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異なる世界の空の下で  作者: 亡霊
10/17

探索者協会《ギルド》3

 第10話登校しました。

 協会へと向かったナオトとリリィ。

 アメリア氏に教わりながら魔法の練習を始めます。

ニャッハの街 探索者協会ギルド


 ニャッハの街に唯一ある探索者協会ギルドへと足を運ぶのは2度目である。

 1度目は、真実の水晶を壊してしまったからという事で呼ばれ、色々と雑談程度だと思うが話をした。

 探索者か、探索者協会職員ギルドオフィサーにならないかとも誘われたが、正直、少し悩んでもいる。

 迷宮、リリィと一緒に屋敷に帰るのだが、ずっと篭っているわけにもいかない。 そして、外、この世界がどんなところなのかも知りたいという気持ちもある。

 今日は、昨日拾得物として預けた探索者証ギルドカードと魔石の件と、アメリア氏から魔法を習うことになった。

 アメリア氏は、すれ違う職員には気さくに声をかけておりこのニャッハの街の探索者協会ギルドの結束が固い事を暗に示しているのだろうか。

 

 入ってすぐ世界樹の像を通り過ぎ、受付へと向かう。 今日は男性職員が対応していた。


 「お疲れ様、アメリア。 今日は、非番だろう? どうした?」

 「ちょっとね、訓練場を借りてもいい? 空いてるかな?」


 ちょうど魔法の訓練をする為の訓練場が空いているそうで、協会内にある中庭に訓練施設があると言う。 そこへと早速そちらへ案内された。

 かなりの広さを持っているようで、

 リリィから習ったようにアメリア氏からも魔法を教えてもらうことになったが、アメリア氏は魔法の中でも風の魔法を得意としているそうだ。

 風の刃を飛ばす『ウインドカッター』、刃が通りにくい魔物には鈍器のように殴りつける『ウインドハンマー』、風を起こして周囲に壁を作り出し身を守る『ウインドウォール』の3つを使いこなすと言う。

 

 魔力を込める量によって範囲や威力を変えられる。 魔力の量について範囲や威力が変わる事についてはどの魔法についても言えることだそうだ。

 

 「まぁ、あとは論より実践ですね。 魔法というものはある意味イメージの力でもあります。 何も無い場所に生み出すのですから、『ウインドカッター』であれば薄く平たい刃をイメージしてそれを目標に向けて飛ばす! と言ったようにですかね」

