7 テスト勉強
ジンの2週間の謹慎期間が終わり、いよいよいつも学校生活が戻ったという感じだ。
「謹慎明け早々で悪いんだが、来週にいよいよ初めての定期テストがある。皆勉強や剣術に磨きをかけていると思うが、今一度、この定期テストの重要性を説明しておく。」
以前にも説明したが、この学校は3学期制を採用しており、1学期、2学期、3学期に分かれ、各学期ごとに定期テストがある。
その中でも、1学期の定期テストというのは非常に重要なものとなってくる。その理由は、1学期の成績で夏に行われる剣術大会に挑戦する権利を得られるか否かが決まってくるからだ。一学年160人、三学年だと480人もこの学校には生徒が在籍している。国内にある他7つの剣術学校の生徒数もこの学校とほぼ同数だ。
もちろん、生徒全員に大会に出て欲しいというのが先生たちの希望だが、全員を出すとなると大会期間が1年あっても足りないだろう。そのため、各学校で出場できる選手というのが決まっているわけだ。
剣術大会には二種類のトーナメント用意されており、一つは全学年参加できるトーナメント、いわゆる本戦、もう一つは1年生のみが出場できるトーナメント、いわゆる新人戦から構成されている。
各トーナメントに参加できる生徒の数は、各学校から8ペアとなり、計64組のペアから優勝を決めることになる。つまり、学校で参加できる生徒と言うのは、8ペア、16人となる。むろん、二つのトーナメントがあるわけだから、出場選手が重複しなければ、合計32人出ることができるようになる。ただ、それはあくまで最大人数であり、優秀な1年生がいれば両方のトーナメントに出場することが可能である。
その8ペアを選ぶ基準となるのがテストの成績となる。ただ、テストの成績順に上から順に8ペアにしてしまうと、幅広い生徒にチャンスを与えることができないので、この学校では校内剣術大会を開き、その中の上位8ペアに出場権利を与える仕組みを用意している。
ただ、この大会も時間の都合上全生徒を出場させることができない。なので、新人戦の出場権を争う大会は、1年生上位64ペア、計128名から、8ペア、計16人を決めることとなる。この大会もトーナメント形式で行われるので、3回勝てば新人戦に出場権を手に入れられるわけだ。
ここで成績が重要となっくる。新人戦に出られるのは8ペア、学校側としても、成績上位8名を出したいわけだ。そこで、成績上位8ペアにはシード権というか、トーナメントの組み合わせをコントロールし、新人戦出場が決まるベスト8までに当たらないように調整している。
もう一つのトーナメントは、全学年参加できるということを鑑みて、3年生に一番出場機会を与えるような設計になっている。このトーナメントも64ペア、計128名から、8ペア、計16人を決めるところは同じではある。ただ、この64ペアの選出には学年ごとに傾斜がかかっている。3年生は32ペア、2年生は24ペア、1年生は8ペア参加できる仕組みとなっている。このトーナメントにもシード権は用意されており、3年生の上位6ペア、2年生の上位2ペアに与えられる。
3年生、2年生は成績順にトーナメントに参加できるようになっているのだが、1年生は新人戦出場が決まった8ペアが参加できるという少し特殊な仕組みになっている。
「こんな感じで成績が重要となってくるわけだ。1年生は新人戦がある分、テストの成績と言うのは、2,3年生に比べると、そこまで大きなものではない。ただ、シード権があるに越したことはなし、Aクラスの中から代表が出てくれると嬉しい。」
Aクラスは入学試験の成績上位40名から構成されるクラスだ。それに、入学してからまだ2ヶ月くらいしか経っていない。順当に行けば、新人戦の代表は全員Aクラスからでるだろう。
「そんなわけだから、皆後1週間、そして校内戦に向けて頑張ってくれ。あっそうそう。リオン君とアリサ君は後で第3講義室に来るように。」
ジンはそう言うと帰りのホームルームを終えた。ホームルームが終わると、続々と生徒たちが教室から出ていく。皆、トーナメントに向けてこれから特訓というわけだ。Aクラス内の力関係だが、1位のリオン・アリサペア以外の実力というのはそこまで開いていない。もちろん、2位のペアと20位にペアを比較したら、目に見えるくらいの差はあるが、新人戦の参加権を得られる上位8ペアに順当に成績上位8ペアがそのまま入れるかはまた別の話だ。それだけ、当落線上のペアの実力は拮抗している。
(先生、一体何の用なのかな?)
