番外編:柏城彩の体育祭1
八代見高校の主な行事の中で最初にやってくるのは体育祭である。私といえば文武両道、才色兼備、高嶺の花、歩く姿はゆりの花、あとは……まあいいや。
ということなので、運動ができる私にとって体育祭というのはさして問題ではない。逆に高校の体育祭とはどんなものなのか、楽しみなまである。
しかし、隣に突っ伏している佳奈子はそうでもないようだ。
「うぅ、体育祭やだよぉ」
体育祭の二週間前にもかかわらず、この調子である。もっと机に体預ければいいのに。不自然な恰好に疑問を持っていると、気づかない方がよかったということに気づいた。ふん!胸が大きいせいで、正しく机に突っ伏すことすらできないのか。哀れな人間め。
「佳奈子はまず、その無駄なお肉をなくすことだね。」
「えぇー!そんなに太ってないよ!た、確かに最近すこーしだけ太くなったかなーって思うけど。まだ安全だから!」
彼女の安全圏はかなり広いらしい。私は胸のことを言ったつもりだったが、確かにおなかも……。むにっ。
「うひゃっ!あーちゃん、な、なに⁉」
おー、マシュマロみたい。そこで私は精一杯の笑顔で微笑んだ。
「もう!無言やめてよー!」
目を>にしてじゃれてくる佳奈子はちょっと、というかかなりかわいいと思った。が、覆いかぶさってきた佳奈子の胸で窒息しそうになったので、やっぱりかわいくないと思った。あと、男子がちらちらこちらを見てくるんだけど……。
「彩は体育祭、どう?」
優が言った。どうというのは、得意かどうかということだろうか。
「私はすごく楽しみだよ。佳奈子と違ってね。」
佳奈子がぷんすか言ってくが、無視して話を続ける。
「やっぱ彩はすごいよ。運動もできるなんて。私も体育祭、頑張ろ。」
おぉ、男前。今度優に男装させて、一緒にデートをしたい。
「ありがと、優だって運動できるでしょ?」
まぁ、そこそこね。という返事だったが、見るからに運動できそうな性格と体格だしね。たぶん私より運動神経よさそう。
今日の放課後から毎日、体育祭実行委員会議というものがあるらしい。ということで、大会議室に佳奈子と向かうこととなった。正直かなり面倒くさい。が、完璧美少女はこんなことでへこたれはしない。
なんて考えていると、見たことがある猫背の背中がそこにあった。
「……どうして東野君がここにいるのかな?」
「別に俺がいてもいいだろ……。」
少し鬱陶しそうな顔をしてこちらを向く。
「あれ?あーちゃんの知り合い?」
「まあね。」
佳奈子は興味津々に彼のことを見ている。私から男子に声をかけることがないので、かなり驚いているようだ。
「私は齋藤佳奈子っていいます!佳奈子ってよんでね!」
こんなのは男子にとって百点満点の自己紹介ではないだろうか。無邪気な笑顔がまぶしくて直視できないよ……。
「お、おう。東野だ。よろしく。」
彼の目はつぶれたようだ。
「おいおい、この俺を忘れてもらっては困る。俺の名前は西田義春!世界の頂点を取る男だ!」
一瞬だれだっけ?と思ったが、教室にミサイルのごとく突っ込んできた頭のおかしいあいつである。
「えっ……。だれ?あーちゃん知ってる?」
「知らない。」
「俺も知らん。」
やはり思い違いだったようだ。満場一致で知らないということで。あの佳奈子まで若干引いてるじゃんか……。
「はっはっは!じゃあ今知ったということだ!」
佳奈子は十分馬鹿だと思うが、この人はそれ以上に頭がおかしいのではないだろうか。
「東野君。すごい人だね。」
「俺もそう思う……。」
鬱陶しいから早く会議始まんないかな。




