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異なる世界の空の下で  作者: 亡霊
16/17

我が家へ

 魔物の氾濫は未だに続いている中、軍による介入によってトマル港は開放されます。

 しかし、いまだに続く魔物の氾濫。 調査の為ナオトたちは緊急依頼クエストを受領し、調査へ出るのでした。

トマル港 倉庫街



 「佐々木加奈子ささきかなこ陸士長です。 本間3尉が殉職した為、伊藤3曹の指揮下に入ります」

 「分かりました。 ここではただのナオトで通っています。 これからはナオトでお願いします」

 「はっ! 了解いたしました。 それでは、私もカナコと呼ばれるのですね」

 「そうですね、カナコさんと呼ばせてもらいます」


 敬礼する佐々木陸士長に答礼を返し、迎え入れる形になった。

 同じ国出身で同じ境遇である為、ここでさようなら、と言うわけにはいかない。

 佐々木陸士長は、リリィ、ヒスイ、サーラ達獣人娘ケモノッコに自己紹介を済ませている。

 自分だけが、まだお互いに自己紹介をしていなかった為、一夜明けてやっと今しか出来なかった。

 それだけ疲れていたのである。そうして、すぐに動けるはずも無い身体を少し休めていた。


 現在の武器弾薬は、89式小銃がもっとも多く、M16アサルト・ライフルは1丁。 5.56mm弾が30発入り弾倉が20本になっていた。

 トマル港の民間人を避難させようとした際に本間3尉に返していた弾倉がまるまると残っていた。

 ホルンホルン氏の作成したと言う5.56mm弾はまだ使用可能かどうか確認していない為、予備の弾薬扱いにはしていない。

 規格が合わず暴発したりしても危険だからなのだが、ホルンホルン氏は「問題は無い!」と言って譲らなかった。

 1度街の外に出て確認する必要があると思う。 そして9mm拳銃とその弾薬の9mm弾が、弾倉が3本が残っている。

 また、73式装甲車《APC》は協会の壁に激突した為、74式車載7.62mm機関銃が壊れ使用不能になっている。

 弾薬が7.62mm弾の為、本間3尉の部下だった彼女の使用していたM24対人狙撃銃に使えるのだが、状態を確認してみるとすぐに直せそうにも無い。

 分解・結合し、どこかおかしなところはないかと念のため確認したのだが、結局はすぐに分かる事ではなかった。

 引金がまず引いても反応がない。 そのため、7.62mm弾は丸々と使えなくなっている。 念のため、弾倉には装填だけはしておき使えるようにだけはしておいた。

 そして、今はと言うと、気晴らしではあるが外の様子を確認してきてほしいとお願いし、リリィとヒスイ、サーラとその姉妹のセラとスゥの獣人娘ケモノッコたちと情報収集に出てもらっている。

 倉庫に残ったのは、これからどうするかと悩むナオトと自分の工房へ戻らないホルンホルン氏の2人だった。


 「なっ、ナオトってば! オレに任せてくれよ。 どうせおめぇさんじゃ直せないんだろ? オレの方がそういったことの知識はあんだからよ」


 そう言って、ホルンホルン氏は自分に壊れてしまった狙撃銃を見せろとしつこく迫っていた。

 自分のものではないからと断るのだが、それは聞いてくれない。 終いには73式装甲車《APC》も中を見せろと騒いでいる。


 「勝手には見せられません。 何か弄って壊したらどうするんですか?」

 「そんなヘマはしねぇ! むしろ、、壁にぶつかってたんだろ? 動いちゃいても、いつダメになるかわかんねぇじゃねぇか」


 確かに、ホルンホルン氏がいう事は正論である。 現在、補給や整備班がいないのだから、時間が経つほど、使用すればするほどに燃料も無くなりただの鉄の置物になってしまう。