リオンはジンに呼び出された理由を考えていた。試験の話の後の呼び出しなので、試験に関係がありそうだが。少なくとも、学校の試験ごときに遅れをとるわけがない。アリサの学科は除くが。
「とりあえず、第3講義室だっけ?早く行きましょ。とっと済ませて寮で休みたい。」
「まあ、そうだな。」
アリサに急かされて、リオンたちは第三講義室に行く。
「やあ、待っていたよ。」
「何の用?要件なら早く言って欲しいんだけど。」
アリサは開口一番文句をたれる。
「別に大した話じゃないけど、試験のこと一応話しておこうと思って。」
「試験ですか?特に成績を心配することないと思いますけど。トーナメントにさえ参加できれば、後は実力でどうとなると思いますけど。」
リオンはわざわざ試験のことなんか話すことないと思っている。トーナメントに参加できる順位の基準となるのは、ペアでの総合成績が基準となる。リオンたちの場合、リオンとアリサの二人の点数を合計し、それを2で割り一人分の点数として算出する。
確かに、アリサの学科が低いことは懸念点ではあるが、トーナメントに参加できる128位までは入れるだろう。剣術で取ればいいだけだから。
それに、リオン自身が学科・剣術ともに満点を取って、総合成績を底上げすれば問題ない。
「そこは心配してない。君たちなら、新人戦どころか、本戦にも参加できるだろう。アリサ君が魔法を使えない状況だとしても。」
アリサの点数が低いせいで、リオンたちがシード権を確保できるかははなはだ疑問だ。しかし、トーナメントに参加さえすれば、持ち前の実力でどうにかできるだろう。幸い、1年生はボーダーラインが低いし、本戦出場者を決めるトーナメントの参加条件に定期テストの順位は関係ない。
「じゃあ、一体何なのよ。」
「それはだね、アリサ君の成績次第では、来年君たちのペアは解散となり、別の生徒とペアになる可能性があるということだ。」
「はい?」
リオンの頭に?マークが浮かぶ。
「アリサ君が学校の成績が低過ぎたら、Bクラスにクラス替えってこともあるし、それに、リオン君と成績に差があり過ぎたら、不釣り合いなペアとみなされて、ペアの再編ということもあり得る。」
「そういう制度があっても、アリサは入学試験2位だから、そんな心配いらないんじゃないですか?」
確かにアリサは学科試験の点数が低いのは間違いない。しかし、彼女には圧倒的な戦闘能力がある。実技試験で満点を出せれば、2位になれないとしても、Bクラスに落ちることや、極端にリオンとの点数差が開くことはないはずだ。
「それはあくまで入学試験の話だ。それにアリサ君の順位は僕が細工したしね。筆記の点数を改ざんして9割にしたから。けど、定期テストは僕が改ざんすることは難しい。」
ジンが言うには、アリサの筆記試験を改ざんできたのは、入学試験の採点は生徒一人一人を一人の教師が担当する。アリサの採点をするのがジンなら、アリサが受けたテストは全てジンが採点することになる。
それに対して、定期テストは教科ごとに担当の教師が採点する。もちろん、ジンが担当する教科もあるのだが、たった2教科だ。他の教師に改ざんは頼めないから、アリサの点数は悲惨になるのは、火を見るよりも明らかだ。
「それにね、実技試験の方も採点基準が入学試験とは大幅に違うから、今のアリサ君だと満点を取るのは難しいと思う。」
入学試験の実技試験は受験者の強さを計るものだった。要は、これから本格的に剣術を学ぶ上で、支障のない運動能力だったり、戦闘能力だったりを。それに、入学試験は受験者が多く、一人一人細かく採点する時間と労力がない。だから、アリサの圧倒的戦闘能力、それで満点がとれたというわけだ。
しかし、定期テストは採点する対象が、入学試験に比べて少ないので、個人の技術や能力をじっくり採点することができる。
「そこで、重要になってくるのが、授業で習ったことをしっかり出来ているか否かって点だ。それが定期テストの目的でもあるしね。だから、魔法を主体にして戦う本来のアリサ君なんて、0点に近い。最近は、リオン君と剣術を学んでいるから、そこまで低い点数にはならないと思うけど。それでも、満点を取れるリオン君とは雲泥の差になるね。」
「先生的には、アリサの剣術だと何点くらい取れそうですか?」
今のアリサの予想点数を知ることは非常に重要だ。学科と剣術どちらを重点的に復習するかが変わってくるからだ。学科の方は小テストや普段の授業からある程度予想が立つ。リオンの見立てではアリサは全教科平均30点取れたらよい方だろう。
剣術の方は何が採点基準か分からないので、リオンは予想を立てることが出来ない。
「そうだね、ざっと60点ってところかな。戦術の組み立て方にはまだまだ課題があるけど、技術面はどんどん成長しているから、今後次第では70点くらいになってもおかしくない。」
(それなら、学科の方に力を入れるか。)
学科の方が配点が低いのは入試の時と変わらないのだが、学科が低いままだと今後に影響する。1年生の授業はその分野の基礎を学ぶことが多い。2年生以降に応用を学ぶことになるので、基礎ができていないままだと、今以上に授業についていけなくなる。
「もちろん、アリサ君と同じペアのままでいたいだけなら、リオン君の成績をアリサ君基準まで落とすことが一番簡単だけど、それだと2年生がしんどいからね。」
