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10 特別授業

 校内戦が終わり、本戦及び新人戦の代表生徒が決定した。そして、今日から夏休みまでの約2週間、実戦を交えた特別授業となる。上級生は基礎練をした後は、ひたすら模擬戦。基礎が固まっている上級生は、後本番に向けての練習となる。

 上級生特に3年生は練習に熱が入る。やはり、本戦ベスト8に入ると軍に推薦入隊できることが理由だろう。この学校で可能性があるとしたら、アルトのペアぐらいだろうか?他の学校の実力がどの程度のものか分からないが、少なくともアルトのペア以外がベスト8に残れる実力があるとは思えない。

 1年生はというと、上級生と別メニューである。その理由は単純で実力差があり過ぎる。1年生も新人戦に出場する生徒たちなので、優秀な部類ではあるのだが、本戦をかけたトーナメントでは、リオンのペア以外は一回戦で敗退している。

 その中でも、リオンたちのペアだけは個人で練習している。これはリオンの独断ではなく、ジンに交渉した結果の判断だ。

 1年生は別メニューとなるかつ、代表生徒が全員Aクラスであることから、Aクラスでの担任であるジンが担当することとなった。

 リオンたちを個別の練習にしたのも当然理由がある。一つは、リオンの実力が圧倒的すぎることだ。実力があり過ぎると練習にならない。指導という名目ならいいのだが、それだとリオンの練習にならない。それに、同級生から教わるというのは、少なから他の生徒のプライドを傷つけることになる。

 もう一つは、逆にアリサの実力がなさすぎることだ。リオンとは逆の理由で、他の生徒の練習相手にならない。

 リオンだけを上級生に交えて練習させても良かったのだが、それだとアリサが一人になってしまう。それに、リオンはアリサの強化に尽力したいとの申し出だったので、個別練習にさせることにしたわけだ。

 ただ、リオンたちのワガママを何でも認めていたら、他の生徒たちから不平不満が出てしまう。だから、ジンは新人戦優勝という条件を課した。もし、達成できなかった場合、今後は特別扱いをしないと。

 この世界は勝負の世界だ。勝てば官軍負ければ賊軍という言葉があるように、勝ち続けていれば何も問題がないわけだ。

 「気楽に特訓しようぜ。」

 リオンはアリサとの剣術向上を目的とした特訓を開始する。とは言っても、そこまで真剣にはやらない、ジンが出した条件、新人戦の優勝。リオンはアリサというハンデを抱えていても、難なく達成できると思っている。少なくとも、今までに自分よりも強い同級生を見たことがない。

 それに特訓というのは長くすればよいというものでもない。短い時間でもいいから、毎日続ける方に意味がある。例えば、9時間特訓するとして、1日で9時間練習するのと、3日間3時間ずつ練習するのでは後者の方がいい。なぜなら、毎日する方が身体に馴染みやすいからだ。勉強とかと同じで、一日で詰め込んでも、毎日やらなければ、身体は忘れていくものだ。

 「そうね。」

アリサも特訓自体は必要だと思うが、上級生や他の1年生のように気迫溢れる特訓はしたくない。だから、リオンの提案は魅力的なものだった。

                       ♦

 特別授業になってからの1日というのは凄い短く感じた。やはり、同じ授業時間でも、自分たちで好きなようにできるなら、時の感じ方というのは違うものだ。

 今日は終業式前最後の授業であり、当然、特別授業も最終日である。最後はこの特別授業の成果を発揮すべく、模擬戦によるトーナメントで締めくくるというわけだ。ただ、上級生と1年生では実力差があるので、本戦に出る生徒のみのトーナメントと1年生のみのトーナメントの二つに分けられる。

 リオンたちは本戦と新人戦の二つに出るわけだが、今回は本戦用のトーナメントのみに参加することになった。

 先に新人戦のトーナメントを行う。リオンがいないトーナメントは、実力が団子状態で誰が優勝するか分からない面白いものとなっていた。結果は3位のペアが優勝した。

 そして、大トリを飾るかのように本戦出場選手によるトーナメントが始まる。リオンたちは順調にトーナメントを勝ち進んでいく。アリサもリタイアすることなく、戦闘に参加したが、流石に本戦出場の上級生相手だと戦いは厳しいものとなっていた。それでも、アリサがやられる前にリオンが一人目を倒す方が早いため、リタイアせずにすんでいた。

 そして、いよいよ決勝戦。リオンたちの相手は、3年生トップのアルトのペアだった。

 「リオン君。君と戦うのは3年前の社交界以来だね。あの時は完膚なきまでに叩きのめされたけど、今日は前のようにいかないよ。」

 「先輩の胸を借りるつもりで全力で戦います。」

 アルト・タルワール。この学校では明らかに別格の生徒。今のリオンとアリサみたいなものだ。1位が圧倒的に優れていて、2位はアルトが敵を倒すまでの時間稼ぎをするに過ぎない。ただ、惜しむべきなのは、アルトはリオン程強くなく、アルト一人で強者二人を相手にすることは難しいという点だ。