 リリィの『クリーンウォーター』は汚れや、油などのそのモノを元の状態に戻しているようで、壊れてしまったモノには効果が無かった。

 錆びや故障などは直らないらしい。


 「オレなら問題ないぞ! 精密な作業にも精通してるしなっ。 調律師の資格も持ってんだが、このあたりじゃゴーレムもねぇから手持ち無沙汰なんだよ」

 「ホルンホルンさん、調律師の資格持ってるんですか!?」

 「なんだよ、持っててわりぃかよ」


 どれほどの腕を持っているかは分からないが、家で待っているゴーレムのアビーの身体を直してもらえるかもしれない。


 「ホルンホルンさん、M24対人狙撃銃と言うんですが、これを見ても良いです。 でも、お願いがあるんですが」


 そう言って、ここにはいないがゴーレムの修復をお願いすると、快く引き受けてくれた。

 こちらに連れてはこれない事を説明すると、問題無いと言う。

 しかし、すでに受け取って手元にあるM24対人狙撃銃から目が放せないらしく、目を輝かせながら角度をかえてみていた。

 机に、布を敷きその上で分解・結合をし部品ごとに分けていく。


 「問題部分は、この引金の部分だと思うのですがここは整備する専門の部署が見てくれているんです」


 そう言うと、ホルンホルン氏はすぐにその部品を持って色々と見ている。

 どこから出したか、道具を取り出して、さらに細かい部品ごとに分けていく。

 1つ1つ丁寧に確認しながら、「フムフム」と頷いていた。


 「おっし! ここだな。 ナオト、これも一回組み立ててみろよ」


 ホルンホルン氏に促され、結合しなおして元の状態にする。

 槓桿を引き、引金を引くと、ちゃんと動作したのか、カチンと撃鉄が動いた。

 これが動作不良を起こし、7.62mm弾を発射する事が出来ずにいたのだ。


 「すごい。 ありがとうございますっ!」

 「そうだろ、そうだろ」


 小さな身体には似つかない大きな果実を強調するかのように胸を張ってニコニコと笑っているホルンホルン氏。

 73式装甲車《APC》についても触らせろと言い出すが、まずはある自分で点検出来る範囲から説明し、出来る事ならその整備に必要な油や燃料などもホルンホルン氏に確認してみる事にしよう。

 

 そうしているうちに、外の様子の確認に出ていた5人が戻ってきた為、情報を確認する事にする。


 魔物の氾濫によって分断されたトマル港とニャッハの街の街道だったが、徐々に明るみになってきた状況はやはり良くは無かった。

 距離の近いニャッハの街のトマル港でさえ分断されているのに、他の都市や村への街道も同じように魔物が氾濫し、分断されていた。

 探索者協会ギルドも実力のある探索者に調査を依頼しているのだが、魔物の数が多く帰って来ない探索者も多い。

 ニャッハの街から一緒に来た探索者達も、結局はトマル港までは辿り着けていない状況であった。

 帝国軍の早馬で、ニャッハの街へと出た帝国軍の被害も大きかったらしく帰って来ていないらしい。

 また、港湾内部のどこにも船舶が無い事についても、帝国軍からの情報で判明した。

 魔物の氾濫が起きた際に、港湾内に残っていた船舶で避難を開始したらしい。 優先的に戦う術を持たない老人や子供、怪我人などを近くの港町へと避難させたそうだ。

 しかし、海上でも同じような魔物の氾濫が起きていたそうで何隻もの船が沈み、近場に唯一逃れたトマル港の民間人から現状を確認、軍の派遣となったそうだ。

 陸路からの救助が困難を極めたそうで、ニャッハの街から北へ100kmほど離れた城砦都市が魔物に囲まれており、それより先に進めなくなった。

 そこで、帝国軍海軍から高速輸送艦での少数精鋭を送り込む作戦へと切り替えたそうだ。 そのおかげでギリギリ自分達も助かったのだ。

 トマル港は、探索者協会ギルド職員にも多くの被害が出ており、生き残った一部の職員が臨時で依頼クエストを調整したりしている。

 現在も、魔物の氾濫に対する調査は緊急依頼クエストは出ており、自分達にも声は掛かっていた。


 「どうしましょうか。 正直、今は弾薬は本間3尉たちが消費していなかった為、補充は出来ましたが、疲れはまだ残っていると思います」

 「わっちとヒスイは、ご主人に従うまでじゃ」


 リリィの発言に、ヒスイは「うんうん」と頷いている。 サーラ氏やセラ氏、スゥ氏の獣人娘ケモノッコは体力も幾分か回復してはいるとの事だ。

 現在、国が事態の収束に向けて軍を動員している。

 この近隣で活動する探索者にも協力を仰ぐのも、仕方ないのかもしれない。


 「わかりました。 無理はまずしない必要があります。 サーラさん達はどうしますか?」

 「あの、もしですがナオトさん達がお邪魔ではなければ、ご一緒してよろしいですか?」


 リリィとヒスイを見るが、特に肯定でも否定でもないような表情をしている。

 佐々木陸士長も同じようだ。 獣人娘ケモノッコたちは、自分達と一緒でなければ帝国軍の案内などをするつもりがあるそうだが、慣れない軍属の人間より成り行きではあるが一緒にここまで頑張った自分達と一緒に居たいのだとサーラは語る。


