16 魔法特訓
特訓の初日。リオンは魔力探知にならすために常に魔力探知を発動しておくだけ。これはアリサのことで動揺した時を除いて、途切れることはなかった。そもそも、リオンたち剣士も戦闘の際は身体強化魔法を常にかけているので、長期間魔法をかけるということには慣れている。
マリアの狙いは魔力探知の精度を上げることが真の目的だ。魔力探知を常にかけていると、見える世界というのが変わる。
例えば、人を見る時だと、サーモグラフィを通して見るようなものとなり、魔力量が可視化されるようになる。それの精度が上がれば上がる程、可視化された魔力量の画質がよくなると言えばいいのだろうか。明瞭に魔力量を見れるようになる。
魔力探知を使い続ければ使い続けるだけ、その精度というのは向上していく。要は、魔力を見ることに慣れると精度が上がるというわけだ。
アリサの方は、氷属性の最上級魔法である氷の円舞の習得のための特訓だ。魔法を発動するためには、発動するための魔術式を構築する必要がある。その魔術式さえ構築できれば習得となる。
一見簡単なように見えるが、実際はそうでもない。魔術式は魔法の難易度に比例して複雑になる。魔術式を少しでも間違えれば、魔法は発動しない。
だから、正確に魔術式を発動させることから始める。最初は魔導書を見ながら発動させ、それを繰り返し魔法を発動することに慣れる。それと同時に魔術式を覚えなければならない。本番の戦闘では、魔導書を見ながら戦う余裕はないので、見ずに発動できないと使えないからだ。
それもただ発動できるだけでは物足りない。発動までに時間がかかっていては、戦闘では使い物にならない。だから、戦闘で使えるまで発動速度を上げるために、反復し練度を上げる必要がある。
アリサの場合だと、既に炎の輪舞という最上級魔法を覚えているため、習得までの一連の流れをよりスムーズにできる。
これが初めて最上級魔法を習得する時だと、最初の段階で躓く。最上級魔法は上級魔法に比べても、各段に複雑なので、まず正確に魔法を発動できるようになるまでにかなりの時間を要する。
アリサは魔導書さえ見れば難なく魔法を発動できるので、このステップをスキップできる。今日は、魔術式の暗記に時間を費やした。それでも、全然覚えることができない。複雑な魔術式を暗記することはそれだけ至難というわけだ。
マリアの目論見では、この特訓期間を通じてリオンには自分たちより少し劣る程度の魔力探知ができるように、アリサには水、地、氷の3つの属性の最上級魔法を戦闘で使えるレベルまで持っていけるようにすることだ。
アリサの課題の方はおそらくどうにかなる。今日の感じだと炎の輪舞と同等の使い勝手とはいかないまでも、実戦で使えるレベルには十分到達するだろう。
問題はリオンの方だ。正直どうなるか分からない。リオンが魔力探知のコツとかを掴んだりしたら話は別かもしれない、今の調子だと合宿中に次のステップに進むことはできないだろう。
そもそも、魔術師が幼少期から何年もかけて極める魔力探知を、たった2週間足らずでものにしようとする方がおこがましい話だ。マリアとしては、この合宿で魔力探知とか魔力の何たるかをリオンに知ってもらい、冬にある男女混合演習までに成長してくれれば何とかなる。
リオンだってすぐに習得できるとは思っていないし、学校を卒業するまでにアリサに勝つことが目的なのだから、そこまで焦る必要もない。
マリアの授業の初日は多くの課題の発見で終わった。
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マリアとの特訓が開始して1週間が経過した。
リオンは魔力探知をこの一週間、寝る時以外はかけ続けていた。既にリオンは魔力探知を身体に馴染ませることに成功し、魔力探知をかけている状態が自然となった。とはいえ、精度の方はまだまだだ。流石に一週間ですぐに成長するものでもない。
アリサの方はこの一週間で、氷属性の最上級魔法である氷の円舞を習得した。流石に炎の輪舞と比べれば練度は足りないが、十分戦闘で使えるレベルまで成長した。アリサは次の魔法、水属性の最上級魔法である水の舞踏の習得に移行している。
