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2 学校生活

 リオンは持ってきた荷物の中から、自分の武器を取り出し第一演習場に向かう。本当はアリサと共に演習場に行きつつ、少しでも彼女と話し情報を知りたかったが、そうはいかなかった。

 アリサは「武器を忘れたから取りに行く。」そう言って一人で歩いて行った。

 「ここが演習場か。」

 演習場は戦場での想定訓練等も行われるため、かなりの広さを誇っている。ここなら、40人が別々に模擬戦をしても、邪魔にならないだろう。

 「よし、全員揃ったな。今から各々模擬戦をしてもらう。場所は自由に使ってくれ。時間は一時間設けるが、一時間ずっと戦う必要はない。お互いが納得するような形でしてもらって構わない。初日だし、怪我だけはしないように。」

 ジンの一言を皮切りに生徒は各々演習場の中を散っていく。

 「俺たちはどこでやろうか。」

 生徒たちが動く中、アリサは微動だにしなかった。

 「私、戦う気はないし、戦わなくたって勝敗は分かっているじゃない。あなたは入学試験が1番、私は2番。あなたの方が強いのは明白よ。」

 「それはそうなんだが・・・。」

 アリサが言うことも一理ある。入学試験という明確な順位があるから、わざわざ戦わなくても結果は分かる。しかし、実力は分からない。これから一緒に戦っていくうえで、パートナーの実力を知ることは重要だ。最低限、自分の足を引っ張らない実力があるかどうかは知りたい。

 「アリサ君、リオン君と戦いなさい。別に1時間も戦う必要もないのだから。」

 戦うことに対して乗り気ではないアリサの背中をジンは叩く。

 「・・・分かったわ。」

 アリサは渋々承諾してリオンの方を見る。

 「ルールは私が決める。試合は一本勝負。相手に負けと思わさたら、それでおしまい。いい?」

 「ああ。それでいい。」

 リオンはアリサの提案を受け入れる。一戦もあれば実力は分かるし、何より提案を断ってアリサのやる気を削ぎたくない。

 「じゃあ、始めるから。」

 アリサは一応持ってきてた剣を持つと、トボトボ歩き出し、リオンと距離をとる。

 リオンも剣を構え戦闘態勢に入る。

 「はぁ~めんどくさ。」

 アリサはリオンが準備出てきたことを確認し、右手の指をパチンとならす。

 すると、リオンの周りを囲むように8つの魔方陣が展開される。

 (8つの魔方陣を同時に。)

 8つの魔方陣を同時に出す。そんな芸当は、並の魔術師では不可能だ。今の行動だけでも、アリサと戦った意味はある。

 (おっと、今の状況を整理しないと。)

 リオンはアリサの魔法に感心しつつも、対策を考える。リオンは今、8つの魔方陣に囲まれている。この攻撃を防ぐ方法は二つある。一つは防御魔法を展開することだ。しかし、リオンはこれを選択しない。防御魔法は相手の攻撃魔法よりも込められている魔力が上である必要がある。リオンの魔力では8つの魔法を防ぐことは難しい。なので、もう一つはの方法、魔法を回避する方を選択する。8つの魔方陣はリオンを囲むように展開されている。つまり、2次元、平面的な回避はできない。立体的に回避する必要がある。

 「炎の輪舞フレイムロンド

 アリサはリオンに向けて八方から炎魔法を発動する。リオンは高くジャンプし魔法を回避する。

 (飛んで避けて正解だったな。)

 アリサの発動した魔法炎の輪舞フレイムロンドは最上級の炎魔法だ。それを8つも展開されては、リオンの防御魔法で防ぐことはできない。

 (あれ、アリサがいない。)

 魔法を避けるために高く跳んだリオンは、上からアリサの様子を見ることが出来た。しかし、彼女の姿は見当たらなかった。

 「後ろよ。」

 アリサの声が聞こえた時にはもう遅かった。

 ペチン

 アリサはリオンの後頭部にデコピンをする。

 勝負は決した。

 「俺が・・・負けた。」

 リオンは自分を負かした少女を見ながらうなだれる。アリサは完璧にリオンの背後をついた。もし、アリサの攻撃がデコピンではなく、武器で攻撃されていたら。そう考えるだけで恐ろしい。