 「イメージですか」

 「そうです。 私達職員にはこの杖を支給されておりこれを魔法の媒体にも使っているのですが、見ていてください」


 アメリア氏は、腰から下げていた短い杖を取り出すと、それを右手で持って構えた。

 訓練場には50mほど先に用意された的があり、それに正対して立つ。


 「切り裂け、『ウインドカッター』!!」


 アメリア氏の言葉で、何も無かった場所に風の刃が現れる。 こちらからは平たく見えどれほどの大きさになっているかまでは見えない。

 薄く引き伸ばされた『ウインドカッター』はまっすぐに進み、的を両断した。 目標としていた的に命中したからか消えてしまった。

 どういう風に発動するのか集中して見ていたのだが、『ウインドカッター』が唱えられてから周囲にあった魔素に動きがあった。

 アメリア氏の持つ短い杖に魔素が集まりだし、杖を振ると1mほど離れた場所に風の刃が現れたのだ。

 もう1つ、疑問があった。 リリィは呪文を唱えていない。 詠唱も特にしておらず『ファイアーボール』を使用していた。

 リリィを見ると、何か考え込んでいるようだ。 隣に立っていたので、小声で話しかける。


 「リリィ、『ファイアボール』は何も唱えていませんでしたよね?」

 「う、うむ。 わっちは爺様からそのように習ったのじゃが。 色々と変わってしまったようじゃの」


 振り返って、「どうです?」と言わんばかりの笑顔のアメリア氏である。

 あれを唱えないと魔法は使えないのだろうか。


 「あの、今の、名前を叫ばないと魔法は使えないのですか?」

 「えっ?! そうですね、何を自分で使うか分からないといけませんし、皆と一緒に戦う時は必要ですよ」


 周囲に何を使うか周知している意味もあったらしい。 なるほど、と納得するがちょっと恥ずかしいと思う気持ちもある。

 リリィもそう感じているらしい。 「確かにの」とブツブツと呟いている。


 「たとえば、唱えないで魔法を使う事も出来るのですか?」

 「詠唱無しという事ですね。 過去には居たそうで、出来る人は限られていたと聞いています。 普通、魔法を使う場合はその魔法の名前を唱える事で使えます」

 「では、使えるという事ですか?」

 「うーん、もしかしてリリィさんは詠唱無しで魔法を発動出来るのでしょうか?」


 「わっちも出来んの」とリリィは言う。 内緒にするほどの事なのかとも考えたのだが、今は黙っているとリリィは考えたのだ。

 自分もリリィに習い、何も言わないことにする。


 「わかりました。 それでは、自分も魔法の練習をしてみたいと思うのですが」

 「使いたい魔法をイメージしてください。 この魔法を使うんだというイメージです」


 自分は、アメリア氏の様な杖を持っているわけではないので、右手を前へと突き出す。 手の平を目標である的へと向けて構えた。

 50mほど先の的を切り裂くような薄く平たい刃をイメージする。 何物も切り裂く薄く鋭利な刃だ。 どんな防御さえも切り裂く風の刃を想像する。

 周囲にあった魔素が自分の方へと集まると、身体の中へと流れ込んでくる。 風がスゥッと入ってくるような感じだ。

 『ファイアボール』のときは暖かかったが、『ウインドカッター』だと涼しい風に感じる。 ここまでは『ファイアボール』を教えてもらった時と一緒だ。

 いよいよ、初めて魔法が使えるかもしれない。 期待に胸が膨らむ。


 「切り裂けっ! 『ウインドカッター』」


 1秒、2秒、時間だけが過ぎていく。 確かアメリア氏が唱えた時は2秒ほどで風の刃が生み出され、的を両断していた。

 リリィは、散々一緒に『ファイアボール』を練習したからか、さほど驚いてはいないようだ。

 アメリア氏は「あれっ?」と首を傾げている。

 今自分に集まった魔力は消えたわけではないようだ。 確かに、身体にあるような気がするのだが、それが『ウインドカッター』とならない。


 「おかしいですね、暴発するならとっくにしていますし。 うーん、もう一度やってみましょう!」


 アメリア氏に促され、今度は左腕を正面に突き出し構える。 手の平は的に向けている。

 同じように、風の刃をイメージしていく。 先ほどよりもより鮮明に刃をイメージする。

