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異なる世界の空の下で  作者: 亡霊
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不穏な影

 家へと帰り着いた一行。

 協会からの依頼クエストもありまだ安心は出来ません。

 不慣れな指揮をとる事になったナオトですが……。

名前の無い迷宮


 家に無事帰り、まず自分のした事といえば、大所帯になった為に食事をどうするかという事だった。

 各々に部屋を割り振った後は、各自が持参した荷物を部屋に運び入れたりしていた為、自分はと言うと皆の御飯を作る事にしたのだ。

 元いた世界で実際に使っていた食材と大きな差が無かったため、ニンジンの様な物、ジャガイモの様な物、たまねぎの様な物、お肉の様な物(様な物はいらなかった)を一口大の大きさに切り分ける。

 大きな鍋があったので、それを火で熱し温めると、硬いものから順に鍋へといれて炒めていく。 他では分からないが自分の家ではよくやっていたレシピである。

 十分に火を通したら、リリィに魔法のポシェットから取り出してもらっていた牛乳を鍋にいれると半分まで浸す。

 塩コショウなどで味付けしてぐつぐつと煮込ませて、なんちゃってシチューの完成だった。 

 簡単だが、煮込んだ分美味しく出来たと思う。 振り返ると、台所の入り口でリリィ、ヒスイ、ホルンホルン氏、獣人娘ケモノッコと佐々木士長が覗き込んでいた。


 「えっと、食べますか?」


 それからは、皆で食堂へ移動し食卓を囲んで、遅い昼食を取ることになった。 パンや、簡単なサラダなども並べて、結構豪勢である。

 皆も、口々に「美味しい」と絶賛してくれた。 喜んでくれて良かったと思う。

 皆が、ゆっくりと食事を取っている間に、さっさと済ませた自分はと言うと格納庫へと来ていた。

 実は、ここに戻ってからどうも不調である73式装甲車《APC》の車体を確認すると、車体に深刻なダメージを負っているようには見えないが、まず一番大きな問題が発生してしまった。

 73式装甲車《APC》の故障である。 燃料はまだ残っていたのだがエンジンが掛からなくなってしまった。 電気系統の可能性もあるが、そこまでは分からない。

 ウインカーやライトは点く。 免許を取る際に、色々と習っていたのだがそれでもダメらしく本格的な専門知識が必要になった。

 1人でバタバタと慌しく動いていたところに、ホルンホルン氏が73式装甲車《APC》の車体を見たいとやってきた。

 似たような物が帝都に居た頃に何かの文献で見たようだがそれも昔の事ですぐには思い出せそうにも無いらしい。

 ただ、ホルンホルン氏の任せてもらえないかという提案もあり自分がいる間だけではあるが、それを許可する事にした。

 元々の隊の装備ではあるだろうが、持ち主であった本間3尉がもうこの世には居ない為、自分に任せると佐々木士長からは聞いていた。

 リリィを呼ぶと、車体の中と外を『クリーンウォーター』で綺麗に汚れを落としてもらい、破損して使えなくなった車載銃と、12.7mm重機関銃M2を車体から降ろした。

 煙幕弾も弾頭部分から取り外して保管しておく事にした。  12.7mm弾、7.62mm弾と共に弾薬箱があったため、そこに入れて保管しておく事にするしかない。

 格納庫代わりとして十分に使える部屋だったが、本当に何も無い。 出入りする為に魔方陣に、73式装甲車《APC》がポツンとあるだけである。

 しょうがないので、弾薬箱は73式装甲車《APC》の後部隊員室へと保管しておく事にして『火気厳禁』と全員に達してあるから、誰も火属性の魔法なんて放たないと思いたい。

