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「私も悪いところがあったから……」
オーロは下を向いて、そう告げる。私は思わずオーロに声をかける。
「違うわ! 確かに夫婦関係の不和には様々な理由があるとは思う。でも私はあなたが悪いなんて思えない。例えば少し悪い所があったとしてもあなたよりもずっと元夫の方が悪いに決まっているわ!!」
私は結婚したこともないけれど、オーロのことは知っている。だからこそ、はっきりとそう言った。
やっぱり今のオーロは凄く自信がなさそう。
結婚生活中に散々、オーロは「あなたが悪い」と言った言葉などをかけられたのかもしれない。
そんな風に言われ続けたら、自信喪失するのも無理はないことだ。
「そう、かしら」
「そうよ。客観的に見てもあちらの方が悪いわ。それに離縁するにあたって、あなたのことだけ悪く言っているのもおかしな話でしょう? あることないこと、オーロのことを悪く言って自分にとって都合の良いようにしているのよ? 最低な男だわ」
私がそう言ったら、オーロがくすくすと笑った。
「ふふっ、ヴィオははっきりというわね。確かに、考えてみると最低かもしれないわ」
「だってあなたを連れ歩けないからって幼馴染を社交界に連れて行っていたのでしょう? オーロが伯爵夫人としてきちんとしていないからって、本性を出したからって……そんな風に外堀を埋め続けていたのは調査がついているもの」
「……そうね。気づいたら私が伯爵夫人として不適格な存在だとは噂されていたわね」
オーロが困った表情でそう言った。
おそらく、最初からそのつもりだったのだろうとは思う。そうじゃなかったらこんなにも用意周到にオーロのことを貶めることが出来なかっただろう。
オーロは男爵令嬢で、伯爵からしたらどうにでも出来る存在だったのかもしれない。
確かに身分の高い者が、低い者に対して何かしらの無茶なお願いをすることはなくはない。正直見かけた際は嫌な気持ちになるし、あまりにもやりすぎていたら王家として対応をしたりすることはある。
だけれども明らかに、伯爵の行ったことはやりすぎだと思う。
「どこから……伯爵はあなたをこうするつもりだったのかしら。私には最初からに見えるのだけど……」
「私も……そうだと思うわ。……おそらくプロポーズからそうだったのだと思うの。私が、扱いやすい立場だったから。私は男爵令嬢でしかなくて、裕福でもなかった。領地も小さくて……私に婚姻の話なんて他に来ていなかった」
私の目から見るとオーロはとても素敵なのだけど、それは友人としての贔屓目も当然ある。
オーロの家は下位貴族で、ある程度生活出来るだけの裕福さはあっても周りから家同士の繋がりを求められるだけの何かがなかったのかもしれない。
私がもっと昔から、オーロの友人であるというのを広めていたら良かったのかもしれない。そしたらオーロの元に、彼女の元夫のような存在が近づかなかったのにな。
「実家への援助も約束してくれていて、実際に表面上は……彼は良い夫だったの。少なくとも私のことを途中まで騙せるぐらいにはしたたかな人だった。私はそんなことに全く気付くこともなく、不安を感じながらも過ごしていたもの。私みたいな世間知らずな令嬢はさぞ、騙しやすかったでしょうね……」
オーロは嫁いだ時、まだ十六歳だった。オーロの元夫はそれよりも四歳年上だ。
年下の世間知らずな令嬢を自分の都合の良いように利用したというのはかなり質が悪い。
短期間ならまだしも……いえ、短期間でも最低なことには変わりはないけれど、オーロの場合は三年も犠牲にされてしまっている。それに加えて、オーロの未来まで潰そうとしているのだ。
男爵家ならば、オーロならば黙らせることが出来るとそう思われてしまっているのだろう。
本当にそれを実行しているあたり、忌々しいものね。だってここまで非情な行動をするなんてありえないわ。
周りから非難されないように、徹底しているのも余計に嫌だ。
「だからといって騙していいはずがないわ。オーロの今の状況を見るに、周りに訴えるということも出来なくされていたのでしょう?」
「そうよ。家族や友人達に訴えたことはあったわ。離縁される前は……夫のことを皆信じていたの。私が実家に戻ってからは家族は、私の言うことが本当だったと知ってくれたけれど、もう遅かった」
「……そうなのね」
オーロはまだ家族とは結婚期間中も接することは出来たのだろう。だけれども、かろうじて交友が持てた人たちは伯爵の方を信じ切ってしまっていたらしい。
ままならない話だわ。オーロはどれだけ絶望していたのだろうか。
それらの事が続いて、結果としてオーロは人を信じることが難しくなってしまったのだろう。
「気づいた時には彼の幼なじみが伯爵夫人のような立場になっていて、私に原因があって離縁することになったと広められていた。夫もその幼馴染の方も、周りからの評判が良くて……だから私は離縁された後、修道院に入ろうと思っていたのよ」
オーロはそう言った。