 「そもそもですが、帝国軍とはどの帝国軍なのでしょう?」

 「知らねぇのか。 よし! オレが説明してやろう」


 ガイオーン帝国。

 ニャッハの街やトマル港を含めた軍事国家で、大陸中央部分を支配している。 ニャッハの街、トマル港から西に進むと首都のガイオーンがある。

 初代皇帝ガイオーンが建国した国であり、中央を巡る長い戦乱を制し、多数の国を属国とした巨大国家である。

 今もなお他国を自国領土にしようとも動いているが、帝国領土には人よりも遥かに多く能力も高い魔物が多く、領土拡大は遅々として進まない。

 元々、陸軍の強い国家だった為に当初は魔物の領域や迷宮を踏破して進軍を続けていた。 しかし、大迷宮と呼ばれる人の力では到底攻略する事が出来ないのではと言われる迷宮がその進軍を止める事になる。

 現在、なおも大迷宮によって進軍する事が出来なくなったガイオーン帝国は陸路を諦め、海上に航路を見出す。

 しかし、海洋もまた巨大な迷宮であった。 遠洋に出ると地上に出るより巨大な魔物による攻撃を受け頓挫、他国への侵略はこれにより頓挫し今に至る。

 現在の帝国は、自国の発展に力を入れており軍は治安維持、国や国民を脅かす魔物の存在に対してのみ軍は存在しているようだ。

 それが、今の自分のいる国の現状だとホルンホルン氏から聞かされた。


 「他に特筆すべきなんは、帝国軍独立軍第13騎士団の連中だな。 皇帝に絶対的な忠誠を誓ってて何でもやる連中さ」


 『ガイオーン帝国軍独立軍第13騎士団』とは、皇帝に絶対的な忠誠を誓う帝国の保有する軍の中で最強の地位を保持する軍団。

 陸、海、空三軍を独自に保有し皇帝の勅命を持って行動を起こせる。 

 特筆すべきは、13人騎士と呼ばれる騎士や魔法使いの存在で、彼らの活躍が在って今のガイオーン帝国の覇道はなったとされていた。


 「チラッと耳にしたんだが、今回のアレ、雷の魔法なんだがよ。 『ドンナーシュトゥルム』は13騎士の1人が使ったらしい。 名前は確か……コウイチロウとかなんとか」

 「わっちも聞いたぞ。 帝国軍の兵士が『異世界の勇者様』だとかなんとかってのぉ」


 どうも、リリィたちも外で情報を調べた際に聞いてきたらしい。 トマル港内ではすでに名前は広がっているらしく、英雄と呼ばれているそうだ。

 ここ最近現れた人物らしく、瞬く間に13騎士の序列に食い込んだらしく、剣技、魔法と共に能力は高いらしい。

 帝国内部では女性に人気が高いそうだ。 黒い瞳と黒い髪、長身で鍛え上げられた身体には無駄な筋肉は無く見た目も良い。

 佐々木陸士長が手を上げて発言の許可を待っていた。 「了承は必要ないので」と言うと、佐々木陸士長が口を開く。

 遠目ではあるが、今回の遠征軍の指揮所から出てきたその、コウイチロウと呼ばれるその人らしき人物が見えたらしい。

 やはり、日本人のようであったそうだ。 黒髪で、帝国軍の赤い軍服を身に纏い、腰には長剣を携えていた。

 部下なのだろうか、すぐに女性数名を連れてトマル港内へと消えていったと言う。

 

 「カナコさんとしては、どう思う?」

 「はっ! 見たところ強制されているようには見えませんでしたし、帝国軍の兵士にも何者かと聞いたのですが、『異世界の勇者様』と言う情報以外が手に入りませんでした」

 「わかりました。 彼のことはいますぐどうにか出来ないようですね。一旦保留にします」


 探索者協会ギルドからは、緊急依頼クエストは各地の魔物の氾濫の調査とだけ大きく掲載されていて、それに参加する。

 実際、魔物の氾濫については帝国領内でも東部地方で発生しており情報がまったく少ない。

 また、原因が判明しなければこの氾濫自体も一過性のものなのか、慢性的に継続されるものなのかも分からない。

 それをなんとか把握する必要があるという事だった。 特にもう2カ月もすると帝国領内が雨季に入る為それまでにはなんとかしたいと考えているよだ。

 トマル港にも徐々に東部への支援物資が届き始めていた。 噂では、ニャッハの街もゴブリンやオーク、ミノタウロスなどの魔物の群が街中へと侵入していたがコウイチロウたち『異世界の勇者』の活躍によって大事には至らなかったそうだ。