 前回の剣術大会本戦も、2年生ながらに出場したが、結果は1回戦負け。ペアの相方がすぐにリタイアしてしまったため、早期から2対1を余儀なくされたアルトは、そのまま押し切られて負けたわけだ。

 アルトたちはその悔しさを糧に今日まで、そしてこれからも鍛錬を重ねていく所存だ。

 「試合開始。」

 その言葉と同時に、リオンとアルトがぶつかり合う。先手を取ったのはリオン。リオンは初撃から流れるように2撃目、3撃目を繰り出す。大抵の相手はその速くて重い攻撃により隙が生じ、4撃目、5撃目で止めを刺す。

 リオンが日ごろから練習している黄金パターンだ。しかし、アルトはその猛攻を耐え凌ぎ、主導権がリオンにある状態をリセットするために一度大きく距離をとる。

 「流石ですね。」

 リオンの猛攻を耐え凌いだのは、この学校ではアルトが初だ。やはり、他の生徒とは別格だとリオンは感じる。以前に戦った時よりも格段に成長している。

 「そっちこそ。入学したての1年生だとは思えないよ。」

 アルトは2年間、剣術学校にて精を出してきた。実戦もたくさん積んできたし、入学前に比べて遥かに成長している実感もある。

 (それでも、リオンは別格だ。)

 上級生にも侵入騒動の噂は広まっている。リオンが自分を殺しにきた闇ギルド団員を皆殺しにしたという。実戦、それも対人間との命の取り合い。上級生でも誰一人として経験していないことだ。

 「今度はこっちからいくよ。」

 アルトが攻撃を仕掛けに行く。アルトが出せる限りのトップスピードで。

 (ダメですよ。先輩。そんな攻撃じゃ。)

 アルトのトップスピード・確かに並の学生に比べれば格段に速い。けど、リオンの眼には遅く映る。それに、アルトの攻撃は主導権を握るための先制攻撃。何か特別策があるわけではない。そんな攻撃、リオンが防げないはずもなく。

 (先輩の判断は間違ってはいないんだけどな。)

 アルトが一旦距離をとり、態勢を立て直したところまでは悪くはない。あのまま、リオンの攻撃を受け続けていたら、自力の差でリオンに押し切られていただろう。

 けど、立て直したところで、実力差が埋まるわけでもない。リオンはアルトの攻撃を避け、一閃。トップスピードを出し、攻撃に振り切っていたアルトにリオンの攻撃を防ぐことはできなかった。

 攻撃は最大の防御というが、それはあくまで攻撃が成功している場合の話だ。成功しない攻撃では、無防備な格好の的でしかない。

 「ぐはっ。」

 アルトはリオンの重い一撃を受けその場にうずくまる。勝負はあった。

 「アルト・タルワール、死亡判定とする。」

 審判の先生の宣告により、アルトのリタイアが決定する。

 「後は、アリサの方か。」

 リオンはアリサの方の方へ歩いて行く。仮にアリサが負けていたとしても、こちらの勝利は揺るがない。だから、急ぐ必要がないわけだ。

 リオンの視界にアリサたちが映る。

 「こう見ると、アリサも大分成長したよな。」

 アリサの剣術はまだまだだ。上級生相手に剣術のみで勝つのはまだ先の話になるだろう。それでも、リオンが駆けつけるまで耐え忍んでいることは、十分に評価できる。実力差がある戦闘というのは、一瞬で終わることが多い。

 実際、リオンとアルトの戦闘がそうだったように。アリサと相手にもそれくらいの実力差がある。いくら、アリサが防御に徹した戦い方をしているとはいえ、相手の攻撃が続けばじり貧になり負けに繋がっていく。

 そこはアリサの殺し屋としての戦闘経験が役に立っているのだろう。死線を乗り越えると集中力や勘というのは磨かれていく。それに、色々な相手と戦うということは、色々な攻撃パターンを知ることでもある。様々攻撃を想定しながら、回避しているのだろう。

 「お待たせ、アリサ。」

 「・・・また、様子見てたでしょ。」

 アリサはようやく駆けつけてきたリオンを見て相手と大きく距離をとる。

 「後は任せろ。」

 そこからの勝負は一瞬。語るまでもなくリオンの勝利で終わった。

 このトーナメントでの優勝。それが意味することは、リオンはこの学校で1番強いということだ。リオンは、他校に自分を唸らせる強い相手がいることを祈りつつ特別授業は終了した。

                       ♦

 終業式も終り、いよいよ今日から約2ヶ月の夏休みがある。とは言っても、夏休みの真ん中に、剣術大会が開催されるので、実際はもう少し短い。それでも、十分長い休みだ。その期間を休養に当てる者もいれば、自己研鑽に励む者もいるだろう。

