その2
昨日は大変短い原稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。
これからはなるべくこのようなことがないよう最後まで頑張っていこうと思いますので、
どうぞよろしくお願いいたします!
「私も行くぞ! エミリー殿!」
ワイアード王が馬を降り、私に駆け寄ってくる。
「え? いいえ。ワイアード王はご公務があるはずです。私たちは用事を終えてすぐに戻ってきますから」
私はワイアード王を避けながら愛想笑いを浮かべた。だが、逃げるより先にぐいっと手を握られる。
「そんなことをさせられない。私のために魔女に会うとアリシアから聞いたのだ」
「それは……まあ、そうですが……」
私はワイアード王の言葉へ曖昧に浮かべながら、なんとか手を引き抜こうと躍起になる。どうにかして自分の手を取り戻した時、ワイアード王が悲しげな声音で問いかけてきた。
「本当のところやめて欲しいと思っている。だが、そなたはそれでも行くというのだろう?」
「はい。行きます。絶対に」
ワイアード王の問いに、私は迷いなく首を縦に振る。
「そなたならば、そういうと思っていた。だから、せめて傍にいて守るよりほかあるまい。私もついていく。絶対に、だ」
それは困る、と私が言おうとした時だ。私の前に広い背中が立ちはだかった。シチュワート王子である。
「ワイアード王、あなたは病人も同然なのです。ですから、城でおとなしくしていてください。エミリー様は私が必ずやお守りしますから」
シチュワート王子がごく真面目な口調でワイアード王へ語りかける。だが、ワイアード王が納得した様子はなかった。
「そんなことを言って、そなたはただエミリー殿とともにいたいだけではないか。違うか?」
「いいえ。私は真実エミリー様のお力になりたいだけですよ。何しろ彼女は私の婚約者なのですから」
ワイアード王の質問に、シチュワート王子が腰に手を当て胸を張る。そんなシチュワート王子へワイアード王が鼻を鳴らした。
「だが、未だに返事は貰っていないのだろう? それでは、そなた、ただの付き纏いではないか」
小馬鹿にしたようなワイアード王の発言に、シチュワート王子がムッとする。
「とにかく、ワイアード王は城へ戻ってください」
「断る! エミリー殿についていく! 絶対に、だ!」
シチュワート王子が苛立ったように告げるも、ワイアード王は腕を組んで言い切った。
「困ったわね……」
呟いたのはルナで、私は一瞬自分の内心を読まれたのかと思い、どきりとする。ルナはそんな私をよそに、シチュワート王子の侍従、ルーカスの元へ向かった。
「ルーカスさん、ちょっとよろしいですか?」
「はい。なんでしょう?」
ルナの方を向き目を瞬かせるルーカスに、ルナが告げる。
「ここは、私たちの出番ではないか、と」
「僕らのですか?」
ルーカスが眉根を寄せると、ルナが真剣な顔で頷いた。
「ええ。ワイアード王は王様ですから、ヘタなことはできません。でもついてきてもらっては、エミリー様も我が主、シチュワート様も困るではないですか。ですから……」
語尾を濁すルナに対し、ルーカスはふむ、と顎に手をやる。しばし考え込んだ後、ルーカスは深く首肯した。
「なるほど。承知いたしました」
言うが早いか手を天に翳すルーカスへ倣うように、ルナも手を翳す。
「立ち並ぶ木々と草花たちよ。我に力を。この者にふさわしき寝床を与えたまえ」
ルーカスが植物へ呼びかけると、たちまち道端に植物でできた天蓋つきのベッドが現れる。同時に、ルナが声を張った。
「風よ。彼の者を捕らえる戒めとなれ」
途端に細く鋭い風が私の横を駆け抜け、ワイアード王が呻く。
「な、な、何を!」
両手の自由を奪われたワイアード王が叫ぶのを聞きながら、ルナがシチュワート王子へ呼びかけた。
「シチュワート様。申し訳ございません。少しお力を」
「わかった」
ルナの言葉に対し、シチュワート王子が承諾する。
「水よ。波の音を運びこの者を安らかな眠りへと誘え」
シチュワート王子が水へ呼びかけると、ワイアード王ががくりと膝を落とした。
「う! ま、また……」
ワイアード王はまたしても眠りについた。ルーカスとルナが風と植物の力を使ってワイアード王をベッドへと運ぶ。
「これでここにしばらく眠っていていただきましょう」
微笑むルナを前に、私は少し心配になり尋ねる。
「でも、このままでいいの?」
一国の王を道端に置いてはいけない。一度城へ戻るべきだろうか。逡巡していると、ルナが事もなげにに答える。
「私たちが迎えが来るまでここについていますから」
「迎えって言っても誰が……」
ルナの言葉に反論しようとした時だ。
「お兄様ー!」
「え!」
城の方角から、甲高い馬の嘶きと硬い車輪の音が聞こえてきて、私は目を剥く。
「噂をすれば、ですわ。風で知らせをアリシア王女へ送っていたのです」
くすりと肩を揺らすルナの言葉を聞き、私は感嘆した。
「ルナってすごいのね。尊敬するわ」
心から感心していると、ルナの頬が少し赤らんだ。
「まあ、エミリー様ったら。そんなことを言っていないで、早くお行きになってください。足跡があんなに連なっておりますわ」
先の方を示されて、私は目的を思いだす。
「え? あ、大変!」
足跡がもう随分遠くまで伸びているのが見え、私は焦る。
「急ぎましょう!」
シチュワート王子が促してきて、私は首肯した。
「ええ!」
私とシチュワート王子は即座に踵を返し、青く輝く足跡の後を追った。
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