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その3

 雨を眺めながらのアフタヌーンティーを楽しんでしばらく経った頃、不意にノック音が響いた。


「はい」


 ルナが扉へ向かいながら返答する。


「私だ」


 扉の向う側から聞こえてきた声に私たちは驚く。


「ワイアード王?!」


 私は立ち上がり、慌てて扉を開けた。そこには穏やかな笑みを浮かべている、ワイアード王の姿があった。


「二人で過ごしているところに申し訳ないが、少々話があってな」


 部屋に入ってきたワイアード王は、言葉を切った。


「どのような?」


 何かあったのだろうかと気になって訊くと、ワイアード王の耳が赤くなった。


「その、つまり、だな。つまり、これなんだが」

「なんです?」


 受け取った私は即座に封を切り、中身を出す。


「招待状!」


 入っていたものは、結婚式の招待状だった。だが、ワイアード王自らが持参してくるとは。少々困惑していると、シチュワート王子が破顔する。


「ということは、アリシア王女とついにご結婚ですか?」

「ああ」


 照れくさそうに頷くワイアード王に、私は歓喜する。


「おめでとうございます」


 心を込めて祝福の言葉を贈ると、ワイアード王が口許を綻ばせた。


「ああ。ありがとう、エミリー殿。本来そなたは家に帰すべきところなのだが、残って貰っているのは、他でもない。結婚式に参列して欲しいからだったのだ。今まで説明もせずにいて申し訳ない。本当に二人には迷惑をかけたな」


 ワイアード王の言葉に、私はかぶりを振る。


「いいえ。いいんです。アリシア王女は今どうなさってるんですか?」

「すこぶる元気でいる。以前とは違って、よく笑うようになった」


 ワイアード王の発言に、私は嬉しくなった。

 明るくなったアリシア王女をこの目で見てみたい。


「それは、本当によかったですね」


 思いのまま口にすると、ワイアード王が告げる。


「結婚式までに一度会いたいと言っていたぞ」

「はい。喜んで。私もアリシア王女とお話したいです」


 ワイアード王の言葉に、私は首肯した。本当に、会って駆け引きも憂いも何もない話をしてみたい。すると、ワイアード王が今度は表情を改めてきた。


「ああ、それからこれは少し真面目な話なんだが、そなたがシチュワート王子と結婚するとなると、我が国から聖女がいなくなるということになる」

「はい」


 私は首肯する。そんな私を横目にワイアード王の話は続いた。


「この間の儀式の件でそなたは聖女であることの証を立ててしまったため、聖女を隣国へ売り渡す気か、と申す者が出てきてしまってな」


 ワイアード王の発言に、私は目を瞠る。


「え……。揉めているんですか? 私のことで?」

「揉めるとまではいかないが、少し説得する必要が出てきたのだ」


 ワイアード王の言葉に、シチュワート王子が渋い顔をした。


「長引きそうですか?」

「いや、大丈夫だろう。というより、私が長引かせない。ら何しろそなたらは私たちの恩人だからな。二人のために骨を折るくらいなんでもないことだ」

「ありがとうございます」


 ワイアード王にシチュワート王子が礼を言う。すると、今度はワイアード王が真剣な表情を浮かべた。


「いやいや、むしろこれまでの罪滅ぼしだ。これまで本当に辛い思いをさせた。どうか許して欲しい」


 頭を下げてくるワイアード王に、私は慌てる。


「あ、頭を上げてください。私そんなこともうきにしてませんから」


 私の発言に、シチュワート王子が割り込んできた。


「私は少し気にしていますがね。何しろあなたは私の愛しいエミリーを好きだ好きだと追いかけ回したのですから」

「シチュワート様!」


 手厳しい言葉を投げかけるシチュワート王子を、私は嗜める。だが、ワイアード王は一度顔をあげた後、すぐにまた頭を下げた。


「すまなかった、シチュワート王子」

「んーそうですねぇ。なら、この国でとびきりの茶葉を我が国に分けてください」

「うむ。すぐにでも手配しよう」

「ありがとうございます」


 シチュワート王子の要求に対し、ワイアード王が承諾する。そんな大事なことをこんなところで決めてしまっていいのだろうか。そんなことを思った時、目の端にティーセットが映った。


「そうだ、ワイアード王。せっかくですから、お茶でもいかがですか?」


 私が誘うと、ワイアード王がまた耳を赤くする。


「いや、その、これからアリシアのところへ行くのでな

「そうですか」


 心なしか声が弾んで聞こえる。


「アリシア王女によろしくお伝えください」


 私が微笑むと、ワイアード王が嬉しげに頷いた。


「ああ、ではな」


 ワイアード王は踵を返し、去っていった。


「幸せそうですね」


 ワイアード王の表情を思い浮かべながら感想を述べると、シチュワート王子が柔らかく微笑む。


「私たちだって幸せです。そうではありませんか?」


 尋ねてくるシチュワート王子に、私は首を縦に振った。


「はい。そうですね」

「では、お茶のおかわりをお願いできますか?」


 シチュワート王子の問いかけに、私は満面の笑みで答えた。


「はい、もちろんです」


 幸せだと、心から思った。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。


気に入ってくださいましたら、ブクマ、評価などいただけますと、

大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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