マークとヴィオラの休日前夜
俺の朝は早い。が、メイドたちの朝はもっと早いようだ。俺が起きた俺が起きた時にはすでに食事の良い香りが部屋に漂ってきている。ちらりと隣を見ると子供たちが寝ていた。役職的にはグルンレイドのメイドだが、まだ子供だ。たくさん寝ることが仕事とも言える。俺はベッドに寝ている3人を起こさないようにゆっくりと起き上がる。
「おはようございます。」
そう言って頭を下げるのは俺のメイド、ヴィオラだ。驚くほど細い金色の髪が揺れる。
「おはよう。」
俺はベッドから立ち上がり、体を伸ばす。季節は夏。普通であれば暑くてたまったものではないが、この部屋というかこの家全体は魔法によって空調管理がされている。
「着替えとタオルです。」
「ありがとよ。」
メイドを雇っている貴族というのはメイドから服を着させてもらうというのが普通らしいのだが、俺は貴族ではないしなにより恥ずかしいのでごめんだ。服を受け取って着替え始める。異世界の服であるパジャマというものから部屋着へ。
「それでは朝食の準備ができておりますので。」
「あぁ。」
ヴィオラがキッチンの方へ向かう。俺の住んでいる家はかなり特殊で、寝室、キッチン、リビング、ダイニングが一緒の部屋にあるのだ。と言っても部屋自体かなり広いので、そこまでごちゃごちゃした様子ではない。
「顔、洗うか。」
俺は洗面台へと向かう。顔を洗いヴィオラから受け取ったタオルを使って顔をふく。使用したタオルは洗濯かごに入れればヴィオラが洗濯をしてくれる。水で擦って洗濯をするという方法が普通なのだが、グルンレイドのメイドに限っては魔法で洗濯をするのが普通だ。洗濯から乾燥まで数十秒で完了する。
「あ、おはようございます。ご主人様。」
洗顔が終わりキッチンの前のテーブルに座ると、ヴィオラと同じメイドのコトアルが挨拶をする。
「おはようさん。」
毎回料理はコトアルが行なっている。多彩な料理の種類、味付けも完璧で文句のつけようがない。ヴィオラは……まあ、独創的な料理で、俺は好きだぞ?うん。
「はいどうぞー」
そう言って聖法によって料理が宙を浮かんで運ばれてくる。
「ヴィオラさんもどうぞー」
コトアルの横でじっと料理をしている姿を見ていたヴィオラがこちらへ歩いてくる。あなた、ほぼ毎日そうやってコトアルの料理をみてますね……。
「いただきます。」
俺は朝ごはんを食べ、仕事へと向かった。
—
「よし、完成。」
子供たちの分の料理も完成したので、私は寝ている3人を起こしにいく。私たちより早く寝ているはずなのに全く起きる気配がない。寝る子は育つ……のかな?累計にして100年以上は寝ているであろうビクトリアちゃんの方を見てそう考える。確かにこっちの勇者の卵たちは成長を感じられるけど。
「朝だよ?起きて。」
「むぅ、は、はぃ……。」
「おはようございます。」
いつものようにディアナちゃんは朝に弱いようで、目を擦りながら起きる。逆にアイラちゃんはすぐに目が開いて、そそくさと着替えの準備を始める。後は……
「起きなさい。」
私はビクトリアちゃんのほっぺをつつく。ぷにぷにでかなり気持ちがいい。しかし起きないので、頭上で雷と同程度の放電を起こす。もちろん周囲には影響のないように聖法障壁を張って。
ドォーーン!
