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人間観察2

『一度グルンレイドの屋敷に顔を出してみてはどうでしょうか?その方が人間界の調査もしやすいでしょう。』そのようにくせっ毛のメイドから言われたが……正直グルンレイドのメイドという存在に近づきたくはない。さっきも殺されそうになったばかりだというのに。


「キサラ、どうするの?」

「……はぁ、仕方ない。挨拶に行こう。」

イリーナにそう答える。私たちが人間界で生きていくためにはどのみちグルンレイドのメイドは避けて通れないのだ。


「私、怖い。」

金髪のメイドにコテンパンにやられ手からというもの、グルンレイドのメイドをかなり怖がってしまっているようだ。まあ、あんな目にあったのだから当然といえば当然か。


「心配することないよ。こっちから手を出さなきゃ何もしてこないから。……多分。」

「うん。」

あの超絶わがままな性格のサナがこれほどまで委縮してしまうとは……。


とりあえずくせっ毛のメイドの指示通りに王国から南西にある山へと向かっているのだが、やはり周囲の人間たちは弱いものばかりだった。私たちが近づくだけで死んでしまうような、そんな脆弱な存在。しかしむやみやたらに人を殺す必要もないので、瘴気が届かないように上空を飛んでいる。


「夜になるとちょっとだけと瘴気が濃くなるわね。」

今はすでに日が沈んでいて真っ暗な夜だ。確かに昼に比べれば瘴気密度が上昇しているように感じる。魔法によって地上を観測してみると、瘴気だまりからモンスターが生まれてきていた。魔界で読んだ文献によると、人間はこのモンスターを魔物と呼んでいるらしい。魔物たちもモンスターと同列に扱われていると知ったらたまったものではないだろう。


「魔界に生まれるモンスターに比べてかなり脆弱だわ。」

「そうだね。」

山頂にいるグリフォンもかなり小柄で、魔力量も少ない。さっきの平原にゴブリンなんて弱すぎてモンスターという言葉すら似合わない。


そんなことを思いながら空を飛んでいると再び平野に出た。遠くには大きな森が見える。その手前には王都に引けを取らないほどの街並みが広がっていた。


「……綺麗。」

私がそうつぶやく。二人を見ても光り輝いている街に視線がくぎ付けになっていた。


「魔法?」

「えぇ、おそらく。」

二人の会話が夜に溶けていく。何か空気が澄んでる?王都周辺と環境は大きく変わらないはずなのに、ここは不思議なエネルギーに包まれているようだった。


「たぶん、精霊の加護がついてる。」

サナがそういう。私はそういうのを感じることはできないが、サナは感覚が鋭く様々なものを感知することができる。


「しかも最強クラスの精霊。」

確かに街や平野だけでなく森全体も包み込んでいるようだ。


「じゃあ、向かおうか……っ!」

私がそういって街へ飛んでいこうとしたら、違和感がからだを駆け巡った。……これは、結界!?おそらく私たちが上空にいることが探知された。


「どうしたの?」

「キサラ?」

二人は感じてはいないようだ。……いや、それでいい。下手に不審な行動をして怪しまれるよりは堂々と正面から向かった方がいい。ということで、特に何も対策をせずゆっくりと街へ移動していった。


--


「……ここが人間の、いいえ、グルンレイドの街ですか。」

形容しがたい街並みが広がっていた。見るもの全てが新しいものばかりで、サナなんて口を半開きにしながら歩いている。それと念のために周囲からは人間に見えるように魔法をかけている。


「お、そこの嬢ちゃんたち!新作を作ってみたんだ、味見してくれねぇか!」

急にそのように声をかけられた。その方を向くと……家?というより小屋のような場所に人が立っていた。


「私達……?」

「そうだ!」

そう返事をするやいなや何やら不思議なものを渡された。


「これは……」

「新作のチョコレートだ。さ、食べてみてくれ。」

人間の男はこちらをじっと見ている。


「毒の可能性もあるわ。」

「やめたほうがいいと思う。」

二人の声が聞こえる。確かに私もそう思う。そう思うのだが……私の体全体がこれを食べたいと欲しているようだ。


ぱくっ


と私は口の中に入れる。


「おっ!」


「あっ!」

「大丈夫!?」

すぐにイリーナが回復魔法を唱えようとするが、それを手で押さえる。


「お、おいしい!」

二人は驚いた表情でこちらを見つめている。


「だろ!新作なんだ!」

なんだこの舌の上でとろけるような甘味は!感じたことのない甘さに膝から崩れ落ちそうになる。


「わ、わたしも。」

「サナまで!」

結局その人間から二人ともチョコレートという食べ物をもらっていた。そして私と同じような表情を見せる。


「あ、甘いー!」

「甘いわ。」


「よーし、これで次の食会では優勝間違いなしだ!ありがとな、嬢ちゃんたち。おかげで自身がついたよ。」

そんなことを聞いて私たちは屋台を離れる。


「これが人間?」

私たちの知っている『人間』とは大きくかけ離れているものだった。これほど脆弱ではないし、これほど優しさにあふれているわけでもない。残虐で非道な存在。


「やっぱり私、キサラについてきてよかったわ。」

イリーナがそうつぶやく。目には街の光が反射して光が宿っていた。

「私も面白い!」

さっきまでかなり怖がっていたのに、この街に入った途端すぐに元気になっていたサナもそういう。


「そう、なら、よかった。」

私は人間を滅ぼすために研究をしているのではない。私はただ、本当のことを知りたかっただけ。

そうして私たちの前に一人のメイドが現れた。


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