1 入学式
「俺が・・・負けた。」
少年は唖然としながら目の前にいる少女を見る。自分を負かした少女を。
「これで模擬戦闘は終わりね。私帰るから。」
少女は少年と対照的にこの模擬戦闘の勝敗には一切興味がなかった。別に勝ち負けに拘りがないわけではない。ただ、少女にとってこの模擬戦は、勝敗で一喜一憂するようなものでもなかった。この模擬戦に負けたからって死ぬわけではないし、勝ったところで何か報酬が得られるわけでもない。
少女がこの模擬戦に勝った理由。それは、自分が勝つ方が負けるよりも早く試合が終わりそうだっから。それだけ。自分の時間を意味のない模擬戦で使うくらいなら、他のことをしていた方がよほど有意義だと感じたからだ。
「・・・。」
少年は少女が背を向けてこの場から去ることをただ見ていることしかできなかった。少女に声をかけるとかそういう心の余裕はなかった。それだけ、少年にとって敗北という事実が心の中を圧迫していた。
少年は今まで敗北をしたことがなかった。この模擬戦闘を行うまで、少年は戦闘において一度も敗北をしたことがなかった。それがたとえ勝敗に意味をなさない模擬戦だったとしても。
「アリサ・エヴァンズか。」
少年は少女がこの場からいなくなってから彼女の名前を呟く。時間が少し経ち、先ほどよりも心に余裕が持てるようになった。
「俺より強い奴がいるなんてな。」
少年は大の字に寝ころびながら雲一つない空を眺める。
少年は確かに敗北した。初めての敗北。辛い気持ちや悔しい気持ち等、負の感情が少年の心からすぐに消え去ることはないだろう。それでも、そんな気持ちを理由に立ち止まる暇はない。このままでは、一生自分は彼女に勝てないのだから。
「つまらないと思ってたが、学校生活楽しくなりそうだ。」
少年は右手を天に掲げ少女への勝利を誓うのであった。
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あなたにとって人生で大切なものは何ですか?
例えば、お金。生きていく上で、お金は必要不可欠だ。お金があれば、美味しい食べ物、おしゃれな服装、豪華な家等、人生を豊かにすることは容易だろう。
例えば、愛。その愛の対象は、女性、子ども、友人等様々だ。しかし、相手が誰であれ、愛する者と過ごす時間と言うのは人生にとってかけがえのないものになるだろう。
例えば、時間。時間がなければ、自分のやりたいことはできない。時間は有限であり、人々に平等に与えられているわけでもない。とてつもない価値はあるだろう。
数ある中で少年が選んだものは・・・。
♦
「起きてください、リオン様。もう朝ですよ。」
リオンと呼ばれる少年は女性の朗らかな声で目が覚める。
「おはよう、ヒカリ。」
リオンは身体を起こし、目をこすりながら声のする方向を向く。そこにはメイド服を着た金髪の女性が立っていた。
「おはようございます。今日は入学式ですので、遅刻なさらないようにお願いします。」
ヒカリはリオンに一言告げると部屋を後にした。
「そう言えば、今日からだったな。」
リオンは今年16歳になる年である。この世界では一般的な家庭では16歳になる子どもには高等教育を受けさせることが主流だ。この高等教育は、一つの分野を専門的に学ぶ場となっており、調理、医療、芸術等、その分野は多種多様である。
その様々な分野の高等教育がある中で、リオンが選んだのは剣術なる分野だ。剣術とは言葉のとおり剣を用いて戦う技術のことである。
では、なぜリオンは剣術を学ぶことにしたのか?