 次に浮上した問題は、自分達の装備である89式小銃などの各種弾薬である。 正直、今ある分では心許ないのだ。

 また、弾薬については、ホルンホルン氏の能力で魔力を使用するが作り出す事が出来ると言う。

 正確には、『作りたい物を用意し、さらにそれに必要な素材も必要だ』という事だ。

 どこかで聞いた事あるなとも思ったのだが、まさに『錬金術』と言うホルンホルン氏の持つ神技と呼ばれる人族の使用する魔法とは別に、種族間が持っている技があるそうだ。

 これは、ドワーフやエルフ、賢狼族などの『亜人種』と称される人であって人とは違う種族をまとめてそう呼んでいるそうだ。

 その亜人種が所属で持つ特有の神技があり、人では使いこなす事が出来ない。

 そのため、これを使う亜人種と人種の間で幾度となく戦争も起きたそうだ。 自分達とは違うというという思いや得体の知れない者との遭遇でそれは当たり前の様におきてきた事だという。

 また、戦争には利権や私利私欲、怨恨などもある。 それでも、ここ数十年は起きていないそうだからいまはまだ平和らしい。

 賢狼族のサーラやセラ、スゥでさえも戦争は経験していないし、その親もまた同じく年齢的には体験していないという。

 話に夢中になっていると、いつの間にかリリィとヒスイも食事を終えて格納庫へと来ていた。 佐々木士長が食事の後片付けを買って出てくれたそうだ。

 獣人娘ケモノッコ3人も一緒に皿洗いをしてくれているそうだ。 鍋に残っている分は残して置くように言っておくべきだったかと思ったが、ヒスイがすでに伝えているそうで一安心だ。

