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「お次は亜人国出身、身長143cm、外傷なし、健康状態もかなり良いものとなっております。」

そのようなアナウンスとともに赤いカーペットの上を歩いてくるのは、獣人の少女の奴隷だ。周囲には見るからに悪そうな貴族たちがワインを飲みながらオークションに参加していた。


「金貨500枚から開始します!」(金貨1枚:1万円程度)

すると次々に札が上げられていく。


「ご主人様、悪くないと思いますが。」

「いや、やっぱりたりねぇ……」

お金が足りないというわけではないのだ。俺が言いたいのは、ボスが求める魔力密度の基準値に足りていないということだ。


「そうですか……まあ、そう簡単に見つかるものではないですからね。」

なぜ俺が奴隷商に来ているのかというと、ボスに頼まれて新しいグルンレイドのメイドを探しに来ているのだ。しかしその基準が高すぎて、どこに行っても見つからない。早く次に行かないかと思っている時に違和感を感じた。


「今回も悪人だらけだ。」

急に奴隷がそのようなことを言った。


「スキルアップ」

その瞬間身体強化の魔法を使う。魔法を使った!?奴隷であるということは契約書によって制限がかかっているはずだ。


「……偽の契約書のようです。」

ヴィオラの目が青く光り輝いている。神眼によって契約書の偽装を見抜いたようだ。


「はぁっ!」

腰から隠していた短剣を取り出して、次々に貴族たちを斬りつけていく。


「止めますか?」

「待て。」

これがグルンレイドと協定を結んでいる貴族だったら全力で守る必要があるのだが、今回は誰一人として知っている人はいなかった。下手にちょっかいを出して巻き込まれるのはごめんだ。


「ファイアーアロー!」

火の矢を放ち、貴族たちを撃ち抜いていく。小さくて可愛らしい魔法だな……。うちのメイドたちと比較すると本当に可愛らしい魔法に見えてくる。そう思いつつ出口へと足を運ぼうとした瞬間、


「アイスアロー!」

鋭く尖った氷の刃がこちらへと飛んできた。避けてもいいのだが、常時展開している俺の聖法障壁を破るような力はないのでそのまま受けることにした。


「失礼ですね。」

……のだが、ヴィオラの眼力でアイスロックは粉々に消えた。あの、怖いです。ヴィオラさん。


「あなたも奴隷ですか!すぐに解放してあげます!」

獣人の少女はそう言いながら、俺の方に向かってくる。確かにヴィオラも奴隷なので言っている意味はわかるのだが。


「ヴィオラ、お前、解放されたいのか?」

「まさか。死んでも嫌です。」

そう言ってヴィオラは少女の前へ飛び出す。


「華流・」

メイド服の中に隠していた短剣を取り出し、少女めがけて斬りかかる。


「周断」

「なんで!くっ!」

辛うじて少女は短剣で受け止めたが、少女は魔法障壁が薄すぎる。これでは……


「くっ、剣が……え、あれ……わた、し」

ドサリと少女の上半身が地面に落ちる。そして次に下半身が倒れていく。体が真っ二つに分かれた。


「ニーナ!?」

それを見ていた仲間と思わしき奴隷が叫ぶ。……さっさとかえりたかったのだが、めんどくさいことになってきたな。


「早く治せ。」

「かしこまりました。エクストラヒール」

ヴィオラがそう唱えると、二つに分かれていた体がつながり結合する。


「先ほど健康状態がかなりいいと言っていましたが、あれは嘘ですね。彼女虫歯がありました。」

ということは体だけでなく虫歯まで治したのだろう。


「貴族め!よくもニーナを!」

叫んでいた少女が俺と倒れている少女……ニーナか、の前に立ち塞がる。


「大丈夫だ。死んでねぇよ。」

「嘘だ!」

確かに目の前で体を切断されて、生きていると信じる方が難しいだろうな。まあ、ボスの教えだ。不用意に殺すことなんてしねぇよ。


「どうしますか?斬りますか?」

「おい、やめろよ……」

グルンレイドのメイドはすぐこれだ。しかも目の前にいるヴィオラですら、まだ常識的な方だというのだから恐ろしい。


「ニーナの仇、覚悟……」

ドォォン!