 「模擬戦は終わりね。私帰るから。」

 アリサは約束通り一戦したので、ここにもういる必要はない。こんなところにいるよりも、教室で寝ている方が自分にとっては有意義だ。

 「はははっ。」

 リオンは仰向けになり空を眺めがら笑った。笑うしかなかった。戦闘において絶対的な自信があったのに負けたことに。退屈だと思っていた学校生活に光が差したことに。

 「負けたんだな。」

 リオンは心が落ち着いたので、先ほどの戦闘を分析することにした。

 まず、驚いたのはアリサの魔法技術の高さだ。最上位の炎魔法を8つ同時に発動できる。その点だけを取り上げても、彼女は特別だ。一般的に5つ以上の魔法を同時に発動できるか否かが、優秀な魔術師とそうではない者を分けるラインとなる。つまり、アリサは既に魔術師としては即戦力級の実力を持っているわけだ。

 次に魔法の使い方。リオンはこれによって負けたと言っても過言ではない。リオンはアリサの魔法の対処して空に逃げることを選んだ。いや、選ばされたと言った方が正しいのかもしれない。アリサはリオンンが空に回避した後、すぐに背後に回り込んでいた。つまり、リオンがそう行動することを想定していないとできない行動だ。

 おそらくアリサの作戦はこうだ。空以外に逃げ場がないように魔法を展開する。それで想定通り魔法を逃げてくれればそれ良し。防御魔法で防ごうとするなら、最上級炎魔法の餌食となる。アリサは自分の魔法に自信があるだろうし、実際、並な魔術師はもちろん、優秀な魔術師だって防ぐのは困難だ。どちらに転んでもアリサの勝利に揺るがない。

 最後にこれはリオンの想像でしかないのだが、アリサは恐ろしいほどに戦いに慣れている、そんな気がする。魔法の発動からその後の行動まで全てが洗練されていた。あの動きは並の特訓や修行とか、一朝一夕でできるようになるものではない。

 (それに・・・。)

 アリサの戦い方、何か違和感がある。リオンはアリサに負けたのだから、負け惜しみにか聞こえないかもしれないが、アリサの戦い方には再現性がない。完全な初見殺しだ。もう一度戦ったら、同じ手には引っかからない。もちろん、対策されたら別の手はあるのだと思うが。

 「これから、色々と分かっていくか。」

 リオンは立ち上がり教室に戻ることにした。アリサのことはこれから、授業で寮でパートナーとして、その全貌を見ることができるだろう。

 今は、自分を負かした相手がいる。それだけでリオンは十分だった。

                    ♦

 今日の授業は終わり、学校生活の1日目が終わった。生徒たちは各々寮に戻っていく。

 この学校では寮生活が強制となっている。その理由として、この学校の生徒の多くが将来軍人となるからだ。軍人になれば、駐屯地での生活や遠征といったものあり、自宅で過ごすことは減り、集団生活が基本となる。 

 それに慣れるために寮生活が強制なのだ。寮生活では、生徒たちの自主性を高めるために、家事は全て自分たちで行わなければならない。

 そこで、問題となってくるのが家事の分担についてだ。寮生活は2人1部屋、2人で家事をどう分担するのか。料理に洗濯、掃除等、家事によって負担のレベルが違う。

 「家事の分担どうする?」

 リオンは荷物の整理もせずにベッドで転がっているアリサに尋ねる。

 「私、家事しないわよ。あんたが全部やってよ。」

 「まあ、そう言わずにせっかくの寮生活なんだから。2人でやろうぜ。」

 正直、アリサが断ることは分かっていた。ただ、リオンがアリサに相談もせずに1人でやるのは違う気がした。勝手に決めたと文句を言われるかもしれないからだ。

 「めんどくさいからやらない。それに、あんた私に負けたんだから、言うことくらい聞きなさいよ。」

 「分かった。何時にご飯食べたいとかある?」

 「別に・・・。作ってさえくれたら文句は言わないわ。」

 「そっか。じゃあ適当な時間になったら作るぞ。」

 リオンはそう言い、アリサの傍を離れた。アリサのもう話しかけるなオーラが出ていたし、リオンの荷解きがまだ終わっていないからだ。

 荷解きといっても、リオンは私服や日用品を持ってきただけで、嗜好品とかはほとんど持ってきていない。ここには剣術を学ぶために来ているわけだから、嗜好品とかは必要ないと考えている。一応、本とかは少しだけ持ってきていて、鍛錬の休憩の時に読めればとは思っている。

 「さてと、ご飯でも作るか。」

 リオンは冷蔵庫を開けて食材を見る。食材も基本は自分で仕入れることになるのだが、入学直後は買い出しに行く暇がないため、学校側が1週間分用意してくれている。

 「初日だし、それなりに豪勢な食事にしたいな。」

 アリサが自分の作るご飯を食べるということは、彼女と同じ食卓を囲むことになる。食卓を囲むのだから、無愛想な彼女とでも少しは会話をすることになるだろう。その時に、ご飯がおいしくなくて、雰囲気が悪くなることは避けたい。