「な、何じゃ!なにが!……おこった、のじゃ?」
「おはよう。ビクトリアちゃん。」
キョトンとした顔をしてこちらを見るが、全てを理解したようだ。
「お、おはようなのじゃ。」
すっと立ち上がって、着替えをしに歩き始める。爆発音などでも起きないので雷の音を聴かせるしかないのだ。
「それじゃあ、私も行ってくるから。」
「あ、行ってらっしゃい!」
ヴィオラさんが仕事に出かける。と言っても今日はおそらく訓練がメインだと思うけれど。厳密には私たちはグルンレイドのメイド、ではない。元グルンレイドのメイドで、今はマーク様のメイドである。しかし住んでいるこの家はグルンレイドの屋敷のすぐ近くにあるので、ヴィオラさんは以前と変わらないような仕事をしている。私は……もう以前のような体ではないのでかなり仕事の環境は変わったけれど。
「あーっ!それはわしのお気に入りのパンツ!勝手に触るでない!」
「ビクトリアちゃんのパンツ、かっわいいー!」
「ば、馬鹿にしておるのか!」
「あ、や、やめた方が……。」
訓練では最近様になって来ているというのに、こういうところはまだ子供だね……。
「こら、やめて!」
そう言って私はビクトリアちゃんとディアナちゃんの動きをとめる。
「ご、ごめんなさい。」
「ごめんなのじゃ。」
着替えさせた後はご飯を食べさせる。そして私は3人をグルンレイドに屋敷に連れていく。ここでカルメラさんに子供たちを引き渡したら私の朝の仕事は終わりだ。
—
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
私はいつものように頭を下げる。ご主人様は別にそこまで丁寧にしなくてもいいと言っていたが、グルンレイド出身のメイドとして、そのような手を抜いた真似はできない。
「ご飯になさいますか?お風呂になさいまいますか?」
「風呂だな。」
時刻は夜の七時を回っている。今日も訓練でご主人様はかなりボロボロだった。この剣の後はおそらくヴァイオレットさんだろう。
「回復聖法はどうしたんですか?」
「今日は回復を制限されてたんだよ……。」
げんなりした顔でそう答える。
「そうですか……今治します。ヒール」
これで傷口が塞がったので、お風呂に入っても染みることはないだろう。
「あ、それと明日俺休みになった。」
「随分と急ですね。」
「明日の訓練相手のスカーレットだが、ボス直々の命令で訓練できなくなったらしい。」
ということは明日はご主人様を起こさなくてもいいということだ。……残念である。
「あ、だったらヴィオラさんも明日休めばいいじゃないですか?」
急に後ろからそのような声が聞こえる。
「コトアル、急にそんな……。」
私が急に休んでしまったら、訓練相手などに迷惑がかかってしまう。
「でも、せっかくご主人様が休みだから、本当は休みたいんでしょ?」
「べ、別に、そんな事ないけど。」
「そうだぞ。無理に俺に合わせる必要はない。」
コトアルはニヤリと不敵な笑みを浮かべると頭の中に声が響いた。
『ヴィオラ、明日休んでいいよ。』
これは……アシュリーさん!?
「で、ですが!」
『ま、たまにはデートでもしてきたら?』
「デっ、デ、デ……」
デートとはなんだ!私とご主人様は主従関係であって、決してそのような関係性では……。
「どうした、ヴィオラ?」
「さ、ご主人様、ヴィオラさんは私が何とかしておきますので、お風呂へどうぞー」
「お、おう。」
そうして明日の休みが決まった。
—
「でな、わしがそこで攻撃魔法を唱えたのじゃ!」
「それは私の補助があったからでしょ?」
「いや、あれはわしの力じゃ!」
今日も美味しいコトアルの夜ごはんを5人で食べている。
「こら、口に入れながら話さないの。」
注意している姿をみているとコトアルは子供たちにとって、歳の離れた姉のような立場に見えてくる。とすると私とご主人様は……って、なにを考えているんだ!
