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鯨の歌、君の色彩  作者: 四ノ明朔
第三部【海のノクターン/刹那の終わりへ】
20/31

満喫、八丈島

 そうして、僕らは四時間と一時間ほど掛けて八丈島に到着した。

 こうもあっさりしているのは、特にこれといったイベントがなかったためである。

 バスはともかく、飛行機は初めて乗るというのに、そこまでの衝撃はなかった。

 『本当にこんな鉄の塊が飛ぶんだ』という、至極当然の感想ばかりだ。

 隣の少女は全然そんなことなく、とても興奮していたが。


 空港を出て、ホテルのチェックインを済ませば、午後は八丈島観光だ。

 豊かな自然と、思ったより発展している街中をぶらり旅。


 途中入った飲食店は、食レポのおすすめが高いものを選んだおかげか、満足の出来る味だった。

 好みが偏った同行者も、特に不満を漏らす様子はない。

 寧ろ、普段は食べない海鮮類を食べられて満足のようである。


 ホテルに戻った僕らは、露天風呂に入り、夕食をとると、そのまま一泊した。

 勿論、かの保護者への連絡も忘れない。

 満喫している写真を送ったとも。


 都会と違って、景色がビルとその明かりに遮られておらず、夜空が綺麗に見えたのが印象的だ。

 生まれてこの方、旅行をしたことがない僕らには、とても新鮮な光景だった。


 そして、翌朝、僕は朝焼けに包まれながら起床した。

 海が一望できる一室であるが故だ。


 しかしながら、少女の寝起きは悪く、どれだけ起こしても寝惚ける始末。

 女性は準備に時間が掛かるというが、こういうことではないだろうと、呆れを通り越して、褒めながら支度させた。


 四重も重ね着をさせるのは骨が折れる。

 次こうして遠出する際は、解決策を見つけておかなければ。


 その後、僕は少女に朝食を無理なく、しかし健康に食べさせた。

 そうしなければ、エネルギー不足で、海上で行動不能になりかねない。

 ただでさえ、寒いのだ。

 少しでも体力の上限は高くしておかなければいけなかった。


 それから約一時間後、チェックアウトを済ませ、港近くの施設のコインロッカーに荷物を預ける。

 流石に、この荷物を持って歩き回ることは出来ない。

 電子ロックではなく、鍵式だったため、失くさないよう鍵は僕が管理している。


 施設を出て、海側を見上げると、低い高度の太陽が僕らを照らしていた。

 朝寒に沁みる、心地の良い日差しだ。


 改めて天気予報を確認すれば、今日は一日中晴れ。

 気温はまずまずと言ったところだが、雪が降るよりは格段に暖かいはずだ。


 冷える冬の朝、凍えずに済んだのは、事前情報から、このように準備を万端にしておいたからだろう。

 それでも、寒いものは寒い。

 僅かばかりとはいえ、天候が味方してくれるのは幸運だ。


 数分もすれば、同乗する観光客が集まってきた。

 老若男女、合わせて十二名。

 準備が整ったガイドと船員が声を掛けると、僕らは一斉に船に乗り込む。


 そうして、ホエールウォッチングツアーは始まったのだった。

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