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こんな時はラーメンっしょ!

作者: 犬三郎

 

「ぐがっ!?」


 ——休日。イヤーな夢を見た。昨日の嫌なことをもっと酷くしたような、夢だ。俺は布団から出て、スマホに付けていた充電器を取る。ボヤけた頭の中で、朝一番に思い出すのは、昨日の友達との会話。

 嫌なことを言われても、反論できてなくて、お風呂や、寝る前とかずっとあの言葉が頭を回る。あの時、こうしとけば良かったとか、あの時、ああ言い返せばよかったとか。


「あぁーー! イライラするな!」


 寝起きでいきなり大きな声を出したものだから、頭がズキっと痛み、右手で額を押えながら俺は部屋を出て階段を下りる。日差しが入ったリビング。犬2匹がぐっすりと日向ぼっこをしながら寝ている。


「おはよー、犬達〜。元気でしたかぁー」


 赤ちゃんをあやすような言葉遣いで犬達を鷹揚に撫でて、あまりの可愛さに、身を捩りながら踊り出す。

 ふと我に返り、「恥ずかしっ!」と1人ツッコミをして洗面所へ。タオルを流しのすぐ側に置いて、顔を洗う。

 今日は1歩も外に出ない気だから、髪の毛を洗わず、歯ブラシに歯磨き粉をつけて、磨き出す。

 若干、覚めつつある意識と共にキッチンへ。今日の朝ご飯は何かなとと、乱雑に置いてあるオカズを見る。


「……鮭と、卵焼きと、焼肉ダレで味付けた鶏肉か」


 ——気が乗らない。いつものご飯すぎる。鮭なんて、週7続いた時からご飯が進まなくなって、卵焼きなんてそもそもご飯は進まない。

 鶏肉が唯一進むと思うが、それだけでご飯1杯を食べるのは。ってかこれを、見た時から頭の中で俺には1つの答えしかない。モヤモヤしててストレスが溜まっている時こそ、あれだ。


「こんな時はラーメンしょっ!」


 キッチンにある戸棚を開けて、ストックしてあるラーメンを見る。

 茹でる辛ラーメン、日清カップヌードル醤油、麺づくり味噌。

 もう絶対に辛ラーメン。朝から辛さと美味さでそのモヤモヤを吹っ飛ばす。俺は洗面所へ行き、口を濯ぐ。お湯を沸かしてれば、早く食べられたなと思いながら、鍋に水を入れてお湯を沸かす。

 その間にテレビをつけて、ニュース番組を選択する。


 辛ラーメンを戸棚から取って、袋を開けて、乾麺と調味料を袋の外に出す。袋を流しの近くに置いて、乾麺は袋の上、調味料は乱雑に置く。


「ずっ」


 不意に唾が垂れた。辛いものとか酸っぱいものを想像すると唾が出るあの現象だ。空腹ってのもあるし。

 フツフツと鍋の底から気泡が出現し始めて、まだまだかかるなぁ〜と思う。その時の頭の片隅にいるのはやはり、あの記憶。


『○○くんて、ちょっと考えすぎじゃない?』


『あー、そ……うかな? …………まあそうだけど……』


 フツフツ。鍋が温まると同時に俺の感情も熱していく。図星だった。

 俺はいつも考えすぎてしまう。それも悪い方向へと。寝る前、お風呂入る前、ゲームの待機時間。一瞬、それも深く、深淵を覗いているような孤独に襲われる。恥ずかしくなったり、心がモヤモヤしたり、頭がそれっきりになる。誰かは考えすぎたとか、他人はお前をそんなに気にしていないとか、そんな無責任な言葉だけでいい表す。俺はいつの間にか、木綿の布が色を良く吸うように、俺の頭も心も色を吸いすぎてもう色が抜けなくなってしまった。

 色抜けないのに、まだまだ色を吸うんだ。黒く、黒く、どんどん黒くなっていく。それなのに、知ったかしたような口調を言うな。お前に俺の何が分かる。焼け野原に居続ける、苦行を。


