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オーロの嫁いだ先の伯爵には、妻よりも大切にする女性が居た。幼なじみだというその女性は、伯爵本人だけではなく屋敷の使用人達なども全て味方につけている状態だったようだ。
オーロは知らず知らずのうちに敵地のような場所に嫁いでしまったことになる。それもまだ十六歳なんていう成人して間もない年齢でだ。
……その結果、オーロは結婚生活を上手く出来ずに、評判が悪くなった。そして、修道院に入ろうとしていた。
でもそれって、オーロが悪いわけではないだろう。
「本当にふざけた話よね? あくまでオーロが身動き取れないように秘密裏に進めていたなんて……」
「本当ね。幼なじみとは相思相愛だったみたい。でも様々な事情が重なって娶ることが出来なかった。だから……私という存在と結婚することを決めたらしいの」
「それなら最初からそういう契約結婚を申し出ればまだ良かったと思うの。結婚相手に納得させた上で、期間限定の結婚生活を送る形にするのならばありだもの。でもあなたの元夫はそんなことを選択せずに、オーロだけを悪役にしようとしたってことでしょ」
やりようは幾らでもあったはずだ。それなのにオーロのことを貶めずに、平和的な解決方法だって出来たのだ。
それを選択せずにオーロのことを切り捨てる方向で進めたことが、凄く自己中な人なんだろうなと話したことがなくても分かる。
どうしようもなくて、切り捨てる選択をしなければならないことはなくはない。なるべくそんなことをしたくなかったとしても、そうせざるを得ないことってあり得る。
でも伯爵がやったことはそれとは異なる。
自分のためだけにたった一人を貶めたのだから、正直言ってろくでもない。
将来的なことを考えるのならば、オーロに協力を仰ぐことだって出来たはずなのだ。それでいてもっと平和的に離縁することだって。
……それをしなかったのって、オーロのことを切り捨てても問題がない存在だと判断したからなんだろうな。男爵令嬢ぐらい、伯爵家の自分にとってはどうにでも出来るって。
オーロの人生を壊したとしても、自分たちが幸せならばいいとそう思い込んでいるのかもしれない。
「そうね。そう言う契約結婚を求められていたら、私はショックは受けただろうけれど受け入れざるを得ないのだったらなんとか受け入れたと思うわ。貴族の結婚は……夢なんて見ない方がいいことは分かっていたのに、私は強く求められたから幸せな結婚が出来るって勘違いしていたの……」
しゅんとした様子のオーロを見ていると、伯爵は酷い人間だと私個人としては思ってならなかった。
結婚が決まった時のオーロは、今の私よりも年下の年齢だ。プロポーズされて求められていたのならば、期待するのも当然のことなんだもの。
「そうよね。それなのにだまし討ちみたいにオーロのことを利用したっていうのがまず許せないわ。オーロが私の友達だったから、何とか出来そうだけど……そうじゃなかったら不幸な令嬢が生まれていたわけでしょう? こんなことを平然と出来るのだから他の人相手にも同じようなことはしているかもしれないわ」
オーロに私が手を差し伸べられたのは、手紙を書いてくれたから。そして王族である私とのつながりがあったから修道院行きを防げたし、これからどうにでも出来る。
でもそうじゃなかったら?
そのまま泣き寝入りをすることになっただろう。オーロはまだ修道院に行くことを決意しただけだったけれど、人によっては絶望して命を絶ったりする可能性だってあった。
寧ろ他の人も……既に伯爵関係で命を落としている人は居るかもしれない。そう考えると嫌な気持ちになった。
「どうなのかしら……。私は結婚生活中、周りを見る余裕もなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだったから。でももしかしたら……いたかもしれないわ。夫も、その幼馴染も、それにあの屋敷に居た使用人達も自分の行いが正しいとでもいうような態度ではあったから……。私に嫌がらせをして追い出したいと思っていたようなのだけど、貴族間の結婚がそんな簡単に終わるわけないのよね……」
オーロから事情を聞いていると、如何に伯爵家がおかしかったのか分かる。普通に考えれば、使用人はあくまで雇われている人間でしかなく、それが夫人に対して酷い扱いをして良い謂れはない。
……オーロがその場で彼等を解雇しても誰も責めなかっただろう。それが当たり前だ。そんな当たり前が機能していない貴族家なんて、品位がなさすぎる。
「社交界で、自分たちの絆がどれだけ素晴らしいものなのか広めても居るのでしょう? どれだけあなたが酷い悪妻だったかを高らかに語って、素晴らしい夫婦だとそんな風に言う人たちも多いらしいわね。そこの使用人達も、真実の愛を持つ彼らのために行動をしたと言いふらしているみたい。それに同調している人達も大概ね」
明らかにおかしいことなのに、そう言う雰囲気になっているからと自分達は伯爵とその幼馴染のために行動をしたのだと、まるで主のために尽力した素晴らしい使用人だと自負しているようだ。
オーロは何とも言えない表情を浮かべている。
「よしっ、オーロ。一旦、この話はここまでにしましょう。これからの話をするのだけど、しばらく私と一緒に魔法職として働きましょう? 良い気晴らしにもなるだろうし、王宮で働いた実績があれば今後のためにもなるわ」
私はオーロのことをそう言って誘った。