 ニャッハの街からさらに東へと進むと小さな町や砦、村落などはあるそうでさらには迷宮も多数控えている。

 自分達がまず出来る事をやっていくしかないと考えた。 もう関わってしまったのだから、今更放っておく事が自分には出来なかった。

 そのため、やれる事をやっていこう。 そうすれば、何かが見えてくるのでは、と考えたのだ。


 陽が昇り、トマル港の外へと73式装甲車《APC》にすぐには使わない食料や、日用雑貨などのすぐに使用する物以外はリリィの魔法のポシェットに入れて出る。

 手元にあった資金では、7人分の食料など1週間分はなんとか手に入った。 それ以上はトマル港に駐屯している帝国軍の補給なども必要との事で断られてしまう。

 また改めて来てくれと、どの店でも断られてしまったのだ。 海洋の魔物の氾濫は落ち着いてきたらしいのだが、まだ船舶への襲撃が減ったわけではないらしい。

 

 探索者協会ギルドへと寄り、魔力が十分に溜まった魔石を返却する。 魔物の氾濫で魔力が溜まりやすくなっており、纏まったお金が手に入った。

 新たに魔石を借り受け、緊急任務クエストの手続きをしようとするとトマル港の調査依頼クエストの成功という事で実績を積んだと判断され、階級も上がった。

 探索者証ギルドカードの階級が2つ上がったようだ。 銅の2級となったようだ。 これだけの危険を冒してもなおこれだけしか上がっていない。 そう言う取り決めだというから仕方ない。

 3日後、ようやく準備を整え、トマル港を出発する日が来た。 獣人娘ケモノッコ達も実家が焼け落ちており、両親の火葬を済ませたのだそうだ。 共同墓地へ1度手を合わせにいった。

 73式装甲車《APC》の操縦手は、どうするか悩んだがヒスイに任せることにした。 本人もやりたがっていたので喜んでくれた。

 操縦できるのが、自分とヒスイの2人だったため、ローテーションを組んで進む事にした。

 サーラは今回は車長席へと座ってもらい、外の様子を伺ってもらう。 

 いよいよと出発の前に、1度コウイチロウという人物に会えないかと考え傍に居た兵士にアポをとってもらおうと思ったのだが軍と共に行動はせず、仲間とともにニャッハの街へとすでに発った後だった。

 同じ日本からきた可能性が高いのだから、何か話が聞けるかもしれないし、万が一助けを求めるなら合流するなど出来ないかとも考えたのだ。

 今の自衛隊としての力はまったくないが、例えば保護を求めるとして何かしら手をうてるのならばと心の隅においておく。

 こうも元いた世界から転移してきている人が居るのなら、まだいる可能性もあるのだ。 まだいる可能性も捨てられない。

 今は何も出来ない状況がもどかしいが仕方ない。

 緊急依頼クエストではトマル港より南にある村落の調査ともあり、そちらの方へは探索者もあまり好んで調査に出ていないらしい。

 街道からはそれてしまっていて、不整地が多いからだとも言われている。 そちらへ進めば、我が家があるのだ。 当初の目的地として、まずは我が家に寄らせてもらう事にした。

 ホルンホルン氏も快諾してくれた為、家で待ってくれているアビーの身体を治してもらいたいのだとみなに説明すると賛同してくれた。

 そのホルンホルン氏なのだが、鍛冶屋はどうするのだと聞くと「弟子に譲った」とあっさり言うと73式装甲車《APC》の後部隊員室へと潜り込み、12.7mm重機関銃M2の銃手席へと移っていた。

 椅子を一番上にして立つが、外にいる自分からは頭がひょっこりと出ているだけで、12.7mm重機関銃M2のトリガーなどには手が届いてないようだ。


 「ホルンホルンさんっ! 危ないので、絶対にそれは触らないで下さい!」

 「わーってるってば! いちいち煩いぞ、ナオトよ!」

 「カナコさんっ、銃手は任せます」

 「了解っ! ホルンホルンさん、変わりすね」


 見えていた頭が車内に消えると、続いて佐々木士長の姿が現れる。 12.7mm重機関銃M2の弾薬が、62発しか残っておらず手にはM24対人狙撃銃を持って警戒に付いた。