 何かないかと考え、カッターの替刃をイメージした。 ナイフといういうよりこちらをイメージしたほうがそれっぽいのだ。

 名前も『ウインドカッター』である。


 「切り裂けっ! 『ウインドカッター』!」


 的は両断されることもなく、その場から動かない。 気まずい沈黙が流れているが、元々使えないのだ。

 気にしないことにしよう、気にしても使えないのだから仕方ない。


 「『ウインドカッター』が難しいのなら、『ウインドハンマー』もやってみましょう!」


 アメリア氏が気を使ってくれたのか、残る『ウインドハンマー』、『ウインドウォール』を立て続けに教えてくれたのだが、やはりどれもダメだった。


 「ナオトさん、これを使ってみてくれませんか?」


 アメリア氏はそう言うと、腰から下げていた杖を自分の方へと差し出していた。

 壊しては大変だと1度断るが、「簡単には壊れません」というアメリア氏に強引に持たされる。


 「切り裂け、『ウインドカッター』」


 しかし、結果は惨敗である。 どうやっても魔法は発動しなかった。 身体の中には魔力があるのは自分でも分かるのだが、あるだけなのだ。

 それ以上、それ以下でもない。 リリィに試しに『ウインドカッター』が使えるかと試してもらうと、簡単に風の刃を生み出し習得していた。

 しかも、切断面が綺麗にまっすぐ切れたせいか、的がすぐに両断されなかった。 アメリア氏が確認する為、的に触れてから真っ二つになったのだ。


 「の、のぅ、ご主人よ。 魔法だけが戦う道じゃないからの?」

 「そうです、魔法だけではないんです。 ナオトさんは何を武器は使っているのですか?」


 自分の武器と聞いて、89式小銃が思い浮かぶがアメリア氏に見せるかどうかは躊躇する。

 この世界に同じような武器があれば良い。 でも、無い物だとしたらこれを使っている事で何かしら弊害があるとどうなる。

 魔物を倒すことだけに使われるかどうかも分からない。 最悪、人同士の戦争にも当たり前のように使われるかもしれない。

 商隊を助けた時もなるべく使っているのを見せないようにして行動していたのだから、ここでも出すべきでは無いかもと考えた。


 「この、短いナイフが自分の武器です。 リリィがほとんど魔物は倒してくれるんです」


 情けないが、リリィがすごいという事にしておく。 鍛冶屋のゼスト氏にも目を付けられているのだが上手く誤魔化さねばならない。


 「あれ? ナイフだけでしたか?」


 アメリア氏は何か知っているのか、怪訝な表情で自分を見ている。


 「探索者協会職員ギルドオフィサーですし、個人の持つ武器にあれこれと指図するわけでは無いのですが、あまり危険な武器という事なら承服いたしかねます」

 「いえ、本当にこれだけなんです、ね、リリィ」

 「うむ。 わっちがほとんど倒していくのじゃ。 わっちはご主人のしもべじゃからの」

 「ナオトさん、リリィさん2人は探索者ではありませんし深くは追求しません。 でも、何かあった時には協力したくても出来ませんよ」


 アメリア氏は、自分達の事を心配してくれているようだ。 少し、情報を集めてみるのもいいかもしれない。


 「あの、アメリアさん。 探索者や国の軍隊で遠くの敵を魔法ではない武器で倒せますか?」

 「魔法ではないとすると、弓矢やスリングショットでしょうか」

 「小さな弾を飛ばすスリングショットと近いかもしれないんですが、小さな弾を飛ばして倒す武器とか見たこと聞いたことは?」

 「ナオトさんの言っている武器に興味はあるね」


 『銃』と言う単語を極力出さない質問を考えるが、上手く出てこない。

 うーんと唸るアメリア氏であるが、思いがけない場所から声を掛けられた。

 振り返ると、そこにいたのは自分より頭1つ分ほど高く、スラリと伸びた身長、猫のような顔立ちだがそのスタイルから豹やチーターを思い出す。

 緑の色を基調とした探索者協会職員ギルドオフィサーの制服に身を包んだ女性がいた。 名前はアデリーナ氏であった。

 見えている箇所なら、魔力の動きである程度魔物やトラップは分かるのだが、死角になるとまだ分からない。 

 そこから近づいていたようだ。


 「アデリーナ1等武官っ!」


 敬礼の姿をとるアメリア氏である。 自分も直立不動の姿勢を取っていた。 やはりこの空気は慣れ親しんだ空気だ。