答えは単純。リオンの父親がこの国の軍隊のトップだからだ。政治家の息子が政治家になったり、医者の息子が医者になる確率が高いことと同じ。
リオンは幼少期の頃から、父親から軍人になるよう教育されていた。軍人になること。そして、父親と同じように軍のトップまで上り詰めること。そのためには、まずは剣術学校に入り、良い成績を収め、軍に推薦で入隊する。父親と同じ道をたどることが一番の近道だからだ。
「お食事の用意はできておりますので、着替えを済ませたらおこしください。」
ヒカリはリオンにそう告げた後、寝室を後にする。
「準備か・・・。」
リオンは重い腰をあげて制服が入っているタンスまで歩く。正直な話、リオンは学校というものにそこまで興味はなかった。剣術学校のカリキュラムは、主に剣の型や戦術等を学ぶ座学と、生徒同士や魔物を相手に実際に他戦って経験値を積む実技の二つから構成されている。
リオンは幼少期からの英才教育によって、剣術学校で学ぶ座学の内容は既に終えており、実技の面に関しても学生の域を遠に超えている。つまり、リオンにとって学校に行く意味と言うのはないのだ。
しかし、リオンは学校に通わなければならない。その理由は、軍に入隊する条件に国内に8つあるいずれかの剣術学校を卒業した者という項目がある。だから、リオンはその資格を得るために、学ぶことなんてない学校に通う必要があるわけだ。
リオンは制服に着替え終わると、部屋を出て朝食を食べに行く。
リオンがダイニングに入ると、ヒカリの言う通りテーブルには既に一人分の朝食が用意されていた。
「いただきます。」
リオンは席に座り朝食を食べ始める。
「リオン様。学校に向かう準備は出来ていますので、いつでもおっしゃってください。」
ヒカリはダイニングに入ってきた。
「ありがとう。準備ができたら、声をかけるよ。」
リオンの家から学校まではかなりの距離がある。そのため、徒歩で行くと何時間もかかってしまうので、リオンは学校まで馬車を使っていくのだ。ヒカリの言う準備は馬車の用意ができたという意味だ。ちなみに、入学後は学校近くの寮で生活するため、今よりも通学時間は極端に短くなる。
朝食をとり終えたリオンは、一度自室に戻り学校に必要な荷物を持ってくる。とは言っても、入学前に自分の寮に日用品等も含め、大半の荷物を送っている。今日持っていく荷物は筆記用具等、今日の入学式とその後の授業のために必要な物だけだ。寮に送った荷物は放課後寮に行くまで取りにいけないので、学校に初日の荷物は別で持っていく必要があるわけだ。
「リオン様。いってらっしゃいませ。」
リオンはヒカリに見送られながら学校に向かった。
♦
「これからここで3年間過ごすことになるんだな。」
リオンは校門の前から、敷地内にそびえたつ校舎を眺める。入学試験の際にも学校を訪れたことがあるため、別に初めて見たというわけではないのだが、試験の時と今とでは同じ建物でもリオンの心象違う。試験の時は何も感じなかったが、今は校舎が自分を閉じ込める牢獄のように感じて仕方ならない。
リオンは学校からもらった入学案内を見ながら、今日の集合場所になっている教室に向かう。
(予想通りだが、大した奴はいなさそうだな。)
リオンが教室に入り、これから一緒に学ぶ同級生をみて初めに思ったことだった。部分的ではあるが、日常生活の中からでも、人の強さを判断することもできる。
例えば、身体。その者の筋肉の付き具合で、強さの良しあしが分かる。剣術は決して筋肉が全てと言うわけではないが、ある方が良い場合の方が多い。剣の一振りで例えると、同じ一撃でも、筋肉がある方が威力があるのは当然だ。
例えば、姿勢。既に教室にいる大半の生徒が席に座っている。その際の姿勢の良しあしで強さの一端が分かる。姿勢が良いということは、体の軸がぶれていないということだ。軸がぶれていないと、俊敏な動きが可能であったり、攻撃に力を込めやすかったりとメリットは多々ある。もちろん、今は戦闘中ではないので、必ずしも姿勢をよくする必要はない。ただ、強者は意識的か無意識かに関わらず、姿勢が良いのが常であることが多い。
この教室の机は長机であり、一つの机に対して席は二つある。リオンは二つある席のうち、左側の席に座る。
(外の景色でも眺めてるか。)
集合時間までまだ時間があり退屈だ。リオンに席は幸いにも教室の一番後ろかつ窓側の席だったので、時間つぶしには丁度いい。
キンコンカンコーン
時計の針が午前9時を回ったところで、教室中にチャイムの音が鳴りひびく。それと同時に教室の扉が開き、一人の男性が教室に入ってくる。
(できるな。)
