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気がつけば勇者でした

作者: 七地潮


平々凡々な田舎育ちの大学二年の俺は、通学に不便な為一人暮らしをしていた。


………筈なのに、気が付けば男爵家の四男に生まれ変わっていた。



え?なんでいきなり?

てか、俺死んだの?

死因はなんだ?

家族はどうなった?


しかも、【女神様からの神託】とやらで、俺は勇者なのだとか。

更に言うなら、明日は国王との謁見があり、登城しなければならないなんて、いきなり過ぎてパニックなんだけど?


生まれ変わってから今までの18年間の出来事や、この世界のこと、前世の事、勇者になってしまってる事など考え込んでしまい、その夜は一睡もできなかった。


そして寝不足でフラフラなまま、謁見に臨んでしまった俺は、色々やらかしてしまったようだ。

記憶が曖昧だけど、家に帰って両親にめちゃ怒られた。



「まさか陛下にあんな要求を出すとは」

「あなたわかってるの?

命がかかっている旅に出るのに、何を考えているの?」

父は頭を抱え、母は泣いている。


どうやら俺は、朦朧とした頭で、国王に本能のままの要求を出したようだ。


つまり……

『異世界転生、あー、ラノベのあるあるだよね。

しかも勇者ときたら、パーティメンバーは皆女性でハーレム展開でしょう。

そんでもって、魔王も女性で魔王も堕としてこそだろ?

最終的にメンバーとのハーレムエンドも良いけど、お姫様もらうのもアリだよな。

とりあえず、ラッキースケベはお約束だよね〜』


なんて事を夜中に考えていた俺は、国王に、

「魔王討伐へのメンバーは、若い女性にしてください」

と、言ったそうだ……記憶にございません。



しかしこのふざけた要求を、国王は叶えてくれたんですよ。

俺の似姿を載せたポスター?を国内の冒険者ギルドに配りまくり、本当に若い女性の冒険者を集めてくれました!

ありがたい!


そしてその顔合わせが今から行われるのだ。

集まった四人の女性と、後ほど神殿へ迎えに行く聖女見習いとで、六人のパーティになる。



先ずは大楯を持った逞しい、少し年上の女性。

「どうも勇者様、タンクのカサンドラです。

勇者様をこの盾で護って見せますわ」


……………ん?



次にローブを羽織った同じ年くらいの女性。

「初めまして勇者様、魔法使いのアネッサです。

貴方の前に道を作りますわ」


……………あれ?



そしてやはり同じ年くらいの弓使いの女性。

「私はジージョ、あんたの前の敵は全部撃ち抜いてあげるね」


…………………いや、まさか……。



最後の一人は、格闘家の犬の獣人。

「ご主人様、マロンです!

ご主人様の敵はマロンが蹴散らしてやるワン!」


………………絶対そう!





面通しをして、五人で別室へ。

案内してくれた城の侍女達が部屋から出たら、四人は大きな声で笑い出した。


「あはははははは!

あんた何やってんの!

あんたが勇者とか、マジウケるんですけど!」


俺の肩をバンバン叩きながら笑うジージョ。

「いや、そう言われても…」


「ホント、あんたが読んでたマンガとかによくあったシチュエーションだよね。

何だっけ?異世界転生?

実際前の記憶が蘇った時は、びっくりしたけど、こんな面白い事があるなんて、思っても見なかったわ」

俺のマンガや小説をこっそり読んでたの知ってるよ。


「私も驚いたけど、こんなに若返ってるのは嬉しいわよねえ」

カサンドラが言うと、アネッサとジージョも頷く。


「ご主人様!ご主人様!

マロン人間になっちゃいました!

ご主人様の為に頑張るから、魔王城?までオサンポ楽しみましょう!」

マロン…人間ってか、獣人な。


「でもアレよね、生まれ変わって外国みたいな世界なのに、皆んな前と同じ顔なのって、とても浮いてるわよね」

カサンドラの言葉に頷く面々。

「中世ヨーロッパ風なのに、見事に和風の顔だよね。

でもそのおかげで皆のことわかったんだけどね」


そう、前世と同じ顔なんだよね。

俺も、カサンドラこと母さんも、アネッサこと姉さんも、ジージョことちぃ姉さんも。

マロンは格闘家だけど、サイズも見た目(色合いとか、顔の雰囲気)もポメラニアンだし。


これはこの後会いに行く聖女見習いはばあちゃんとか言うオチなんじゃないの?


案内役の兵士が来て、皆で神殿へ向かった。




神殿で待っていたのは可憐な美少女。

うん、どう見てもばあちゃんとは系統の違う美少女!