 リリィも傍で自分を真似して気をつけの姿勢を取っている。


 「非番だろう、アメリア。 君達も何も畏まらんでくれ。 客人なのだよ」

 「ありがとうございます!」


 アデリーナ氏はそう言うが、やはり身体に染み付いたことは簡単にはなくならない。

 休めの姿勢をつい取ってしまっていた。


 「ガルボから聞いてね、魔法の練習をしていると聞いてきたんだが、ナオトさんの言う武器も気になるが、もう一度魔法の練習をして見ないか?」

 「アデリーナさん、自分には魔法の才能が無い様なんです。 先ほどからアメリアさんに習っていたのですが全然使えそうにありません」

 「アメリア、杖も使わせてみたのか?」


 アデリーナ氏の問いに頷いてみせるアメリア氏。 何を思いついたのか、ポケットからあるものを取り出した。

 小さな透き通った石を取り出した。 ひし形の形をしたソレは魔石だった。


 「これは、ナオトさんが迷宮から持ち帰ってくれたギルド支給の魔石だ。 魔素が溜まっていてね。 どうも、変質しているようだ」

 「変質、ですか?」

 「うん、稀にあるのさ。 支給している魔石に過剰に魔力が溜まる事があって、元々はEランクの魔石が高ランクに変わる事がある」


 しかし、それが自分に関係するのかが良く分からない。 その話と魔法の練習の話に何が関係あるのだろうか。


 「返納してもらった魔石のうち、キミから直接受け取ったこの魔石だけが変質している。 そして、通常魔力は専門の道具で取り出せるのだがこれだけはロックが掛かっているかのように取り出せない」

 「えっ?! しかし自分は何もしていません。 本当になくなっていたアイリーンさんの持っていた魔石だという事しかわかりません」

 「専門家の話だと、持っていた者に1度渡してみてはというんで、ついでに持ってきたんだ。 これを使って魔法が使えるんじゃないかな?」


 魔石は、魔素を取り込み魔力に変換する。 探索者に支給された魔石からさらに高いランクの魔石に移し変え、それをまた別の高いランクのものに移し変える作業がある。

 その作業が、自分が唯一持っていた魔石だけが出来なくなっていた。 高ランクの魔石に変質していたとしてもそのランクより上の魔石の容量であれば移しかえれる。

 それがまったく出来なくなっている。 そうるすと、ナオトが何かしらしたのではないかという事になった。


 「魔力を取り出したせいで魔石が壊れるという事は私も聞いた事は無い。 安心して使いたまえ」


 そう言うとアデリーナ氏は自分の手を取って魔石を握らせた。


 「迷宮に潜ると、不測の事態に見舞われる。 この魔石に溜まった魔力は魔法として発動させる事に使う事には専門の道具は要らない。 握って使いたい魔法を唱える」


 「それだけさ」と言って、アデリーナ氏は先を促す。 自分に、この魔石の魔力を使えと言っているのだ。

 空になった魔石は魔素を吸収し、魔力へと変換、また溜め直せるからだろうか。

 ずっと黙っていたアメリア氏も何も言わず、見守っているようだ。 リリィも自分をジッと見つめていた。


 「いいね、まずは魔石の魔力を取り出すイメージを持つ。 そして、使いたい魔法のイメージを創り出すんだ」


 アデリーナ氏の声に導かれるようにして、魔石を左手に持つ。 握ってどこかに落ちないように、右手は同じように的へと突き出し手の平を向ける。

 周囲の魔素には変化は見られない。 魔石に集中しているからか、魔石の中から何かが出ようとしていた。 魔力なのだろうか、何か違う気がする。

 今使う魔法は、ずっとイメージしていた魔法である『ウインドカッター』だと思った。

 

  「切り裂けっ! 『ウインドカッター』」


 魔石から魔力が溢れる。 目の前には風の刃が生まれ、目標となる的へと飛んでいく。

 そう自分はイメージしたのだが、魔力が自分の目の前に集まりだす。 魔素も共鳴したかのように周囲から集まりだした。

 何事かと、自分を含めた4人は見守るしかなったのだ。 他の3人にも見えていないのか、リリィは自分を見ているし、アメリア氏は両断されただろう的へと視線を移す。

 アデリーナ氏は腰に下げた杖に手を伸ばしていた。 不測の事態に対処しようとしてくれている。

 

