が異例のようだからだ。

 自分の顔をジッと見つめるアデリーナ氏だったが、自分が何も言わないと感じたのか、1度息を吐くと話を進めた。

 あとは、特にたいした話ではなかった。 この街に来た目的だったり、会ったのも何かの縁だから今度何か旨いところで食事をしようという話で盛り上がった。

 その話をしている時は、リリィがどこと無く不機嫌だったのだが、理由は分からない。


 「ところで、ナオトさん。 アメリア3等武官からも聞いたと思うが探索者になってみるか? リリィさんもだが」

 「それについては考えてみます」

 「そうか、もしくは私達と同じ探索者協会ギルドで働く道もあるんだが、今期の試験は終わってしまったから来期どうかな?」


 それも考えてみます、と言うとアデリーナ氏は「検討してくれ」とだけ言うと立ち上がり、部屋を出る。

 それを見送って、やっと一息つけた。 1等武官がどれくらい上なのかは分からないがオーラが違った。

 汗が止まらない。 リリィも疲れたようで「早く行こう」という視線で見上げてくる。


 「ナオトさん、リリィさん、お時間をとらせてしまいありがとうございました。 もう陽も暮れてきていますし今日は宿を取っていかれては?」

 「そうなんですか?」

 「はい。 それと、お手数ですがまた明日の空いている時間に協会へお越しいただけますか? お預かりしました探索者証ギルドカードと魔石の件で案内がありますので」

 「わかりました。 アメリアさんにお声掛けすれば良いでしょうか?」

 「はい、居なければ職員へお尋ねください。 それでは」


 アメリア氏の後について来た時と同じように探索者協会ギルドを外に出る。 

 途中、ふと掲示板に気が付いて内容を見ようと思ったのだが、リリィに手を引かれていたためみることは出来なかった。

 陽はだいぶ傾き、空には月のようなものが2つ浮いているのが見える。 不思議な光景で地球では見れない。

 1つはかなり近いのか大きく、もう1つはまた遠い。 それを見上げているとリリィが袖をグイと引っ張る。


 「ご主人、宿を取らねば」

 「そうですね、それではアメリアさん。 宿を取りたいのですが、どちらへ行けば?」

 「中央、この大通りに沿ってありますよ。 案内したいのですが、まだ仕事がありますので」

 「いえ、場所が分かっただけでも助かります」


 こうして探索者協会ギルドでアメリア氏と別れ、宿を取ろうとしたのだがどこも断られてしまう。

 街への入る許可証を持っているから問題はないというのだが、どこも満室だと言われてしまった。

 そうしてあちこちを歩いているうちに陽は暮れてしまい、街頭があるわけでもないため辺りは暗くなってしまう。

 灯りがあるのが、宿屋らしくそれは前の宿で教えてくれた為、それを頼りに歩くしかない。

 やっと見つかった明かりを頼りに扉を潜ると、そこはどこか鍛冶屋のようだ。

 今は鉄を打つ音などがしないので、気付かなかったがカウンターがあり1人の初老の男性がそこにいた。

 ちょうど、片づけをしていたようだ。


 「なんだ、てめぇら。 もう終いだ。 武器や防具は預かるがどうする?」

 「あっ、違うんです。 宿と勘違いしてしまって。 すみません、出ますね」


 リリィを連れて鍛冶屋を出ようとすると、扉が開いて誰かが入ってくる。 反射的に邪魔にならないよう横へ避けて相手を待つ。


 「あれ、ナオトさんとリリィさんじゃないですか?」


 聞き覚えのある声がする。 振り返ると、見知った顔の女性がそこにいた。

 つい先ほどまで一緒だった探索者協会職員ギルドオフィサーのアメリアだった。

 

探索者協会ギルドでまた新たな出会いがありました。

新たな道が目の前に現れましたが、ナオトはいまだ決めかねています。

親切な周りに助けられ、この先どうしていくのでしょうか。

また、なにやら不穏な空気も流れているようですが……。


また次回をお楽しみに。

ご意見ご感想お待ち致しております。

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