 「こんなもんか。」

 リオンは自分が作った料理をテーブルに並べる。本日のメインは牛ステーキ。冷蔵庫に入っていた一番いい肉を使った。後は、メインのステーキに合うサラダとスープを作った。

 「アリサできたぞ。」

 リオンはベッドで寝ころんでいるアリサを呼ぶ。

 「何よ。いきなり名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいわね。」

 アリサはぶつくさと文句をたれながらもテーブルにつく。

 「結構おいしそうね。」

 アリサは「いただきます。」と手を合わせて料理を食べ始める。

 「どう?おいしい?」

 「おいしいわよ。」

 「そっか。良かった。」

 二人の会話は単調だが、リオンにとってはそれでよかった。まだ、アリサとどう接したらよいか分からないし、アリサの無愛想具合からして返事が返ってこないと思っていた。

 試しにちょっと踏み込んだ質問してみるか。

 「アリサって何で2位だったんだ?俺より全然強いのに?」

 本当は何で剣術学校に来たのか聞きたかったが、仲良くなる前に余り踏み込んだ質問はしない方がいいだそう。

 「別に対した理由はないわよ。筆記が足切り引っかからない程度の点数しかなかったからじゃない?」

 「なるほどな。」

 この学校に入るには実技と筆記の二つの試験がある。ただ、二つの試験は配点が違う。実技の配点は筆記の4倍の点数がある。剣術学校なので、学力よりも剣術が優れた生徒が優先されるのは当然だ。

 「まあ、試験の結果とかどうでもいいじゃない。終わったことだし。」

 「それもそうだな。」

 その後もアリサととりとめのない話ができた。アリサは自分から会話を振ることはないが、リオンが話しかけると、口数は少ないが返答はしてくれる。まだ、上辺だけの関係ではあるが、仲を深めていくにはいい滑り出しだとリオンは思った。

                     ♦

 いよいよ本格的に学校生活が始まっていく。学校生活はカリキュラム通り、学科と剣術の二つの内容を学んでいく。授業自体はもっと単元ごとに細かくなっている。例えば、剣術は、個人の剣術を極める授業である個人剣術、ツーマンセル(二人一組)やフォーマンセル(四人一組)等、集団で戦う演習を行う集団戦術といった授業等がある。

 リオンは当然授業は苦労することなく、なんなくこなしている。成績トップなのだから。それに対して、アリサはリオンが思った以上に手こずっている。

 まず、学科の方だ。アリサはてんで勉強ができない。ジンが授業中に実施する小テストでは壊滅的な点数をたたき出していた。ただ、点数が低いだけならいいのだが、内容を根本的に理解していないことが目に見える解答を連発していた。決して、ケアレスミスが多かった結果、点数が伸びなかったとかではない。

 それに、アリサが勉強に対して、全くと言っていいほど意欲がないことも、結果の悪さに拍車をかけている。授業中に寝るのは当然、ノートとかを一切とらない。放課後に、自習をするわけでもない。だから、成績が伸びる見込みもない。

 そして、意外だったのが、アリサは剣術もそこまで優れていないことだ。戦闘能力、その点だけを見ればアリサは学年でも群を抜いているし、学校全体でも1番なのは間違いない。ただ、それはアリサが魔法を組み合わせて戦った場合のみ。単純な剣術、魔法無しだと並程度しかない。剣筋は悪くないのだが、駆け引きや技に洗練さがない。まるで、アリサにとって剣は止めを刺すための道具にしか過ぎない。少なくともリオンはそう感じた。

 実際、最初にリオンがアリサと戦ったときもそうだった。魔法を中心に戦術を組み立て、相手が魔法の対処に精一杯になっているところに、必殺の剣を使う。

 ただ、剣術に関しては、アリサも少なからず学ぶ意思はあるみたいで、今後次第ではかなりのものにはなるとは思う。

 寮生活ついてだが、特段問題ない。寮生活をする上で生じる問題は多々ある。一つは、家事の分担だ。料理、洗濯、掃除といった家事をどのように分担するかでぶつかり合いになることがある。例えば、料理は家事の中で負担が大きいし、味という点においても個々によって大きく差がでやすい。この問題については、リオンが家事を全てやっている上に、その質もかなり高いから問題ない。

