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19 オリオンの宝物

「はじめまして、ケントさん。オリオンさんとお付き合いさせていただいてます村山星花ムラヤマハコベと申します」


 思わずソファから立ち上がる。カチコチな堅苦しい挨拶になってしまった。

 突如出現したエキゾチックイケメンな弟くんに対しての驚きが顔に出ていそう。

 なにこの兄弟。色々とハイスペック過ぎない?


「あ、ども。俺、これからバイトなんで、すぐ失礼します。どうぞごゆっくり」


 ペコリと照れくさそうに頭をさげてくれるケントさん、可愛らしい。

 髪の毛柔らかそう、私よりもはるかに背は高いけど頭なでなでしたくなる。

 隣にいたオリオンが、突っ立っている私の右手をさりげなく握ってきた。

 オリオンの方へ目を向けると、心臓が撃ち抜かれるほどの甘い視線を返された。

 ん? 何か物言いたげな感じもするけど。


「ケント、ママのブラウニーを食べていかないか?」と谷先生。

「残念だけど、今は時間ないからいいや。帰ってきたら食べるね」


 ケントさんはマッコイ先生に頰を寄せ、それから私に軽く一礼してリビングから出ていく。


「ケントは、今大学生なんだ」

「そう……」


 オリオンに手を引かれてまた座る。


「僕以外の男に見惚れちゃダメです」


 っ〜!?

 オリオンに耳元でこっそり囁かれ、呼吸を忘れる。

 そんなつもりはなかったけど、私、見惚れてた?


「ハコベ、僕の部屋へ行こう。見せたいものもあるし」

「え? はい」

「じゃ、ハコベを連れていくよ」

「ドウゾドウゾ」


 マッコイ先生と谷先生に、ニッコリと見送られてオリオンとリビングを後にする。

 玄関で、出かける寸前のケントさんとかち合った。


「ハコベさん、兄のこと、よろしくお願いします。アニキ、意外とヤキモチ焼きで寂しがり屋なんで」


 ケントさんは大人びた口調で私にそう告げる。


「おい、ケント! 何言って……」

「はい。わかりました」

「ハコベ……っ!?」


 ケントさんはニヤッと笑い、玄関ドアを勢いよく開け放ち、明るい日差しの中に消えて行った。

 眉を寄せ、頭を掻くオリオンの別の一面も見られて、実はちょっと嬉しかった。完璧な人っぽく見えていたオリオンだけど、弟さんから見るとヤキモチ焼きで寂しがり屋さん、そんなお兄さんなのね。


 オリオンに微笑みかけると、


「参ったな」


 オリオンが、私の肩に額を載せてきた。


「ごめん、弟がいること、わざと言わなかった。弟に興味を持って欲しくなかったんだ」


 オリオン……。

 ケントさんは谷先生ご夫妻の子どもだけど、オリオンは違う。仲の良い家族とはいえ、どこか寂しさがあったのかもしれない。

 ケントさんは、それに気がついていたんだ。優しい弟さんなんだと思う。


「心配しないで、オリオン。私はあなただけの星花ステラリアだから」

「ハコベ……、ありがとう」


 そのまま抱きしめられて、手を引かれて階段を上がる。

 二階の廊下にはドアが四つあって、その一つを開ける。

 机と本棚とベッド。無地のブルーのカーテンにベッドカバーがコーディネートしてあるシンプルな部屋だった。


「座るところがないから、ベッドでいいかな」


 ベッドと言われ、ほんの少しだけドキッとしたけれど、オリオンの瞳は何も下心なんてないかのように清らかに輝いていた。


「僕の宝物を見せるね」

「宝物……」


 なんだろう?


 オリオンは、机の一番上の鍵付きの引き出しをあけると、大切そうに一枚の封筒を出してきた。


 見せられたそれは、一枚の紙。


 え? 婚姻届け?

 証人の署名する欄に、おばあちゃんの筆跡で名前が書いてある!?

 林美枝。と。

 まさか、オリオンとわたしの結婚を、心から望んで祝福してくれていたの?


「美枝さん、ハコベと僕にご縁があって結婚するときは証人になるからって、わざわざ役所からもらってきて書いてくれていたんだ。僕のこと、信頼して認めてくれたこと、すごく嬉しかった」


 まさかオリオンと私を結婚させても良いとまで思っていてくれてたなんて。


「亡くなってる人は証人にはなれないから、この用紙はもう使えないけれど、これは僕の宝物だよ」


 おばあちゃん、日付まで書いてる。何年も前のバレンタインデーに、未来の私たちを祝福するために、署名してくれていたんだ。バレンタインデーは実はおばあちゃんの誕生日でもある。

 おばあちゃん……ありがとう!


ーー幸せになってね。ハコベちゃん。美千子より私の方が長生きしたもんだから、ハコベちゃんにはずいぶんと迷惑かけちゃったね。


 そんなおばあちゃんの記憶と声が思い出されて、涙が溢れた。


「美枝さんともう一つ約束していたんです。ご縁が結ばれて結婚したら、ハコベを一生大切にすること」


 さらに、ぶわっと涙がでた。


「これからも、ハコベの涙は全部僕が引き受けるよ」


 ベッドで隣に座るオリオンに、頰の涙をそろっとふれてくる指先ではらわれた。


「ハコベ、僕のお嫁さんになって」


 愛おしむような笑みを浮かべつつ真剣な目をして語りかけて来るオリオンの熱意に、私はいつしか頷いていた。

 結婚前提のお付き合いの挨拶にきただけだったのに、プロポーズ?


「ハコベ、あなたを心から愛しています」

「私も……オリオン。私もあなたを愛しています」

「嬉しい、ハコベ……」


 オリオンの温かい腕に優しく包まれながら、深く長い口づけをかわした。そのあとも額や頬や首筋にもキスの雨。オリオンは余裕そうだったけれど、私のほうは息も絶え絶えで窒息寸前。それでもオリオンに体をしっかりと支えられて、これまで経験したことのないほどの安心感と幸福感を味わった。



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― 新着の感想 ―
 まぁ、勢いって大事なので。  こういうのって、待っててもいいことないのよね。
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