 リオンも当然、自己研鑽を怠ることはしない。ただ、せっかくの夏休み。新しいことに挑戦することも悪くはないそう思っていた。

 「悪いね。ちょっと職員会議が長引いてしまって。」

 ジンは遅れことを詫びながら、リオン、アリサと合流する。

 「ほんと、ジンが早く来ないから、お腹が空きすぎで死にそうだったわよ。」

 リオン、アリサはジンに誘われ、学校近くにある高級レストランに来ていた。

 アリサはめんどくさいから、断ろうと思っていたが、「夏休みの生活についての大事な話がある。」とジンに無理矢理参加させられた。

 「悪かったね。今日は僕のおごりだから、好きな物じゃんじゃん頼んでよ。」

 「ほんとに遠慮なく頼むからね。」

 アリサは店員を呼び食べたい料理を次々に注文していく。ジンが来るまでの時間で、食べたい物を一通りチェックしていたのだ。

 「それで、先生。大事な話ってのは?」

 学校ではなく、わざわざ場所を変えて話すなんて、よほど他の生徒等に聞かれたくない、重要な話なんだろう。リオンはそう思っている。

 「リオン君はせっかちだね。まあ、そんなもったいぶる話でもないからいいか。リオン君に以前頼まれていた魔術の先生の件だけど、現魔術学校3年生マリア・フローリアから許可をもらったけどどうする?」

 「マリアさんですか?」

 リオンは正直驚いた。マリア・フローリア。リオンも何度か社交界であったことがある人物だ。氷魔法の名家、フローリア家のご令嬢。しかも、マリア・フローリアと言えば、学生にして歴代最高魔術師としての呼び声も高いほどの逸材だ。

 学生の魔術大会でも、ペアである炎魔法の名家、アリア・スカーレットと共に、1年生で新人戦、本戦にて優勝。2年生の本戦優勝。今年の本戦で優勝すれば、全優勝の完全制覇となる。

 その強さは学生大会にとどまらず、軍所属の魔術師、ギルド所属の魔術師、フリーランスの魔術師等、国内の魔術師なら誰でも参加できる大会にて、アリア・スカーレットとペアで参加し優勝している。

 既に実力だけで一級品であるが、魔術知識もすごく、新作魔法に関する論文を発表したりもしており、この国の魔法社会の発展にも貢献している。

 (それほどの大物に頼み事をできるなんて・・・。この先生何者だ?」

 リオンが以前、ジンについて調べた時にエヴァンズ家とフローリア家に繋がりはなかった。ジン個人の人脈だろう。

 「それは願ってもない話ですね。」

 国内最高峰の魔術師。そんな人物から魔法を学べるなんて願っても中々できない。マリア側にリオンというかキングスフォード家と関わりを持ちたいという、政治的な欲望があるのかもしれない。ただ、それを差し引いても、おつりがくるレベルだ。

 「へぇー。リオン魔術の特訓するんだ。まあ、私に勝つためには必要不可欠だしね。」

 アリサも自分の魔法が完封されれば、リオンに負けることは分かっている。実際、魔法無しの校内戦とかで勝てないわけだし、リオンに剣術では手も足もでない。

 (まあ、どんなに対策しても、私の魔法は止められないけどね。)

 アリサは自分の魔法が負けるわけないという絶対的な自信を持っている。今、話に上がったマリア・フローリアにも引けを取らないと思っている。彼女の本当の実力を実際に知っているわけではないが。

 「そうそう。リオン君には悪いけど、アリサ君にもマリア君の指導に参加してもらうから。」

 「えっ。」

 「はっ?どういうことよ?」

 リオンも驚いたが、それ以上にアリサが驚いていた。

 「マリア君がね、リオン君に教えるなら、ペアであるアリサ君に魔法を教えるのも手間ではないからだって。むしろ、アリサ君が来ないならこの話はなかったことにするみたいだし。」

 「俺は別に構いませんけど。」

 アリサの魔法能力が向上して、これ以上手に負えなくなる可能性もある。そうだとしても、自分の魔法能力が向上しないことにはアリサへの挑戦権すらない状況だ。だから割り切るしかない。

 それよりもリオンが気になるのはアリサを参加させることについてだ。なぜマリアがアリサのことを知っているのか?もしかしたら、リオンが魔法を教わりたい経緯として、ジンから多少話を聞いたのかもしれない。それでも、マリアがアリサが来ることを条件にすること真意が分からない。マリアはアリサのことを知っている?

 リオンはチラリとアリサの方を見る。

 「どうして、私が参加しなきゃいけないのよ。魔法なんて教わる必要ないわ。」

 アリサは自分の魔法に自信を持っている。それに、誰かから魔法を教わるなんて嫌だ。

 「まあ、そう言わずに参加してよ。マリア君はこうも言ってたよ。私に勝てるなら、教わらずにゆっくりしてたらいいって。炎魔法一辺倒で私に勝てたらの話だけどとも言ってたかな。」

 「何よあの女。いいわ。私が滅多滅多にして、その鼻をへし折ってやるわよ。」

 アリサは闘志を燃やすと共に、料理をやけ食いした。


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