5.落ちる寸前
「ミルティアはまだ見つからないのか!」
「はい。王宮内はもとより、
あの日出入りのあった貴族や業者の足取りも追いましたが、
まったくもって見つかっておりません。」
「あぁぁぁぁ。フォレッドはなんてことをしでかしてくれたんだ!」
フォレッドの父であるバファル国王は、
もう十日も見つからないミルティアにイラついていた。
これはすべて夜会の最中に貴族たちの前で婚約破棄を行い、
その上、元婚約者に力ずくで媚薬を飲ませて令息をけしかけたなどど、
どれひとつとっても正気の沙汰ではないことをしでかした息子のせいであった。
騒ぎを起こしたフォレッド、レミア、王子の友人たちはすでに謹慎させている。
これは最終的な処罰ではなく、ミルティアが行方不明のままなため、
その捜索を優先させているからにすぎない。
いずれフォレッド達にはきつい処罰を下すつもりであった。
…だが、その処罰だけでは済まないことは、誰がどう考えてもあきらかだった。
三年前に過労で急死した宰相の後を継いで息子のカインが宰相を務めていたが、
おそらく夜会での蛮行を聞きつけてこの国を見捨てたのだろう。
めずらしく仕事を休んだと思えば、一週間後には辞表が届けられていた。
この国はもう宰相に見捨てられても、何の疑問もないほどに終わりが近づいていた。
「あぁぁ。もうどうしたら…。せめてミルティアが見つかってくれさえすれば…。
似たような者を探しても…無理か。あの髪色は鬘では誤魔化せない。
いったいどこに連れ去られたというのか。」
どんな状態であっても、生きてミルティアが戻って来てくれさえすればいい。
そう思って捜索部隊の人数を倍にするように指示をする。
この国が生き残れるかどうか、頼みの綱はミルティアしかいないのだから。
その頃のミルティアとカイン
「さっきの使者はお義兄様から?」
「ああ、そうだよ。二週間後に夜会があるから一緒に行こうって。
ミルティアのドレスは用意してくれるそうだよ。」
「ふふふ。お義兄様と一緒の夜会に出席するのは初めてだから楽しみだわ。」
「ミルティアのドレスは俺が贈りたかったんだけどな…。」
「カイン、これから何度も一緒に行けるんだから、ね?」
「そうだな。これからはいくらでも贈れるか。」
バファルの王都から遠い場所で、ミルティアとカインは毎日を楽しんでいた。
ミルティアとカインは五年前まで婚約していた。
公爵家の一人娘のミルティアに公爵家次男のカインが婿入りすることが決まっていた。
それなのに突然引き離され、会うことを禁じられていたのだ。
それが例の夜会がきっかけで会うことができ、ふたたび想いを告げることができた。
二人で食事を楽しみ、庭を散策し、離れていた時間を取り戻そうとするかのように、
何気ない毎日を二人で楽しんでいた。
あまりのいちゃつきっぷりに侍女が恥ずかしさで見ていられなくなるほどに、
幸せな時間を過ごしていた。