一週間修行漬けだったリオンとアリサにマリアはある提案をした。
「私たちって魔法の特訓に来たのよね?」
アリサは今置かれている状況に疑問を抱く。
「もちろん。でも、ずっと特訓でも疲れちゃうでしょ。だから、息抜きで非常に大事だと思うんだよね。」
マリアは特訓の息抜きとして、海で遊ぶことを提案した。せっかく海の近くにある別荘に来たのだから、泳がないで帰るなんてもったいないとのこと。
アリサは水着がないという理由に断ろうとしたが、そこはマリアの方が一枚上手で、アリサのサイズにあった水着を何種類も用意していた。一着しか用意しなかった場合、アリサがこの水着は気にいらないという言い訳を防ぐためだ。
アリサはマリアに押し切られた感じで、渋々参加することにした。アリサが選んだ水着は黒色のワンピース様の水着で、余り露出がないものを選択した。別にアリサは恥ずかしがってその水着を選択したのではなく、背中に刻まれた魔方陣をリオンやマリアに見られたくなかったからだ。
アリサに対しマリアは、非常に露出度の高いビキニタイプの水着を選んだ。マリアのこれでもかという豊満なボディを強調するかの際どさ。ビキニの色は白色で、マリアの綺麗な水色の長髪といいシナジーを生み出している。
「二人ともすごく似合っているよ。」
水着に着替えたリオンが二人と合流する。リオンの水着はトランクスタイプで、上半身はリオンの鍛えられた肉体が目立つ。
リオンは水着姿の二人を褒める。水着姿というだけでいつもと雰囲気が違う。女性と海で遊ぶのが初めてなリオンは少し緊張する。
「ふぅん、リオンは女子の水着を見るの初めてなんだ。」
リオンの照れ具合をみてアリサはそう確信する。これはからかいがいがありそうだ。
「ふふふ。リー君には少し刺激が強いかな~。」
マリアは自分の胸をよせてさらに強調する。
「まっまあ、そうですね。」
リオンはマリアから目をそらす。目の保養にはなるが、リオンには耐性が無さすぎる。
(これじゃあ、だめか。)
リオンの心は少し揺らいでいたが、マリアの狙いにはまだ刺激が足りないようだ。
(やっぱり私じゃなくて、リー君が惚れてるアーちゃんの方が効果がありそうだね。)
マリアは作戦を変更する。
「ごめんね、アーちゃん。」
「えっ?」
マリアは一言アリサに謝罪を入れ、アリサの着ているワンピースをずりおろす。アリサの控え目ながらも膨らみのある胸が丸見えになる。
「・・・。」
リオンは突然の出来事に呆然としながらも、アリサの胸とその先端にあるピンク色の突起を目に焼き付ける。
「・・・。リオンの魔力探知の修行のためにここまですることないんじゃない。」
アリサは水着を着なおしながら言う。マリアがアリサの水着をずらした理由はすぐに理解できた。リオンの魔力探知が途切れるか否か試すため。アリサも常に魔力探知をかけているから、リオンの魔力探知が途切れたことはすぐに分かった。
「まあまあ、リー君のためだと思ってね。じゃあ、魔力探知が切れたリー君は、また遠泳でもしてもらおうかな。」
「はい。」
リオンは海に向かい歩き始める。
「それにしてもリオンもまだまだね。裸を見たくらいで途切れるなんて、集中力がちょっとばかし足りないんじゃない。」
アリサは海に向かうリオンを見つめる。
「そうだね。アーちゃんはさっきのことでも、一切同様せずに魔力探知は途切れなかったもんね。」
「別に、裸を見られることなんて何とも思わないわよ。私はマリアさんと違って、汚れた身体だから。」
アリサは裸を見られることに抵抗はない。殺し屋時代に幾度となく、色々な人物に見せてきたのだから。ハニートラップを用いて殺した相手も多い。世の中には数奇な者もいて、アリサのような幼児体型が好みな男性というのもいる。そういう相手にはベッドに連れ込んで殺すのが一番だ。行為をしようとする時に、武器を隠し持っている男なんていないのだから。
「嫌なこと思い出させたかな?」
マリアはアリサの態度を見て、悪いことをしたかなと反省する。
「別にいいわよ。それより、マリアさんの目的の方は達成できたの?背中の魔方陣を解析しようとしてたみたいだけど。」
