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「ふぅ……い、一生分の緊張をしたわ」
オーロはそう言って、顔を青くしている。今、私はオーロを自分の部屋へと連れてきた。王宮内を連れまわしてオーロの紹介をしていたのだけど、疲れてしまったみたい。
そんなオーロの様子に私はくすくすと笑った。
「私の友人として過ごすのだから、慣れてもらえると嬉しいわ」
「が、頑張るわ。そ、それにしても本当に王女様なんだ……」
「ふふっ、信じてなかった?」
「いえ、ヴィオが私に嘘なんてつかないとは思っていたけれど……あまりにも出来過ぎていたから」
「まぁ、そうね」
オーロのピンチのタイミングで、急に王族を名乗る私が現れたら警戒をするのも無理はないことだった。私も自分の窮地のタイミングに突然、昔からの友人だって人が現れたら驚いてしまうもの。
「あの……ヴィオは私のこと、把握していると言ったけれどどこまで分かっているの?」
オーロはそう言ってどこか不安そうな顔をしていた。不安そうなオーロを見ていると、安心させたくて仕方がない気持ちでいっぱいになる。
「あなたが格上の伯爵家から婚姻の申し出を受けて嫁いだこと。その結婚式はとても簡素なものだったそうね?」
「ええ。……身内だけを集めた者にしようと言われていたわ。結婚するまでは私、大切にされているつもりだったの」
オーロはそう言って悲しそうな表情をする。
その様子を見ているだけで、辛いことを思い出させなければならないことに胸が痛む。
……でも周りからの説明だけではなく、きちんと本人から色んなことを聞いておきたかった。私が寄り添えなかった頃のオーロの日々を知りたい。
「結婚するまでは良い旦那さんを装っていたのは知っているわ。向こうは、結婚した途端にオーロが本性を現したと言いふらしているようだけど。ばかばかしい」
思わず口調が荒くなったのは、オーロが辛そうな表情をしているから。ああ、本当に私の友人を辛くさせる存在なんて蹴散らしてあげたい。って、駄目ね、思わず表情をこわばらせてしまいそうだ。
「……そうなの。私は身分差のある相手から結婚を求められ、不安はあったけれど頑張ろうと思っていたわ。私のことを選んでくださったのだからって」
「結婚に対する不安を感じていても、あなたは前向きだったものね」
そう、三年前の結婚報告の時もオーロは結婚生活を楽しみにしていた。そして結婚生活が落ち着いたら連絡をしたいってそう書いていた。
王族や貴族は生着結婚もよくある話だ。結婚式で初めて出会って、良い夫婦関係を築いている人達だって私は知っている。
だから別に、夫婦になるからといって恋をすることが必須というわけでは決してない。ただし互いのことを思いやれる関係じゃなければ上手くいくはずがない。
――オーロの元夫は、彼女の妻として支えていこうという決意を踏みにじったのである。
いら立ちをなんとか抑えながら、オーロの話を待つ。
「ええ。私は支えていきたかった。互いに意見を言い合える夫婦になれたらと思っていたの。伯爵夫人として領地のお仕事も携わっていけたらってそんな希望を抱いていたわ。ただ、私は……結婚してから理由をつけて外に出してもらえなくなったわ。社交の場にもそう……。あの屋敷の使用人達は、私のことを奥様だなんて認めてくれなかった。どうしてなんだろうって最初は全く分からなかったわ」
情報としては知っている。オーロが結婚生活に真剣に向き合っていこうとしたことを。報告書で読んだ。オーロは気づけば悪妻呼ばわりされていたことも知った。
……雁字搦めにして、何もさせなかった妻をいつの間にか悪妻呼ばわりするなんて信じられない話だ。
これだけオーロが意気消沈しているのをみるに、何もさせてもらえなかったのは事実だろう。それこそ味方は一人も居なかったのかもしれない。
「……もしかして、使用人達から嫌がらせでもされた?」
「そうね。されたわ。夫の態度が伝染していたのだと思う。今、考えると……たかが使用人が仮にも伯爵夫人になった存在にそんなことをするなんておかしな話だけど」
「オーロは使用人に注意も出来ない環境だったの?」
「嫁いだばかりで夫から愛想をつかれたくなかったの。私一人で解決しようと思って下手をうったわ。せめてまだ夫が、私を伯爵夫人として尊重してくれると勘違いをしていたからというのもあるわね。結局……夫は使用人の味方だったから意味もなかったのだけど」
乾いた笑みを浮かべるオーロ。……なんだか話を聞いているだけでも、貴族家としてもおかしいわよね?
使用人が主人に対しておかしな真似をするなんて許されないわ。オーロは予想もしなかった状況に戸惑ったんだろうな。それに責任感があるからこそ、女主人として頑張ろうとした。それも元夫のために。
――それなのに、本来ならば最も信頼できるはずの夫に裏切られた。
私は結婚したことはないけれど、信頼関係のない夫婦ってどうなんだろうってそう思っちゃう。
稀にみる外れ夫を掴まされてしまったのでは? と思う。
「今からでも報復したいわね。私の友人にそんな真似をする使用人がのうのうと過ごしているなんて許せないわ」
オーロの悪評から想定するに、そんな使用人達に処罰など何も出来なかったんだろうな。今からでもどうにかしたい。