 ただ、風だけがこの場に吹いていた。 魔力の流れが止まり、目の前に集まっている。

 自分以外の誰にも見えないそれは、少しずつ人の形を取っていく。

 一瞬、自分の頭に何かが語りかけていったような気がした。

 その人型は、姿形がはっきりとしてきた。

 その人型が少女の形をして初めて、リリィ、アメリア氏、アデリーナ氏がそれに気が付いたのだ。


 「おはようございます、我がマスター


 閉じられた瞳がうっすらと開く。 翡翠色をした瞳がチラリと見えるが糸目と言うのか閉じてしまった。

 瞳と同じ色をした長い髪は、腰のあたりまで伸びている。でも、こちらを見ていると言うことが分かる。 口元も少し口角が上がり微笑んでいるようだ。

 耳は長く尖っており、物語ではエルフとかをイメージすると分かりやすいかもしれない。

 身長は、リリィよりさらに頭1つ分は低く、130cmほどだろうか。 身長に合わせて体格も華奢に見える。


 「呼ばれるのをお待ちいたしておりました。 なんなりとご命令を」

 「はっ!? いかんいかん! 誰じゃお主! ご主人はわっちのご主人じゃぞ?!」


 自分の前に片膝を付いてしゃがむと頭を下げる。 その少女と自分の間にリリィが割って入り少女に対して指を刺して牽制している。 

 リリィをそっと横に避けると、一糸纏わぬ少女に自分の着ていた迷彩服の上衣を肩からかける。


 「あの、君はいったい誰でしょうか?」

 「我がマスター、私にはまだ名前はありません。 あなた様の望むように望むままに御呼び下さい」


 この魔石から現れた少女もまた名前が無いようだ。 リリィと同じく自分が名前を付けなければいけないようだ。

 少女の見た目からどうしようかと思い出す。 今は閉じられているような糸目だが見開いたときに見えた翡翠色をした瞳が印象的だった。

 髪も同じ色であるし、この名前しかないと思う。 自分も覚えやすい。


 「君の名前は、翡翠、そう。 ヒスイです」

 「ヒスイ、ですか? ヒスイ。 それが私の名前!」


 ヒスイの周りに風が集まると、フワッと周囲に広がった。 強くも無く、弱くも無く優しい頬を撫でる風だった。

 アデリーナ氏の咳払いで我に返る。 リリィも後ろで膨れっ面をしていた。


 「ヒスイよ、序列ではわっちが上じゃ」

 「はい、リリィお姉様。 宜しくお願いいたします」

 「ナオトさん、魔石がどうなった?」


 アデリーナ氏に言われて気が付いた。 魔石は手元にはもう残っていない。

 手の平をアデリーナ氏へ向けて無い事を確かめてもらう。


 「ふむ、魔力が溜まった魔石、変質、魔力を使用、少女が生まれる?」

 「アデリーナ1等武官、よろしいでしょうか? 発言の許可を」

 「許可する。 何か知っているのか?」

 「はい。 物語です、あの御伽噺なのですが……」


 小さな頃に親に聞かせてもらった御伽噺の1つに、魔石から生まれる精霊を友とし仲間として、悪しき影を振り払うという物語。

 眠る前に聞かせてもらった物語だそうだ。


 悪しき影が世界を闇に包むとき、一筋の光が現れる。

 それは、精霊とともに闇と戦い、光で世界を満たす。


 「うろ覚えなものですから、今の今まで忘れていました。 でも、精霊がこうやって出てくるなんて御伽噺みたいです」

 「精霊は、普通はいないものなのですか?」


 魔法の属性と同じ数だけ精霊は存在している。 人や獣人も魔法を使うが、魔力が無ければ使うことは出来ない。

 身体に蓄えた魔力を使うのだが、武器や道具に魔力を移したり、魔石から取り出して使用したりすることしか出来ない。

 しかし、精霊は、空気中にある魔素から魔力へと変換し使用する事が出来る。 属性に特化した魔法しか使うことが出来ないが魔素があればいくらでも魔法を使うことが出来る。


 「あの我がマスター、実はですが、私も魔法が使えないのですが我がマスターも使えないのでしょうか?」

 「えっ、あ、はい。 使えません」

 「そうなんですね、良かった。 一緒です」


 となぜか顔を赤らめ「ポッ」と口で言いながら両手で頬を包み込んでいた。

