メイドの危険度
僕の名前はササキハルト。普通の高校生だったが、事故に遭い死んでしまった。しかし目が覚めると異世界に飛ばされていたのだ。
「ハルト!やっと起きた!」
「ハルトさん、お目覚めですか?」
今は活発的な獣人の少女ミミと、優しさに溢れているエルフのナズナの三人で冒険者をやっている。
「今日はどの依頼を受けるの?」
ミミが顔を覗かせて聞いてくる。僕は洗面台に向かいながら今日の予定を決めていく。
「久しぶりに体を動かしたいし、戦闘系かな。」
「やった!体動かしたい!」
「私は採取系の依頼の方が好きですけど……ハルトさんがそういうならそうします。」
いつもはキノコや薬草の採取などをおこなったお金を稼いでいるが、決して僕たちのパーティが弱いというわけではない。ミミは獣人ならではの身体能力を生かした素早い攻撃ができ、ナズナは大きな傷でも治す回復魔法を使用することができる。そして僕もさまざまなスキルを使用することができるため、この町のギルドではかなり有名なパーティとして名が知れ渡っている。
「危険度はどれくらい?」
「んー、ちょっと頑張ってAに挑戦してみようか」
「いいね!」
この世界には危険度という指標が存在する。それは依頼の危険度を表したり、その生物の危険度、その場所の危険度など多くの事柄を示すことができる。一番低いのでC、次にB,Aと上がっていく。Cだとゴブリンなどの弱い魔物、Bだとグリフォンなどの比較的強い魔物を示し、Aともなるとワイバーンなどのとても危険な魔物となる。さらにその上にはS、S+、SS、SS+、SSSとなっているらしいが、僕らとは無縁の危険度だ。確か魔族はSと聞いたことがある。
「SSSとか本当にあると思う?」
「聞いたことなーい」
「私は……ありえない話だとは思いますが、知ってますよ。」
ナズナがそういう。
「へー、すごく危険な場所とか?」
「いいえ、人……らしいです。」
「王国の騎士団長とか?」
王国騎士団とかにも一応指標が設けられているが、それは危険度ではなくランクだった気がする。
「確かに王国騎士団長はランクSですが……違います。」
ランクと危険度は名前こそ違うものの、強さや影響力などは変わらない。危険度CとランクCはほとんど同じ意味を持つ。
「とある辺境伯の……メイドらしいです。」
「メイド?」
メイドってあのフリフリのスカートみたいをはいてる人のことだよね。
「その辺境伯の名前は?」
「グルンレイド辺境伯、です。」
「あー町でよく聞く極悪辺境伯か。」
莫大な金を持っており、奴隷を片っ端から購入して支配下に置いているらしい。こんな極悪非道な人が普通に生活できているのを見るとやっぱりここは異世界なんだなと感じる。
「ちょっと待ってくださいね。」
そういうとナズナはかばんの中から紙を取り出す。
「それは?」
「辺境伯が前に国へ提出した資料の写しです。最近まで国の図書館にすべて保存されていましたので、書き写してきました。」
「それまたなんで……」
ナズナは見た目は金髪のスタイルのよい美少女なのだが、ちょっとずれているところがある。まあ、天然といえなくもない。
「私、オカルトとかそういうの結構好きなんですよ。」
「ふーん。」
まあ、この世界に来てから結構長く一緒にいるからあまり気にならなくなってきたけど。
「資料によるとそこにはメイドが20名以上いるのですが、危険度はS+〜ということらしいです。」
「S+〜!?」
そこに存在するメイドは最低でもS+ということになる。……王国騎士団以上の危険度の人が20人以上いるということは……国を滅ぼせるぞ!?
「特に華持ちと呼ばれるメイドは危険度SS~となっていますね。」
「えぇ……」
危険度SSというのは国が勢力を挙げてやっと太刀打ちできるほどのものだ。確かにこの町でも華持ちのメイドという単語はよく聞く。僕はちょっと可愛くて仕事のできるメイドなんだな……くらいにしか思っていなかったのだが、そんな噂があったとは。
「えっと、それと『マリー・ローズは危険度SS+~とする』と書いていますね。」
「これを王国はどんなふうに思ってるんだ?」
「戯言だとか、嘘つきだというような旨が書かれていますね。」
そりゃそうだよな。どう考えても嘘にしか見えない。だがなぜこの辺境伯はこういった嘘を公表するのだろうか。貴族とは見栄をはってなんぼの世界なのかもしれないな。
「全メイドの危険度もメモしているんですけど……見ますか?」
「この際だし、見てみようかな。」
そういって紙を受け取る。
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メイド長:1名
1.イザベラ 危険度:UNKNOWN
マリー・ローズ:5名
1.スカーレット 危険度:UNKNOWN
2.ヴァイオレット 危険度:SSS+
3.アシュリー 危険度:SSS+
4.メアリー 危険度:SSS
5.ミクトラ 危険度:SS+
(アシュリー付き人 1.ロンド 危険度:S)
ローズ:11名
1.カルメラ 危険度:SSS
2.ハーヴェスト 危険度:SS+
3.ステラ 危険度:SS+
4.イリス 危険度:SS+
5.フィオナ 危険度:SS+
6.リア 危険度:SS+
7.セレーナ 危険度:SS
8.アリサ 危険度:SS
9.エミリア 危険度:SS
10.アナスタシア 危険度:SS
11.ルナ 危険度:SS
見習い:10名
1.メルテ 危険度:SS
2.オリビア 危険度:SS
3.クレア 危険度:SS
4.レイリン 危険度:SS
5.リリィ 危険度:S+
6.ソフィア 危険度:S+
7.ララ 危険度:S+
8.ルル 危険度:S+
9.ディアナ 危険度:S+
10.アイラ 危険度:S+
契約者
1.マーク・アーサー 危険度:UNKNOWN
マーク・アーサーのメイド
1.コトアル 危険度:SSS
2.ヴィオラ 危険度:SS+
3.ビクトリア 危険度:SS
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……これはありえないな。嘘に決まっている。SSS+なんてものが存在していいはずがない。それとUNKNOWNってなんだ?この書き方的にSSS+の上のように思えるのだが。
「どうでしょうか?」
「フィクションとしては面白いと思うね。」
ふぃくしょん?というように首をかしげる。たまにこんな風に言葉が通じないときがあるのは仕方ないが面倒だと思う。
「あーっと……物語ってこと。」
空想上の出来事としては面白い。戦う最強のメイド。もし僕がラノベ作家だったらこんな話を書いてみたいと思った。まあ、あっちの世界では死んでるから戻ることはできないけど。
「よし、いったんメイドの話は置いといて、いきますか。」
「はーい!」
眠そうにしていたミミが飛び上がる。
「そうですね。」
それに続いてナズナも立ち上がった。
とりあえず、今度華持ちのメイドにあったら話しかけてみようかな。多分ごく普通のメイドだと思うけど。