その1
「え、ええっと……?」
これはなんの冗談だろうか。
(もしかして、ここは笑うべきところ?)
ぜんっぜん笑える気はしないけど。
返答に窮してシチュワート王子の表情を窺うと、思った以上に真剣なグリーンの瞳とぶつかった。
「返事は今すぐとは言いません。ゆっくり考えていただいてかまいませんから」
「は、はあ……」
恥ずかしいので手を離してくれないだろうか。
などと考えつつ、曖昧に返答すると、ですが、と握られた手の力がより強くなった。
「ですが、できれば今度、一緒に出かける機会をいただけませんか?」
「あ……」
強引な、とは思うけれど、痛いほど握られた手の不思議な温かさと、真剣な面に何も言えなくなる。
「お嫌でしょうか?」
嫌? ううん、そんなことは、ない。ただ、疑問に思うだけで。
私は自分を叱咤して、心の姿勢を正す。
「い、いいえ。嫌ではありません。でも、あの、なぜ私なのですか?」
私の問いかけに、なぜかシチュワート王子が夢見るような微笑みを浮かべる。
「あなたがいい。あなただからこそなんです」
それでは説明になっていないのだけど。私は今一度自分の置かれた状況と、目の前で優しく微笑む存在について考えを巡らせてみた。
私は今にも火あぶりにされそうなわけであり、この返答次第ではまたあの小山に逆戻りになるのだろう。で、この今目の前で蕩けるような微笑みを浮かべているシチュワート王子は、なぜかわからないが私を妃にと言っている。しかも返事は待ってくれる、と。ならば、ここは王子の言葉に甘えてしまってもいいのではないだろうか。
(でもそれって人の心を利用しているみたいよね)
そういうのは、ちょっと気が引ける。
(でも……)
そうだ。私は、まだ、死にたくない。
やりたいこと、見たいもの、まだまだたくさんあるのだから。
私は一度目を閉じ、決意を固めた。閉ざしていた瞳を開き、シチュワート王子をまっすぐ見つめる。
「わかりました。それでは、その、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。詳しいことは後日ご連絡差し上げますので」
「は、はい」
頷くと、やっとシチュワート王子が立ち上がる。
なんとなくそのまま見つめ合っていると、横合いから不機嫌な声が飛んできた。
「待て待て待て。そんなことを勝手に決めてもらっては困る。この者は仮にも我が国の聖女なのだぞ」
声の主はワイアード王だった。
ワイアード王は文句を言いながら、私とシチュワート王子の間へ割って入ってきた。