少女が斬りかかろうとした瞬間に、会場の一部が爆発した。


「やった!うまく行ったのね!」

会場から少し離れた場所に魔力の反応がした。……外に仲間?ということはこの爆発は突入の合図というところだろうか。次の瞬間窓が割れる。


「華流・剪定!」

ギィンという音とともに、ヴィオラは攻撃を受け止めていた。……やはり窓の外からか。狙いは俺か?だがなぜ……と思い周囲を見渡してみるとこのフロアで立っているのは俺たちしかいなかった。そりゃぁ狙われるわけだ。


「嘘……ハルトの攻撃を防いだ!?」

少女が驚いていた。確かに魔法や聖法ではない感じがしたから特殊な攻撃だったとは思うが、驚くほどだろうか。


「ご主人様、外に複数人が潜んでいますが、その中の一人は異世界人です。」

「ほう、さっきの攻撃をして来たやつか?」

「はい。」

ふむ。ということはさっきの攻撃は異世界人が使う『スキル』というものだろう。異世界人は貴重だ。ぜひボスに合わせたいのだが、この様子だと難しいだろうな。


「帰るぞ。」

「かしこまりました。」

ここで得るもの何もないので、そのまま屋敷へ戻ろうとする。


「待てください。」

「ハルト!」

黒髪の少年が立っていた。その背後には複数の少女。気配から察するに黒髪の少年が異世界人だろう。


「俺はなにもしてないぜ?だから家に帰してくれないか?」

「人を奴隷として扱うことは許せません。あなたも奴隷を買うためにここに来たんですよね?」

まあそうだが、それを他の貴族と一緒にしてもらっては困る。グルンレイドのメイドはかなりの高待遇だぞ?一日3食、最高級の食事。さらには奴隷であっても貴族並みの給料が貰えている。……ってヴァイオレットが言ってた。それ、俺よりもらってない?


「悪は滅する、シャドウスナイプ」

エネルギー体がこちらへ飛んでくる。なんだこれは、魔法でも聖法でもない……。どちらかといえば魔法によっているが。


「華流・剪定」

ヴィオラがそれを防ぐ。


「かわいそうに、あなたも奴隷として縛られているんですね。」

「はぁ、もうそれでいいです。」

あ、まずい。ヴィオラがキレ始めている。徐々に瞳が青色に染まり、その中を光が舞い始めた。


「……か、体が!?」

背後にいる少女たちも体の自由を奪われてしまったようだ。これが神眼の力。今や体の制御は全てヴィオラに乗っ取られていることだろう。特殊眼持ちと戦う時は目を見てはいけないって教わらなかったか?……まあ、普通は教わらないよな。


「さっきからがちゃがちゃと、私の思いを勝手に決めないでもらえますか?」

ヴィオラの魔力が上昇していく。


「ハルト……なんか、私……」

バタリと背後に立っていた少女のうちの一人が倒れる。ヴィオラの高密度の魔力を直に浴びて魔力酔いを起こしてしまったのだろう。


「サエラ!一体何をしたんですか!」

少年がそういうということは、この世界についてのことをあまり知らないということか。この世界へ転生というわけではなく、転移という可能性が高い。


「魔力酔いだ。少しすれば治る。」

「くっ、僕が、守らなければ!」

そう言ってもがいているが、ヴィオラの神眼は気合いだけで振りほどけるものではない。


「もういい、帰るぞ。」

俺はヴィオラの肩に手を置く。


「かしこまりました。」

ヴィオラは時空間魔法を使うことはできないが、神眼の力で空間を飛ばすことは可能だ。


「待て!」

引き止めてどうしようというのだ。その言葉を無視して俺たちは空間を飛んだ。



「今回遭遇した異世界人をボスへ報告しておけ。」

オークション会場から少し離れた森の中でヴィオラにそういう。


「かしこまりました。……ですが、そこまで脅威となるような存在ではないかと。」

「俺もそう思うが……まあとりあえず報告しとけ。後で怒られるよりはましだ。」

「そうですね。」

異世界人はこの世界の人間に比べて強い。普通であれば何年もかけて習得するような魔法を、スキルという形で簡単に発動させることができるからだ。


「なんの目的で貴族を殺しているのでしょうね。」

「異世界には奴隷という制度はないと聞いたことがある。それが許せないんじゃないか?」

そっちの常識をこっちの世界まで持ってくるなと思うが……まあ確かに褒められた制度ではないな。


「力のないものたちにとっては異世界人という味方は、さぞかし心強いものなのでしょうね。」

確かに周囲にいた仲間たちは、あの異世界人をとても慕っている様子ではあった。


「今回の件でご主人様が狙われるかもしれませんよ?」

ヴィオラがニヤニヤした顔でそう言ってくる。俺は貴族じゃないんだけどなぁ……。


「まずグルンレイド領に入った瞬間にアシュリーかメアリーに見つかるだろ?見逃されて俺の家まで来られたとしても、ビクトリアに消されると思うが……。」

「まあ、私も見ていますので。」

あの程度なら、別に俺一人でもなんの問題もないと思う。


「家に、帰るか。」

「そうですね。」

再びヴィオラの肩に手を置いて、俺たちはグルンレイド領に戻った。

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