アナスタシア・アスター1
「あなたがアナスタシア・アスターね。」
「そうですわ。」
私は今貴族院の集会に参加している。貴族院というのはこの第一魔法学校のアリストクラッドのみで構成されている団体である。
そして今声をかけられているのは、3年生の先輩である。
「あなた、三大貴族の一員であるエリザベスさんにひどいことをしたそうじゃない?」
「入学試験の時ですわね。」
確かにあれはやりすぎたと思っている。魔法障壁をはらずに戦闘を行うものがいるとは思わなかったのだ。その後ソフィアさんの回復魔法で完全に傷は癒えたはずだが。
「その落とし前はどのようにしてつけてくれますの?」
何をいっているのだろうか。この先輩に何か関係があるとは思えない。
「海外のどの程度の貴族かは知りませんが、少し調子に乗っているのではありませんの?」
「オーロラ様、私は大丈夫ですので、その辺で……。」
「エリザベスさん、そんなことだから海外の貴族に舐められてしまうのですわ。三大貴族としての自覚がないのではなくて?」
「す、すみません。」
エリザベスさんがそういっていたが、一蹴される。確かにこの方も三大貴族の家系の1人、オーロラ・ローウェルと名乗っていた。三大貴族がトップでないと気が済まないというような感じだ。
「私は別に調子に乗っておりませんわ。ね、エリザベスさん。」
「え、えぇ。」
張本人たちがそういっているのだ、問題はないだろう。
「エリザベスさん?」
「ひっ……。」
オーロラさんが睨みを効かせる。周囲には1、2、3年生のアリストクラッドの方々が息を潜めてこちらを見ている姿があった。誰も三大貴族であるオーロラさんに口を出すことはできないようだ。
「なんですのその目は。」
「いえ、何を考えているのかと思いまして。」
「なっ!」
「どう考えてもおかしいではないですの。既に収まっていることを部外者が口を出してくる、その意味を考えておりましたわ。」
ご主人様の命令の意図を探る時のように、私の思考は加速する。彼女がしつこく私に声をかけてくる意味……まさか裏で何か伝えたいメッセージがある?
「ぶが……どこまで失礼な発言を繰り返せば気が済みますの!」
その激怒した表情にとても裏があるとは思えなかった。
「ま、まさか本当に何も考えておりませんの?」
「いい加減にっ!」
腕が振り上げられる。多くの人が息を呑んだ音が聞こえる。確かに私は魔力が込められた打撃の対処が苦手だ。以前ハーヴェストさんと体術の訓練を行った時も、高密度の魔力が込められた拳の対処に苦戦した記憶がある。
本来魔力により攻撃は魔力のみで対処するべきなのだが、今回は念には念をいれ魔力だけでなく闘気をめい一杯練りこむ。ハーヴェストさんの教えを守らなかったようで少し心苦しい。
「しなさい!」
平手打ちのようだ。なぜ拳ではなく、威力が半減する平手打ちなのだろうか。
バァン!
私の頬が叩かれた瞬間、オーロラさんの右腕が肩ごと吹き飛んだ。
「っ!」
吹き飛んだ!?ま、まさかオーロラさんも魔法障壁を展開していない!?
「えっ?」
オーロラさんはなくなった腕を見て何が起きたかを理解できていないようだ。本当に意味がわからない。平手打ちには魔法障壁も、魔力すら込められていなかった。
「タイムスロウ!」
私はすぐに血が吹き出している右肩の時間を極限まで遅くする。私も治癒魔法を使うことができるが、肉体の再構築はあまり得意ではない。ここはソフィアさんに治療してもらったほうが確実である。
「な、何が……おこって……」
「すぐに治療をいたしますわ!」
魔法によるメッセージをソフィアさんに飛ばす。
—
「私は少しあなたを躾ようとしただけですのに、精神操作魔法を使うなんて、なんて卑劣な!」
ソフィアさんの治療が終わると、落ち着いてきたのかそのようなことを言う。認識阻害……もしかして、さっき起こったことは現実ではなく私が魔法で意識を操作したと思っているのだろうか?
「勝負ですわ!これで三大貴族に逆らうとどうなるかというのを教えてあげます。」
「オーロラ様、アナスタシア様も悪気があったわけでは……」
ついに見物を決めていた方の中の1人がそう声をあげる。
「黙りなさい!三大貴族より、海外の貴族の肩を持つの!?」
「そのようなことは……」
再び黙ってしまう。
「わかりましたわ。その勝負受けましょう。」
「アナスタシア様、お言葉ですがオーロラ様は学年で三位の実力を持っております。怪我だけでは済まないかと……」
さっきとは別の方がそういう。3年生で三位ということは、この学校の中でもかなり上位ということになる。私の本来の目的を達成するためにも、戦った方がいい気がする。
「問題ありませんわ。」
「決まりですわね。」
ということで授業で使用する練習場へ移動する。普通は使用できないのだが、アリストクラッドの特権なのかわからないが使用することができた。ほかのアリストクラッドの方が見ている中で戦闘は始まる。
「手加減はしませんわ。ファイアーアロー」
確かにこれは直撃してしまうと多少だがダメージが入ってしまうだろう。
「バニッシュルーム」
周囲に魔力拡散結界をはり魔法を消す。
「何が起こりましたの!?」
「今度はこちらから行きますわ。ライトニング!」
牽制のためにかなり出力を押さえて魔法を唱える。その間に私は間合いを詰める。
「魔力障壁展開!」
そういうとライトニングが結界によって止められる。
「はぁ、はぁ、なんて威力ですの!」
防ぎ切った時には私はオーロラさんの懐に入っていた。今は教師が見ていない状況であり、授業でもないので闘気を使っても問題ないだろう。私は拳に闘気を纏って振り上げる。
「お嬢様!」
その声の主に私の拳が受け止められる。
「があぁっ!」
そして遠くに吹き飛んでいった。
「リアム!」
オーロラさんがそう叫ぶ。防具をしっかりと着込んでいたので、おそらくオーロラさんの騎士だろう。
「これ以上お嬢様が傷つく姿を見たくはありません!」
リアムと呼ばれる騎士が、ふらふらになりながらもそういう。
「オーロラさん。これは一対一の決闘ではありませんの?」
「一対一ですわ。リアム、下がりなさい。私1人で……」
「なりません!」
とても真剣な表情でこちらを見ていた。
「よろしですわ。リアムさんの参戦を認めましょう。」
「それでは公平では……」
「ただし、私も武器を使用させていただきますわ。」
リアムさんは剣を持っている。ということは私も武器を使用しても文句は言われないということだ。
「……わかりましたわ。」
納得してもらえたようだ。