桜とは…
「桜と云えば…。光は何を連想する?」
星月天乃は、眼前で座っている少女に問いかけた。光と呼ばれた御子神と云う少女は、人差し指を唇に触れさせると刹那的に思考をして言葉を放った。
「春を象徴とする綺麗な花ですかね?」
「ほほう…。光は綺麗な花だと連想したのか…。」
天乃は左の眉を少しだけ上げて、微笑んだ。
「先生は綺麗だとは思わないのですか?」
御子神は脳裏で幻想的な桜の光景を浮かべている。ライトアップされた夜桜だった。春と云う季節を彩る色彩豊かな桜の花弁。
「綺麗だとは思うよ。桜吹雪の中にいると、それこそ夢の中にでもいるかの様な想いに包まれる。綺麗だろう。白い花弁は…。」
「白い花弁ですか?ピンクではなく?」
御子神はふと思う。
花弁の色はどんな色だっただろうか…。
御子神の脳裏に桜色が浮かんでいる。それは矢張り、ピンク色だった。
「それは記憶している事にズレがあるんだよ。一般的に桜の花弁はピンク、薄桃色と思われてはいるが、実際のところは、白を基調にほんの少しだけ桃色が入ってるだけだ。まぁ、特に街中で見られるのはソメイヨシノと云う品種の桜は、特に色素が薄いから、ほとんど白なんだよ。光がピンクだと感じているのは…記憶色の影響だよ。記憶色とは、特定のモノに対して人が記憶しているイメージとしての色の事を云う。そのイメージとしての色は、実際の色とずれている事がある。」
少し強めに春の風吹いた。
桜の花弁が青い空に舞う。桜吹雪だ。
長閑な春の日に咲き、パッと散ってしまう桜。
天乃は呟く。
「私にとっての桜は…。生と死を象徴とする花だ…。」