表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

13 魔術戦を終えて

 アリサがリナに自分のことを打ち明けて一夜がたった。

 「リナちゃんに全部話してよかったのかしら?」

 アリサはリナに自分の境遇を全て話した。多分、自分の全てを知ったのはリナが初めてだろう。ジンも自分のことをいくばくか知っているはずだ。でも、闇ギルドに所属してからのことがメインだろう。あとは、ジンは自分の出自を知っている可能性が高い。

 そうでないと、アリサがジンを殺すことに失敗しなかったのだから。アリサはジンに魔法を完封されたことによって負けた。女性の殺し屋だから、魔法を主体にするのは想像しやすいと思う。だけど、ジンは炎の輪舞フレイムロンドに焦点をあてて対策してきた。

 アリサは殺し屋としてこなした依頼は、ジンを除いて全て成功している。つまり、アリサの戦い方、得意魔法等は闇ギルドの団員(一部)しか知らない。なぜなら、戦闘スタイルを見せた相手は殺してきているからだ。

 そこから導き出せる結論がジンが私の出自を知っている可能性があるということだ。

 (まあ、それでもジンは私が生まれてから、闇ギルドに所属するまでにあった一番大事なことを知らないはず。)

 ジンが自分を養子にするよう誰かに頼まれた可能性が高い。殺し屋で若い女の子を養子にしたいとかいう、変な癖が無ければ殺し屋である自分を養子にする必要はない。

 おそらく、ジンが私の存在を見つけた時には、既に闇ギルドに所属の殺し屋だった。だから、依頼するという形で、強引に私に近づいたのだろう。

 だって、闇ギルドに所属する前の自分は・・・。

 「なんだかんだで、私も友情とか愛情を求めているのかしら?」

 リナに自分の秘密を打ち明けた時を思い出す。殺し屋になった時、いや、それよりも前から、自分は人に対して一切感情が沸かないようになっていた。それが、ジンの養子になり、リオンと出会い、リナと再会したことで、少しずつほだされたのかもしれない。

 「考えても仕方ないわね。」

 自分の感情については結論がでない。

 後は、リナがリオンに自分の秘密を言わないという口約束を守ってくれるよう祈るばかりだ。

                       ♦

 アリサがリナに自分の秘密を打ち明けたからといって、リオンの家での生活に特段変化は無い。リオンとヒカリはアリサのことを知ったわけではない。リナも自分の秘密を言いふらすような人ではない(多分)。  

 リナ自身もアリサが昔の友人だと分かったからといって、態度を急変させるわけではない。急に馴れ馴れしくなったら、リオンやヒカリが不信に思うだろう。少しくらいなら、魔術戦を通じて仲良くなったとう言い訳がたつ。

 一つ変化があるとすれば、リナにアリサが魔法を教えることとなった。アリサの得意魔法である炎の輪舞フレイムロンド。それをリナが習得したいからだ。

 リナは来年魔術学校に入学する予定だ。予定というのは、まだ入学試験を受けていないからだ。無論、リナの能力だと魔術学校に入学できることは確定といっていいだろう。受験者の質によっては、首席で合格できるかもしれない。魔術学校も剣術学校同様8つある。優秀な魔術師がリナと同じ学校を受験しなければ可能性はある。

 でも、今のリナだと魔術大会で優勝できる見込みとは少ないだろう。ペアがよほど優秀でない限り。

 リナは確かに同学年と比べれば優秀な魔術師の部類には入る。ただ、リナ以上に優秀な魔術師もいるのもまた事実。特に魔術師の名家の子どもたちに勝てる見込みは少ない。その理由として、リナが最上級魔法が使えないという点だ。

 魔法には初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法の4つの区分に分かれる。文字通り、初級魔法が発動難易度威力が最も低く、最上級魔法が発動難易度及び威力が最も高い。

 ただ、威力という観点だけをみるなら、魔力量次第では初級魔法でも最上級魔法くらいの威力が出せる。初級魔法に最上級魔法で消費する魔力以上に魔力を込めればいいだけの話だ。

 じゃあ、最上級魔法が優れている点は何か?一つは魔力の発動速度。最上級魔法は既に一般化されている魔術式を発動するだけ。それに対し、初級魔法で威力を上げるには、一般化されている魔術式を少し書き換えて発動しなければならない。そうなると、書き換え時間の分、発動までには時間がかかる。