アリサはあの瞬間、マリアが解析魔法を使っていることが分かった。あのタイミングで解析魔法を使う理由、アリサには自分の背中にある魔方陣を解析しようとしている以外に考えられなかった。
「さすがアーちゃん。そこまで分かっちゃうんだ。」
アリサの発言はずばり的中していた。マリアはこの一週間、アリサの背中の魔方陣をどうにかして解析しようとしていた。本当は一緒にお風呂に入ったりして解析したかったのだが、アリサのガードが固くお風呂に一緒に入るどころか、着替えすらも一緒にすることはなかった。アリサとの魔術戦で勝利した時の報酬であった、アリサを好きにできる権利を使っても良かったのだが、無理強いをして、アリサの心象を悪くしたくなかった。
だから、中々アリサの背中を見る機会を得ることができなかったマリアは、今回のようなリオンの修行という口実を使ったわけだ。
「それで?魔方陣を見てどうだったわけ?」
「詳しくはちゃんと見ないと分からないけど、あの魔法陣、私なら解除できると思うよ。」
マリアはあの一瞬でおおまかな魔法の構造は分かった。アリサの身体を蝕む魔方陣は排除した方がいい。マリアのそういう想いから、さっきの言葉がでたわけだ。
いつ魔力が過剰に溜まるか分からない状態なんて、危険以外の何物でもない。
「仮に解除できたとしても私はしないわよ。」
「どうしてなの?このままだったら、あなたは常に死と隣り合わせな状態にあるんだよ。」
「・・・。まあ、マリアさんには私の気持ちなんて分かるはずないから、そう思ってもしょうがないわ。」
マリア・フローリア。この国に生まれた魔術師なら、誰もが羨む才能の持ち主。そんな相手に自分の境遇や気持ちが分かるはずがない。
「・・・そうね。アリアからある程度アーちゃんの話は聞いているから、アーちゃんが力を欲する理由も何となく分かるわ。」
マリアが聞いた話だと、アリサは魔力が少なかったことから、スカーレット家では腫物扱いされていたらしい。そして、その終着点が絶縁され、とある施設に行くことになったとか。
力が無くて不幸になったアリサが力を求めるのは必然だ。
「なら話は早いわね。この世界、特に名家にとっては力こそが全てだった。けど、あの時の私は力なんてなかった。でも、今は違う。史上最強の魔術師と名高いマリアさんとだって、渡りあえる力がある。こんな力手放せない。いくら自分に危険が及んでいるとしても。」
アリサは力が無いことでの辛い思いが心の中で深く根付いている。そんなアリサが異質とはいえ、力を得ることができた。手放してまた、みじめな自分に戻るのはできない話だ。
それにこれからの生活を考えた時、アリサには力が必要だ。剣術学校を卒業した後、何かしらの仕事をしなければならない。その時に、力があれば選べる仕事の幅というのは増える。
「・・・分かったわ。アーちゃんがそう言うなら強制はしない。でも、いつでも心変わりしたら言ってね。私も、アリアだって力になるからね。」
マリアは望み薄だと思いながらもアリサにそう告げる。それだけ、マリアはアリサの今の状態というのを危険視しているということだ。
「そう。」
これからいくら時が経ったところで、アリサのこの気持ちというのは変わらないだろう。
「はい。これでこの話はお終い。せっかく遊ぶんだから楽しまないと。」
マリアは手を叩き話を無理やり終わらせる。元々、アリサに魔方陣の話をするのはもう少し後にする予定だった。アリサの姉であるアリアがいる時に。その方がアリサを説得できると踏んでいたからだ。アリサの魔方陣を解析する機会がなくて、無理やり解析したことで順序が滅茶苦茶になってしまったわけで、この話を長引かせることは、マリアにとってもメリットはない。
マリアにとってこの合宿で必要だったのは、アリサの魔方陣を解除できる可能性があるかどうか判断するのみ。後のことは、アリアと相談しつつ進めていく手筈となっている。
今からでも、その道筋に戻す。
「・・・別にやることないでしょ。私は部屋で休んでいるから。」
「そう言わずに、海で泳ぐだけでも気持ちいよ。」
マリアは帰ろうとするアリサの手を掴み海へ無理やり連れて行く。
結局、3時間程海で遊び、アリサにとっては特訓をするように疲れる時間となった。




