その1
「お疲れですか?」
両親と別れ城へ戻るとすぐ、シチュワート王子が尋ねてきた。嬉しい気持ちが勝っていた私は素直に首を横に振る。
「いいえ。今日は本当にありがとうございました」
すると、シチュワート王子は少し顔を上向けた後、自身の髪にくしゃりと触れた。
「もし、よろしければ、なんですが。少し、歩きませんか?」
「え?」
突然の申し出に目を瞬かせていると、シチュワート王子が言葉を重ねてくる。
「庭を、です」
「あ、はい」
シチュワート王子の言葉に、私は慌てて頷いた。
***
私たちは城の前庭を歩いた。
「覚えておいでですか? ここで私はあなたと出会ったんですよ?」
シチュワート王子の問いかけに、私は首肯する。
「はい。私は迷路に迷ってしまっていて。そんな時、仏頂面のシチュワート王子と出会ったんですよね?」
確認すると、シチュワート王子が苦笑した。
「仏頂面はひどいなあ。でも、はい、そうです」
「私はなんとかしてシチュワート王子、あなたを笑顔にしてみたくなって、それで……」
私は曖昧な記憶をなんとか手繰り寄せてみる。けれども、思い出せたのはそこまでで、私は唸るほかなかった。眉間に皺を寄せていると、シチュワート王子が顔を覗き込んでくる。
「ああ。やはりそこからの記憶が曖昧なのですね?」
「ええ。どうしても思い出せなくて」
シチュワート王子の確認に、私は答える。覚えていないことが申し訳なくて俯いていると、シチュワート王子が微笑んだ。
「あなたは私に言ったんです。『つらくても泣かないなんてすごいね! ほら見て。この虫はね、綺麗な蝶々になるの。あなたの瞳と同じ色の蝶よ。そんないい服でお城にいるってことは、あなたもいずれえらくなるんでしょ? それなら笑った方がいいよ。えらい人はつらい時ほど笑うんだ、ってお父さんが言ってたもの』と」
「あはは」
声真似を交えたシチュワート王子の思い出話に、私は声を上げて笑う。シチュワート王子はさらに話を続けた。
「それから私が無理やり笑顔を作ってみせると、手を叩いて喜んでくれたんです。『あなたが王さまになるのなら、きっと街で評判の王さまになれるね!』と。だから私もあなたを喜ばせたくなりました。それで、水を飲ませたんです」
「水を? 魔法で、ですか?」
私は尋ねる。シチュワート王子が話してくれたことは覚えていないが、水の件は朧気ながら記憶があった。
「そうです」
大きく首を縦に振るシチュワート王子を前に、私はさらに記憶を辿る。
「そうだ。そうだわ。それで、その水が美味しくて……」
考えながら言葉を紡いでいると、不意に背後から声が飛んできた。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
気に入っていただけましたら、ブクマ、評価などしていただけますと、
大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。




