2.助けたい(カイン)
いったい何があったというんだろう。
ミルティアを簡易寝台に寝かせた後、灯りを暗くして扉を閉めた。
普通の媚薬なら、解毒薬を飲んで休んでいれば媚薬は抜けるはずだ…。
それなのに解毒薬があまり効いていなかった。
どれほど強い媚薬を使われたんだ。
あのままだったら精神が壊れてしまうかもしれなかった。
…言い訳に過ぎないかな。
あんなふうに求められてうれしかったのも否定できない。
あの頃よりも大人っぽくなったミルティアに求められて、拒めるような聖人じゃない。
下着の上からさわっていれば少しは落ち着くと思っていたが、
ぐちゃぐちゃにしてしまって、結局最後には全部脱がせてしまった。
あの状態のミルティアに会えたのが俺で良かったと思う。
時間にすれば十数分ほどだと思うが、ミルティアが意識を無くすまでの間
恋人のように甘い時間を楽しんでいた。
五年も会えなかったんだ…我慢できるわけがない。
もちろん婚約者がいるミルティアの純潔を奪うような真似はできなかったけれど。
意識を無くした後、乱れた髪を直して頭を撫でていると、小さな寝息が聞こえてきた。
これで身体は楽にはなっているはずだが、後悔するだろうか。
泣いてほしくはないな…そう思うと胸が痛んだ。
今日は学園の卒業を祝う夜会が広間で行われているはず。
学園の生徒会の運営だから学生以外は参加していない。
だからと言って、ミルティアに媚薬を盛るような馬鹿がいるのか?
フォレッド王子は婚約者がこんな目にあっているのに、何してるんだ。
そこまで考えて、ため息をつく。
そうだった。あの王子は違う令嬢を隣においている。
よりによって婚約者の血のつながらない妹を。
公爵が再婚したのは三年前だった。
後妻と同時に公爵家の養女としてレミア嬢も引き取られている。
聞こえてくる評判ははっきり言って最低だ。
遊ぶのが大好きで、教養や礼儀作法は学ぶ気すらない。
それに引き寄せられるかのように王子や令息たちがくっついて歩いている。
あんな状態になっても、婚約破棄できないのはあの契約のせいだろうな。
…あの時、もう少し抵抗しておけばよかった。
とにかくミルティアが回復するのを待とう。
意識がはっきりするまで待ってから、事情を聞こう。
家に帰れそうだったらこっそり公爵家まで送り届ければいい。
あのまま一人で帰すわけにもいかない。
それまでに宰相印が必要な書類は片付けておかなければ…
仕事に戻ろうと椅子に座った瞬間、宰相室の扉が開けられた。
今度は何だ。
「ほら、灯りついてるって。ここに隠れてんだよ。」
「まったく逃げ足が早いぜ。こんな遠くまで逃げるなんて思わなかった。」
「ホントだよな。早いとこ捕まえてやっちまおうぜ。」
開けた扉から見えない位置に机があるため、俺には気が付いていないらしい。
学生だと思われる令息が三人、どやどやと入ってきた。
今の会話…媚薬を盛ったのはこいつらか。
「おい。お前ら。」
「えっ。」
声をかけると驚いた顔で動きが止まった。
こいつら見たことあるな。…王子の友人たちじゃないか。
「こんな時間に宰相室に何の用だ?」
「ひぃっ。」
三人ともまずいと思ったのだろう。一瞬で顔色が真っ青に変わった。
「何の用だ?王子の友人だろう?
卒業を祝う夜会の最中じゃないのか?」
「…いえ、あの、令嬢が来ませんでしたか?」「おい、馬鹿!聞くな!」
「…お前たちは、令嬢を追いかけているってことか?
三人がかりで令嬢を追いかけて、何をする気だったんだ?
さきほど、やっちまおう、などという発言が聞こえたが…どういうことだ?」
「いえ、違うんです。何でもないです。」
「何でもないとは思えないな。
明日、お前たちの父親には話しておこう。」
「えっ。それは困ります!」
「反論は聞かないから、出ていけ。仕事の邪魔だ!」
「っす、すいませんでしたぁぁ!」「失礼しました!」
怯えるように走って逃げる令息たちを見て、何があったのか少しわかった気がした。
おそらく王子がエスコートせずにないがしろにしているから、
どう扱ってもいいと思われているんだろう。
ミルティアを襲ったら、身分はく奪程度じゃ済まないのだが…
あの馬鹿王子のせいで周りまで馬鹿ばっかりだ。
どうしたらミルティアを助けられるんだろう。