「さ、お風呂に入ろうね。」
ご飯を食べ終えた後、ミクトラは子供たち3人をお風呂に連れていく。グルンレイドの大浴場はとても良かったが、ここのお風呂はまた違った良さがある。安心できるというか、落ち着くというか……まあ、そんな感じだ。
「あ、そういえば、これつかうか?」
と言ってご主人様はとある袋を子供たちに渡す。
「なに?……アヒル?ぷにぷにしてる。」
ディアナが袋の中から黄色い何かを取り出してまじまじと見ている。
「風呂に入れるんだとよ。」
「お風呂に入れていいの!?よし行こう!」
キャーと三人でお風呂まで走って向かう。騒がしいけれど、それがまたいい。
「ご主人様、先ほどのあれは……。」
「あぁ、ヴァイオレットからもらった。子供たちにあげるってな。」
「やはりそうでしたか。」
ヴァイオレットさんは見た目は凛々しく硬派な印象なのだが、実は可愛いものがかなり好きなのである。おそらくあのアヒルも可愛いと思って購入し、つかう機会がないので私たちに譲ってくれたのだろう。
「ふぅ、一段落ですね。」
と言ってミクトラがこちらへ戻ってくる。無事に子供たちをお風呂まで誘導できたようだ。
「お疲れ。」
「お疲れ様。」
「これも私の仕事ですからね。任せてください!」
本当に素直でいい子である。肉体的には数百年以上も前から存在しているので年上なのだが、精神的には最近誕生したばかりなのでまだ年下とも言える。マーク様のメイドという視点から言えばどちらにしろ私の方が先輩なので、そこら辺はあまり気にしてはない。
「ところで。」
そう言ってニヤニヤした表情でこちらをみる。
「お二人は明日お休みですので、今日は夜遅くまで起きていられますよね。」
「まあ……そうだが。」
確かに次の日が休みという日は夜遅くまで起きている。
「そして子供たちは明日休みではない。……ということは二人きりで夜を過ごすことができるというわけです。」
そういうとチラッと私の方を見る。……なに。
「いや、子供たちが駄々をこねるだろ?俺たちだけずるいって。」
「そこは私が言い聞かせますから。子供たちのことは私に任せてゆっくりとしてください。」
「そうか……ありがとな。」
えっ……これ二人きりで夜を過ごすことになった?
「たまにはお酒とか、いいんじゃないですか?」
そう言ってどこからか取り出してきたワインをテーブルの上に置く。普段は誰もお酒を飲まないので酒類は家にないはずだが……。
「おつまみも何品か作りますね。」
と言ってキッチンへ向かう。
「別に無理に起きてる必要もないぞ。いやだったら先に寝ても……」
「嫌じゃありません!」
「そ、そうか……」
沈黙が流れる。普段ミクトラや子供たちがいれば問題なく会話ができるのだが、いざ二人きりで話すとなると妙に緊張する。
「ま、まあ、せっかくだし、これ飲んでみるか。」
「そ、そうですね。」
私はお酒をあまり飲まないのだが、別にそこまで嫌いというわけではない。ワインなどは好きな部類である。強いかと言われれば……そこまで強くはないだろう。
—
「ご主人様は、こんな私がメイドでよかったのでしょうか……」
「お、おい。顔が赤いぞ、大丈夫か?」
ミクトラと子供たち三人はベッドに入って眠っている。今俺たちはミクトラの作ってくれた料理を食べながら、ワインを飲んでいる。のだが……
「いいから答えてください!」
俺が思った以上にヴィオラは酒に弱かった。グラス二杯でこんな状態だ。
「よかったと思ってるよ。」
「具体的には?」
「しっかりと仕事をこなすところとか、真面目なところとかな。」
「……ふっ、へへへ。」
……おかしい。俺のメイドがこんなに可愛いわけがない。いつもはキリッとした目も今はトロンとした感じになっているし、頬も少し赤くてなんというか色っぽい。
「ご主人様はずるい!」
「……ど、どこがだ?」
「ずるいったらずるい!」
そう言って三杯目のワインをグイッと飲み干す。おい……。
「私がこんなに考えてるのに、当の本人は何にも考えてないみたいですから。……鈍感です。」
そうして新たに自分のグラスにワインを注ぐ。
「……それくらいにしておいたらどうだ?」
「今日は飲みますからね!」
と言ってワインボトルを自分の胸に抱え込む。何というかそんな普段とのギャップがこれほどまでに破壊力があるとは思わなかった。いや、よくみるとヴィオラってかなり美人なのでは?美しい金髪にスレンダーな体。しかし胸は平均かそれ以上はある。グルンレイドのメイドは美人揃いだが、その中でもヴィオラは特に可愛いと思う。
「……」
「お、おい、どうした……ま、まさかお前!」
ヴィオラの顔が真っ赤になっている。そしてその目は青く光り輝いていた。そして俺は聖法による障壁を張っていない。このことから導き出せる答えは……
「俺の心をよんだな!」
「私が……可愛い……可愛い……へへ」
あ、だめだこれ。完全に自分の空間に入ってしまっている。
「ご主人様ぁ……私、幸せです。」
ワインボトルを抱えながら、机に突っ伏す。仮にも主人の前なんだが……まあ、今日くらいはいいか。そういうところもヴィオラらしいといえばヴィオラらしいのかもしれない。普段も割と敬っているというような印象は受けないし。けれど、自意識過剰かもしれないが、本当は俺のことを一番に思ってくれているということはわかる。
「いつも、ありがとな。」
そう言ってヴィオラの頭を撫でる。細い髪に触れるとこんなにもサラサラなのかと驚く。
「な、な、なな……!?」
頭を押さえながらわなわなと震える。何かまずいことしたか?