リオンは教室に入ってくる男を見て思った。歩き方から、男に隙がないことが伺える。重心が左右どちらかに偏っているわけではなく、重心が体の中心にある。それに身体は細身ではあるが、身長はあるし、筋肉も引き締まっている。
「今から出席をとりますので、名前を呼ばれた生徒は返事をしてください。」
男は教壇の前に立つとそう言い、学生名簿と思われる冊子を開く。
男は順々に生徒を名前を呼んでいき、呼ばれた生徒は「はい。」と返事をする。
「アリサ・エヴァンズ。」
男が生徒を名前を呼ぶも、返答する生徒はいない。
「アリサ君、まだ来ていないのか。まったく、どこでさぼっているのやら。」
男はアリサという生徒がまだ教室に来ていないことに対して愚痴をこぼす。
(そう言えば、俺の席の隣は空席だな。)
リオンは教室で一番後ろの席なので、教室全体を見渡すことができる。教室の中で空席は一つのみで、それ以外の席には生徒が座っている。すなわち、教室には生徒人数分しか席はなく、アリサと呼ばれる生徒がリオンの隣の席なのだろう。
(入学式から遅刻とはいただけないな。)
入学式とは、学校生活のスタートラインである。つまり、入学式を遅刻するということは、最初からやる気がないことと同義だ。
リオンはそう思いつつも、入学式の日に遅刻するアリサという生徒を少し羨ましくも思った。
なぜなら、リオンも学校に価値を見出だせない生徒の一人だからだ。
「リオン・キングスフォード」
「はい。」
リオンが考える事をしている間にも点呼は進んでいく。
「アリサ君以外は出席と。」
男は出席確認を終え、冊子を閉じる。
「はじめまして。私はジン・エヴァンズだ。これから3年間、君たちの担任を務めることになった。自己紹介は追々するとして、まずは入学式だ。」
ジンは生徒全員に入学式のプログラムが書かれた1枚の紙を配る。
「入学式の内容は概ねこの紙に書かれているとおりだ。プログラム内の校歌斉唱についても、紙に歌詞があるから参考にするといい。」
ジンの言う通り、プログラムに事細かに入学式の内容が書かれており、説明なんて必要がないくらいだ。
「入学式の席順についてだが、このクラスはAクラスなので、会場の手前の位置になる。並びについては、学籍番号順だ。今この場にいないアリサ君については、席を一つ開けて座ってくれ。以上で説明は終わるが、何か質問はあるか?」
「・・・。」
「よし。では時間になったら、指定の場所に学籍番号順に集合。それまでは、各自休憩とする。」
ジンは入学式の説明を終え教室を出ていく。
(さて、どうしようか。)
プログラムに書かれた集合時間にはまだ30分程時間がある。この間に、トイレをすませる等入学式に向けて準備をしておけという時間なのだろう。ただ、それでも30分は長すぎる。トイレなんて10分もあれば十分だし、集合場所も地図を見る限り、教室から少し歩けばすぐのところだ。
何もすることがないので、リオンは教室にいる生徒を見渡す。先生の出席の時に、何人か知っている名前が呼ばれるのを耳にした。
リオンの父親は軍のトップであることから、軍関係の人や政治関係の重鎮との繋がりがある。父親が出席する会食等にもよく参加していた。その影響もあり、軍又は政治関係者の子どもとは、会食等の場で会ったこともある。
軍人の子どもは、リオンと同じよう理由からこの剣術学校に入学することが多い。それに対し、政治家の息子は一見、この剣術学校に入学する意味は無いように思える。しかし実際は、政治家になるために剣術学校に通うことは一定の価値がある。政治家になるのは選挙に勝つ必要があり、勝つためには知名度や実績が必要だ。軍人になれば、戦争等で実績を上げることができるし、強い兵士と言うのは昇進しやすく、階級が上がれば人脈を広げやすい。
「おはよう。リオン君。まさか一緒のクラスになれるなんて思わなかったよ。」
リオンが生徒の様子を観察していると、一人のクラスメイトが声をかけてきた。
「ああ。久しぶりだな、ゼノ。」
リオンはとりあえず返事をする。リオンに声をかけたクラスメイトはゼノ・フィリップ。父親が有名な政治家で、彼の父親が開くパーティーに以前参加したことがあり、その時に会ったことがある。
リオンの彼に対する印象は余りよくない。彼は政治家の息子であり、彼も政治家になると豪語している。そのために、父の人脈を使い自身のコネクションを築こうと画策もしている。リオンは軍のトップの息子。将来的には、リオンも同等の地位につく可能性が高い。だから、「今のうちから仲良くしておいて損はない。」といった魂胆が見え透いている。