 少し話に付け加えるとするなら、一般化されている初級魔法と最上級魔法の発動速度を比べると、当然初級魔法の方が速い。最上級魔法の方が初級魔法よりも魔術式が複雑であるからだ。

 さらに言うと、最上級魔法はその複雑さえ所以に全員が全員扱えるわけではない。だから、一般的な魔術師は上級魔法を自分の使いやすいように書き換えることが多い。

 一つは魔力効率の問題だ。最上級魔法は複雑ではあるが、それ故に魔術式自体はとても優れている。一般化されている魔法と言うのは、優秀な魔術師が何人も集まり魔術式の最適化を図り作られた努力の結晶だからだ。

 その魔法をたかが一魔術師が書き換える。そうなったら、せっかくの最適化されている魔術式が最適化じゃなくなる。非効率になるわけだ。魔術戦は自分の持っている魔力が文字通りの生命線となる。魔術師は剣術を扱えるわけではない。アリサみたいな人物が特別なのだ。

 だから、魔力がなくなる=戦闘できなくなる。これが魔術師の宿命だ。そのため、魔力消費の効率がよく威力が高い魔法である最上級魔法を使える者が優秀な魔術師とされる。

 もちろん、短期戦や一対一での戦闘ならこの限りではない。あくまで最上級魔法は使えると有利というだけで、必勝の手札というわけではない。でも、有利に戦闘を運ぶには必要であり、攻撃の手札が多いというのは選択肢の幅が広がる。

 今後、魔術師として生きていくなら、覚えておいて損はない。

                       ♦

 「何か最近疲れるわね。」

 「ごめんね。アリサちゃん。私がわがまま言ったから。」

 アリサとリナは2人でお風呂に入っている。今は2人きりなので、リナの口調は友達モードになっている。

 アリサはリナに魔術を教えることと、リオンとの剣術特訓で一日の3分の1は消費している。学校生活も同じくらい時間が消費されるが、アリサは授業中に睡眠したり、実技授業もさぼることで、体力を温存していた。

 しかし、今はそうではない。リオンとの鍛錬は気を休める暇はないし、リナに魔法を教えるのは神経を使う。要は言葉通り疲れているわけだ。

 「いいのよ。私も友達とこういうことしてみたかったし。」

 アリサは人生で友達と研鑽したことは一度もない。だから、今は疲れはするが、楽しいものでもあった。

 「私も楽しいよ。アリサちゃんとこうして話せて、魔術研鑽できて夢みたい。あの頃なら、絶対にできなかったことだったから。」

 「そうね。」

 「そういえば、明日からお兄ちゃんたち、マリアさんに魔法を教わりにいくんでしょ。」

 「そういうことになってるわね。私は乗り気じゃないけど。」

 今日の朝、ジンからリオンに連絡があった。マリアの予定の調整が上手くいき、明日から剣術大会開催日前日までの約2週間、フローリア家が所有する別荘で魔法を教わりにいくことに決まった。

 「アリサちゃん大丈夫?マリアさんとは面識あるでしょ。私の時みたいに正体ばれない?」

 「むしろ、私のこと知ってるからだと思う。じゃないと、私を条件に出さないでしょ。」

 マリアは名家フローリア家の娘にして、史上最強の魔術師としても名高い。当然、社交界の顔を出す機会も多い。アリサの何度か社交界で会ったことがあるし、同性ということで話したこともある。特に姉が仲が良かったので、印象に残っている。

 「じゃあ、断ればよかったじゃん。別にアリサちゃんが困ることはないでしょ。お兄ちゃんは滅茶苦茶困るだろうけど。」

 「そうなんだけどね。」

 アリサに断るという選択はできた。でも、そうはしなかった。リオンが頑張ることの妨げにはならなかった。

 「私ね、リオンのことで一つだけ認めていることがあるの。リオンは才能に溺れることなく、努力を続けることよ。」

 リオンの才覚は別格だ。正直それだけで軍の上位層と渡りあえるだろう。だけど、リオンはその才覚に溺れることなく高みを目指している。特にアリサに負けてからはそれが顕著だ。負けて不貞腐れるわけでもなく、ひたむきに上を向き続ける。