 それで、自分を探して格納庫へ来ると、ホルンホルン氏と何やら話しており気になって立ち聞きしていたそうだ。


 「オレも、戦争についてはぜんぜんしらねぇんだわ。まぁ、里の爺様や婆様ならわかるんじゃねぇ?」

 「わっちも戦争については詳しくはないのぉ。 大きな戦争があったと言っても実際に何があったかさえ記録に無いそうじゃよ」


 ホルンホルン氏のいう事ならまだ納得は出来るが、リリィの言う戦争の資料が無い、と言うのも不思議な話である。

 ただ、『戦争があった』という結果だけが残っているそうだ。 帝国に無いという事は、他の国にはあるかもしれない。


 「そうですか。 今は、戦争については何もわからないのも仕方ありません。それよりもまず当面の調査についてどうするかですね」

 「わっちはもちろん、ご主人についていくぞ」

 「私もです」


 格納庫から食堂へと戻ると、片付けも終わったのか、佐々木士長と獣人娘ケモノッコたちも待っていてくれた。

 明日からの調査についての話し合いを設ける事にする。

 リリィとヒスイの2人共に着いてくるらしい。 佐々木士長については、階級はこちらが上だがどうするかと聞くと「命令に従います」との事だった。

 サーラ氏、セラ氏、スゥ氏の獣人娘ケモノッコ3人も、指示に従うという。 先ほどよりも佐々木士長と仲が良くなったように見える。

 女性同士話があったのかもしれない。 4人で一緒に行動させるのもいいかもしれないと考える。 セラにも13式騎兵銃を持ってもらい獣人の仕様を試す事が出来るだろう。

 銃の取り扱いについては、佐々木士長に任せることにする。

 ホルンホルン氏は、家でアビーの身体をまず治し、73式装甲車《APC》の修復を手がけると言う。 すでにアビーはホルンホルン氏に貸し出した工房へと運ばれていた。

 どうするかと考えたが、あまり良い案は浮かんでこない。


 「隊を2つに分けて調査を始めます。 まずは、ここから近い南の海岸に在る漁村と東の山の麓にある樵の村を目的地とします」


 トマル港を出る際に、買っておいた紙を食卓に広げて、簡単に地図を書いていく。

 中心に我が家を記入し、西にトマル港、北へニャッハの街を書き込む。 さらに南には漁村、東には樵の村と書いていく。


 「魔物の群がいる可能性もあります。 現場での判断になるとは思いますが、無理はしないで下さい。 対処が困難な場合は隊を1つにして取り掛かりましょう」


 皆が頷くのを見て、佐々木士長に声を掛ける。


 「カナコさんは、サーラさん、セラさん、スゥさんの4人で東の樵の村の調査をお願いしたいと思います。 やれますか?」

 「はっ! 了解しました」


 佐々木士長も緊張した面持ちだが、サーラたち獣人娘ケモノッコと一緒に頑張ってもらうしかない。

 サーラ達も「一緒ですね」と言って、佐々木士長の手を取って上下に振っている。 あの勢いだと肩を痛めないか心配だったが佐々木士長は嬉しそうなので問題ないだろう。

 必要な、装備と物資を確認していると、時間もだいぶたったらしい。 外の景色が分かる為暗くなっていた。


 「今日はもう遅いようです。 明日の朝にもう一度、ここへ集合。 食事を取ってから早速行動に移しましょう」


 皆が頷くのを見て、一旦今日は解散する。 慣れない73式装甲車《APC》での移動や部屋の片付けと荷物の整理で疲れただとうと考え今日はもう各自休む事にした。

 不思議と皆が、自分に色々と聞いてくるのだが、上に立つ事に慣れていない為に正直動揺していた。 陸曹への選抜試験の際に隊を掌握し、指揮もするのだが試験と違うのだから、余計に緊張してしまうだろう。

 自分の部屋に戻る前に、アビーの様子でも見に行こうと格納庫横に出来ていた工房へと向かう。 扉が閉まっており、ノックするとホルンホルン氏はこちらへと来ていたようだ。

 中から「入れよー」と言う返事で扉を開けると、一瞬視界に見えてはいけないものが2つ見えてしまった。

 小さい身体なのに、出るところは出ていて、絞まるところは締まっている。 身長以外とてもいいプロポーションだと思うが、着替えていたらしく上半身は裸であった。


 「すみませんっ!」

 「いいって、いいって。 ほら、もう服は来たよ。 なんか用か?」


 ちょうど良かったのかもしれない。 ホルンホルン氏に確認したい事があると言うと、先を促された為、ある疑問を口に出した。

 それはニャッハの街での事だ。 武器や防具が絶対に必要になってくると考え、そこを覗いた事。

 しかし、どの武器を試しに持ってみたところ、全て見た目以上にある重量など、まるで武器や防具に拒絶されているかのような感触だったことを説明した。

 そして、自分の持っていた武器や日常生活で使うような刃物などは使用できる事も忘れずに付け加える。 ホルンホルン氏は、そこまで聞くと、手を顎に当ててなにやら考え込んでいた。 

 

 「なぁ、お前って俺達になんか隠してっか?」

 「えぇっと、多少はありますね」

 「ふぅん……、馬鹿正直に言うんだな」

 「まぁ、多生の事ならいいかなと思いまして、誰しも秘密くらいは持ってるのかなと。でも何か思い当たる節でもあるんですか?」


 そう言うと、自分の頭の先から足の爪先まで舐めるかのような視線で観察してくる。 いまの格好は、すでに戦闘防弾チョッキも脱ぎ、迷彩副上衣も脱いであるため迷彩シャツに迷彩服のズボンに半長靴だけである。

 ホルンホルン氏が知っていると言う物語があるそうだ。


 嘘か真かは分からないが、世界に危機が近づく時、異界より現われし勇者が黒き力を切り払い世界を光で包むだろう。


 ただ、その部分だけ小さい時に聞いたそうだ。 今も小さいというのは野暮である。


 「その異界から来る勇者ってのがよ。 どうも1人や2人じゃないらしい。 その連中の中に『この世の武器を扱う事は出来ないがそれを超えた武器を使って魔を払う』っていう説があるんだ」