「あ、湧いてた」


 ブクブクとお湯が沸き上がり、慌てて乾麺を入れる。引き出しから箸を取り出し、箸先で乾麺を沈める。

 乾麺から泡が出てきて、泡が破裂する。今の俺の心はこんな感じだ。悪い考えがこれぐらいモワモワと溢れ出して、一瞬で弾け飛ぶ。弾け飛べばまた泡がモワモワと溢れ出す。

 そこに色を、この調味料のように赤く統一出来たらいいのに。

 俺の泡なんて透明でも、赤く綺麗な色ではない。黒だ。真っ黒だ。


「インスタントは3分20秒あたりがいいんだよ。俺は固めがいいからな」


 気を紛らわすように独り言を呟き、火を止める。気泡が出なくなった鍋、赤く染った鍋。ガチャと戸棚を開けて、ラーメンが入りそうな器を取る。ナルトが似合いそうな、赤色の模様が入ったラーメンどんぶり。そこへ雑に、鍋を傾けラーメンどんぶりとラーメンを入れる。

「あちちち」と言いながら、ラーメンどんぶりをテーブルに持ってく。不意に入れてしまった左手の親指を冷ますように口の中に入れる。

 軽く火傷したが関係ない。その後はスキップ混じりに、

 海苔

 卵焼き

 鶏肉

 鮭

 をテーブルへ置く。もうやることは分かってる。


「これが堪んねーだよな」


 料理ができない俺は、新たにオカズを作ることはしない。今のオカズをもっと美味くする。

 卵焼き、ほぐした鮭、鶏肉をボトボトと入れる。そこへ刻み海苔を有り得ないほど入れて、出来た。寝起き30分で食べる、罪悪感塗れの最高のラーメン。


「名付けて罪辛ラーメン(ざんしんらーめん)。くぅ〜、これがうめぇんだよな!」


 手を合わせようとした時、あ、いっけねと、足りないものに気づく。箸を台所へ取りに行き、再度着席。罪辛ラーメンを見ると涎がどばどばと流れる。もう待てないと麵を引き上げ、麺が箸から滑り落ちてパジャマに汁が飛び跳ねるが、関係ない。そのまま麵を口の中へ。


「はふはふ」


 ——と口の中を冷ます。上顎の皮1枚ぐらいくれてやる。朝から食べるには刺激が強すぎて、口の中がジワジワと辛くなっていく。モチモチとした麺がまた良い。

 ごくんっと、あまり噛まずに麺を飲み込み、コップに入った水を一気飲みする。


「あーー! うめぇっ! ……けど、けどけどけど! やっちゃう俺? 朝からやっちゃいます!?」


 っと美味さから口角が上がり、辛みによる暑さから頬を赤くしながら、再び台所へ行き、冷蔵庫を開ける。

 目に映るアレ。昨日の夜から冷やしてあった、ペプシ。


 ————罪悪感


 っが俺の背中からチクチクと刺さってる気がする。


「黙れ黙れ黙れ!」


 背中の棘を覇気だけで跳ね除け、横に倒れているペプシを取って、足早にまた着席。プシュ! っと蓋を捻ると音がなり、ペプシをごくごくと飲む。口に強烈な炭酸のシュワシュワさが広がり、仄かな甘味。それが喉奥、食道、胃袋とはいり、


「かぁぁぁぁーーーー!」


 まるでジジイ。うるせぇ、今日はいいんだ。炭酸の刺激によって更に辛味が増した口の中。頭のモヤモヤが薄れていく気がする。

 ラーメンどんぶりの縁に置いてあった、橋を握り、また麺を……といたいけど、焼肉ダレが汁に浸透し、辛味と旨味が合わさった鶏肉と麺を、


「——ズズズズッ」


 鶏肉の本来の旨味、そこから焼肉ダレ、辛味。美味い美味い美味い! ご飯とじゃなかったら、出せない旨み。味噌ラーメンや醤油ラーメンのカップラーメンでは出来ない、刺激。

