まじめな話
老齢の男が汚い町に原稿用紙を落とした。
小脇に挟んだ裸の原稿用紙。
それしか持っていなかったのに、大事にどこかへ運んでいたのに。
男の大事な紙たちは、夕暮れ時の汚い街に残された。
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うつむき歩く少年が、汚い町で原稿用紙を拾った。
ゴミだらけの町の中、なぜかそれだけ気になった。
一人寂しく下校していた少年は、その場ですぐに読みだした。
4,5枚がホッチキス留めされている原稿用紙の冒頭には、「真面目な話」と題されている。
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「真面目な話」
これは真面目な話である。
私は作家としてこの名が世に知れた時、真面目な話なぞ一つも書かぬと決意した。
この決意は、この悲劇だらけの社会に、馬鹿らしい喜劇を少しでも増やしたいという私の思いからのものである。
だからその意味では、これからの話は私の唯一の失敗作となるであろう。
ただこの話を、この唯一の失敗作を、編集部にはぬかることなく私の最後の小説の巻末に付け加えていただきたい。
私はいささか疲れたのである。道化を演じ、この現実の悲劇に作り物の喜劇を生み落とし続けるのが。
哀しきこの世界だが、私の作品だけは馬鹿々々しい笑いで満たそうと誓ったあの夜は、もう遠く薄らいでいる。
我が親愛なる読者の諸君も既に違和感に気づいているであろう。
私の真の一人称は「私」なのである。
今までの小説で用いてきたような、「ボクチン」や「オラタン」などではない。
語り口もこのように格調高く、語尾にも「だひょーん」や「だぴぴぴぴ」などは付けない。
我が愚鈍を信じてくれていた読者の諸君には申し訳ないが、私はもう、、疲れたのだ。
しつこくなるが、編集部は、これを私の最後の物語として、くれぐれも最後の最後に掲載していただきたい。
哀れな道化が最後までその阿呆を演じきれなかった様を。
さて、前置きが長くなってしまったが、いよいよ「真面目な話」の本題に入らせていただこう。
ボクチンこの前ー、目くそとぉ、鼻くそとぉ、耳くそのランキングを付けたんだひょーん。
ランキングって言ってもぉ、たっくさーんあるよねぇ、ビジュとかー、味とかー、・・・・・・
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グシャグシャグシャ!
少年は途中で読むのを止めたそのゴミを、くしゃくしゃに丸めてこの汚い町に精一杯に投げつけた。
怒り足りない少年は、汚い町を全力疾走で走り出した。
久しぶりの全力疾走。嫌なことも忘れてなりふり構わず走り去った。
少年の悲劇は汚い町に残された。
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汚い町にまた一つゴミが増えたが、うつむき歩く少年はもういない。
いつしか日が沈み、辺りは暗くなりだした。
くしゃくしゃに丸められた喜劇は悲劇の夜に紛れた。




