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その3

「本日はお忙しい中のお招き、ありがとうございます」


 午後十四時ちょうどに、私はアリシア王女の部屋を訪れた。

今日からの衣装はルナからの助言で、白の衣と紺のローブを身にまとっている。

ドレスより窮屈ではないけれど、それでもなかなか慣れそうもない。

街着の方が身軽でいいのに。

内心でルナへ文句を言っていると、冷たい声が響き渡った。


「勘違いなさらないで。お兄様がどうしてもとおっしゃるからしかたなかっただけですから」


 ツンと鼻を上向けながらも、侍女に命じてアフタヌーンティーがセットされたテーブルへ案内してくれる。

 私は促された席へ座りながら、向かいにいるアリシア王女へ目を向けた。


「承知しています。昨夜も大変失礼しました」


 頭を下げると、アリシア王女が眉間に皺を寄せる。


「そもそも、火あぶりになるはずだったあなたがなぜここにこうしているのです? 

お兄様がわたくしとの約束を破ったことなど、今まで一度もなかったのに」


 口惜しげに言葉を紡ぐアリシア王女を前にして、私は、え、と瞳を見開いた。


「お聞き及びではないのですか?」


 てっきり承知しているものと思っていたのに。ワイアード王、これでどうやって彼女の想いを探れというのか。


(まあ、八割がたシチュワート王子で決まりだからいいんだけど)


 こっそり溜め息を吐く私には気づかず、アリシア王女が首を横に振る。


「自室にいたので何も」

「そうだったのですか……」


 どうしてこんな大事なことを城の誰も彼女に教えなかったんだろう。

 それって優しさって言うのかなぁ? 

 小首をかしげていると、アリシア王女が不愉快げに問いかけてきた。


「なんです?」


 いかにも不信げなその声音に、私はちょっとだけ自信を失う。

 なんとなく、仲良くなれそうな感じがしないのだ。

 私はしばし考え、おもむろに口を開いた。


「実は私も詳しい経緯は知らないんです。

ただ私の刑の執行を取りやめにしてくださったのは、

ワイアード王ではなくシチュワート王子だということだけで」

 

 私がゆっくり説明すると、アリシア王女の瞳が見開かれた。


「……ああ、そ……う。そう、なの。シチュワート王子が……。お兄様ではなく……」


 両頬に手を置き俯くアリシア王女は、どこか嬉しげな様子をしていて、私は戸惑った。

 なんでここで喜んでるんだろう。

 目まぐるしく頭を回転させるが、心当たりはない。しかたなく、私は当初から用意していた話をすることにした。


「アリシア王女」


 私が呼びかけると、


「なにか?」


 と、アリシア王女は表情を改める。私は構わず話を続けた。


「あなたがテスラ王子以外の方を想っていらっしゃることは、聖水を作った私には明白です。

ですから、ぜひとも力になりたいんです。アリシア様が望むのであれば、

私はあなたが心からお慕いしていらっしゃる方との縁を何がなんでも結ばせていただきます」


 胸に手を当て宣言するも、アリシア王女が鼻で笑う。


「あなたが? わたくしの想う方との縁を結ぶ?」

「はい」

「それは無理というものです」


 私の提案を、アリシア王女が切って捨てる。だが、私もここで引く訳にはいかない。


「そんなことはありません」


 私が強く否定すると、アリシア王女の顔が怒りで真っ赤に染まった。


「無理です! だってわたくしの想う方はわたくしではなく、あなたを想っていらっしゃるのですから!」


 声を荒らげるアリシア王女を前に、私はテーブルへ手を置き身を乗り出した。


「それは努力で変えることができます!」


 きっぱり言い切ってみせると、アリシア王女の目が泳ぐ。


「何を……」


 うろたえたように言葉を淀ませるアリシア王女に対し、 私は胸を張ってみせた。


「おまかせください。シチュワート王子のお気持ちは、必ずやアリシア王女様のものになるでしょう」


 その瞬間、アリシア王女の目が点になった。


「シチュワート王子?」

「はい!」


 アリシア王女の問いかけへ、私は自信たっぷりに頷く。だが、返ってきたのは馬鹿にしたような笑い声だった。


「何を言うかと思えば。くだらないこと」


 アリシア王女は鼻を鳴らし、見下しきった視線を向けてくる。


「いいですか? わたくしが想っていらっしゃるお方は、我があ……」


 そこで、空気が固まった。


「え?」


 訳がわからずアリシア王女を見つめ返すと、アリシア王女がいきなり身を引いた。


「なんでもありません」


 持っていた扇を唐突に開き、仰ぎながら明後日を向く。


「で、でも、今なにか言いかけていらっしゃいましたよね?」


 私が追及するも、アリシア王女は


「気のせいです」


 と、必死で視線を逸らす。私はふと思い立ち、声を潜めアリシア王女へ訊いた。


「もしかして、側近のルーカス様の方でしたか? それならそれでルーカス様のお気持ちを確かめてから……」

「エミリー嬢」


 私の言葉は、きっぱりとした口調に遮られた。


「はい」


 私が姿勢を正すと、アリシア王女が言葉を紡ぎだす。


「わたくしの想いはわたくしだけのものです」

「はい」


 私は首を上下させる。


「ですから、あなたにとやかく口を出されるのは我慢がなりません」


 アリシア王女の発言に、私は目を瞠る。


「で、でも!」


 それでは私を含め皆が不幸になってしまう。無意識に立ち上がりアリシア王女の腕を掴もうとすると、侍女とルナにとめられた。


「お願いだから、わたくしのことは放っておいて。わかったら、早くこの部屋から出ていってください」

「アリシア王女!」


 アリシア王女の言葉に納得がいかず、私は追いすがる。だが、アリシア王女が口に下の拒絶の言葉のみだった。


「出ていって!」


 全身で否定するアリシア王女を前に、私は肩を落とす。

 でも、諦める訳にはいかないんだ。私は折れそうになる心を叱咤して、吐息した。


「わかりました。けれど、私は私のためにも、アリシア様が幸せになる道を諦めたりしませんから」


 もう一度宣言してみせると、アリシア王女の目に涙が浮かんだ。


「エミリー嬢……」


 弱々しいその声音に、私は優しく声をかける。


「大丈夫です」


 言葉をかけながら、手を握ろうと手を伸ばす。

 しかしその手は、即座にアリシア王女によって弾かれた。


「お願い! お願いだから、一人にしてください!」


 私に背を向け椅子に縋りつくアリシア王女に対し、私ができることは今はない。


「今日はこれで失礼します」


 私は踵を返し、ルナとともに部屋を出る。自室に戻る廊下を歩きながら考えた。


(アリシア王女は、いったい何を隠しているの?)


ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。


気に入っていただけましたら、ブクマ、評価などしていただけますと、

とてつもなく嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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