 ホルンホルン氏の行動には、ちょっと行き過ぎた感もあり額に手を当ててまいったなと思う。 しかし、ホルンホルン氏も悪気があるわけではないのだからしょうがない。

 リリィ、ナオト、獣人娘ケモノッコのセラとスゥの4人が外に出て73式装甲車《APC》に随伴して道の状況を確認しながら進んでいく。 街道を南に進むと整備されておらず道幅も狭くなってきた。

 森の中を進んでおり、ゴブリンが数体現れるが、89式小銃が火を噴くことは無く、リリィやセラ、スゥによって排除されていく。


 しばらく森の中の街道を進んでいると、ホルンホルン氏が73式装甲車《APC》から降りてくる。

 手には、ホルンホルン氏が作ったという銃と5.56mm弾の弾倉を持っている。


 「なっ、せっかくだしよ。 これも使ってみて意見をくれんかな?」


 規格は合わせてあるし、実際に射撃する事は成功しているという。

 ここ最近出発する準備をしている時に、飛距離が伸びないという銃の対策として、銃身の内部に腔綫を付ける事で銃弾に回転が加えられ、安定しますと説明するとすぐに改良を済ませたというのだ。

 実戦に出すには、今しかないと言って聞かない。


 ボルトアクションタイプのライフルのようだ。 四四式騎銃という昔の日本軍で使われていた銃に似ている。

 弾倉に6発、薬室に1発の計7発を最大装填出来るようだ。 木でできた銃床は、64式小銃を思い出させるが、89式小銃とさほど変わらない重さに思えた。

 迷宮内部でも取り回しがしやすいような設計らしい。 そうすると、またゴブリンの集団が現れた。

 使った事は無いのだが、銃の基本とは何も変わらなく、銃床を肩に当て、ゴブリンの1匹に狙いを付ける。 距離は50mほど先で、ゴブリンの脚力ではすぐに詰められてしまう。

 タン、タン、タンと続けて狙いを変えながら射撃を続けると、狙いを付けたゴブリンにすべて命中し3体を倒す。 ボルトアクションライフルの為、1発1発ごとに槓桿を引き、弾を薬室へと送り込む。

 引金を引くという動作は必要であり、連射性には優れていないがこれでも十二分に使用が可能だった。

 反動も少なく、女性にも仕えるのではないかと思いつく。 探索者には女性も多いから、人気が出るかなと考える。

 弾倉に残っていた4発も全て使用、7体のゴブリンを倒すことが出来た。 威力についてもゴブリンには問題なさそうだった。


 「これは、思っていた以上です」

 「そうだろー? ナオトのおかげだなっ! 威力もイマイチだったし飛距離も伸びなかったのに、腔綫を付けたら弾に回転が掛かって向上したんだからよ。 今までの魔物の討伐もきっとかわるぜ」


 武器として出回るのは、正直怖い事だと思う。 武器が人を殺すのではなく、それを使う人が人を殺すのだ。

 遅かれ早かれ、銃という武器はこの世界でもう開発されていたのだから、それをどう使うかもこの世界の人間次第なのだろう。


 「して、この銃の名前はどうする?」

 「えっ? これはホルンホルンさんが作ったのですから、名前を付けるのはホルンホルンさんでは?」

 「完成させたのは、ナオトのおかげでもあるんだ。 一緒に考えようぜ。 うーん、ナオト銃ってのはイマイチ語呂がわりぃな」


 丁寧にお断りしておいた。 帝国暦213年という事らしく、13式騎兵銃という名前で落ち着いた。


 「あとは、まだ数も揃ってはないしなぁ。 今回の実戦で結果を見てって考えてたんだ。 ナオトがしばらく使ってくれねぇかな。 色々意見がほしいからよ」

 「わかりました。 お預かりします」


 壊しても直してやるぞとホルンホルン氏は言う。 それならばと使う事にしたのだ。

 続けて使用、ホルンホルン氏の作った5.56mm弾も問題なく使える事から空いていた89式小銃の弾倉へも装填し予備を作成。

 すべてを弾倉へは込めずに、何かあった時の為にと魔法のポシェットへと保管しておく事にした。


 陽も傾き始めた頃、ゴブリンの散発的な襲撃もあったが、誰一人として欠ける事なく森の中を進んでいた。

 2度ほど、破壊された荷馬車や散乱した荷物があったが遺体などは無く、使えそうな物などもない。

 ただ、調査上報告するべきだと考え、なんでもいいから記録を取って置く。

 73式装甲車《APC》にはたいした邪魔ではないが、他の馬車などが通るには困るので街道の脇へと避けておく。

 道はどんどん険しくなっていくが、73式装甲車《APC》は元々そういった場所を通る為に履帯での走行なのだ。

 まったく問題はなかった。


 「ナオトのお家はどこにあるの?」


 スゥがそう質問すると、どう回答するか悩む。 セラも興味があるようで、こちらへ視線を向けていた。 迷宮と言うべきか否か。 実際、探索者は迷宮に潜って宝を手に入れたり魔物を狩って素材を手に入れたりしているのだ。

