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9.この国の行く末

「お義姉様!では私も一緒に連れて帰ってください!」



え?と思って振り返ってみると、レミアが残っていた。

国王とフォレッド王子、父親の公爵が捕縛されたというのに、

なぜレミアだけ残されているの?

もしかして、騎士から見て公爵家の令嬢だと思われなかったのだろうか。


今日のレミアのドレスは深紅で、両肩が出ているだけではなく胸元も背中も広く開いている。

いや、開き過ぎて、胸の谷間どころか先まで出てきそうなほどだ。

夜会のドレスだとしても度を越してしまっている。

…確かに、この姿を見て公爵家の令嬢だなんて思わないわよね。



「ねぇ、お義姉様は帝国に帰るのでしょう?

 だったら、私も連れて帰ってくれますよね?」


わざと返事をしなかったのに、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。

カインが私を隠すように庇ってくれるので、それに甘えて後ろに隠れる。

疑問に思ったのか、お義兄様がレミアに尋ねた。


「お前は公爵家の養女だったな。なぜ帝国に行けると思うのだ?」


「だってぇ、私はお義姉様と仲の良い妹ですもの。姉妹は助け合うものでしょう?

 あらぁ?お義姉様がレンバード様の妹なら、私も妹ですよね?

 お義兄様ぁ、仲良くしてくださいますよね?

 そうだわ!お義兄様の妃にしてくださってもいいですわよ?」


…めずらしくお義兄様が固まった。

帝国の貴族はしっかりしているから、こういう令嬢は初めて会ったのだろう。

どう対応するんだろう。あ、騎士団長を呼んだ…直接相手する気はないのか。


「あれもちゃんと捕縛しろ。

 公爵家の養女でミルティアを害そうとした女だ。」


「はっ。」


「え?え?やだ、助けてお義姉様、どうして?

 お義兄様!レンバード様!助けてください!」


「レミア、あなたが私のことを仲の良い姉だって言うなら、

 私はあなたに媚薬を飲ませて放置させた方がいいのかしら?

 だって、それがあなたの思う姉妹のつきあいかたなのでしょう?」


少なくとも私はレミアと助け合うほど仲が良かったという記憶がない。

レミアが仲が良いというのなら、姉妹のつきあいかたの考えが違うのかもしれない。

そう言うと、後ろから小瓶が一つ差し出された。カインからだった。


「欲しいならどうぞ?あの時の媚薬と同じものだよ。

 かなり強力だから、全部飲ませたらまともな状態には戻らないと思うけど。」


「ひっ。」


腰を抜かしてしまったのか、レミアが座り込んでしまった。

中庭の土がついて、ドレスがぐちゃぐちゃに汚れるのが見える。


「ふふっ。いらないわ。

 薬で正気を無くすよりも、正気でいたほうが辛いこともあると思うし。

 今のレミアに媚薬を飲ませてもご褒美にしかならないわ。」


「それもそうだね。」


もういいと騎士団に目で合図を送ると、騎士たちがレミアを無理やり立たせる。

捕まえて連れて行こうとするのだが、あまり引っ張ると胸が出てしまうからなのか、

騎士たちもどう連れて行ったらいいか困っているようだ。


「おい、お前ら。遠慮はいらん。担いででも連れていけ。

 どうぜ王族も貴族も廃すから、全員一般牢に入れてしまっていいぞ。」


お義兄様のその言葉に火が付いたように反応したレミアに、

騎士たちは近くにあったテーブルの大きな布をとって、レミアをぐるぐるに巻いて担いでいった。


「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。たすけぇてぇぇえええええ!

 やだってば、ねぇ、いやぁぁぁぁ!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!

 たすけて!ねぇぇええぇえええええ!」


あまりの叫び声にお義兄様が困った顔をしている。

帝国の皇太子のこんな表情はめったに見れないだろう。


「ミルティア、あの女が急に態度が変わったのは何かあるのか?」


「それはですね…この国が腐ってるのは王族や貴族だけではないので、

 一般牢は無法地帯になっています。

 牢の中にいるものよりも、牢の外にいるものの方が凶暴だとも言われてます。

 つまりですね、一般牢に入ったら男女問わず看守たちから襲われるってことです。」


「…なるほど。

 とりあえずミルティアを害した者たちは一般牢に入れて、

 明日にでも奴隷落ちさせて鉱山送りにするつもりだったが、一週間ほど一般牢に入れておくか。」


あら。思ってた以上にお怒りだったんですね、お義兄様。


「あいつらの処罰に関して、何か言いたいことはあるか?」


「いいえ?この国に未練はないですし、

 カインも一緒に帝国に帰ってくれるので満足です。」


「カインか…。ミルティア、皇女なら好きなだけ相手を選べるんだぞ?

