桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿。
えっへん。球体関節人形の様な少女は左右の手を腰に当て、少しふんぞり返ってそう言い…。
「では…。少し桜について話そうかね。」と続けた。
はい。よろしくお願いします。先生。と光は返す。
「桜とは、バラ科サクラ亜科サクラ属だね。スモモ属とされる事もある。落葉広葉樹の総称,又はその花の事を指す。一般的に春に桜色と表現される白色や淡紅色から濃紅色の花を咲かせるんだ。桜の花言葉は、種類によって様々なのだが…。『精神の美』『優美な女性』『純潔』そして…。『私を忘れないで…。』だな。」
「最後の『私を忘れないで…。』だけ何か少し違和感がありますね。」
人差し指を顎に触れさせると首を少し右に傾けた。
「そうなんだよ。ソコこそが桜を桜たらしめる要素なのだよ。光は知ってるか?桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿。って諺。」
いえ。知りません。と御子神は言葉を置き、左右に首を振る。
「この諺は、剪定の方法を表しているんだよ。桜の枝は切らずにおく方が良く、梅の枝は切った方が良いと云う事だよ。梅は枝を切らないと無駄な枝がついてしまうので切ったほうが良いとされている。では…。桜はどうなのか…。」
ハラハラと2人の頭上に桜の花弁が舞う。
「外観が優美であり、荘厳である桜は…。病気に弱く、傷付く事に弱い…。桜の枝を切ったり折ったりすると、その傷口から樹液が出て、樹勢が弱まる。そして、傷口に腐敗菌が増殖して、木全体に病気を引き起こすんだ。桜は繊細なんだ。だから剪定には注意が必要なんだよ。剪定は落葉時期に行い、剪定した後には、断面に癒合剤を塗り、傷口を塞ぐ必要がある。」
またハラハラと花弁は舞った。
「桜は、見た目とは裏腹に弱く。そして脆い。桜は『散る』花だ…。故に儚い。『私を忘れないで』と云う花言葉は、桜の花が散る儚い様子に、恋人が別れる切なさを重ねあわせたのが由来なんだよ…。」
星月は空に舞う花弁を瞳で追う。
その花弁は日差しに溶けて視界から消えたかの様に見えた。