満喫、八丈島
そうして、僕らは四時間と一時間ほど掛けて八丈島に到着した。
こうもあっさりしているのは、特にこれといったイベントがなかったためである。
バスはともかく、飛行機は初めて乗るというのに、そこまでの衝撃はなかった。
『本当にこんな鉄の塊が飛ぶんだ』という、至極当然の感想ばかりだ。
隣の少女は全然そんなことなく、とても興奮していたが。
空港を出て、ホテルのチェックインを済ませば、午後は八丈島観光だ。
豊かな自然と、思ったより発展している街中をぶらり旅。
途中入った飲食店は、食レポのおすすめが高いものを選んだおかげか、満足の出来る味だった。
好みが偏った同行者も、特に不満を漏らす様子はない。
寧ろ、普段は食べない海鮮類を食べられて満足のようである。
ホテルに戻った僕らは、露天風呂に入り、夕食をとると、そのまま一泊した。
勿論、かの保護者への連絡も忘れない。
満喫している写真を送ったとも。
都会と違って、景色がビルとその明かりに遮られておらず、夜空が綺麗に見えたのが印象的だ。
生まれてこの方、旅行をしたことがない僕らには、とても新鮮な光景だった。
そして、翌朝、僕は朝焼けに包まれながら起床した。
海が一望できる一室であるが故だ。
しかしながら、少女の寝起きは悪く、どれだけ起こしても寝惚ける始末。
女性は準備に時間が掛かるというが、こういうことではないだろうと、呆れを通り越して、褒めながら支度させた。
四重も重ね着をさせるのは骨が折れる。
次こうして遠出する際は、解決策を見つけておかなければ。
その後、僕は少女に朝食を無理なく、しかし健康に食べさせた。
そうしなければ、エネルギー不足で、海上で行動不能になりかねない。
ただでさえ、寒いのだ。
少しでも体力の上限は高くしておかなければいけなかった。
それから約一時間後、チェックアウトを済ませ、港近くの施設のコインロッカーに荷物を預ける。
流石に、この荷物を持って歩き回ることは出来ない。
電子ロックではなく、鍵式だったため、失くさないよう鍵は僕が管理している。
施設を出て、海側を見上げると、低い高度の太陽が僕らを照らしていた。
朝寒に沁みる、心地の良い日差しだ。
改めて天気予報を確認すれば、今日は一日中晴れ。
気温はまずまずと言ったところだが、雪が降るよりは格段に暖かいはずだ。
冷える冬の朝、凍えずに済んだのは、事前情報から、このように準備を万端にしておいたからだろう。
それでも、寒いものは寒い。
僅かばかりとはいえ、天候が味方してくれるのは幸運だ。
数分もすれば、同乗する観光客が集まってきた。
老若男女、合わせて十二名。
準備が整ったガイドと船員が声を掛けると、僕らは一斉に船に乗り込む。
そうして、ホエールウォッチングツアーは始まったのだった。