リオンはそれが嫌で余り仲良くする気がなれない。自分の父親が軍のトップでなかったから、ゼノは今のように話しかけてなんてこないだろう。
「君の剣裁きには惚れ惚れするから、学校で何度も見れると思うととても楽しみです。」
ゼノのこういうところが嫌いだ。人をおだてて気分を良くさせようとしているようだが、リオンにとっては逆効果だ。
「学校だと模擬戦もあるだろうし、直接相手してやるよ。」
「ははは。その時はお手柔らかに頼むよ。」
ゼノはそう言うと、他の生徒にも挨拶するからという理由でリオンの傍を離れた。
リオンは再びクラスメイトの観察に戻る。ゼノ以外にも顔見知りがそこそこいた。ゼノは政治家の息子であったが、他の顔見知りは全て軍人の息子だった。
しかし、ゼノのように顔見知りだったからといって声をかけてくることはない。逆もしかり、リオンも顔見知りのクラスメイトに声をかけるつもりもない。
政治家を目指すゼノと違って、軍人を目指す彼らはいわばライバルだ。なれ合うつもりはさらさらないというわけだ。まあ、リオンの顔見知り連中は、学校入学前に模擬戦で完膚なきまでに叩きのめしたことがあるので、その件で確執があるのかもしれない。(リオンは何とも思っていないが。)
(特段誰とも仲良くする気にはなれないな。)
リオンはクラスの中で早速いくつかのグループができ始めている様を眺めながら思う。
リオンの目算ではあるが、この教室に自分より強い奴がいない。グループや仲間を作ることの利点として、互いに切磋琢磨し、技術や能力が成長することが挙げられるが、リオンにとっては弱いものいじめでしかない。
それに、圧倒的な強さというのは、畏怖・嫉妬の対象にもなる。人間関係というのは、ただの仲良しこよしですむ話でもないのだ。
リオンの今までの生活環境が、リオンの少し歪んだ人格を形成してしまった。
(そろそろ行くか。)
リオンは教室にいてもやることがないので、集合場所に向かうことにした。
♦
リオンが入学した国立北剣術学校には160人の生徒が入学し、各クラス40人で、AからDクラスの4クラスから構成される。その入学生が集合場所に次々と集まっていく。
各クラスの担任が生徒に指揮をとり、学籍番号順に並ばせていく。ただ、Aクラスには一人足りず、
39人しか集まっていない。今朝の出欠の際にもいなかったアリサ・エヴァンズがここにも来ていない。
集合時間にもなったが、Aクラスが揃うことなく入学式が始まる。司会のアナウンスにより、Aクラスから順番に式場に入場する。
入学式はプログラム通り、順調に進んでいく。学校長の長い話、区長の長い話、軍のお偉いさんの長い話と、入学式は新入生に向けたありがたい話が長々と続く。
「次に新入生からの挨拶です。新入生代表、Aクラス、リオン・キングスフォード君。」
「はい。」
リオンは立ち上がり壇上にあがる。この新入生代表の挨拶は入学試験の成績が一位だった生徒に割り当てられる。この学校の入学試験は筆記試験と実技試験の二つの合計点数で合否が決まる。リオンはこの入学試験を筆記、実技ともに満点をたたき出した。これもリオンが学校に興味を示さなかった理由の一つだ。
「春の・・・。」
リオンは新入生の挨拶をしながら、会場を見渡す。教室でもやった、新入生の品定めだ。自分が1位入学なので、自分より格上がいることはないが、自分の研鑽相手になるくらいの実力をもった生徒がいれば御の字だ。
だが、リオンの期待に応えられるような生徒はいなさそうだ。3年間、自己研鑽が確定した瞬間でもあった。
「・・・新入生の言葉とさせていただきます。Aクラス、リオン・キングスフォード。」
リオンは挨拶を終えると、壇上から降り元の席に戻る。
その後も入学式は滞りなく進んだ。
「以上をもちまして、入学式を終了します。新入生は退場してください。」
アナウンスの通り、新入生は順次退場していき、各々のクラスに戻っていった。
教室では先生が来るまでは自由時間だ。そう考える生徒が多く、席に座らずに談笑している様が見受けられた。
リオンは最初に教室に来た時同様、窓から外の景色を眺めていた。
しばらくすると、教室に担任であるジンが入ってきた。一人の少女を連れて。
「いや~遅くなってすまない。この娘を連れ出すのに手間どってしまった。」
ジンはそう言いながら、少女の背中をポンと叩く。
「・・・。」
少女はジンに何一つ反応しない。ただ、一つ言えることがあるとすれば、「こんなところに来たくない。」という感情が彼女の表情、態度から伝わってくる。
「彼女の名前はアリサ・エヴァンズ。このクラスの一員だ。さっアリサ君、自己紹介を。」
