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その3

 シチュワート王子の言葉に首を縦に振っていると、背後から絶叫に近い声がかかった。


「エミリー!」


 反射的に振り向くと、二つの影がかばっと覆いかぶさってくる。私の両親だ。


「お父さん、お母さん!」


 強く抱きしめてくる両親を抱きしめ返すと、母親が心配げな声をあげた。


「エミリー、お前、大丈夫かい?」

「平気よ。だから心配しないで」


 改めて抱きしめる力を強くすると、横合いからシチュワート王子の声がした。


「エミリー様のお父様とお母様ですね。お初にお目にかかります。私はルイランド王国の第一王子、シチュワート・ロートン・グラントと申します。エミリー様のことは命に変えてもお守りいたしますので、どうかこのシチュワートにお任せください」


 シチュワート王子の言葉に、身体を離した両親が、シチュワート王子へ向き直った。


「シチュワート王子。先ほどの話は本気なのですか?」


 父親の言葉に、シチュワート王子が表情を引き締める。


「エミリー様を妃というお話でしたら本心です。ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。まず本人に申し出るのが先だと思い、少し先走ってしまいました」


 詫びるシチュワート王子に、父が首を横に振る。


「いいえ。よくぞ娘を助けてくださいました。確かに娘の気持ちが第一ではありますが、娘さえ良しとするのであれば、二人の婚姻に反対はいたしません」


 告げる父とともに頷く母を見て、シチュワート王子が噛み締めるような声を上げた。


「ありがとうございます」


 シチュワート王子が一礼すると、お辞儀をした母がこちらを見遣った。


「エミリー、気をつけるんだよ。風邪をひいたりしないようにね」


 手を握りしめてくる母に、私は頷く。


「大丈夫よ、お母さん」

「シチュワート王子様、どうぞ娘のことをよろしくお願いいたします」


 母は、私の手を握りしめたまま、シチュワート王子を見つめる。


「はい、必ず」


 シチュワート王子は母から顔を逸らさず答える。両親が首を縦に降ると、シチュワート王子がにこりと微笑んだ。


「では、行きましょうか」

「はい」


 手を取るシチュワート王子に私は首肯する。王子と兵士の助けで慣れない馬に乗ると、腕をシチュワート王子の身体に巻つけた。本当のところを言うと、走り出したいくらい恥ずかしいのだが、とにかく両親を見下ろした。


「じゃあ、行ってくるわね。お父さん、お母さん」


 別れを告げると、父は頷き、母は言葉をかけてくれる。


「ああ」

「元気でね。くれぐれも身体に気をつけて」

「ええ」


 思いを込めて返答すると、シチュワート王子が振り向いた。


「それじゃあ行きますよ」

「はい!」


 私はシチュワート王子の背中から回した腕をに力を込め、走り出した馬に振り落とされないよう必死でバランスを取り続けた。


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