2年生以降は剣術大会に出場するには、1年生よりも成績が重要になってくる。1年生は新人戦の関係で、多くの生徒に機会があるが、2年生以降は本戦しかないため、ほんの一握りの生徒にしか機会がない。
別に剣術大会に出る必要はないのでは?と思う人もいるかもしれないが、剣術大会に出て結果を残すことが、将来軍に入隊したい者にとって絶好のアピールチャンスとなる。さらに、本戦でベスト16に残ったペア、計32名は軍に推薦で入隊することができ、入隊試験を免除されることになる。
「これは勉強しかないな。」
リオンはアリサの方を見た。アリサは露骨に嫌そうな顔をしていたが。
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「もう止めにしない。」
アリサは勉強に対し音をあげ、手に持っていたペンを机に置く。
「まだ、始めてから1時間しか経ってないぞ。」
アリサの横で付きっきりで勉強を見ていたリオンが言う。
想像以上にアリサに勉強に対する集中力がないことに困惑する。別にアリサ自身に集中力がないわけではないはずだ。少なくとも、戦闘にはかなりの集中力を要するし、殺し屋をやっていた時なんかは、命の取り合いになるわけだし、極限まで集中力を保っていたはずだ。だから、後は勉強に集中できるような方法でもあればいいのだが。
「テストでいい点数取ったら、また欲しい物を買ってやるぞ。」
物で釣るというやり方は、何度も有効な手立てではないので、余り使いたくないのだが、今はアリサの集中力を優先したい。何事も最初が肝心だからだ。
「女の子を物で釣るなんて、リオンもてないわよ。」
「それは分かってるんだけど、何とかアリサに頑張って欲しくて。」
「そんなに私と一緒がいいわけ?」
「そうだよ。」
リオンは曇りない眼でアリサを見つめる。
「へっへぇー。」
アリサはリオンを茶化したつもりだったが、想像以上に直球な返事がきて驚く。
「それに、アリサにもメリットがあるぞ。俺とペアのままだったら、今の生活を続けることができる。けど、他の人とペアになったら、家事とかで揉めるかもしれないし。」
リオンは言葉巧みにアリサのやる気を奮い立たせようとする。
「痛いところをついてくるわね。」
流石のアリサも分かっていた。寮生活において、リオンとペアの方が自分が快適に過ごせるのは間違いない。アリサが家事を一切やらなくていいことや、ダラダラしていても文句を言ってこないことは、リオンとの寮生活がなせる賜物だろう。
「それに、剣術大会だって俺一人で何とかするから、アリサは早々にリタイアしても構わないし。」
剣術大会、この学校生活の中で一番の大イベントである。どの生徒もこの大会に向けて、日々特訓をしていると言っても過言ではない。そんな大会に出場しなければいけないものの、本番をさぼることができるのも、リオンとペアじゃないとできないだろう。学生二人を相手にしても物怖じしないくらい実力があるのは、この学校だとリオンくらいだ。
「・・・分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば。」
アリサは机に置いていたペンをとり勉強を再開する。
そこからのアリサの集中力は凄まじかった。戦闘での集中力をそのまま勉強に落とし込んでいた。
アリサに色々な問題を解かせて思ったことだが、アリサは意外にも地頭は良さそうだった。歴史みたいに暗記科目は酷い出来だったが、数学みたいな思考が必要な問題でその片鱗を見せていた。公式を覚えていないから、そこが課題ではあるが。
そもそも、アリサは最上級魔法を使えるだけの能力があるんだから、計算とか頭は良い方なはずなんだ。最上級魔法には魔力演算という頭を使わなければならない手順があるからだ。
それに、アリサは学校に入学前は殺し屋とかしていたせいで、勉強をしていないから圧倒的な知識不足という点もある。リオンも含め、多くの生徒は基本的な学習は終えていることが多いからだ。周りに比べて勉強とかできないと、意欲とかもどんどん落ちていくし、アリサが勉強の関心がなかったことは仕方のないことだったのかもしれない。
「リオン。今日はこの辺にしない?」
「そうだな。長いことやってもいいわけじゃないし。」
アリサが勉強を再開してから3時間が経過した。これ以上はアリサの集中力がもたないだろう。それに、試験までまだ1週間ある。この調子で勉強していれば、入学当初では考えられないくらい好成績になるかもしれない。
仮にペアが再編されるとしても、2年生以降の話だ。今回が多少ダメでも、2,3学期の定期テスト次第では何とかなる。とりあえず、この定期テストの目標はアリサに勉強するという習慣をつけてもらうこと。流石に、テスト後も自習しろと言うことはできないが、少なくとも、授業中に寝ることがなくなれば、テスト前の追い込みが効果的になる。
「夕食作るから、アリサは休憩していてくれ。今日はよく頑張ったよ。」
リオンは立ち上がり台所の方へ向かう。
(今日は少し贅沢をして、美味しい物を作ってやるか。)
今日のアリサは非常によく頑張ったと思う。少し早いかもしれないが、ゲン担ぎの意味も込めて。