 しかし、勇者と言われる存在についてはどうも眉唾物であるという事と、すでに『勇者』と呼ばれる存在は帝国軍と共にニャッハの街へと向かっている。

 自分が勇者なんていう柄では無い事は、自分が良く分かっているのだ。


 「まぁ、お前が勇者って感じじゃないのは分かる気がすっけど。 色々と自信も無さそうだしな」

 「それは言わないで下さい。 ただ、やれる事はやっておかないと。 後悔はしたくないですから」

 「まぁ、そうだよな。 っと、もう遅い時間じゃねぇか? 俺もソロソロ寝るわ。 明日、弾薬に必要な素材なんかを教えっから頼むぜ」

 「こちらこそ。 弾薬にも種類がありますし、もしよければ今ある分の各口径の弾薬を揃えたいと考えています」

 「わーったよ。 じゃ、明日な」


 部屋へ戻ると、すでにリリィがベッドでスヤスヤと寝息を立てていた。 自分も装備を外して寝る事にする。

 街で買った肌着に着替え、リリィの隣に空いたスペースで横になろうと布団をめくると、ヒスイがそこで眠っていた。

 どうも、今日はベッドで眠る事は出来なさそうだ。



 翌日


 陽が昇り、朝の涼しい時間、皆で食事を済ませて格納庫を通り魔方陣を使用して外へと出た。

 この魔方陣は、自分の許可した人間しか出入りする事は出来ない仕様になっている。

 その為、ここからは昨日決めた2つの班に分かれて調査に取り掛かる事にした。


 第1班は、自分とリリィ、ヒスイの3人。 南へ向かうと海岸線に出るらしく、そこを調査する。

 小さな漁村などはあるらしく、魔物の氾濫による被害状況と、可能ならばニャッハの街もしくはトマル港へと避難を促す。

 第2班は、佐々木士長と獣人娘ケモノッコのサーラ、セラ、スゥの4人である。 東へと進むとオリョク山という山がありその麓にはきこりの住んでいる村があるそうだ。

 同じく、ニャッハの街もしくはトマル港へ一時避難を促す手はずになっていた。


 装備については、第1班の自分が、13式騎兵銃、89式小銃、鉄帽、戦闘防弾チョッキ、銃剣。

 リリィは、もう一振り持っていた刀、戦闘防弾チョッキを着てもらっていた。 足元は半長靴を履いてもらっている。 ホルンホルン氏に見てもらったところいまある防具の中でもかなりの性能だとお墨付きだった。

 ヒスイは、89式小銃以外はリリィと同じだ。 ただし、2人とも鉄帽は嫌だといって被りたがらない。 特にリリィは前に出る為、あまり思い装備を着たがらない。 心配ではあるが仕方ない。 何か考えておく事にする。 

 第2班の佐々木士長は、M24対人狙撃銃は今回は持っていない。 弾薬である7.62mm弾が24発しか残っていなかった為である。 その弾薬についてはホルンホルン氏に預けてあり量産できるかどうかを見てもらっている。12.7mm弾もお願いしていた。

 サーラは、魔法を主体にして戦う為、木の杖と皮のローブを纏っている。 頭部はローブに付いているフードで守る事が出来るそうである。 足元は半長靴を履いてもらっていた。