 迷宮を持つ探索者もいるそうだが、自分達のような新人が持っていると言うのも変かなと考え、「街や集落とかから離れて住んでるんです」とだけ答えていた。

 リリィが家を出る時に言っていたことを思い出す。 森の中に目印は無いから、これだけが実は頼りだった。

 『家に帰りる』という気持ちだった。 すると、しばらく進むと迷宮の入り口の洞窟に辿り着いた。

 家を出た時より出入り口が広がったように思える。 最初は人が出入りする程度の広さの出入り口だったと思うのだが、現在の洞窟の出入り口を見ると73式装甲車《APC》が中に入るには十分な広さになっていたからだ。

 壁や天井に接触しないように、ヒスイの操縦で佐々木士長が誘導する。 サーラ達獣人娘ケモノッコは、それを傍でポカンとした表情で見ていた。


 「リリィ、あれってどう思います?」

 「ご主人に合わせて、迷宮の形が変わったんじゃないかの」


 迷宮の主人になる人物や魔物に合わせて、迷宮が変化するのは普通なんだそうだ。

 迷宮の出入り口に見た事のある魔方陣が展開されている事に気が付いた。

 自分が手を触れると、魔法陣が輝き、光に包まれる。


 「なっ、転移陣だと!?」


 視界が光に染まった時、ホルンホルン氏の疑問の声があがり、やっと目が慣れるとそこは家を探索した時に見つけた格納庫の様な場所に全員が辿り着いていた。

 自分とリリィ、そして自分の記憶を持ったヒスイだけが動揺はしていない。 他のメンバーは動揺していて、安心してもらうように声を掛ける。

 リリィに視線を送ると、頷いてくれた。 自分の考えに賛同してくれているようだ。

 魔方陣の上から、73式装甲車《APC》を格納庫の隅へと誘導し、停車させる。


 「ここは自分とリリィの家です。 ようこそ」


 そう言って、扉を開けて中へと促す。 まずは、食事をする部屋へと案内する事にしようと思い中へ案内する。

 戻ってきて変わった事と言えば、客室が増えていた事と、工房が完成していた事だ。

 ホルンホルン氏が目を輝かせて中を見ており、大喜びしている。

 サーラとセラ、スゥの獣人娘ケモノッコの3人は、客室の中でも広い部屋を使わせてもらうという。

 佐々木士長も1人用の部屋を借りた。 各自が荷物を置いて、早速食堂へと集まる用にヒスイに頼む。

 リリィと2人でゴーレムのアビーを会いに行く。 部屋に入ると、ピンクを基調にした可愛い部屋のベッドにアビーはいた。

 欠損していて、痛々しい姿を晒している。


 「ごめんなさい。 アビー、待たせてしまいましたね」

 「イイエ、オ帰リナサイ。 ゴ主人様」

 「アビーよ、とても腕の良い調律師を連れてきたのじゃ。 早く直してもらおうのぉ」

 「アリガトウゴザイマス」


 アビーを連れて、3人で食堂へと向かう。 部屋に入ると、皆集まっていた。

 ホルンホルン氏は席から立ち上がると、アビーをマジマジと観察を始める。

 「これならオレがバッチリと直してやるよ」とホルンホルン氏は胸を張って答えた。

 良かったと安堵のため息が出る。 リリィも同じ想いだったようだ。

 アビーの表情が嬉しそうに変わった。 良かったと思っていると、誰かのお腹がグーッと鳴り笑いが起こる。

 早速料理に取り掛かろうと台所へと向かう。 ヒスイも付いてきてくれた。 自分が作れるものといえば、あまりレパートリーは多くないが美味しい物を作ろうと思い台所へと立つのだった。


 新たな日本人の存在が現れ、それが『異世界の勇者』と呼ばれている事に驚くナオトです。

 すれ違ってしまいましたが、どうするべきかと悩みますが今出来ることをする為に調査へと出ました。

 新たな仲間を引き連れて我が家へと帰り着きます。


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