桜の木の下に…。
「人によってだな…。桜を美しいと感じるか…。恐ろしいと感じるか…。」
星月はそう呟いた。
御子神は瞳を閉じ、頷いた。
「認識の違いが桜の姿を変えてしまう…。そして、何方が正解で、何方が不正解でもない。桜は桜なんだよ。ただ咲いて散っていくだけだ。人も同じだね。生きて死ぬだけだ。」
強風が吹き付ける。
桜吹雪が視界を彩った。
色彩豊かにキラキラと花弁は舞う。
「あんなにも美しいんだ。それこそ、不安になるほど美しく咲く。だとしたら…。もしかしたら…。あの桜の、その下に醜い死体が埋まっているからと考えなくては説明が出来なくなる事もあるのかもな…。」
星月は少女の様に無邪気にクスクスと笑った。
夜の帳が降り、夕闇がモゾモゾと蠢いている。
大きな公園の時計塔を囲むかの様に咲いている桜は…。
ライトに照らされると一層の事、艶めかしく色彩を放つ。
「さて…。良い子は寝る時間だぞ…。」
星月は欠伸をしながらそう言った。
御子神は左腕に嵌めている時計を見て…。
「先生。まだ19時にもなってませんけど…。」
と言った。
うつらうつらしている球体人形の様な少女の見た目をしている女性は…。だって、眠いんだもん。とシートの上に寝転がった。御子神は、その人形の上にブランケットを掛ける。
これでは本当に何方が年上で何方が年下なのか…。周りは解らないのだろうな…。
そんな事を考えて、御子神は笑ってしまう。
そんな御子神を他所に球体人形は
大きな瞳を閉じながらー。
寝言の様に言葉を散らせ、語り始めた。
「桜だけじゃないぞ。人が人として生きていくうえでも、記憶と現実のズレがあったり、認識の違いがあったりする。光には、まだ解らないだろうけど…。恋や愛もそうだ。例えば初恋の人は美化されている事があったりする。記憶と現実のズレだな。自分の愛し方が相手の愛し方と一致する事も少ない。ソレは愛の認識の違いだったりする…。だから…。みんな…。」
クカァ。クカァ。と人形は寝息をたてた。
「あっ…。寝た…。」
そう呟いてから御子神は夜桜を見上げた。