プロローグ
男が森を全力疾走していた
黒い生地のスーツのようなものを着て
手にはハンドガンが握られている。
額からは滝のように汗が流れおち
顔には憔悴した表情をしていた。
「はぁはぁはぁ、なんだよあれ!」
ストレスからか唇を強く噛み
端から血が流れている。
男は数人の仲間とともに少し前まで年端にもいかない少年を追いかけていた。
最初は楽な依頼だと思い、まともな準備さえせずに計画に移したのだが、
仲間と共に少年を囲み麻袋でつかまえようとした時に異変が起こった。
少年が消えたのだ。
すると端のほうで見ていた男の首が千切れとんだ。
その横には姿を消したはずの少年が、蹴りを放ったかのような格好で立っているではないか、
仲間の突然の死に反応できたのは軍隊にも所属したことのあるリーダー格の男だけだった。
すぐさま持っていたハンドガンを構え、少年に発砲したのだが
それは気を引いただけになってしまった、少年は首を曲げ弾丸をよけたのだ。
「おいおい、そりゃないだろ」
その言葉を最後にリーダー格の男は首を失った。
弾丸をよけ、首が千切れ飛ぶという尋常ならざる光景と、
リーダー格のものを失ったことにより統制は崩れ、男たちは逃げ惑った。
そして数刻立たないうちに逃げる者は男一人になってしまったのだった。
「はぁはぁ、やっと森の外か…」
道路沿いの街灯の横に立ち、油断したのか警戒を解いてしまった。
そのことを後悔する暇すらなかった。
「生き残れ---」
言い終わる前には首がなくなっていた。
首がない死体の横に少年は立った。
虚ろでなにを見ているのか分からない目をして死体を見ている。
すると後ろが荷台になっている白い軽トラックが道路の向こうから走ってきた。
最初は結構なスピードで走ってきていたが、
道路ぞいにぽつんと立たずむ少年を不審に思ったのか軽トラックは少年の前で止まった。
エンジンを切らずに車から出てきたのは老齢の男性だった。
顔のしわの数に似合わないほどにピンとした背筋と
しっかりとした足取りが年齢をわからなくさせている。
「小僧そんな恰好でどうした。」
どっしりとした腹に響く声だった。
少年はその声をかけられた瞬間から行動を開始していた。
常人には消えたように感じるスピードで老人に肉薄する。
頭に狙いをつけ蹴りを放ったが手ごたえがない。
すると後ろから声がした。
「いきなりなんじゃ、物騒ではないか」
少年はすぐさま後ろの声がした所に蹴りを放つ。
しかしこれも手ごたえがない。
すると今度は横合いから
「なんじゃといっとろう!」
声がしたときには首筋に大きな衝撃を受け意識を失っていた。
「何だったんじゃ」
老人は一人つぶやいた。
首のない死体とあおむけに倒れている少年を見て明らかに面倒事だろう。
「はぁー。しかたがないのう。」
老人は血だらけの姿で倒れている少年を抱えあげ、車に乗り込むのだった。