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「初めまして、オーロ。私があなたとずっと手紙のやりとりをしていたヴィオよ。会えて嬉しいわ。突然押しかけてごめんね?」
私は柄にもなく緊張している。ここ数年で一番というぐらいに、ドキドキしていた。だって、大切な友人と初めて顔を合わせることになったのだもの。
私は初めて、オーロと対面した。
オーロは想像よりもずっと素敵な女性だった。美しい黒髪が腰ぐらいまで伸ばされている。長く伸ばされた髪により、その瞳は見えない。
ただなんというか、手紙でやりとりをしていた時よりもずっとオーロは自信がないように見えた。
「……はじめまして。ヴィオ。私も会えて嬉しいわ。突然の連絡で、驚いたけれど……嬉しい」
オーロは小さく笑ってくれた。オーロの傍にはまだ若い侍女の姿がある。……この屋敷、事前に調べた通り、ほとんど使用人も居ないのね。オーロの実家自体がそこまで大きな貴族じゃないからというのもあるだろうけれど、オーロが大変な状況にあるからというのもあるらしい。
対面で会うのは初めてで、今まで文章でのやり取りしか知らなかった友達。
それでも今のオーロが苦境にあることは十分に理解出来る。私は、オーロが悲しそうな表情で、落ち込んでいる様子を見るとその原因に怒りが湧いてくる。
私って……こんなにも友達思いだったのだろうかと驚いてしまう。自分の新たな一面を知った気分だ。
「オーロ、ゆっくり話しましょう? お菓子を持ってきたの」
「ええ」
オーロが頷いてくれたので、応接室で話すことになった。
オーロの家は王都に別邸を持ってはいるものの、管理をするだけの余裕はないらしい。掃除が行き届いていないように感じられる。
“我儘で、王都に来ることを強行した”と手紙に書いてあったから、元々この時期に此処に滞在する予定がなかったからともいえるだろうけれど……。
侍女もこの場に一人しかいないので、私が連れてきた侍女に準備をしてもらった。
「美味しい……っ」
手紙でもオーロは甘いものが好きだと書いていた。だから甘いお菓子を持ってきたのだけど、喜んでもらえたみたい。
……それにしても、よく見るとオーロは凄く痩せているように見える。目に見えて不健康とかそんなわけではないけれど、やつれているように見える。
もしかして、結婚生活の中で好きなものを好きなように食べられなかったのだろうか。
そう考えると胸が痛い。
「会いに来てくれてありがとう。最後にこうして、ヴィオに会えてよかった……!」
オーロはまるでそれが確定しているかのように言い切った。
私が来たところで、状況を改善することなど出来ないとそう思い込んでいるんだろう。
……私の年齢はオーロも知っているものね。オーロは今、十九歳で、私はそれより二つ下の十七歳。
オーロは私よりも一つ年下の頃に結婚したんだよね。貴族だとその年齢に結婚することも珍しくないけれど……。
「手紙にも書いたでしょう。最後だなんて言わないで。私はあなたとこれからも友達として付き合っていきたい。折角こうして出会えたのだもの」
私はオーロを安心させるように、そう言って笑いかける。
「でも……」
ただそれでもオーロは不安で仕方がないのだろう。何かを言いかける。
私がオーロに関わることで迷惑をかけるのではないかとか、この状況をどうしようもないとか思い込んでいるのかもしれない。
だけど、オーロはそんな心配をする必要はないのだ。
「オウロイア・アスールファ」
私は彼女の本名を呼んだ。私がこれまで知らなかった、彼女の素性。それを私が知っているのだと、明確に伝えるために。
「私の秘密のお友達。対面したのは初めてだけど、私はあなたのことが好きだわ。今回のことがあってあなたの事情を全て把握しているの。勝手に調べてごめん」
私がそう言うと、オーロは顔をあげる。
「あなたの事情を知った上で、私はこういうわ。どんな噂をされていたとしても私には関係ない。きっと結婚生活の中で、沢山の苦境があったのだと分かるから。それにこうして会って、改めて私はあなたが大切な友達だって思えたの」
私はオーロを大切な友達だと思っている。
実際に会ってみて、余計にその気持ちでいっぱいになった。だから私は、オーロのことを助けるって勝手に決めた。
「私だけがあなたを知っているのは不公平よね? 自己紹介をさせて。私はヴィオミーリナ・フルケーヘン。私はこの名に賭けて、あなたの友達として力を貸すことを誓うわ」
私はオーロに向かって、そう言い切った。