コレはやっと来たか、俺の望んだシチュエーションが!


「初めまして勇者様、聖女見習いのソフィアです」

粛々と挨拶をする美少女。


……え?ソフィア?

もしかして、まさか、この名前のパターンは…………。





「全くもって意味がわからん!

何故ワシが女子おなごになっとるんだ!」


魔王城へ向かう馬車の中、胡座をかいて座る聖女見習いこと祖父……。


「まあまあ、義父様、せっかく生まれ変わったのですから、第二の人生楽しみましょう」

「じゃが女子だぞ、しかも聖女など言われて神殿に閉じ込められて、やれ癒しをしろじゃ、祈りを捧げよじゃ。

そんなのは女子供がやっとけばいいんじゃ!」


昭和生まれの爺さんは、田舎のジジイにありがちな男尊女卑バリバリだ。

前世でも母さん大変そうだったよな。


「お前達、国王陛下様の下知である魔王討伐を頑張るのじゃぞ」

ソフィアの言葉にうんざり気味な姉達はおざなりに返事をする。


はっきり言わなくても、姉達は爺さんが嫌いだ。

マロンも近付かない。

母さんも表面上は持ち上げているけど、内心はお察しの通りだ。


つまり皆、ストレスマックス。

そのストレスは道中の魔物で発散させるけど、それだけでは足りず、俺にまで及ぶんだよなぁ。


「ほら、勇者!

アレくらい補助魔法が無くてもさっさと倒しなさいよ!」

「はい!」


「養父様が魚を食べたいって言ってるから獲って来てね」

「はい!」


「甘い物が食べたいから、ひとっ走り前の町まで戻って買って来て」

「喜んで!」


「ご主人〜、散歩〜」

「今すぐに!」


因みに爺さんは何一つ動かない。

そう、回復魔法もかけてくれない。


「そんな擦り傷唾付けとけば治る」

いや、感染症とかさ……まあ傷薬が有るから良いけどさ。



…………この先一人で行っちゃあダメかなぁ………………。





そして辿り着いた魔王城。

ストレス発散メンバーは、皆さんバラバラに場内を駆け巡り、爺さんは馬車で寝ています。


俺?

俺は一人で魔王城の謁見の間へ。

走り回っているメンバーのおかげで、エンカウント無しで辿り着けましたよ。


大きな扉を開けてそこに居たのは………。






「そうか、勇者は魔王と相討ちとなったか」

「はい、魔王は居なくなり、魔物も散り散りとなりました。

これでこの国に平和が訪れるでしょう」

「うむ」


(ちょっとクソジジイ何もしてないじゃん)

(ほら、私達って冒険者じゃない、だから報告は位のある者じゃないとダメなのじゃないの)

(良いじゃない、あの人何もしなかったんだから、後始末くらい任せましょう)


謁見の間で跪き、国王陛下へ報告をする、この度の活躍で聖女へと昇進したソフィア。


俯きコソコソと言い合う姉達。


(ご主人様達どこへ行ったのかなぁ)

(こら、マロン、あの二人が逃げたって絶対に人に言っちゃダメよ)

(わかってるワン)





時は少し遡り、謁見の間へ入って行った勇者を待っていたのは魔王ただ一人。


魔王は王座から立ち上がり、小走りに勇者へ駆け寄ると、その両手を取った。


「良かった、お前一人で来てくれて!

他の奴が先に来たら一人で逃げるとこだったよ。

遠見の水晶で見てたよ、大変だったね」

「と…父さん」

魔王は父さんでした。


「自分の意見を押し通す爺さんに、従順なフリをして実はキツイ性格の母さん、娘二人はワガママだし、本当生まれ変わってまで関わり合いたく無かったよ」


確かに前世で自宅暮らししてる時、姉さん達の下僕だったし、田舎で会う爺さんはあのままだし、母さんは穏やかそうにしてて、案外怖かったし、父さんは間に挟まれて髪が……いや、影が薄かったよな。


「せっかく生まれ変わったんだから、自由に生きたい。

お前も一緒に行くだろ?

魔物だって仲間なら結構気のいい奴らなんだよ。

人里離れた場所で魔物達とのんびりスローライフでもしようじゃないか」


旅の間の戦いや、俺の事を振り回すメンバーに疲れ果ててた俺は二つ返事で逃げ出す事にした。




そして元勇者で元日本人の俺は、元父親と、仲間なら結構頼りになる魔物達とで、国から離れた森の奥深くでひっそりと楽しく暮らして行くこととなりました。


うん、めでたしめでたし。







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