 一つは、生活環境の差だ。例えば、部屋を綺麗に使う人もいれば、ゴミをそこら辺に捨てっぱなしの人もいる。そんな人たちが同じ部屋で生活していれば、亀裂が生じるのは目に見えている。その点については、アリサは寮では睡眠しかしないので特に問題ないし、リオンが定期的に部屋を掃除しているので問題ない。

 このように寮生活には様々な問題があるが、リオンがきっちりしていることと、アリサがめんどくさがりなことが、互いに良いシナジーとなり問題なくことが進んでいる。

 「アリサ・エヴァンズか。」

 リオンはお風呂の湯船に浸かりながら、自分のパートナーについて考える。

 謎の多い少女アリサ。戦闘能力は桁違いだ。最高峰の魔法技術に、平均的な剣術が織り交ざれば対処は決して簡単ではないだろう。しかし、アリサの戦い方は一般的ではない。

 元々、この国では、男は剣術、女は魔術を極めるのが鉄則となっている。理由は単純、剣術の場合は、男の方が力や体格が優れている点で、魔術の場合は、女の方が魔力が多く、より多くの魔法を繰り出すことができる点でそれぞれ優れている。要は適材適所というわけだ。

 リオンも魔法をそれなりに使えるが、あくまで防御魔法や身体強化等、剣術の幅を広げるために魔法を習得したに過ぎない。アリサのように、魔術と剣術の両方を攻撃の核にすることはない。

 その点だけでも、十分に異質なのだが、アリサは他にも異質な点が多々ある。炎魔法の最高峰である炎の輪舞フレイムロンドを使えるのに剣術学校に入学したことだ。アリサが魔術学校に入学すれば、少なくとも国内の学生の中では1番が取れるだろう。本来、最上級魔法は魔術師となって軍に入隊してから習得することが一般だ。理由は、魔力量の問題だ。最上級魔法は当然だが、大量の魔力を消費する。そして、魔力量というのは身体が成長していくのと同じように成長していく。学生はまだ成長期であり、学生によっては最上級魔法を1回使ったら魔力が枯渇する場合もある。だから、魔術戦の基礎を学ぶ学校では、最上級魔法を使う生徒、使える生徒はそう多くない。

 それに、最上級魔法を使うには相当な魔力演算が必要となる。魔力演算とは、簡単に言えば魔法を発動するための魔方陣を作ることだ。高度な魔法を使おうとすればするほど、複雑な魔方陣を作成する必要が出てくる。その複雑さ故に、最上級魔法を使うことができない魔術師だって一定数存在する。それだけ、高度な物ということだ。

 それを学生の内から使えることだけでもすごいのに、同時に8つも展開できる。魔術に関してははっきり言ってセンスの塊だ。少なくとも、幼少期の頃から高度な魔術教育を受けていることかつ圧倒的な魔力演算と魔力量があること、この二つがないと学生時代からあんな芸当はできない。

 そこで疑問になってくるのが、エヴァンズ家だ。リオンが剣術の名家の家系であるように、魔術界隈にも有名な魔術師を多く輩出する名家が存在する。要は、遺伝で才能が決まってしまう部分があるというわけだ。しかし、エヴァンズ家は魔術の名家というわけではない。もちろん、アリサが突然変異という可能性も捨てきることはできない。ただ、仮にそうだとしても、あの魔術の才能がありながら、魔術学校ではなく、剣術学校に通うことは不自然だ。

 それに、学力だ。剣術学校、魔術学校、どちらに通うとしても、筆記試験がある点は変わらない。配点が低いとはいえ、足切りラインがあるので、なめてかかれるものではない。アリサを見た感じだと、学力はほんとギリギリだと思う。

 普通、入学に向けて、勉強をするのは当然だ。リオンも家では、これ以上することはないと思うくらいには勉強をしていた。いくらアリサが勉強を苦手としても、長年勉強をしていたら、あそこまで低い点数になることはないはずだ。 

 「考えても仕方ないか。」

 リオンがいくら考えたところで、答えがでるわけではない。ただ、明らかに複雑な事情があるのは間違いないだろうから、アリサに聞くということも憚られる。

 今は、良いパートナーに巡り会えた。そのことだけをかみしめよう。リオンはそう思った。

                     ♦

 学校生活が始まってから一週間が経ち、生徒たちには休日を迎えていた。休日になれば、寮を出て自宅に帰ることもできるようになる。自宅が学校から近い者、遠くても寮を出て自宅で休日を過ごしたい者が寮を出て自宅に帰っていく。生徒の総数からみると、7割近くの生徒が自宅に帰る選択をしている。