 本当にカインで良いのか?」


「はい。カインが助けてくれなかったら、何人の令息に襲われていたかわかりません。

 そうなったら、もう生きていく気力も無くなっていたでしょう。

 それに助けてくれたからじゃなく、私はずっとカインだけが特別なんです。」


見上げるとカインも笑って応えてくれる。

さすがに人前でいちゃつくことは出来ないけど、つないだ手をきゅっと握られる。


離れてから五年、私はカインのために、カインは私のために生きていた。

カインが亡くなった父親の宰相の跡を継いだのは私のためだ。

結婚して女王になる私の立場を少しでも良くするために頑張ってくれていた。

遠くから見るカインは倒れそうなほど顔色が悪く、無理して仕事をしているのがわかっていた。

フォレッド王子と結婚するのは嫌だったけど、

女王になればカインの近くに行けるかもしれない、その希望だけで耐えてきた。


「ははは。意地悪して悪かったよ。カインとのことは反対するつもりは無い。

 ミルティアを連れて来てくれただけじゃなく、

 帝国貴族の不正もタイカン国の情報も教えてくれたからな。

 俺の側近として働いてもらいたいと思ってる。

 さすがに帝国に詳しくないものを宰相補佐にするわけにはいかないからな。

 俺について帝国をまわっていれば、そのうち宰相にもなれるだろう。」


「カインってば、そんなものをお義兄様に渡してたの?」


「うん、ちょっとした手土産。バファル国の情報なんてもういらないだろうから、

 帝国とタイカン国の情報なら喜ばれると思って。

 それにミルティアが飲まされた強力な媚薬、あれは帝国の貴族が不正に処方し流通させたものだ。

 俺が直接仕返すよりも、レンバード様に任せた方が根こそぎ潰してくれそうだったからね。

 情報だけ渡してお任せしたんだ。」


「カインのその能力は父親に似たのかもな。

 バファル国を潰さなかったのはあの宰相がいたからだというのに。

 まぁ、いいか。ミルティアは帰って来たし、優秀な人材も手に入れたし。

 後は騎士団長に任せて帰るか。」


「お義兄様、もう夜中ですけど、今から帰るんですか?」


「こんな国の王宮で寝たら、命を狙われるか夜這いかけられるかするだろう?

 だったら騎士に守られた馬車の中で寝ながら帰った方がずっといい。」


「それもそうですね。帰りましょうか。」







バファル国の王族と公爵家、そして王子の友人たちは一般牢に入れられた。

他があきらめておとなしくしているというのに、

フォレッドとレミアだけはあきらめずに抵抗を続けた。

そのせいで看守たちに目を付けられ、二人は徹底的に痛められ続けた。

どんなに泣き叫んでもやめてもらえず、周囲の者も助けようとはしない。

それはレミアたちが今まで行っていた非道が返って来たような光景だった。

拘留は一週間の予定だったが、どんどん追加で腐った貴族が牢に入れられた結果、

最終的には十日も延びていた。


そしてすべての貴族の罪があきらかになった後、全員の奴隷落ちが決定した。

同時に一般牢の看守たちも奴隷落ちが決定している。

いくら一般牢に入っているのが犯罪者だとしても、看守が傷つけていい法は無い。

そのため看守たちも全員が犯罪者となって奴隷落ちしたのだった。

奴隷たちはすべて帝国にある鉱山に送られ、

逃げ出さないよう首輪をつけられて死ぬまで監視されながら働くことになった。


王宮には誰もいなくなり、バファル国の王族と貴族は廃された。

バファル国だった土地は帝国の一部となり、辺境伯領となることとなった。

初代辺境伯は公爵家の嫡男アベルである。

カインの兄であるアベルは王族に従わず、王宮への出入りが禁じられていた。

そのため公爵家を継いだ後は公爵家の領地から出ていなかった。

バファル国の王族や貴族たちとの交流が無かったことも幸いし、

帝国から辺境伯として認められることになったのだ。

もちろん、アベルお兄様を敬愛するカインとミルティアの後ろ盾があったからでもある。


こうして醜い王族と貴族しかいないといわれていたバファル国は、

歴史の中に名を残すだけとなった。





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