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その6

「シチュワート王子! 大丈夫ですか! さ、この水を!」


 アリシア王女が私を押しのけてシチュワート王子へ水を差し出す。


「アリシア……王女……。すみません。いただきます」


 シチュワート王子はアリシア王女からコップを受け取り、一気に飲み干す。


「ふー……」


 一息吐いたシチュワート王子へ、アリシア王女が期待の篭った視線を送った。


「い、いかがです?」


 上目遣いで尋ねるアリシア王女に、シチュワート王子が口許を綻ばせる。


「いや、思った以上に熱くてびっくりしてしまいました。面目もありません」


 頭を下げるシチュワート王子を前に、アリシア王女は拍子抜けしたような顔で問いかけた。


「え? そ、それだけ?」


 アリシア王女の質問に、シチュワート王子は眉根を寄せる。


「それはどのような意味ですか?」


 すると、アリシア王女は身振り手振りで質問を重ねた。


「こう、身体に変化とか。その、特に、わたくしに何か言うことはございませんか?」


 アリシア王女の言葉に、シチュワート王子はきょとんとした後、軽く頭を下げた。


「水を用意してくださりありがとうございました」

「は、はあ……」


 シチュワート王子の行動に、アリシア王女が首をしきりにかしげる。私はアリシア王女の発言が気がかりだったが、まずはシチュワート王子の様子を窺った。


「大丈夫ですか? シチュワート王子」


 私が尋ねると、シチュワート王子がふわりと微笑む。


「ええ。問題ありません。エミリー様も何かご用意してくださっていたりするのですか?」


 期待のこもった目で見つめられ、私は頬を掻く。


「え? ええっと、何も……。何かお望みですか?」


 今一度問うと、シチュワート王子の笑みが深くなった。


「いいえ。ただエミリー様が用意してくださったものなら毒だろうとなんだろうと飲み干しますから。このこと、覚えておいてくださいね」


 さらりと物騒なことを告げられ、私は目を剥く。


「そんなこと! 冗談でも言わないでください!」


 激昂すると、シチュワート王子が相好を崩した。


「すみません」

「何ニヤニヤしてるんですか!」

「いや、本気で怒ってくださっているので。嬉しくて」


 ニヤニヤがとまらない様子のシチュワート王子を前に、私は苛立つ。


「もう! 知りません!」


 私は立ち上がり、シチュワート王子から背を向ける。


「あ、エミリー様!」


 悲痛げ声が聞こえてきたが、とりあえず無視してワイアード王へ語りかけた。


「ワイアード王。大丈夫ですか? お水持ってきましょうか?」


 首を左右に振っているワイアード王の様子を窺うと、ワイアード王はおもむろに顔を上げる。やがて私の姿を認めると、ワイアード王が目を見開いた。


「……そなた……!」

「え?」


 私は目を点にする。


「なんと美しい……」

「何がですか?」


 ワイアード王が夢見るような口調で言葉を紡いだ。


(どうなってるの?)


 訳がわからず問いかける私に対し、ワイアード王はがしっと両手を掴んでくる。


「エミリー殿! ぜひとも私の妃になって欲しい! なぜ今までそなたの美しさにきづかなかったのか……。今までの非礼、どうか許して欲しい……」


 突然の申し出に目眩を催していると、脇からアリシア王女が驚きの声を上げた。


「お、お兄様?!」


 声を裏返すアリシア王女を尻目に身を固めていると、横合いからシチュワート王子が無理やり手を解いてきた。


「な! 何を言っているんですか! そんなことこのシチュワートが許すはずがないでしょう!」


 声を荒らげるシチュワート王子のさらに横で、アリシア王女が口許を手で覆う。


「そ、そんなこと……! リルナ! あなた、まさかお兄様にあれを!」


 慌てて侍女の方に顔を向けるアリシア王女を前に、侍女のリルナが勢い良く頭を下げた。


「申し訳ございません、どうしてもアリシア様のお力になりたくて」

「何を言っているの! わたくしは間違いなく媚薬をシチュワート王子にとあれほど!」

「なんですって?!」


 混乱した様子のアリシア王女が口走った言葉に、私は目を剥く。だが、問い詰めようとした私を制し、シチュワート王子がアリシア王女へ訊いた。


「アリシア王女。私に媚薬とは、どういうことなんですか?」


 平静な声音で尋ねるシチュワート王子を前に、アリシア王女が呻く。


「くっ……」


 唇を噛み締めアリシア王女が俯いた。そんなアリシア王女を庇うように進み出てきたのは、侍女のリルナだった。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。


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