 そんな中、リオンとアリサはどちらも自宅には帰らない。リオンが自宅に帰らない理由は、単に遠いこともあるのだが、アリサが自宅には帰らないと言ったからだ。アリサを一人にするのは心配だからだ。

 「アリサは自宅に帰らないのか?」

 リオンは聞いてみた。別に他意はなく、ただの日常会話だ。

 「単純にここの方が自宅より居心地がいいだけ。ここだったらのびのびできるし。」

 「そっか。」

 リオンは少し微笑んだ。どうやら、アリサはリオンとの寮生活を悪く思っていないらしい。それが嬉しかったのだ。

 「ところで、昼から食材とかの買い出しに行くけど、アリサも一緒に来るか?」

 「・・・。好きなもの買ってくれるなら行くけど。」

 「いいぞ。ただ、あんまり高い物は買ってやれないけどな。」

 リオンはアリサの提案を承諾した。動機は不純ではあるし、出会って間もないリオンにたかるのはいただけないが、リオンはアリサとの交流を優先することとした。

                     ♦

 昼ごはんを食べた後、リオンとアリサは寮を出て街へと飛び出した。

 「そう言えば、アリサって何が欲しいんだ?」

 リオンはアリサに尋ねる。魚や肉類等、購入した後にすぐに冷蔵庫に入れた方がいい食材を買うのは、買い物の中で最後になるのは必然だ。そうなると、アリサの欲しい物を買うのが順番的に最初になる。

 「魔具が欲しいの。最近ちょっと魔力が溜まり気味だし。」

 「?。魔具が欲しいのか。じゃあ、専門店街に行くか。」

 リオンはアリサの発言に不明点があったが、魔具が欲しいということは分かった。だから、魔具を専門的に扱っている店がある専門店街に足を向ける。

 ちなみに、魔具とは魔力を込めると使える道具のことだ。魔具には様々な種類があり、一般的に使用されるケースは、自分が苦手な魔法を使いたい場合だ。魔具には魔方陣が埋め込まれており、魔力を込めるとその魔方陣に刻まれた魔法が発動するという仕組みだ。

 魔具のメリットは魔力さえあれば、使いたい魔法が使えるという点だ。例えば、攻撃魔法を発動することが苦手な剣士が、多彩な攻撃をしたいために魔具を使用するケースがある。これは魔力自体はあるが、攻撃魔術の魔方陣を錬成することができない男性にとっては非常に効果的だ。

 魔具のデメリットは、使用制限があることだ。魔具は使い切りが基本だ。魔力さえ残っていれば、何度でも使える魔法とは違う。つまり、戦闘する際に常に魔具の使い方を考えなければならない。

 魔具を取り扱っている店に着くなり、アリサはとあるコーナーに向かった。それは、魔力を保管するタイプの魔具だ。その魔具の効果は、自分の魔力を予め魔具に込めておき、自分の魔力が枯渇した時に魔力を回復することだ。

 (アリサにそんな魔具いるのかな?)

 リオンにはアリサの魔力が枯渇する姿が想像できない。アリサは炎の輪舞フレイムロンドを同時に8つ展開しても、魔力が枯渇したようにはみえなかった。

 リオンはてっきり、アリサは苦手とする属性の魔法が発動できる魔具を購入すると思っていた。この1週間アリサを見てきて思ったことは、アリサは火属性以外の魔法が余り得意ではないことだ。

 アリサは火属性の魔法は最上級まで使えるが、他の属性は中級、苦手なものは初級しか使えない属性もある。それくらい、アリサの魔法の技量は歪なのだ。むしろ、リオンからすればアリサには火属性だけ、特筆していることに違和感を感じる。

 「私これにしようかな。」 

 アリサは一つの魔具を手に取りリオンに見せる。

 アリサが見せてきた魔具は、大容量1000MPも魔力を貯蓄できることが売りだった。1000MPとは、最上級魔法4発分くらいの魔力だ。

 (アリサにこんな魔具は焼け石に水だと思うけどな。)

 「分かった。会計するから少し待っていてくれ。」

 アリサが欲しいものなんだしリオンが否定する必要はない。値段の観点からも、リオンの予算内なので否定する理由もない。リオンは魔具を手に持ちレジに行く。

 「はい、アリサ。」

 リオンは会計を済ませた魔具をアリサに渡す。

 「ありがとう。」

 アリサは素直にお礼を言う。

 「どういたしまして。」

 買ったものは何であれ、リオンはアリサが喜んでくれたことに満足する。

 その後、リオンとアリサは、日用品や食材を買い寮に戻った。

 

 

 

 

 

 

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