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4.事実は予想よりも悪い(カイン)

「起きれる?少しでも水を飲んだ方が良いよ。」


何度か声をかけるとミルティアの目が少し開いた。

だるくて仕方ないだろうけど、少しでも水分を取った方が早く解毒される。

身体を支えながら起こして、コップから水を飲ませた。


もう少し寝かせてた方が良かったかな…だけど、もう二時間も寝ている。

完全に解毒されていてもおかしくないのに、まだ薬が残っているように見える。

よく使われている媚薬とは違う症状に、どれだけ強力な媚薬だったのかと思う。


それでも解毒薬が効いているようで、媚薬の効果は薄れていて良かった。

寝台の上で一人、全裸でいるのが恥ずかしいのだろう。

掛け布を引っ張って身体を隠そうとするミルティアだけど、

まだ一人ではうまく起き上がれないようだった。

支えている背中は素肌で、手が触れているところがやけに熱く感じる。


こんなとこでミルティアを抱くつもりは無いし、こんな事情に付け込む気もない。

だけど二時間前の甘い時間が思い出されて…ミルティアから目をそらした。

水をコップで二杯のませると楽になったのか、少しは目が覚めたようだ。


「ごめんなさい。医術師室に行ったんだけど、もう鍵がかかっていて。

 宰相室の灯りが見えたから、もしかしてカインがいるかもって。

 助けてくれてありがとう。

 今回はさすがにどうなっちゃうのかわからなくて怖かった。」


「俺としてはここに助けを求めに来てくれて本当に良かったよ。

 あの後すぐに王子の友人たち三人がミルティアを探しに来た。

 媚薬を飲ませたのはあの三人なんだろう?」


「…王子よ。」


「え?」


「飲ませたのはフォレッド王子よ。

 まぁ、あの友人たちにも押さえつけられてたから、

 あの人たちも飲ませた側で間違いないんだけど…。」


「はぁ?フォレッド王子が飲ませた?本気か?

 自分の婚約者に媚薬飲ませて放置するって、何考えてるんだ?」


言われたことを理解しようとして、考えが追いつかない。

ある程度のことは予想していたけれど、

事実はそれ以上にひどかった。いや、ひどすぎた。


「夜会が始まってすぐに王子から婚約破棄されて、

 承諾したから帰ろうと思ったのに令息たちに押さえつけられて。

 王子が新しい男を見繕ってやろうって。

 媚薬を無理やり飲ませて、三十数えるからその間に逃げろって。

 誰でも追いかけていいぞ、捕まえたら好きにしていいって言っていたわ。」


「それは、本当…だよな。

 …だからあいつらが追いかけて来てたのか。」


信じられないというか、信じたくないひどさだった。

人前で婚約破棄した上に、元婚約者になんていう仕打ちだ。

ミルティアを何だと思ってるんだ。

あまりの怒りで、目の前に王子がいたら殴り殺していたかもしれない。


「フォレッド王子にはレミアがくっついていたわ。

 私と婚約破棄した後はレミアと結婚するんですって。

 それに関しては本当にどうでも良いんだけど、

 おそらく王子はレミアを喜ばせたくてあんなことをしたのね。

 レミアはどうしようもないほど、人の不幸が大好きなのよ。」


「義妹か…。人の不幸って、それにしてもひどすぎるだろう。」


「レミアにとっては、ひどければひどいほど嬉しいのよ。

 王子はレミアのことをよく理解しているのね。」


どれだけひどい悪女なんだ…そんな女と結婚する気か?

フォレッド王子は婚約の時の契約を知らないのか?


この国は終わったな。もともと終わりかけているような国だったけど。

俺、もう宰相やめていいよな。

ミルティアを捨てるような国なら、俺もこの国を捨ててやる。


「よし、ミルティア。公爵家に帰る気はないよな?」


「ええ。帰りたくはないけど?」


「うん、じゃあ、俺に任せて。もう二度と公爵家に帰さないから。」


「…本当に?二度と帰らなくてもいい?」


見上げてくるミルティアの目が期待に満ちている。

昔と違って痩せてしまって頬がこけているが、ミルティアの綺麗な瞳はそのままだ。

もう我慢するのはやめる。ミルティアを俺の手に取り戻す。


思わずミルティアを抱きしめそうになって、押しとどめた。

いや、落ち着こう。確実に取り戻すためには慎重に行動しなければいけない。

間違っても公爵家に連れ戻されないように。


「大丈夫。俺と一緒に行こう。

 ドレスだと目立つから、俺の服に着替えて。」


宰相室に置いてある俺の着替えを一式出す。

脱いだドレスはここに置いておくと見つかるからトランクに入れて運べばいいか。

ズボンの丈が長いのは仕方ないから折り曲げて履いてもらう。

その上で髪を帽子で隠し、外套を羽織れば少しは体格も誤魔化せる。





まだ夜が明けていない三時ごろ、

宰相は侍従と思われる少年を連れて王宮から退出した。

王宮内のあちこちで衛兵がいたが、宰相が遅くに退出するのはいつものことなので、

それについて聞こうとする衛兵はいなかった。


次の日の朝、宰相室の机の上には申請の書類が残されていて、

そこにはしばらく休む旨が記してあった。






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