 セラは、いつもの剣ではなく今回は短剣と13式騎兵銃、鉄帽、戦闘防弾チョッキ、半長靴を履いている。 迷彩服は無かったが持参していた服を着ていた。

 スゥは銃の扱いより弓矢が良いとして持たなかった。 弓矢とナイフ以外はスゥに準じている。

 また、この度サーラが魔法のポシェットを使える事が判明した。 トマル港で亡くなった親の形見として探索者協会ギルドから遺品として受け取っていたらしい。

 リリィよりは入る量が少ないようだが、おかげで弾薬や食料などを持っていけるのだ。

 なお、弾薬についてはホルンホルン氏が昨夜就寝前に5.56mm弾を製造してくれたらしく、朝一に自分の元へと持ってきていた。

 念の為、数発を適当に選び13式騎兵銃、89式小銃、M16A2アサルト・ライフルでの試射を行ったが問題は無かった。

 弾薬用の素材はこれで全て使い切ったそうで、素材の採取に時間を取る必要が出てきた。 どうも、この世界で取れる鉱石の幾つかが銃弾を作る為に必要らしい。

 通常、弾を作る為には火薬だったり弾頭、薬莢を作る必要があるそうだが、ホルンホルン氏曰く「おれの神技をなめんな」だそうだ。

 突込みどころはあるが、それでも弾薬が無くなる心配だけはせずに済む。 ホルンホルン氏が作成してくれる間ではあるが。


 「それでは、カナコさんは先ほどホルンホルン氏からお願いされた鉱石の回収もお願いします。 オリョク山で採れるそうです」

 「それは、坑道などに入っても良いという事ですか?」

 「そうだな、オリョク山については国が管理しきれないといって正直言えば探索者に採取を任せてる。 そうすれば協会で買い取って国が協会から治められるって寸法さ」


 出発するのを見送ろうと来ていたホルンホルン氏から佐々木士長へ説明される。

 魔物がいなければ、管理もしやすいのだろうがそれはこの国が決める事であって我々がどうこう言う立場ではない。

 佐々木士長も、そういう事ならばと採取を承諾してくれた。


 今日の調査だが、無線機などは持っていない為に日が暮れる前に家に戻る事に決めてある。

 問題が発生した場合は、身を守れる場所で待機する事にし、脅威が去ったもしくは排除に成功した場合に家に戻る事にする。

 また、どちらも戻らない場合だがホルンホルン氏には2日経っても戻らない場合はニャッハの街もしくはトマル港へと避難している事を伝えてある。

 なぜ、2日にしたかと言うと、サーラの持っている魔法のポシェットには食料が2日分入るからだった。

 それに合わせてあるのだ。


 「魔物の群に遭遇した際は、無理な戦闘はせず1度ここへと戻ってください。 1人も欠ける事無くです」


 出発前、何か一言とリリィに言われ何か無いかと考えた結果無難な言葉を言う事になってしまった。

 こう言う事に慣れていないのだから、仕方ないと考える事にする。

 こうして2手に分かれて、探索者協会ギルドからの緊急任務クエストへと乗り出すのだった。





 自宅より南に広がる森


 今日の森の中は、魔素が濃いわけではなく比較的穏やかに見える。

 それでも、ゴブリンの群が行く手を阻んでいた。 ただ大規模な群ではなく小さな群だった為に回避したりはせず邪魔になるようならばと排除する方向で話は決まっていた。

 弾薬も十分にあり、リリィの魔法のポシェットに入れてある。 それだけでも意識を正面の敵や調査に専念する事が出来ていた。


 「右1、2、3排除」

 「左、1、2、3、4、5排除」

 「正面の3体排除、じゃの」


 いつも通りの取り決めだった。 接敵時にリリィを中心にして右は自分が担当し左をヒスイが担当する。 正面についてはリリィが前へ出て排除していった。

 しかし、ヒスイは相変わらずの射撃能力だ。 今のところ一番魔物を倒しているのは彼女だろう。

 魔物についても、ゴブリンしか今のところは出現しておらず、トマル港に現れたゴブリンヘッドや、オーク、オークメイジなどの個体は見当たらない。

 森狼のフォレストウルフも、森の奥へと進まないとほとんど出会う事もないそうだ。 海岸へと向かっている為、遭遇する事も無いだろう


 「ゴブリンが多いですね」

 「そうじゃの。 どうもこっちにはあまり魔物がおらんみたいじゃ」


 倒したゴブリンがゾンビ化しないように処理していく。

 弾薬の確認を忘れない。 13式騎兵銃については装弾数が7発と少ない。 弾倉もちゃんとある為、弾切れの際はすぐに切り替えられるのだが89式小銃と比べるとやはり心許ない。