 剣士の成長には遠回りな魔法を習得ようとしている。それをおろそかにしてはいけない。

 「アリサちゃんってさ、本当はお兄ちゃんのこと好きでしょ。別に恋愛とかそういう意味ではないとは思うけど。」

 「そうね。人としてはね。」

 リオンはアリサが今まで会ってきた名家の人間とは違う。才能に溺れないし、名家の力に笠を着たりしない。まあ、リオンの境遇が彼の人格を形成したのだろうが。

 「お兄ちゃんのことこれからもよろしくね。」

 「しょうがなわいね。ところで、リナちゃんからみて、マリア・フローリアはどうみえる?」

 アリサがマリアと話したのは十年以上前だ。その時のマリアはまだその才が覚醒しておらず、普通の貴族の娘といった感じだった。しかし、今は違うだろう。今は史上最強の魔術師として称えられているわけだから。

 「普通にいい人だと思うよ。私はあんまり話したことないけど、悪い噂は聞かないよ。アリサちゃんのお姉さんと2人で数々の魔術師記録を打ち破っているしね。そっか、お姉さんがアリサちゃんのことを心配して、マリアさんに様子を見てくれるよう頼んだんじゃない?」

 「その可能性はあるわね。むしろ・・・。」

 姉が全て手筈を整えていた。そう考えた方が辻褄が合うのかもしれない。ジンと姉にどのような繋がりがあるか分からない。でも、ジンが自ら私を養子にするとは考えられない。それなら、姉がジンに頼んだ。こう考える方がまだ納得できる。

 それに、アリアとジンが知り合いなら、必然的にマリアとも知り合うことになるし、今回のリオンの教師の件にマリアが関わることもできる。それに、マリアが出したアリサ同行の条件にも説明がつく。

 まだ決定的な証拠はないし、推論の域は出ないが、かなり核心に迫っているだろう。

 (アリアお姉ちゃんは唯一私の味方だったし。)

 アリサのトラウマの幼少期。その中で自分に光を与えてくれたのが、姉のアリア・スカーレットだった。もしかしたら、自分が家からいなくなった後も心配していてくれたのかもしれない。

 「難しいこと考えても仕方ないよ。アリサちゃんには、私とお兄ちゃんが味方なんだから、気にせずに前に進めばいいと思うの。」

 「・・・そうね。」

 今は昔と状況が違う。力が無くてただ怯えているだけの自分ではない。もう、一人で抗える力がある。最悪、何かあっても乗り切ることができる。

 とりあえず、マリアはコテンパンにしよう。そう誓うのであった。

                       ♦

 「お兄ちゃん、アリサさん。剣術大会頑張ってね。全戦全勝だよ。」

 リナと次に会う時は、もう剣術大会は終わっている。だから、発破をかけるのはこのタイミングしかないわけだ。

 「もちろんだ。良い報告、期待してろよ。」

 「リオンの頑張り次第かしらね。」

 2人はそれぞれ返答する。

 「では、マリア様の別荘付近まで馬車を手配していますので。」

 「じゃあな。」

 「元気でね、リナちゃん。」

 リオンとアリサは馬車に乗り込む。

 一人は自分の魔法技術の向上のために。一人は自分の現在の境遇について確かめるために。

 馬車は目的地に向かって進んでいく。

                       ♦

 「いいなぁマリアは。明日から、アリサちゃんとリオン君の二人と合宿にいくわけでしょ。」

 アリアは一人お留守番であり、自宅に暇を持て余すので、マリアを羨ましがる。

 「久しぶりに連絡してきたと思ったら、いきなり愚痴ですか?」

 魔術学校も夏休みは寮が閉まるため、全生徒が自宅に帰宅している。同部屋であるマリアとアリアも、この期間だけは離れ離れになる。毎日話していた相手とも、夏休みになればそうではなくなる。二人は実に1週間ぶりの会話だった。通話越しではあるが。

 「しょうがないでしょ。ジン先生の考えなんだから。演習までは我慢しなさい。」

 「私もアリサちゃんに会いたいよ。十年みないうちに、滅茶苦茶可愛くなってるんだから。」

 アリアがアリサを最後に見たのは6歳の時。ジンの養子になるまで、約10年。彼女の姿を見ることができなかった。久しぶりに映像越しに見た彼女は、もうアリサに知っている彼女ではなくなっていた。それでも、生きていて成長した姿を見た時には感激した。

 「相変わらずシスコンなんだから。その愛をアリカにも分けてあげればいいのに。」

 「いくらマリアでも怒るよ。」

 「ごめんなさい。親とアリカの話は禁句だったわね。」

 「それより、マリアはリオン君たちに何を教える予定なの?」

 「まだ決めてないわ。まずは実力を見ないとね。特に彼女の方をね。」

 マリアは窓に映る光り輝く半月を見た。 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