「急に、な何ですか!」
「あー悪かったよ。嫌だったよな。」
確かに急に触ってしまうのはよくなかったかもしれない。普段ならわかることなのだが……俺も実は酔いが回ってきているのか?
「い、いえ、悪いというわけでは……ないです。ちょっと驚いただけで……」
そして沈黙。何だよこの空気、どうしてくれるんだ!まあ、それを作ってしまったのは俺なんですけどね?
「……これ飲んだら寝るか。」
「そ、そうですね。」
残りのワインを二人で飲んだ。
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「ベッドが一つしかないんだが、どうする。」
ヴィオラの方を見る。俺のベッドにはアイラが寝ていた。では俺はアイラのベッドに寝ればいいと思うかもしれないが、アイラとディアナは一つのベッドで寝ているので、そこにはすでにディアナがいる。まあ無理やりアイラをどかして自分が寝るという方法もなくはないのだが、気が引けてしまう。
「私は床で寝ますので問題ありません。私のベッドをお使いください。」
俺的には問題あるんだよなぁ。ちなみにあの状態のまま寝ると二日酔いが確定してしまうので、魔法によってアルコールを中和していた。
「いや、俺が床で寝るからお前はベッドで寝ろ。」
「主人を差し置いてベッドで寝るなど、メイドとして言語道断です!」
「主人の命令に従わないのもメイドとしてどうかと思うがな!」
お互いににらみ合う。するとヴィオラの目がすうっと青色に染まり、光が舞っていく。
「おい、馬鹿やめろ。」
神眼を見ないように体を動かすが、足がもつれてベッドに倒れこんでしまう。となると必然的にヴィオラを押し倒すような形になるのだが……。
「っ……」
声にならない声と、驚いたような表情が俺を見ていた。
「わ、悪い!」
そうしてすぐに俺はヴィオラから離れる。た、確かに俺も悪いが、主人に命令しようとするメイドもどうかと思う。
「ご、ご主人様がよろしければ、私は、問題ありません。」
後ろでそのような声が聞こえた。だから顔を赤くするな。こっちまで意識しちまうだろ!
「わ、わかった。今日は、ヴィオラのベッドで寝させてもらう。」
「そういう意味ではなく……」
「ん?何か言ったか?」
ぽしょぽしょと何か言っているようだったが、聞き取ることはできなかった。いつもの威勢はどうした……。
「ご主人様の前では、常にしっかりとした態度でなければいけないのに……。」
ヴィオラがそんなことをつぶやく。ボスのことだ、厳密な決まりをメイドたちにしつけていたのだろう。確かにそれが重要なのは貴族だけだ。俺みたいな平民上がりのやつにはそんなことは割とどうでもいい。
「別にいいだろ。」
「そう、ですか?」
いつもしっかりとしているのに、なんで今日に限ってこんなにしおらしいんだ?