 13式騎兵銃は単発での発射機能しか無いので気をつける必要があった。 万が一、用意してある弾倉全てを使い切った場合だがすぐに89式小銃に装備を切替れるよう、負い紐で背中に斜めがけしている。

 またすぐに、魔力の流れが見えてくる。 やはり、この先にもゴブリンがいるようだ。

 ここでも、6体を処理し森を進んでいく。 すると、潮の香りが鼻をついた。


 「海が近いようですね」

 「はい、我がマスター。 ここからはさらに警戒が必要です」


 ヒスイはそう言うと、空を見上げた。 何事かと思い空を見上げると何かが飛んでいるのだ。

 目を凝らしてみると、魔力を纏った何かがそこにはいた。 数にして10体ほど空を悠々と飛んでいるのだ。


 「リリィ、あの上にいるのは何か分かりますか?」

 「おぉ、あれはやっかいじゃな。 飛んでいると近接武器では中々倒すのに難儀なんじゃ」


 ビッグビークと呼ばれる巨大な鳥の魔物らしい。 嘴が異様に大きく人でも動物でも、また魔物でも何でも獲物として捕らえ喰らう魔物だ。

 隊長も2mから大きなものだと3mはあるらしい。 本来は人里に近い場所には現れてこない。 正確には、危険すぎる為に国や探索者協会ギルドが最優先討伐対象に指定されている。

 魔力によって、巨体を飛行させているそうだが、魔力抵抗は低いらしく魔法を得意とする探索者や国軍兵士からすれば浮いている的だそうだ。

 逆に言えば、魔法を使えない者からすると恐怖の対象である。 空から襲い掛かってくる巨大な鳥なのだ。

 恐れを抱かないわけがない。 このまま海岸へと出れば、アレの餌である。


 「ヒスイ、アレを撃ち落せますか?」


 実際に距離は300mほど高い場所を飛んでいる。 89式小銃の有効射程距離は500mだから当てられなくはないのだろうが、距離があり対象が移動しているとなると難しい。


 「やってみます。 我がマスター


 膝撃ちの姿勢を取り、なるべく身体がブレないようにすると狙いを定めている。

 自分もまた89式小銃へ持ち替え、襲われても反撃できるように準備し、リリィも魔法での攻撃に切り替えたようだ。 纏っていた身体強化の『ブレイブハート』が解かれていた。