 飲み込み、またペプシを入れたいが、我慢我慢。

 ここからは、避けてきた”アイツ”に触れていく。


「汁に馴染んできたからな」


 辛ラーメンには異常に海苔が合う。刻み海苔がヘナヘナになって、麺を箸で摘むだけで、海苔が麺に絡んで。まあとりあえず食す。

 辛ラーメンの味と、海苔の風味が抜群。俺の頬を殴られているかのようだ。

 やってはいけないけど、口の中に麺があってもコーラを流し込む。


「う、うまぁ〜。母親は止めろっていうけど、止められねぇ〜!」


 あまりの美味さに、顔を横に振って、口角を落とす。口角が上がりすぎて頬が痛いのなんの。そして、次は卵焼き。浮いている卵焼きを掴み、海苔を金魚すくいのように付けて、口へ。辛さと、卵焼きの甘み、そこから海苔の風味。

 1位、2位、3位と順々に味が来るのに全部が優勝だよ。心の中でそのよろこびをシャウトして、大本命。

 それは鮭。


 こんだけ味わっているのに、ごくんと唾を飲み込む。ヒリヒリとした辛さに体は止めとけと警告音出しているが、鮭と麺と海苔を掴み、いざ勝負。


 鮭の塩が効いた味と、鮭を食べた時にしか感じられないあの風味。その後の辛さからの海苔!

 旨味が俺の頬と、お腹と、脇腹に怒涛のラッシュ、笑いながらオフオフと蹲り、KO!

 そこに追い打ちをかけるように、ペプシが!


「……止められねぇ。罪悪感と安い俺の舌だから満足できるこの万人受けしない罪辛ラーメン、止められねぇ……!」


 海苔が無くなってきたから、また刻み海苔を足してバクバクと食していく。俺の——

 モヤモヤ

 フツフツ

 ブクブク

 モワモワ

 ボトボト

 ジワジワ

 チクチク

 シュワシュワ

 ヘナヘナ

 ヒリヒリ

 オフオフ

 バクバク


 が全部、全部、全部、俺のモヤモヤを漠然と大きくしていくんだ。1つの言葉が、人が気にかけているとも知らずに、その一言で俺は1日中苦しむんだ。

 嫌な言葉を押し付けて、抱えさせて、いつか俺は潰れる。この40分間だけでも、この言葉全部が俺のモヤモヤを増大していく。普通の日常があいつのせいで、崩れていくんだ、ヒビが入っていくんだ。

 気にするな? もう1回言う、気にするだろ。人を気にして生きないと生きていけない世の中になってるんだよ。この感情をぶつけても、また嫌な雰囲気になるだろ。だから、俺は抱えて生きていくんだよ。

 全員がたった一言、俺があんだけ戸惑った時に、ごめん、そういう意味じゃないとか、なんでそんなに戸惑ってるの? って繋げれば、俺はモヤモヤを打ち明けられるんだよ。

 それを自分で言え? 自分で言わないと分からない? そっちこそ、俺があんだけ戸惑ってるのに何で分からないんだよ。

 そういう想像をしないで生きていくだけで、お前はこの先、人を更に不幸にして生きていくぞ。俺達の気持ちを知ろうとしないで、1回、知っても知ろうとすることをすっとばして、反省もせずにまた言うんだろ?

 ネタだったとか、ノリとかそんなちっぽけな、意味の無い言葉だけで俺達をアスファルトに顔押し付けるんだろ? 俺は何回もあるよそんな経験。

 有り得ねぇよ、有り得ねぇ。おかしいだろ……そんなの。

 そんな友達、要らねぇだろ。


「あぁ〜美味かった」


 汁まで飲んで、ペプシも飲み込んだ。モヤモヤは少し晴れた気がするけど、まだモヤモヤは潜伏してる。またふとした時に、あの言葉を思い出すんだ。


「罪辛ラーメン、斬新なラーメンと、罪悪感が辛いラーメンがかかった、我ながらいいネーミングセンス」


 ゲップをしながら、俺は椅子から立ち上がった。朝の寝起きよりもちょっと軽くなった、体で。

 違う罪が俺を辛くしてくれたから。


ここは後で書きます!

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