表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/42

その6

 これはおそらく、いや、絶対に試練の始まり。

 とはいえ、人差し指に乗っているこのてんとう虫は……。


「まさか、とは思いますが、シチュワート様、ですか?」


 私が尋ねると、てんとう虫がイエスとでもいうように周りを飛び回り始めた。


「本当なの? え? で、でもじゃあどうしよう。シチュワート様、何か、ご自分で何かできることありますか?」


 重ねて問うと、にわかに私の頭の上から雨が降ってきた。


「シチュワート様! 魔法は使えるのですね!」


 私は歓喜する。


「ならばすぐにでも城へ帰りましょう」


 私が歩き出そうとすると、小さな水しぶきがあがった。


「え? なんです?」


 問いかけると、てんとう虫は私の薬指へとまる。


「も、もしかして、さっきの話の続きをやれ、と?」


 私は背中に嫌な汗を掻いた。


「そ、それはちょっと……」


 手を横に振ると、てんとう虫は八の字に飛び始めた。


「だって、今言ってもどうしようもないじゃないですか」


 どうにか落ちつかせようと言い募るも、てんとう虫は飛び回るのをやめない。


「う……」


 私は呻く。


「ど、どうしても、ですか?」


 私は唇を噛み締める。覚悟を決めかねていると、城の方角から声が飛んできた。


「エミリー様!」

「シチュワート様!」


 その声に、私は目を凝らす。


「あ! ルナ! ルーカス!」


 天の恵みとはこのことだ。

 私が思い切り手を振り、二人の名を呼ぶ。


「これは! 王子はどこに?! 魔女はどうなりました?!」

「それが……」


 近づいてきたルナとルーカスに私はこれまでの経緯を説明した。


「なんてことだ! では、シチュワート様は魔女の呪いにかかってこのレディバグになってしまった、ということですか?」


 ルーカスが私に尋ねてくる。


「そうなの。もう私、どうしたらいいかわからなくて……」


 私がこめかみに手をやっていると、ルーカスが小首を傾げてきた。


「その割には随分シチュワート様と話し込んでいるようにも見受けられましたが……」

「あ、あれは、その……」


 ルーカスの言葉に私は言い淀む。まさか告白しようとしていたとは言えない。だんまりを決め込んでいると、ルナが拳を握り締めてきた。


「そんなことより呪いです! とっとと解いてしまいましょう!」

「そんなこと言ったって、どうやって……」

「決まってるじゃないですか! 古今東西呪いを解くには愛の告白と相場が決まってるじゃないですか! さあ、エミリー様! どうぞ!」


 いつになく押しの強いルナに、私は若干引く。


「そ、そんなこと言われたって……」


 視線を逸らすと、ルナが言い募ってきた。


「でも、エミリー様も少しはそうじゃないか、って思っていたのでしょう?」

「そ、それは! そうだけど……」

「なら、はりきって参りましょう!」


 ルナが無理やり促してきて、私は目を剥いた。


「ええ?! 今ここで?! あなたたちもいるのに?!」


 そんなことできるわけがない。そう思って否定するが、ルナは引かない。


「当たり前じゃないですか! もう! 時間がないんですから早くしてくださいな」

「申し訳ございません、エミリー殿。これもシチュワート様のためですので」


 ルーカスまでが促してきて、私は逃げ場がなくなった。


「う……! わ、わかったわよ」


 こうなったら一縷の望みを賭けて告白するしかない。私は覚悟を決め、てんとう虫へ口火を切った。


「シチュワート様。私は、あなたのことが……」


 最後の言葉を告げるのには勇気がいった。だって、さっき言ったばかりだったし。私は深呼吸をして、一気に想いを吐き出した。


「大嫌いです!」


 え?

 口をついて出た言葉は、私が思っている言葉とは百八十度違った。


「な!」


 ルーカスが叫ぶ。ルナも目を剥いた。


「エミリー様?! 何を?!」

「え? え? な、なんで?!」


 私は訳がわからず混乱する。好きだと言ったつもりだったのに、なぜかそれとは逆の言葉が出てきてしまった。


「エミリー様。落ちついて、もう一度いきましょう」

「わ、わかったわ。いくわよ!」

「はい!」


 ルナに励まされ、私は今一度覚悟を決める。


「私は、シチュワート様のことが大っ嫌いです!」


 きっぱりと言い切ってしまい、冷たい空気が流れた。


「エミリー様! あんまりです!」

「どうしてそんな酷いことを!」


 ルナとルーカスから口々に文句を言われ、私は自分の中で起こっていることを悟った。


「わ、私! 私! 告白しようとすると、思ってることと逆の言葉が出てきてしまうみたい!」

「な!」


「どうしよう! これじゃあ、みんなが不幸になっちゃう!」


 半ばパニックし頭を抱えていると、その時、てんとう虫がふわりと私の髪を揺らした。私が顔を上げると、飛んで虹を作りだす。


「し、シチュワート様?」


 驚いて瞬きしていると、今度は雨を降らせ、ハート型の水溜まりを創りだした。


「シチュワート様!」


 シチュワート王子はわかってくれている。そう思うと、私は自然に目に涙が浮かんだ。やっぱりこの人が好きだ。そう思うのに、


「わ、私、私は大嫌いですー」


 口をついて出るのは、未だ思っていることとは真逆の言葉だけだった。


ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。


気に入ってくださいましたら、ブクマ、評価などしていただけますと、

大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