ジンは無言のアリサに会話をつなぐ。
「・・・アリサ・エヴァンズ。」
アリサは重い口を開け、一言、自分の名前を告げただけ。
「アリサ君は男子ばかりの学校に来て緊張しているだけだから。みんな仲良くするように。アリサ君、席はあそこだから。」
ジンはリオンの隣の空いている席を指さす。
アリサはトボトボと教室を歩き、リオンの隣の席に座る。
(アリサ・エヴァンズか。)
アリサの身長は165センチくらいだろうか。女性の中では高い方だ。綺麗赤色の長髪を後ろで一つに束ねるポニーテールで、とても可愛らしい顔つきをしている。
ただ、普通の女性といった感じで、鍛えられた肉体とかではないし、剣術の腕が立つようには見えない。
リオンは隣に座る彼女を見て、表情には出ていないものの驚きはあった。
ジンも言った通り、剣術学校は男性が入学することが基本である。その理由は単純で、男性の方が力が強いからだ。
当然、剣術というのは力だけでなく、技術という面も重要な要素である。しかし、技術だけでは駄目なのだ。力と技術、二つを兼ね備えてこそ、一流の剣士と言える。つまり、力という点でハンデがある女性といのは、一流の剣士を目指すことは難しい道となる。
もちろん、剣術学校に入学する理由は、何も一流の剣士になることが目的だけでない。ゼノような目的で入学する人も少なからずいる。だた、それは少数派であり、多くの入学生は一流の剣士を目指して学ぶのである。
彼女の目的は何だろうか。少なくとも、この学校の入学に乗り気ではないのは明らかだ。
(そう言えば、担任とファミリーネームが一緒だったな。)
担任とアリサとの会話を聞くに、以前からの知り合いであることは間違いないだろう。彼女がこの学校に入学したことには何か理由があるのかもしれない。
「何よ、人の顔をじろじろ見て。」
アリサがリオンをにらみつける。
「悪い。」
リオンは彼女から目をそらす。
(まあ、理由なんてどうでもいいか。)
リオンは女性が剣術学校に入学したことが珍しく、変に考えてしまったが、他人の入学理由なんて気にしても自分の利益になるわけではない。
そんなことを考えるよりも、この3年間で自分を少しでも成長させることを考えなければならない。
「クラス全員が揃ったことだし、早速この学校について説明していくぞ。」
ジンはこの学校のシステムやカリキュラムについて説明していく。
まず、クラス分けについて。クラスは入学試験の成績順にAクラスからDクラスまで振り分けられている。教師側が教える際に、実力が近しい方がより生徒にあった授業が展開できる。やはり、成績に差があると、どうしても成績が低い生徒に授業を合わせないといけない時があるからだ。
次に、進級の基準。年に3回のテストの成績から判断される。試験の内容は学科試験と実技試験の二つから構成され、年度終わりに出る一年間の総合成績が基準となる。その成績次第で、留年やクラス替えということもあり得る。
最後に学校行事だ。この学校には大きなイベントが二つある。一つは、夏に行われる学生剣術大会だ。国内に8高ある剣術学校から代表生徒を選出し、優勝を目指すトーナメント形式で行われる。もう一つは、冬に行われる男女混合演習だ。男性には剣術学校があるように、女性には魔術を極める魔術学校がある。軍に入隊した際は、剣士2名、魔術師2名のフォーマンセル(四人一組)から一分隊が構成される。その想定を見越して行われる演習のことだ。
「・・・以上が大まかな学校の説明だ。そして、これが一番重要なのだが、この学校では演習及び寮生活等、学校生活のほとんどを二人一組で過ごしてもらう。その二人組については、このAクラス内での成績順となる。1番と2番がペア、3番と4番がペアみたいに。みんな自分の成績は分かっていると思うけど、他の人の成績までは分からないと思うから説明すると、今座っている席の隣同士が一つのペアになる。」
要は、一つの長机を共有している二人が今後のペアとなるわけだ。
(つまり、俺のペアはこのアリサってわけだ。)
リオンはちらりとアリサの方を見る。アリサはジンの話が長かったからか、欠伸をしている。
(とても強そうには見えないけどな。)
アリサが隣の席ということは彼女が自分のペアであるということだ。つまり、アリサは入学試験の成績が2位だったということになる。
ただ、アリサの身体を見るに特段鍛えられているわけではない。歩き方や座っている時の姿勢を見ても、強者の佇まいは感じない。
「じゃあ、早速最初の授業を始めるぞ。まずは、ペア同士の交流を深めるために模擬戦を行う。みんな準備をして、第一演習場に来てくれ。」