 「当てます」


 いつもの糸目ではなく、しっかりと開眼して目標を捕らえ続けている。

 実際に狙撃する場合、動く対象の未来位置を予想する必要もあるのだがヒスイの腕を信じている。

 タン、タン、タンと数発を単射で目標であるビッグビークを狙撃していく。 銃口の軌道は飛んでいるビッグビークを追っていたが、結果はすぐに分かった。

 3体のビッグビークが地面へと落下してきたのだ。

 まさか、3発全て命中させているとは思っていなかった。

 空を見上げると、自分の仲間を殺した相手を探すかのように旋回するビッグビークの姿が見えた。

 数は減り、3体となっている。 上空からでは見つけきれないと思ったのか高度を下げてきているようだ。


 「負けてられないよな」


 そう言うと、自分自身も89式小銃を構え、1体に狙いを付けるとガク引きにならないように引金を絞る。

 タンッという音とともに発射された5.56mm弾は、ビッグビークの右翼当たりに当たったらしい。 バランスを崩し、地面に激突して死んだようだ。

 残る2体は勝てないと悟ったのか、慌てて高度を取り、南へと逃げていく。 速度が速く射程距離外へと出てしまった為に追撃は不可能だった。


 「撃退する事は出来ましたね。 それでは、漁村へと行きましょう。 ただし、対空警戒を厳にしてください」

 「「了解なのじゃ」」


 森から抜けてすぐにある海岸を歩いてゆく。 砂浜は白く、故郷を思い出すようだった。

 それからしばらく進んだだろうか、ビッグビークの襲撃に合う事もゴブリンとの戦闘も無く漁村が見えてきた。

 しかし、人の気配がしない。 ただ、魔力が濃くなってきており何かが起きている可能性は高い。


 「リリィ、ヒスイ、万が一の事もあります。 ビッグビークに襲撃された後かもしれません」

 「可能性もあるのぉ。 ご主人よ、どうする?」

 「ビッグビークか魔物か、撤退する事も考慮に入れておいて下さい。 3人一緒に村へは行きます」


 リリィとヒスイの2人が頷くのを見て、ゆっくりと村へと近づいていく。

 まだ陽は高いが、村の中の静けさが不気味に思えた。 村を囲むように柵はあるのだが、どこも壊されたようには見えず浜には船がそのまま残されていた。

 声を掛ける事も無く正面の門に手を掛けゆっくりと押すと、鍵などは掛かっていないようですぐに開いた。

 建物を1つ1つ、中を確認していくが、住人の姿はどこにも無かった。 ただ、先ほどまで食事をしていたのか料理が手付かずで食卓に残っていたり、釣りの道具が落ちている。 子供が遊んでいたのか人形も地面に落ちている。


 「いったい、ここで何が起きたんだ?」


 長居するのはまずいと考え、村の外へと向かう。 上空からのビッグビークに注意し、突然物陰からゴブリンの襲撃があるのではないかと慎重に進んでいく。

 門へと到達した時だった。 自分達が入った際に改めて閉めていたのだが、その門が開いたのだ。

 リリィとヒスイに目配せし、物陰へと走らせる。 自分はと言うと、村人だった場合隠れていると疑われそうだった。


 「貴様! ここで何をしていた! 貴様だな、村人をどこへやった!」


 太陽の日差しを反射するほどの白い鎧を身に纏った騎士達だった。 先頭に立ちこちらへ敵意剥き出しの表情で質問を投げかけてくる男の鎧が一番手の入っている様に見える。

 フルプレートであり、単純に重くないのかとか暑くないのかとどうでも良い事を考えてしまったが、彼の言う事が引っかかった。

 どうにも、この村の住人が居ない事は我々のせいだと思っているようだ。


 「いえ、私も今来たばかりです。 来た時には誰もおりませんでした。 ビッグビークも近くにいましたから、まさかそれに襲われたのではと思っていたのですが」

 「ビッグビークだとっ! 我々は見ておらんな。 嘘をでっち上げておるのではなかろうな」

 「はい、断じて嘘は言っていません」


 探索者証ギルドカードを見せろと、騎士の1人が近づいてくる。 懐から取り出して渡すと、マジマジと見ている。

 「偽物でもないようだな」と言って探索者証ギルドカードを返された。 先ほどから高圧的な態度である。 さすがに不愉快ではある。


 「ゴォル様、ただの探索者のようです」


 指揮官であろう男の名前はゴォルと言う様だ。 相談しているうちに、後ろに回した右手でリリィとヒスイに裏から出ていろと指示を出す。

 さっと気配が消えたので、伝わったのだろう。


 「まぁよい。 ここからは我々がここの調査を行う。 貴様はとっとと出て行け」

 「わかりました。 失礼します」


 そう言って、彼らの横を通り村の外へと出る。 ゴォルから見えない場所まで来てやっと森へと入る。

 リリィとヒスイも追い付いてきた。


 「なんて無礼な態度でしょう!」

 「まったくじゃ!」


 珍しく、ヒスイも怒っていた。 ゴォルとその配下の騎士団に腹を立てているようだ。


 「いいじゃないですか、彼らなら自分達よりも色々と調べてくれますよ。 1度、家に戻ってカナコさん達を待ちましょう」


 怒る2人を宥めながら、家路に着くのだった。



 原因不明の村人の失踪。

 突如現れた騎士団です。 横暴な態度を取る彼らはなぜこの村へと来たのか。

 

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