 仕草にかわいいと思ってしまうのは、それもこれも仕事のせいもある。 生まれてこの方女性と現状のように関わってこれなかったから余計にそう見えてしまうのかもしれない。

 つい、頭を撫でてやるのだが、そのまま照れているようだ。 リリィもジッと見てくるので空いた方の手で同じく撫でてやる。

 リリィの毛はサラサラと表現するなら、ヒスイの毛はフワフワだろう。 髪もその質感のせいかふわりと広がっている。


 「アメリア、私も確かに精霊の御伽噺は知っているが、実際にいた、という記録は無いのだ。 違う何かの可能性は無いのか? 現に魔法は使えないそうだ」

 「分かりません。 詳しく調べてみる必要はありますが、いかがしましょう?」


 考えてみるが、実際に彼女が何か害のあるものには見えない。 直感がそう告げている。

 何も害が無いのなら、調べるなんて必要は無いのではなかろうか。


 「いえ、自分で調べてみようかと思うのです。 でも、お預かりした魔石でこのようになってしまいましたし、協会が魔石を管理していると言うのならヒスイは協会のものでしょうか?」

 「いや、ナオトさん。 先ほどの魔石は、キミが拾い、届けてくれた。 魔石に魔力が溜まったのも変質したのもキミの何かが原因だと思う」


 その為、協会では使用できなくなってしまった事から魔石は自分が買い取った形になると言う。 用はお払い箱である。

 その代わり、魔石の紛失、盗難、破損は協会へ一定の金額で返済しなければならない。


 「それが、金貨1枚だ。 保証金はもらっていないし、君は探索者でもないから探索者の保障も使えん」


 家で待つアビーからはお金はもらっているが、これは家の必要なものを購入する為のお金だ。

 リリィに相談するべきだと思い、リリィを呼ぶ。 未だにヒスイと何か話していたようだが、内容はなんだったのだろう。


 「リリィ、ヒスイを呼び出した魔石は買取になりました。 金貨が1枚です。 財布にはありますが、それは家のみんなのものと考えます」


 先を促すように、静かに聞いているリリィ、そして、傍に控えるように立つヒスイであるを見る。 彼女も同じように待っているようだ。


 「探索者になろうと思います。 それでお金を貯めて返済しようと思います」

 「我がマスター! 嬉しいです」


 「ポッ」と頬に手を添えるヒスイと、それを真似してリリィも同じポーズを取っていた。

 どのみち、探索者として登録もしようと考えていた。 遅かれ早かれこうはなっていたのだ。


 「意見は纏まったのかね?」

 「はいっ! 探索者に登録し、金貨1枚を返済しようと思います!」

 「よろしい。 アデリーナ1等武官がそれを承認しよう。 必要な手続きをしようではないか。 アメリア3等武官、悪いが休日出勤を頼もう。 キミと私の2人で彼を探索者としてこの場で承認する」


 背筋を真っ直ぐに但し、アメリア氏はアデリーナ氏へ敬礼する。 

 探索者になるには、書類と2人以上の探索者協会職員ギルドオフィサーが必要で、職員2人の承認をもって探索者として活動することが出来る。

 そして、探索者になった証として探索者証ギルドカードを交付されるのだ。


 「それでは、受付に行こうか。 ナオトさんだけかな?」


 リリィとヒスイも同じく登録すると言う。 自分だけでもいいと言ったのだが、しもべであるから傍を離れないと言って聞かない。

 探索者証ギルドカードもあって損は無いとアメリア氏もアデリーナ氏も言っていたから、一緒に登録することにしよう。


 「それでは、着いてきたまえ。 案内しよう。 それと、ヒスイさんに服を用意しなければな」

 「すみません、助かります。 協会の外に買いにどうやっていこうかと考えてましたから」


 アデリーナ氏とアメリア氏の後について、自分とリリィ、ヒスイの3人一緒に探索者協会ギルド受付へと向かうのだった。

 

 

 また新たな仲間の登場です。

 魔石から生まれた精霊のヒスイ、彼女がナオトの元に来たことで

 探索者への道へと進みます。

 これからどうなっていくのか、また次回も読んでいいただけたら嬉しいです。

 ご意見。ご感想をお待ちいたしております。


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