「明かりを消します。」
ここでは魔力を明かりに変換して光を出す魔法陣が天井に埋め込まれている。小さい明りをつけていたが、ヴィオラが魔力供給をやめると部屋の電気が消える。だが、完全に真っ暗というわけではなく、外の月明りが窓から入ってきていた。
「そ、それでは、失礼します。」
そういってベッドの中に入ってくる。まあ、ここはヴィオラのベッドなのでそのセリフは俺が言うべきだと思うのだが。
「いや、俺の方こそ、悪いな。」
「そんな……。」
……なんなんだこの空気は。
「ご主人様は、私がメイドでよかったのでしょうか。」
さっきも聞いたような質問だった。
「よかった。」
今度は即答する。
「そ、そうですか」
俺がヴィオラの方を向くと、青く美しい瞳と目が合った。虹彩の周りを光が舞って、今にも吸い込まれてしまいそうになる。
「俺のほうこそ、お前が仕えるような素晴らしい主人じゃないだろ。」
「そんなことは、ありません。」
「お、おう。そうか。」
思ったより力強い声に戸惑ってしまう。
「確かにご主人様はだらしなく、不器用で、ダメダメです。」
「わ、分かった。だからこれくらいにしてくれな?」
「ですが……」
会話の合間の一呼吸が、すごく長く感じる。
「とても優しい方です。」
それはこの空間に安らぎを感じているからだろう。今まで本当の意味で他人に認められたことのない俺が、初めて認められた気がした。
「ありがとう、な。」
こうも面と向かって言われるとかなり恥ずかしい。ヴィオラも恥ずかしいのか、目をそらして俺と反対を向くように体を動かした。すると目の前に、薄明りに照らされた金色の髪があった。特に意識するわけでもなく、自然とその頭をなでてしまう。
「んっ……」
「す、すまん。」
そういってすぐに手をどける。
「……だけ。」
「ん?なんだって?」
「もう少しだけ、よろしい、ですか。」
……これはなでろということだろうか。いつもなら絶対に髪もさわされてくれないはずなのに、どういう風の吹き回しだ。
「これで、いいか。」
そういってゆっくりと、丁寧に頭をなでていく。すごくさらさらで、指と指の間から流れるように落ちていってしまう。
「はい、いいです。」
ふしゅーと体中の息が漏れ出ているかのような返事をする。リラックス……しているのだろうか。
「やっぱり、きれいな髪だよぁ……。」
「っ……。」
ぼそっと口に出してしまった。この窓からの光だけでもわかる、照れているのか耳まで真っ赤だ。あまりの恥ずかしさに、俺も顔を赤くしていると、ヴィオラがその体制のままずりずりとすり寄ってきた。
「お、おい。」
ヴィオラの背中がびったりとくっつく。
「……近い。」
「はい。」
はいって……。いいのかよ。おいまて、この距離だとなんかいい匂いが伝わってきて落ち着かないんだが。思わず髪のにおいをかいでしまう。
「んっ……。」
「わ、悪い。」
「い、いえ、問題ありません。」
なんだこのいい香りは、同じ石鹸を使ったはずだろ?
「もうそろそろ離れろ。」
やはり女の出す香りは何か危ない成分が入っているんじゃないかと思う。が、ヴィオラは離れようとしない。髪をなでていた手が優しくつかまれ、そのままヴィオラのほほまで持っていかれる。すると少しずつヴィオラの息が上がっているのが感じられる。金髪がさらりと枕に流れ落ちて、なんともなまめかしい光景が広がる。
「……少しの間でいいので、後ろから。」
そこで言葉が止まる。後ろからなんだ……とは聞き返さなかった。
「少しだけな。」
そういうと、後ろからヴィオラを抱きしめる。すると、ヴィオラはかなり痩せているのだが、俺が思っていた以上に柔らかく、どこまでも沈んでしまいそうになった。その瞬間、ビクッとヴィオラの体が反応する、
「っぁ……。」
という吐息とともに、ゆっくりと体に収まってくるのを感じる。
「こんなんでいいのか?」
「……はい、いい、です。」
とろんとした声で返事が返ってくる。このままではまずい。何がまずいかって色々まずい。
「悪い、ヴィオラ。」
「えっ?」
そういうと俺は自分自身に睡眠魔法を唱える。
「ご主人様?ど、どうされました!」
そんな声が聞こえた気がするが、俺はもう夢の中へといざなわれていた。次からこんな状況に陥ったらすぐにこの魔法を使おう。そう心に決めた。