徒桜
1年半程前の時分だったと思う。
恋人である上村直仁の様子が緩やかに狂っていった。雰囲気と云うか、纏う空気感と云うか、そういったモノが変化した。言葉を交わした時の引っかかり、肌を重ねた時の違和感。ソレには既視感、所謂デジャヴュを感じた。
あの時の…。
私が家族を失ってしまった…あの時の…。
崩壊の予感だった。緩やかに…そして確実に壊れてしまう。
そんな崩壊の予感だ。
『このままでは、私の心が折れてしまう。』
そう思った。
そして…。
私は想像してしまったのだ…。
『心が折れた、その傷口から細菌が増殖し腐敗してしまう。』
その様な事を…。
だから…。
だから…私は恋人に問い詰めた。
そうして…。
彼が胎天理教に入信した事を知ったのだった…。
私は…。
彼に嫌われたくなくて、入信をする事になった。
私は初めての集まりで…。
運良く教祖に、会う事が出来た。
胎天理教の教祖は2代目だった。
初代の教祖は、例の事件の責任を感じ自殺をしたとの事だった。
1度は解体された胎天理教は…。
2年ほど前、初代の教祖の意志を継ぐ女性により再構築されたのだと云う。
天国は胎内にこそ存在する。
『真実の愛』で結ばれた2人が愛し合い、子を成し、出産に至る迄の間にだけ天国は存在するのだと…。
女性の教祖は説いた。
顔は分からない。
眼の部分だけが空いた麻袋を被っていて、首には金属の鎖が巻かれていた。優しく時には厳しい言葉で私を導く。
気付くと私は…。
胎天理教に心酔していた。