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閑話 その頃群れでは

 俺の名はスラ太。

 スライムでありながら〖進化〗を遂げ、〖長獣〗のラージブラッディスライムとなった天才だ!


 生まれながらに希少種だった俺は若くして族長に上り詰めた。

 いつの日か〖長獣〗を超えて〖豪獣〗になり、この森を統べるのも夢じゃ無いだろう。


「(付いて来いお前ら! 今日は奥地を探索するぞ!)」


 選りすぐりのスライム十匹の前でそう宣言した。

 こいつらは〖雑獣〗で俺とは比べ物にならないほど貧弱だが、数だけは多い。石を投げさせれば牽制にはなる。


 意気揚々と出発しようとしたが……一部のスライムは何か言いたげだ。

 どこか萎縮した様子の奴らに問い質してみる。


「(どうした、言いたいことがあるならハッキリ言え)」

「(……スラ助、イッテタ。モリノオク、〖マナ〗ガツヨイ。チカヨルノ、キケン)」


 スラ助はちょっと前まで群れに居た軟弱者だ。

 希少種だが高いのは〖タフネス〗だけ。それ以外はてんで駄目な落ちこぼれで、卑怯な小細工を考えるしか能のないお荷物だった。


 それだけならまだしも、アイツは事あるごとに俺の邪魔をした。

 「あっちには危険な魔獣が多い」だの「オレ達にはまだ早い」だの、自分が弱いからって俺達まで一緒だと思っていやがった。


 たしかに一度敗走したことはあったが、あれから俺達も強くなった。今なら同じような失敗はしないはずだ。

 だからこそアイツを追放し、ようやく奥地の探索が出来る……そんな時だってのに。


(スラ助め、面倒ばかり増やしやがって)


 心の中で独り言ちた。


 俺や俺の腹心はともかく、群れの中にはアイツの弱気が伝染(うつ)っちまった者も居る。今、俺に意見したスライム何かもそうだ。

 奥地に出かける前に、こいつらにガツンと言ってやる必要があるらしい。


「(あ゛あ? お前は俺より、あんな弱腰の雑魚の言うことを聞くってのか?)」

「(ソ、ソンナコト、ナイケド……)」

「(じゃあ文句はねーよな!?)」

「(ハ、ハイ)」


 他のスライムからも反対意見は上がらなかった。

 そうだそうだ、初めから大人しく従っていればいいんだよ。


「(よし、出発だ!)」


 俺は堂々と先陣を切る。

 これから俺の時代が幕を開けるのだ。




 そのはずだったのだが……。


「(イタイッ、イタイッ)」

「(オチツケ。テキ、シンダ。ヤスンデレバ、ナオル)」

「(チッ、一匹死んだか……)」


 初戦闘の結果は辛勝だった。

 相手はゴブリン。たった三匹の小さな群れだ。


 対しこっちの戦力は俺を合わせて十一匹。

 普段なら危なげなく勝利できる戦力差。

 だがしかし……。


「(ゴブリン、イツモヨリ、ツヨカッタ)」


 そう。普段の活動地域にいる個体よりも能力が若干高かったのだ。

 〖雑獣〗であるのは変わらないが、〖レベル〗が高かったのだろう。


「(ソレニ、チカヅイテクルノ、トメラレナカッタ)」


 当初はオレが三体を抑え込み、他の奴らには〖投擲〗をしてもらう予定だった。

 が、予想外の強さに手間取ってしまい、その隙に一体が後ろに走って行ったのだ。


 部下達は〖溶解液〗で対抗したが、ゴブリンの振り回す剣によって一匹が死に、他の奴らも怪我を負った。


「(コンナトキ、スラ助ガイレバ──)」

「(何か言ったか?)」

「(ナ、ナンデモナイ……)」


 余計なことを言いかけた一匹を一言で黙らせる。

 俺は何も間違ってはいない。あんな奴は居なくてもいいに決まっている。


「(いいかお前ら、敵が強いってことはそれだけ〖魂積値(レベル)〗を上げやすいってことだ! このゴブリン共を喰ったら次の獲物を探すぞ!)」




 それから少しして、また新たな敵を発見した。


「(さっきと同じようにすんぞ)」

「(エ、デモ、アレ、ニンゲンジャ……)」

「(それがどうした?)」


 俺はイライラしながら訊き返す。


「(ニ、ニンゲンハ、ケッソクリョクガ、ツヨイ。メヲツケラレタラ、ヤッカイ。ダカラオソッチャダメダッテ、スラ助ガ……)」

「(ゴチャゴチャうるせえ!)」

「(ギャァッ)」


 一発殴って黙らせる。


「(この群れの長は俺だ。俺の指示には黙って従え)」

「(……ワカッタ)」


 喝を入れて群れの団結を強め、俺は四体の人間達へと駆け出した。

 それと同時に部下達が石を〖投擲〗して牽制する。


「ဟွာ၊ ဒါက!?」

「ဘာလဲ။!」


 人間達はすぐに防御体勢を取ったが、投石の雨に苦しそうにしている。

 俺はそのまま駆けて行き、剣と盾を構える人間に飛び掛かった。


「〖ရိုက်နှက်ခြင်း〗っ」


 斬撃が俺の体を抉る。が、俺の膨大な〖ライフ〗の前では大したダメージではない。

 そのまま強引に前へ進み、人間に〖溶解液〗を使おうとする。


「〖ညစ်ညမ်းမှု〗」

「(ぐっ)」


 しかし、突然吹いた強い風に押し戻される。

 後ろに居る小柄な人間の能力のようだ。


「ရုပ်သိမ်းလိုက်ပါ!」


 負けじとさらに踏み出そうとした矢先、人間達は一目散に逃げだした。

 あまりに清々しい逃げっぷりに追いかけるのも忘れてしまう。


「(タオセナカッタ……)」

「(ハッ、いいんだよこれで。人間なんて俺達の敵じゃないって分かったんだからな)」


 獲物を仕留められず落胆する部下達へそう言った。

 スラ助が過剰に怖がるからどんなものかと身構えていたが、拍子抜けだ。

 これならまだウルフの方が強いだろう。


「(やっぱり俺は、何も間違ってはいなかった)」


 その確信を強める。

 人間だって敵じゃないし、これから〖マナ〗の濃い奥地で俺や群れを鍛えれば、他の魔獣達にだって勝てるようになる。

 そしてその先にあるのは、俺を頂点とするスライムの楽園だ。


「スラッスラッスラ!」


 未来の栄光を幻視し大笑いする

 俺が最強の魔獣となりこの森を支配する日もそう遠くはない!

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